お花結び

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鎖に繋がれて 2.5カモンベイビー、チョコとベイビー

「鎖に繋がれて」のスピンアウト。ザッキーが付き合う前のバレンタインの思い出を回想しつつ、別れた後の今年のバレンタインを迎えるお話。時期が1か月ほどフライングですね。随分前に書いたものだったせいか本編に組み入れるとどうにも作風が浮いた感じになってしまったのでわけました…。鎖に繋がれて2鎖に繋がれて3の間に挟まる感じです。もう少し本体がコンパクトならこっち系だとどうなるかとかマルチエンディング方式挑戦してみたかったな。(捨ててもいい部分ですが本筋に絡むネタがちょっとだけ混ざっているので一応公開しました。変則気味になって申し訳ありません)

誰がベイビー?

 そうして、今年のバレンタイン。それが今。2月に入ってすぐ、また段ボールが廊下に並び始めた。

 相変わらず王子専用の段ボール箱の側面には“ご自由に”の文字。中には溢れんばかりのチョコの箱。今日の時点では昨年に比べ少し小さくしてもらえた俺の箱にはまだ一個も入っていなかった。王子がたまたま後ろを通りかかったので、俺はなんとなく声を掛けた。今年に入って普通に彼から昼間も話しかけてくるし、俺だってもう躊躇しない。処分された飼い犬は晴れて同僚になったのだ。なんの遠慮があるもんか。彼にとって今の俺は、時々ふざけて適当にからかうレベルの単なる同僚?かまうもんか。そんな気持ちだった。

「王子、今年は俺にくれないンスか?」
「は?ザッキー、なんの話?」
「これこれ」

空っぽの俺の箱を指さしてそういうと、王子はなんとも憐れなモノを見てしまったかのように情けない顔をしてこう言った。

「あぁー…ご愁傷様。ま、そのうちくるでしょ?」
「いや同情しろっていってんじゃねぇよ!そういうことじゃなくて、あんたは俺にくれないのっていう話なんだけど」
「ハハハ、なに?そんなにボクからの愛のチョコが欲しいのかい?」

 さりげなさを装ったつもりだったのに、あまりにもダイレクトに王子が“愛”なんて言い出すから面食らってしまった。王子は時々こういうところがあるのだ。YESと言うと思えばNO、NOと言うと思えばYES。本当にへそ曲がり。でもその不意打ちにいつもいつも俺はドキドキした。すると彼は優しく笑って、チョンチョン、と左手の人差し指で箱の方を指示して、

「いいよ?ほら、ここに“ご勝手に”って書いてあるだろ?どれでも好きなの持ってけば?」

と明るく言い放ち、じゃーねー?と鼻歌謳って去っていった。

「……(あんのやろう)」

いいんだ。わかってる。俺はこんな王子の戯言なんて、もうちっとも堪えやしない。そう、ちょっと目頭がジンワリしているなんて気のせいだ!ちなみに箱には“ご勝手に”なんて書いてない!“ご自由に”だ!馬鹿!あー、憎たらしい。でも嫌いになれない。ホント、あの人、どうしようもない。どうしようもないのは俺もなんだけど。

    *  *  *

 本当に憎ったらしい!とあの時俺は思った。だから翌日こんなことをする羽目になってしまったのだ。ロッカールーム、最近もたもたと帰り支度をしている王子に向かって俺は近づいてこう言った。

「王子、昨日はどーも気持ちのたっぷりこもったチョコをありがとうございました」
「…ん~?どういたしまして?」

 台詞を考えてきたにもかかわらず、なんだか喉につかえてしまって上手く話せない。俺は内心焦っていたのだけれど、肝心の王子はボーッとしながら興味なさ気に自分の爪先なんかを見つめていた。昨日のことなど、もうすっかり忘れてしまっているかのようだった。こだわってた自分がまるで馬鹿みたいだったけれどめげずに目的を完遂することにした。

「こっちもチョコ用意してやったんでね。せーぜーありがたいと思って受け取ってくださいよ」

 ぶっきらぼうに王子に差し出したのはチープなプラスチック容器に入っているあの有名な小さい粒チョコ。俺がわざわざこんなちんけなものを用意したのにも理由があったりする。以前、俺がこの有名な子供用の粒チョコを食べてる時にこんなことがあったのだ。

    *  *  *

 なんかのついでに購入したそのチョコをカバンから取り出す俺の姿を見て、

「チョコにもベーベがいるなんてね?」

なんて王子が笑った。ふたを開けてサラサラと粒を取り出すそのチョコには確かにその小ささを表すのか“ベビー”のチョコいう名がついていた。その時は確か、

「こんな物までキミはロッソネリとはねぇ」

なんて俺も思ってもみないことまで口にして。確かに蓋は赤いけど、チョコは黒じゃなくて茶色だからロッソマッローネじゃねーッスか?と突っ込んだら、黒みたいなものでしょう?なんてクスリとまた笑っていた。あの時俺は、なんでもかんでも赤黒にこじつけて見てしまうのは王子あんたのほうだろ、と言ってやりたかった。

 そしてあの時王子は俺がすっかり食べ終わった直後に、ザッキー、それって美味しいの?とぽつりと呟いた。今まで一度も食べたことないんだそうだ。なくなる前に、ちょっと頂戴、とか、食べてみたい、とか一言えばいいことを、つくづく変なところで意固地になるところがある人だった。きっとやきそばパン同様、食べてみたくとも今まで手に取って自分で買うことすら出来ないでいたのだと思う。極稀に高級チョコを口にする程度の彼がこんなものに興味を持つなんて思ってもみなかったので、何にも考えずに全部自分だけで食べてしまった。俺はなんとなく自分がケチで意地悪な真似をしてしまったような気がしていたので、このことがずっと気になっていたのだった。

    *  *  *

「ほら、大人げないベビーなあんたにぴったりでしょ?はいどうぞ」

 鼻息荒く無理矢理ニヤリと笑いながら差し出す俺。どんな反応をするのかと少しドキドキする。でもきっと彼はこれを一回は食べてみたかったはずで、絶対これを受け取るだろう。そうだろ?王子?そういう意味を込めて俺は王子の目を見つめる。ベビーな、という俺の余計なひと言に反応してか、王子はチョコと俺の顔を交互に眺め怪訝な顔をしてこう言った。

「ありがとう」
「いえ」

 そして差し出す俺に向かって、王子はこれまた思わぬ一言を俺に言い返した。

「じゃあ、それ、あの段ボール箱に入れておいて?」
「!」
「知ってるよね?ボク物を受け取るの好きじゃない。でも一応そのキミの熱いハートだけはいただいておこう。キミくらいだよ。このボクに面と向かってベビーなんて言い放っちゃうのは。フフフ、面白い。身の程知らずの本物のベビーにしか言えない台詞だ」

 そうやって王子は、どうしたの?早く行っといでよ、と言って再びのたのたと帰り支度の続きを始めたのだった。

 腹が立った俺はその後ズカズカと部屋を飛び出し叩きつけるように段ボール箱にチョコを投げ入れた。ガスッと変な音がした。俺のことを足蹴にしやがって。まあ、サッカー選手なんだから間違いじゃない?いや、そんな問題じゃない。

 その感情がおさまらないままにプンプンしながら俺も戻って帰り支度。入れ違いに出て行く王子に、入れときましたよ!と憮然と報告。そして、今日は飯どうすっかな、なんて考えながら自分もようやく帰ろうとクラブハウスを出た時、偶然遠くの方に駐車場を歩く王子の姿を目にしたのだった。

 王子は鼻歌交じりに呑気にテクテク。手には車の鍵。鍵と一緒に何かを持っている?楽しげにポーンと高々と放り投げてキャッチしたそれは、とってもベイビーな安物チョコ!

「なんだよそれ…いらねぇんじゃなかったのかよ」

見ているこっちが恥ずかしくなって、思わずポロッと口から出た言葉は距離が離れていたため王子の耳には届かなかったらしい。

 それにしても。ホント、なんて嬉しそうな顔をしてそれを見てる?あんたそんなにご機嫌になるほどこの粒チョコを食べたかったのか?と。本当にガキっぽい王子にぴったりだ、と。俺は笑いが止まらなかった。ついでに、すれ違う世良さんに一人でなに笑ってんだよキモイ、と言われた。うるさい、ほっとけ。

 欲しいものを欲しいと言えない。あんたのそういうところ、変わってないんだな、と懐かしく思った。今年に入ってガラリと印象が変わった王子は、やっぱり相変わらず変に意固地な王子の部分も残したまま。なので俺は嬉しくなって、なんだか優しい安堵のような感覚に包まれたのだった。