絆に結ばれて 1
渾身のイチャ甘ジノザキになる予定。「仲良く遊ぼう」はゲス顔で書いた「沢山遊ぼう」と対。ジーノ長いトンネルを抜けた結果、中からぴょこんと子供が出てきてしまいますが、心を痛めた人は回復期に悪化→赤ちゃん返りすることがあるそうで一応それを踏襲しています。ジーノの回復とザッキーの成長はまだ始まったばかりです。
仲良く遊ぼう~おねだり
彼によると、俺による王子の調教、再教育はとてもとても順調なんだそうだ。
まあ、そんなことを言われなくても、最初こそ王子風だった彼が実は本当は王子でもなんでもないただのタチの悪いお子様だったのだということは、結局回を重ねるごとに身に染みてわかっていったわけだが。
* * *
いつものように王子がシャワーを浴びて、次に俺が入る。以前、この家に来たら必ず二人であの遊びをするのだという風習が馴染めなくてつらかった。そんな時期もあったよなーと勢いよく流れるシャワーのお湯に身を晒しながらクククと笑ってしまう。
あの頃は風呂上りに脱ぎやすい(脱がせやすい?)バスローブが用意されていた。目的重視の即物的な彼の意志。でも今は。肌触りのとても良いおそらく上質なコットンの上下の部屋着が置いてある。そうなんだ。常に寝乱れていたあの頃と違い、今は二人、こんな過ごしやすく心地よい服装でゴロゴロ、ダラダラ、なんということもない時間をのんびり過ごすことが増えてきていた。
シャンプーを頭につけた途端、外からカチャッと音がする。これは廊下と脱衣所の間にある扉が開く音。
「ねぇ、ねぇ、ザッキー、まだぁ?」
俺が出てくるのを待ちきれない王子が、浴室のドアの外から声を掛けてくる。前は突然黙ってドアを開けて、そのままそこでいきなり、なんてこともあったのに。
「あとちょっとッスから」
「ねー、今なにしてるとこー?」
「髪洗ってます」
「えー?今やっとシャンプー始めたとこ?じゃあ全然まだまだじゃない…Mi manchi(寂しいなぁ)…」
俺がどういう手順でシャワーを浴びるのかすっかり頭に入ってしまっている彼は、少し拗ねたような口調でそう返事をする。しばらくしたらパタンと扉が閉まる音がした。文句を言いながらも大人しくリビングに帰っていったようだ。
先日のあの二人いたたまれなくなってしまった夜以来、照れ屋な彼は自身の気持ちを伝えるときにチラッとイタリア語が出てしまう。わからないんだと思って安心しているのか、それとも口にしているのを気付いていないのか。実はひそかな勉強の成果もあって、ちょっと俺にも意味が通じてしまう時がある。彼が口にしがちな簡単な言葉が中心ではあるものの。でもいざ伝わってしまうとやっぱりなんだか恥ずかしくて、ホントどうしていいものかわからなくなる。王子は自分でイタリア語を覚えて欲しいなんて言っていたくせに、そんなこときっとすっかり忘れてしまっているのだろう。気軽にポロポロと零れ落ちるそれらを、彼がわからないままに俺は拾い集める。
* * *
シャワーから出てくると、王子はカウチにうつ伏せでコロンと。退屈そうに雑誌をパラパラまくっている。膝を曲げ、足を絡ませふにゃふにゃ左右に揺らしながらのんびりリラックス。ああ、そうだ、きっと俺が来る前はずっとこんな風に王子はいつもここでこうして暮らしていたのだ、となんとなく考える。
「あ、おかえりぃ~」
近づく俺に向けた、ああ、この顔。これぞ本物、王子のスマイル100%。こんな顔を向けられると、俺もつられて顔がゆるんでしまう。王子はすかさず雑誌をポンっと放り出し、身を起して両手を広げる。
「おいで?」
本当にこんなシーン、俺らは何度過ごしてきたことだろう?でもあの頃と同じ場所、あの頃と同じ仕草の彼なのに、表情一つでこれほどまでに違うモノなのだろうか?と不思議に思う。毎回この瞬間、こんなにも胸が締め付けられてしまう。我慢できない、一秒でも早く触れ合いたい。こんな気持ち。一体どうしようかと、俺はいつもそれを持て余す。
ポスンと彼の腕に入ってみると、ふわっと彼が俺を包む。
「フフフ、ヨシヨシ……」
きゅっと柔らかく抱き締められて、彼は嬉しそうに俺の後ろ頭を撫でてくる。ああ、なんてふわふわと夢心地。
「ちゃんとお利口出来た」
こんな時、彼が口にするこの言葉。そう、これもまたあの時と同じ“お利口”でも、今では全く意味が違う。あれは昔、王子が俺を従わせるために言った言葉。でもこれは?もしや彼が自分に向けたお利口?待てた自分に言うヨシヨシ?そんなつもりはないのだろうけれど、不思議とそんな空気感。それと、ああ、今、彼にこの上もなく大切にされているという充実感。すると、スッと体をはなして彼が言う。
「ご褒美が必要だよね?」
目がキラリと輝いて、ああ、王子のこのイタズラな瞳の色。ドキドキ見つめていると、いきなりパチッと目を瞑った。なんだろう?と眺めていると、チラリと片方薄目を開いて、またキュッと目を閉じた。
「あの……まさか……」
嬉しそうに唇を少し突き出して、ん~、と甘えたような声を出すおねだりのポーズ。ねぇ、王子、これって誰が誰にあげるご褒美のつもり?王子が俺に?俺が王子に?
もう、王子。マジで信じられない。ホントはこの人、こういう人だったのか?意味深でクールな人だったはずが、今は本当に驚くほどにストレート。恥ずかしげもないベタ過ぎる仕草。まさしく彼には半分イタリアの情熱の血が流れているという証拠を見せつけられる。パフォーマンスにしては馬鹿げてる。でも色男はこんなことをやってのけても、なんだかしっくりとしてしまってほんの少しも陳腐じゃない。本当にタチが悪い。魅力の塊のような彼に素でこんなことをされてしまっては、それに抗いきれる人などいやしない。
えーい!と勇気を振り絞って、彼の唇にチュッと一発。こっちは生粋の日本男児だ、勘弁してくれ!といった心境で、どっと嫌な汗が背に滲む。なのに王子ときたら、閉じていたその目をこれ以上ないくらい大きくパチパチと見開いて、そうして次にまたあの満面の笑みを浮かべてしまうもんだから、これは本当にフェアじゃないと思う。繰り返しになるが、本当に、本当に、彼はタチが悪い。
だから俺は。
「そうですね。確かに頑張ったらご褒美は必要だ」
そう、だから俺は。
こうして憮然とした顔をしながらも、王子と同じように目を閉じ口を閉じ。彼からのキスを待つしかなくなってしまうのだ。本当に俺ら二人どうかしてる。
* * *
“待て”から“よし”を言われた子犬のように、一気に俺に飛びかかる王子。俺はあっけなく押し倒されて、気が付けば有り余るくらいのキスの嵐に見舞われる。
ああ、こんなに沢山のご褒美を?
これは俺に?
それともあなた自身に?
俺は呆れる様な笑いを浮かべて、フッと嬉しい溜息を付く。眩暈がする。クルクルと。彼と二人クルクル、クルクル、フワフワと。
こんな夜は、また二人、体がドンドン軽くなって、立っていられないほど浮き上がって、そんな風にあの遠い空まで飛んで行ってしまう時間を過ごすんだ。王子が俺を包み込むように俺を欲し、俺はしがみ付く様に王子を求めて、そうして言葉にならない会話を体同士で深く濃密に重ね合いながら、うんとうんと遠くまで。
