お花結び

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絆に結ばれて 2

ガンナーズ戦(ホーム)から最初の五輪予選が終わる頃までのジノザキ。一応回想のものも含めて出来るだけ時系列に並べてみました。そのため展開2系統がグチャグチャ混ざった形となりなんとも読みにくく申し訳ないです。章タイトルが2文字のものが裏でそれ以外が表ですのでそれを目安にしていただければ幸いです。因みに作中ジーノが使用している包丁はハーブチョッパーです。

高揚

 その日、半分王子に嵌められた形で、俺は一緒に風呂に入ることになったのだった。まあ王子じゃなくてもチームのメンバーで一緒に風呂に入るなんて珍しくもなんともない、たかがそれだけの。
 でも、大人びた澄まし顔の陰で子供の様にはしゃいでいるのがよくわかる。表情豊かな王子だけれど、見る度違う顔を見せてくれる。こんな時こそ俺は、本当の意味で王子は二人の時間を手放しで楽しんでくれているのだ、と実感出来るのだった。

 俺達はずっと離れていて、そしてまた再び一緒に過ごすようになった。けれど、王子が持田さんのところからこの家に戻った後すぐのガンナーズ・ホーム戦以後、中二日、中三日とアウェイ戦が続き、なんだかとても慌ただしい時間を過ごしていた。移動と宿泊を伴う遠征の長い拘束時間は、心の繋がりが深まった分だけ恋のもどかしさを痛感するのに十分なものだった。目の前にいるのに触れ合えない。人目が気になり、何気ない会話一つもやりにくい。互いの渇望を充足しあえて間もない俺達はそんな日々に少し疲れを感じ始めていた。

 そういうわけで、久しぶりに毎日家に帰って当たり前の様に王子を独り占めできるという期待と充足の予感が、俺をもいつになく無邪気な子供にした。じゃれつくように王子が俺の髪を洗い、二人で水遊びをやるみたいにお風呂で騒いだ。そこには面倒くさい理屈も理性も何もなくて、ただ楽しさと幸せばかりが詰まっている、まさに待望の時間だった。

 だから。

 その夜の、五輪予選の代表選手に選出された報を受けた感動的なはずのその瞬間も、俺は電話を握りしめたまま、ただただ夢の中にいるような不思議な感覚の中にいたのだった。

    *  *  *

 その瞬間、実感のない俺よりも寧ろ、王子の方が吃驚するくらいに興奮し喜んでいた。

――たかが五輪の、しかも予選の

 おそらくはそんな風に思うであろう王子の前で俺が下手に万歳万歳喜んでしまえば、呆れるように、ああまあ、良かったよね、とクスクスと皮肉めいた愛想笑いをしかねないとすら俺は思っていた。別にこんな程度で嬉しくもなんとも、とかいう感じで王子の偉そうな態度に構える準備すらしていたくらいだった。なのに。
 俺が電話が終わってその報告をすると、彼は皮肉に笑って見せるどころか、なんとも表現しがたい泣くとも笑うともつかない深みのある表情を浮かべ、俺をギュッと抱き締め、震える声で、凄いね、と小さく耳元で囁いていた。突然の出来事に目を白黒させながら王子に報告をしていた俺は、彼のこの思ってもみない素直な反応に、益々リアリティがなくなってしまったのだった。クラブハウスからの電話も含め、とても込み入ったドッキリなのではないのかと思ってしまったくらいに。

 けれど、しがみ付くようにきつく抱きつく王子の鼓動、そのあまりに激しい響きが、彼が今受けている本物の衝動と感動を如実に伝えるので、いつの間にかそれに呼応するかのように、カタカタと俺の膝が笑い始めてしまった。

「あの……マジ、なンスかね……これ……」

 おずおずとそんな風に彼に問えば、王子は、馬鹿、とまた耳元で小さく囁いていた。

 寝耳に水の出来事に混乱する俺。体の力が抜けていく。王子はふらつく俺を支えるように力強く抱き締め続け、暫くしてからカウチに座らせ優しく肩を抱いた。呆然自失の俺はただされるがままに王子に身を任せる他なくて。

「何?もっと喜びなよ。キミのその実直な献身性と、ここ一番で発揮する気迫が認められたんだから」
「いや、改めてそんな風に言われるとなんかこう……」
「なんかすっごくワクワクするよ、ねぇ、ザッキー?楽しみだなぁ」

 この数試合の俺の活躍。特に2試合連続で豪胆な得点を決めた事と、今日の得点にもガッチリと絡んでいたことが決定打になったんだろうと王子は説明した。

「そっかー。ザッキーがねぇ……フフフ」

 そして、混乱する俺を落ち着かせようとしてか、今回の選出についての彼なりの意見を述べ続けていた。話す内容は何でも良かったんだと思う。王子は俺が王子の声を聞くと心が落ち着くことを知っていて、ただ声を発する為だけにそれをやり続けていたは何となく通じた。俺に話しかけているようでもあり、まるで独り言のようでもあったからだ。彼はとても饒舌な印象があるが、実はその大部分が彼なりのサービス精神であり、日常の彼は比較的寡黙な方なんだと思う。

「綿密な連携の実現と競争意識の保持のバランスってどっちに傾きすぎてもチームは壊れるしすっごく難しい問題だけど。ここでキミをっていうのはナカナカの選択じゃない?あの世代のネックになってた閉塞感が解消されて、きっとそのチーム面白いことになると思うよ。あの世代って結構前からほぼメンバー固定でやってたもんね」

 王子にとっては、そんななんでもないような感じの話。けれど、選手の目線を超える高い視点からの話は、わかるような、わからないような。頭が真っ白になってしまっている俺はぼんやり、これは全部王子のおかげだ、と考えるのが精一杯でろくに返事をすることも出来ないのだった。

――さっきの、左にもう一歩大きめのフェイク入れれば次は完全に抜けるから。得意でしょ?頼むね

――しょげてる?ハハハ、なわけないか?ホントあの子雑だよねぇ?ま、合わせてやってよ

――ファー気を付けて、狙われてる。でも一本ニア挟めばいけるかも。そんでペナから釣り出せればチャンスだから

 プレイ中話をする機会などそうそうないけれど、スローインの時や俺の心が折れそうになっている時には必ず王子が声を掛けてきた。奮い立たせる言葉。プレイの選択上の軌道修正。今までもそういうことはないわけでもなかったけれど、あの夜以降の王子の俺に対する下支えはまさに驚異的なものと言ってよかった。王子はその恐るべき洞察力で俺のみならず監督の指針や試合の流れをすべからく把握し、まさに指揮するように陰に日向にゲームを操っていたのだ。しかも、そうと相手が気づきもしないレベルの慎重さで。王子の凄さについて、俺はずっとわかるつもりでいながらわからなくて、次第に理解出来たつもりになったけれどやっぱり全然わかっていなかった。

 夢だった。ずっと。ナショナルチームに選ばれる事。絶対になってやると豪語しながらも、当然だなんて思ったことなんて一度もなかった。プロになって2年ちょっと。環境の変化が目まぐるしくて、なんだか心が追い付かない。こんな姿、誰にも見せられたもんじゃない。チームのみんな、友達、家族にだって、みっともないったらない。

 でも、そんな片意地を張る俺の肩を王子は今当たり前の様に優しく抱き寄せる。大いに喜びながら当然の話だと言って笑う。本気でそう俺に言ってくれる。

 やせ我慢ばかりしてきたちっぽけな俺は、そんな彼との今があまりに幸せで仕方がない。何度も触れられすっかり体が覚えてしまった彼の肩を抱く腕が心地よい。傍にいるのは、この姿を晒すに一番ありえないはずのチームのエース。本来なら最も意地を張りたいはずの相手。でもその人が、今の俺の全てを受け入れ包み込んでくれる大きな、大きな、俺の。思ってもみなかった、夢のような今。

「フ、どうしたの?ザッキー」

 顔を上げると、いつにも増して穏やかに笑う王子の姿。彼が鼻で笑うだなんて、なんでそんなことを思ってしまったのか?凭れていた体を起こすと、クシャリと癖のついてしまった俺の髪をチョイチョイと指先で整えてくれる。この人がいたから俺は本当の意味で成長し、そしてあの日、王子が俺のところに戻ってきてくれたからこそ今こんな時間を過ごせている。この晴れ晴れしい日、もし俺が本当に一人なら?耐えられただろうか?夢に手が掛かったこの重圧に。隣の王子を眺めているだけで説明できない混沌とした気持ちが溢れて、唇が震え。

「王子……」

 彼の名を呼ぶ。たったそれだけのことで俺は感極まってしまって、先ほどの王子がしたようにギュッと力を込めて彼にしがみ付き、同じように耳元で、マジ、凄いッスね、と囁いた。馬鹿な言葉。変な一言。けれどやっぱり王子はそれを聞いても馬鹿にすることなくこう言った。

「うん、本当に凄い。キミはそれだけ頑張ってきたんだ、ザッキー。おめでとう」

 彼に髪を撫でられることがあまりにも幸せで、俺は、違うんです、俺じゃなくて王子が凄いって言いたいんです、と必死で訴えたくて、でもそれを伝えるかわりに彼の肩口に涙を零し続ける羽目になる。

「よかったね」

 王子が喜んでくれる。俺が頑張った事。今こうして傍にいて、それが俺達の日常。本当に、本当に良かった。

「頑張ってくるんだよ?」

 頑張ります。俺はもっともっと頑張れる。心の底から、そう思った。