お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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絆に結ばれて 2

ガンナーズ戦(ホーム)から最初の五輪予選が終わる頃までのジノザキ。一応回想のものも含めて出来るだけ時系列に並べてみました。そのため展開2系統がグチャグチャ混ざった形となりなんとも読みにくく申し訳ないです。章タイトルが2文字のものが裏でそれ以外が表ですのでそれを目安にしていただければ幸いです。因みに作中ジーノが使用している包丁はハーブチョッパーです。

仲良く遊ぼう~受容と供給

 まただ、この人。

 カウチに二人。王子は雑誌を読み終わって、退屈し始めている。今、留守にしていた間にたまった海外サッカーの試合の録画を俺は見ているのだけれど、彼はボクそれもう見ちゃったんだよね~と言いながら欠伸をしている。
 この忙しい男にそんな時間がどこにあるんだと思って聞いてみれば、彼は大抵早送りで、気になったところだけ普通の再生で見るらしい。一度見てしまった映像は繰り返し見る意義も感じないけど別に気にしないでいいよキミが楽しんでくれるなら、と笑っていた。俺は気に入った試合を何度も見たがるタイプだから。
 馬鹿みたいに次々に購入する本も取っておいてくれと言わない限りすぐに捨ててしまう。人間関係もそうだ。仕入れて頭に入りきらなかった情報は、結局は自分にとっては無意味で不必要である物が多いから気にする必要はないのだという。

 全く彼の身に通りすがる情報の量はまさに異常だ。

「物忘れが激しいっていうかさ。こうやって常に何かに触れていないと時々、あれ?どうするんだったっけなー?みたいな?そんな時があるんだよね」
「なんだそりゃ」
「例えばカルチョならなんか蹴り方とかやり方とかすぐ忘れちゃうっていうか。前日とかに見てれば、ああ、こういう感じの~ってその場で思いつけるんだけど、こういうのなんていうの?一夜漬け?ハハハ」

 彼はまるで自分のプレイをその場の気分や思い付きのように語る。しかし、これは嘘だ。若しくは、本気で自分のことをそう思っているのだとすれば忘れっぽいんじゃなくて思い出すのが下手なだけだ。王子自身もわからないままに全部入ってしまっているんだということを俺は知ってる。

「ああ、そういえばこの前はあれでしたっけね、王子に一過性のアウトサイドパスの一大ブームが」
「そうそう!○○の××のプレイったらなかったもん!あんな風にボクもやってみたいなーってさぁ?」
「だからって俺にまでアウトサイド縛りやらせようとか」
「だってゴールまでのつなぎのパスが全部アウトサイドでだったらおっもしろいじゃない?」
「そういうことじゃねぇ」
「ん?そういうことだよザッキー。楽しまなくっちゃいいプレイなんて出来ないさ」
「そういうのは悪ふざけって言うんですよ王子……」

 彼は記憶と思い出をとても大切にする人間だ。忘れた忘れたという彼に、少し働きかければ簡単に彼の記憶バンクからその情報が引き出される。まるで感覚だけでやっているように見える彼のサッカーのプレイはすべて緻密な計算の上で行われており、きちんとした問いかけで話しかけてやればどんな細かいことであれ、その意図がどういうものであったのかを明快に説明することが出来る。驚くべきことに数年前のプレイにしても敵味方の布陣と距離関係も含めて覚えていたりする。俺は何度も繰り返し繰り返し再生して自分の頭に刻み込んできた彼のプレイの記憶なのに、彼はあっという間にその時間帯に時を遡って、昨日の話のようにそれを語りだすのだ。
 引っ張り出すのにコツがいるけれど、その記憶力と内容に感心する。すると、

「ふ~ん、ボクってあの時こんなこと考えてたのか、知らなかった。キミは記憶力がいいねぇ」

なんて言う。そして“キミは全く便利だなぁ”なんて笑う。どこまで本気で、どこまで冗談なのかわからない変な男。細かい情報が全部頭にあるかと思えば、人の名前なんかには無頓着。彼の人に対する認識能力はそういうものじゃない形で行われているらしい。色?形?ムード?うまく説明できないらしい。覚えたいなと思った相手には自分で勝手に名前を付ける。あだ名命名は自分が個体識別できた証拠で、ほとんど本名をフルネームでおぼえられない、つまりボクは馬鹿なんだ、と笑う。一生懸命相手にしゃべられても、ボク耳がお出かけしちゃってることが多いからね~なんて。前の監督の指示などを指して言っているのはわかったが、それはおそらく大きな矛盾を持つフワフワの感情的な指示が多かったせいであり、王子はその手の論理破綻な情報に関しては虫けらを扱うように遮断してしまう。時々俺の話もどこまで彼が心にとめているものなのか、あの冷徹さを知ると不安にもなる。王子は恐ろしく合理的でとても真面目な部分があるくせに、それをふざけて有耶無耶にする癖がある。

 今思えば、そんな曲がったところのある彼が一度でも真面目に話すと俺に言い出したことなど、奇跡にも近い出来事だったのかもしれない。そう、あれはある秋の日。彼なりの真剣な別れ話。一緒にいても何も得るものはないんだよ、と彼は寄り添うような姿、そして今までにない真摯な目でそれを俺に告げた。後日、

「真面目に別れ話とかさ?ハハハ、やったこともなかったから失敗しちゃったねぇ」

なんてその時を思い返して呑気な顔して笑っていた。

「でもあの時キミが納得してくれてキチンと終わってたらってどうだっただろうなって思うこともあるんだ」

遠い目。別れてたらその時、王子はどうなったのか。そんな一番肝心なところをあやふやにする。別れてたらなんスか?なんて直接質問しても、わかんない、とか言いながら肩を竦めて笑ってキスをした。本当にこういうところが王子らしい。いつか言葉にしてくれる日が来るのだろうか?言いかけて飲み込む、そんな彼の思いの全てを。

 天才ってこういうものなんだろうか。彼は自分自身の記憶力や分析力、判断力などすべての才能について非常に無頓着だ。膨大な情報収集、信じられない自己管理能力。人はこれを努力と呼ぶ。だが彼は自分を快楽第一主義者と呼ぶ。楽しい事だけ溢れていればいい人生で、考えるのが一番嫌いで鬱陶しい事なんだと言う。

「下手の考え休むに似たりなんだよ、つまりはね?」

 ああ、そうか、ボクはずっとお休み中だったってわけだ、なんてケラケラ笑っている。最近の王子は本当にネジの一本や二本はずれてしまったかのようによく笑う。

「ねぇ、愉快だねぇ?」
「愉快なのはあんたッスよ」

 返事をするとまた嬉しそうに俺の鼻に鼻をすりよせ、ホントくすぐったいったらない。

  *  *  *

 王子は見えているもの、聞いている世界が本当に違うようだ。強豪チームの素晴らしい連携プレイをライブ映像で見ている時大あくびをしていたり、最近このチーム面白い、とズタボロに負けて悲惨な状態の海外の弱小チームを追いかけ熱心に見ていたりする。大概そんな時、何試合か追いかけてみていくとそのチームは勝ちあがり始めたりするし、強豪チームは空中分解同然の失速をしたりする。

「凄いッスね、王子にはチーム状態がプレイから透けて見えるんですか?」

と俺が褒めると、

「何が?チーム状態?何それよくわかんない」

と眉を寄せている。

「だって王子、たまたまうまくいってただけのプレイと、そうでないものがわかるんでしょう?」

と詰め寄れば、不思議そうに首をかしげて笑う。だから俺が

「意地悪しないで説明してくれればいいのに。だって王子、今まであんなに冷徹に試合の解説を俺にいつもしてくれて……」

と言えば、

「ああ、あれは何となくそれっぽいこと言ってればキミ素直だから王子カッコイーとか勘違いしてくれるかなーってさ?ハハハ」

とか馬鹿げた事を言い出してしまう。

「フフ、その様子なら効果満点だったみたいだね?なによりだ」
「バッ……馬鹿だろあんた!どうしてそう!」
「ハハハ、そんなにやって欲しいならまたごっこ遊びやってあげよっか?」
「いらねぇよ!そうまで言われて誰が!」

 とても饒舌で理論的な王子は、一緒にいればいる程内面がカオス。気儘で気紛れ、我儘王子の彼の表の顔。実は一周回ってそれが素顔だったのかと笑ってしまう。俺が笑うと、意味も通じてないだろうに彼も笑って、そして頬にまたキスをする。

「王子、もー、それうざい」

 恥ずかしくて怒って見せても、本当に俺がどう考えているかなんてことも彼はすっかりお見通しで。

「しょうがないよ、キスして欲しいって顔してるんだもの。そうでしょ?これは二人のニーズだから。フフフ、しょうがない、しょうがない」

 指摘されたくないことをズカッと言われてカッと赤面する。そんな窮する俺を見みるといつも王子の瞳には悪戯っ子のような光が灯る。そしてその陰から陽炎のように揺らめく色欲、まるで条件反射のような出現だ。だから、すーっと指先で頬に触れられるのを合図に俺は、ゆっくりと唇を物欲しげに半開きにさせて極自然に彼のディープなキスを待ってしまう。こんな時、王子の言うようにまるで彼を呼び込むが如きスイッチが無自覚なままに入ってしまう事実がなんだか口惜しい。

「フフ、ほらね?ザッキー、しょうがないことなんだよ、こればっかりは」

 キスの合間、俺は彼の名を無意識に呼ぶ。すると今度はそれを合図に、王子は猫のように体を寄せ、そうっと俺をカウチに沈める。

 そして、次はいつものように彼は甘い声で優しく囁くのだろう。俺を乞うその一言を。

 だから俺はそれが耳に入るか入らないかわからないままに、ただドキドキと期待に打ち震える。彼の指先がゆっくりと焦らす様に服の中に差し入れられる頃、俺の腕はもう逃がすまいと王子に絡みつき、まるでおねだりをするかのように王子の舌先を俺の舌先で必死に追いかけるばかりになっていたりするのだった。