絆に結ばれて 4
ベタ甘ジノザキを満喫しながら、その実二人はその裏でそれぞれの試練の中に突入していくという暗め展開。一度非公開にしていましたが10/2再公開。
同じ時間を重複というか別の形で書いたりしているのでちょっと読みにくくて申し訳ないです。これを書いていた当時の設計図(構成?)が頭から飛んでしまいましたので、一から組み直すつもりでのんびりやっていくつもりです。筋自体は今んところ変わる要素もないですしね(本編次第だったんですけどモッチーの年齢以外は設定破綻はない感じ。つか、まあそんな大きな設定破綻があればあとは大した問題じゃな……)
羨望
「最近、ボクはホントよく眠ってしまうね。せっかくキミと一緒にいるのに損した気分だよ」
「別に損じゃないでしょ。疲れてんですよ。王子、最近結構頑張ってるし」
「最近?ってちょっと角立つ言い方だね?ザッキー?」
二人、笑う。当たり前の様にキスをする。
「だって頑張ってるでしょう?それに、ここ暫く俺と一緒にピッチに立てなくて、寂しい思いしてたんだろうし、辛かったんじゃないですか?」
「フフ、ホントよく言うよ。遠征から帰ってきてから散々一緒にやってるじゃない?」
俺の五輪予選出場とその後の調整、王子の足の張りによる離脱。確かにここ最近ずっと二人は一緒にピッチに立てていなかった。
でも、ガンナーズ戦前後の、あの苦しみの中で手に入れた繋がりのおかげで、二人の互いの寂しさでさえもこうして愚かしい笑い話にしてしまえた。
そう、錯覚していた。
一緒に過ごす時間が急に増大したことで色んな事が埋め合わされた俺達は、肝心の部分の隙間を見落としたままでいて、天地がひっくり返る様に全てが一度に完成するわけでもないという、至極当たり前の事をこの先二人は少しずつ理解していくようになる。育み、ともに成長する、とはそういうものだ。とても素晴らしい事をこの頃の俺達はまだ知らず、まるでゴールインしたかのような感覚でいた。
「ザッキー、SBって初めてだったの?ボクやったことないな」
「ありますよ、俺今まで結構いろんなとこやらされてたし。王子は?生粋の10番って感じだから他のポジション想像がつかないけど」
「そうでもないよ?昔はバリバリの右SHだったんだから」
「え?まさか!」
「もしかしたら、今頃ボクたちはポジション争いをするライバルだったかもしれないね。ユースではトップ下やインサイドもやることあったみたいし同じかな?そういう関係も面白かったかもしれないね」
「なんか想像つかないっつーか……動かねーSHってどうなんだよ」
「これでも攻守によく走るハードワーカーだったんだ。モッチーにはよく走らされて……でも、足は速くなかったし結構ケンカしたなー」
「はー、なんか意外」
「それで……」
「……?」
ああ、王子、また少し眠そうだ。
「あんな鬼と一緒にU-16の候補になんてねー……」
「U-16?ナショナルチームに呼ばれてたンスか?すげぇ。初めて聞いた」
「候補なだけだよ。でも、これってどうなの?とかさ……」
「ハハハ、サムライブルーよりアッズーリ、ですか?」
「そうじゃなくて。一つの国を背負うとかさ、ボク中途半端だから」
「はぁ?何を……なんだかんだ言いながら王子本当はいつも一生懸命やってきたんでしょう?」
「フフ、モッチーも笑ってたよ……尻込みしてるボクを見て、お前はバカだってさー、ホント失礼で……」
「……」
「あの頃もそうだけど、成人を過ぎて日本の国籍を選択した今も実質ボクは二重国籍なんだよ。日本では成人が二つ国籍を持つことを認めてないけど、イタリアはそれを容認していて、というか寧ろ自国の国籍を放棄することを禁じてるくらいで手続きが完了してないんだ。まあ、その辺の話になるとちょっとややこしいんだけど」
「そうだったんですか」
「ま、兎も角当時はその辺の考え方も含めてどう処理すればいいのか、誰に何を相談すればいいのかもわからないまま……どうしよう、どうしようって戸惑ってる間に体が駄目んなって。ま、結局今もその辺のごちゃごちゃに関してはよくわかんないんだけどね」
「……」
「帰化するって話だったらまた少し違うのかもしれないけれど」
「王子……」
もう目が開いてないッスよ?そう言いかけて、言葉を止めた。つらつらと出てくる言葉がかなり複雑なものであるため、この話は王子がきちんと俺に話をしようと思った時に聞くべきものだということと、彼のこのどうしようもない眠りに落ちていく時の邪魔をすべきではないと感じたので。
頭をフルフルと振りながら必死で睡魔と闘っている姿がなんだか少し幼げにも思えて、不意に彼を抱き締めたくなった。
「ザッキー、この前、カッコ良かったなぁ……」
そしてまた始まるこの話。寝ぼけてくるとループする、耳にタコが出来るほど聞かされるこの話。最初こそ恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだったこのネタも、今は何度そのその話をしても飽き足りないとでも言うように楽しげに笑う王子の表情があまりに優しいものだから。
「はいはい、そうですね、俺はかっこいいですよ?どんだけ惚れ直してもらっても構いません」
「フ……フフフ、あのね、青いユニの……が……って……」
「ね、王子……大丈夫、寝ていいッスよ?眠いんでしょう?かっこいい俺がついててあげますから大人しく寝てください」
「ん……もう少し……」
「最早、呂律回ってねぇし」
笑いながら王子の様子を見てそっと呟く。話は飛び始め、言葉もポツポツと途切れがち。多分、もうなにを言ってるのかわからないんだろう、ぼんやり王子は半分夢の中。いつもの通り、またこの前の大会思い出してニヤニヤしながら、瞑ったままの目を瞬きしたくて動かしている。必死で起きようとしてみても、でももうそんな事では重い瞼は開きやしない。
俺ら二人、話す時間なんてこの先いくらでも。ねむい時にはゆっくり眠ればいいッスよ?そんな気持ちで彼の前髪を指で梳いたら、ポカリと目を開けて俺のその手に彼の手が添えられ。
「いいなぁ、キミは当たり前に日本人で……」
「ん?なんスか?」
「ボクも……ったなら……」
そこから続いた思いがけない王子の言葉は、彼自身のアイデンティティに根差す傷そのもののような。ドキリと凍り付いている間にも彼は、ザッキー、と俺の名を呼びながらドンドン体の力が抜けていく。これは、流すべき一言であることくらい直感でわかった。眠りに落ちていく彼は、おそらくそれを覚えていないのだから。
「王子、おやすみなさい」
「ん……」
添えられたその手を上掛けの中に戻してあげて、自分は自分で跳ねる心臓を必死で宥める。
「“いいなぁ”か……」
この思いが彼が必死で隠してきたものなのか、それとも王子自身自覚のない未知の本音なのか、俺にはよくわからなかった。ただ、仮にそれがわからずとも、彼に事実を問うことは不可能だろう。
「ん……」
情けなく寄せられた眉の部分にそっと口づけを落とすと、さも嬉しそうな表情をして、最早重たくて動かせないであろう腕で絡みつくように俺を抱く。心地よい、向き合うような姿の腕枕。俺の呼吸がしやすいように、極当たり前のように上掛けを綺麗に整えなおして。これが、彼の一番好む、彼の寝方。俺も一番安心できる寝心地のいい体勢。優しくて、心地よくて、勿体ないのに俺もあっという間に眠気に誘われていく。
そんな中で、俺は、五輪代表に選ばれて帰ってきた時のことをぼんやりと思い出していた。
