お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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絆に結ばれて 4

ベタ甘ジノザキを満喫しながら、その実二人はその裏でそれぞれの試練の中に突入していくという暗め展開。一度非公開にしていましたが10/2再公開。
同じ時間を重複というか別の形で書いたりしているのでちょっと読みにくくて申し訳ないです。これを書いていた当時の設計図(構成?)が頭から飛んでしまいましたので、一から組み直すつもりでのんびりやっていくつもりです。筋自体は今んところ変わる要素もないですしね(本編次第だったんですけどモッチーの年齢以外は設定破綻はない感じ。つか、まあそんな大きな設定破綻があればあとは大した問題じゃな……)

好きだから

「王子、王子……」

 帰宅後、二人で過ごすゆったりとした時間にどうしようもない睡魔に襲われる王子は、その分カウチからベッドに移動してゆっくり眠ろうとした途端、こうして毎回うなされるようになっていった。

「このベッドが悪いのかなぁ、王子?」

 嬉しそうに星降るキスを交わし、俺を腕に抱きにこやかに眠る王子。なのに、5分もしないうちに襲うこの苦しみが一体どこからくるものなのか。王子の助けになりたいと思った俺は、彼の本棚から数冊日本語の本を取り出して読むことにしたのだった。

  *  *  *

 ある日それを見て王子が言った。

「そういうの、やめたほうがいいと思う」
「なんでですか?俺王子のことが少しでも知りたくて。でも無理に聞き出すのもあれだし、もっと勉強してからと思って」
「……気持ちは嬉しいんだけど、キミは選手だから」
「それが?」
「あんまりよくない」
「あれですか?それって俺に知られたくないとかそういう?」

 まるで俺の気持ちを蹴り返されたような気がしてムッとした俺が噛み付くと、王子はとてもとても悲しそうな顔をして、ポツリと小さくこう言った。

「だったら?キミはやめてくれるの?」

 この時「そうだよ」とハッキリ言わない王子の言い回しに俺は気付くべきだった。彼が孤独に苛まれていることを知っていたはずの俺は、説明したくてもそれが出来ずに言葉を濁した彼の事情を察するべきだった。
 彼が思いのままに自分の心を表現出来ない理由の一つが、相手の心を見抜く技術に異常な程長けていることであった。俺の気持ちに気付いていないわけがなかった。
 適切なタイミングで適切な言葉を使って相手を誘導することは王子の得意とするところ、所謂悪癖であり、この時それをやらなかった王子は、王子なりの一生懸命さで自分の素直な思いを伝えてくれようとしてくれていたのだと思う。本来、あの人なら俺に気付かれないままに本を隠したりやめてくれとはっきり告げたりしたことだろう。でもそれをしなかった。
 俺に、理解して欲しくないはずがない。でも、理解することへの弊害を思い、彼は一人苦しんでいた。そう、俺は王子の恋人であると同時に、彼のチームメイトだったからだ。王子はちゃんとそれを口にしていた。なのに、俺は気付かずこう言ったのだった。

「そんなに知られたくないんですか?」
「……」
「どうしても?」
「……ボク、時間が必要だって言ったよね」
「それってどれくらい?」
「……」
「嫌なんですか?それならそうってはっきり言えばいい。そんなあやふやな言い方じゃ……」

 そして王子は困ったような顔をして。

「そんなに焦らないでもいいんじゃないかな?キミがいてくれるだけで十分なのだから」
「俺は十分じゃないです」
「……わかって、いるよ」

 苦しみを抱えて暮らすことに慣れ過ぎた王子と、それを知ったばかりの耐えられない俺。毎日毎日、その辛そうな姿を見ていられなくて焦った俺は、なんとかして彼の知らない悪夢を消すために何かをしてあげたかっただけだったのだけれど。

 そんなやり取りがあった後、俺は王子に隠れて自分で似たような本を買って読むようになった。そして遅々として進まぬ知識の会得。それでも頑張って本を読み進めていて俺は気付いた。イップスという情報の認識が深まっていくほどに、イップスが実際に発症してしまうリスクが出てくるという事実に。王子は恋人として選んだ俺が選手であるがために、新しい大きな重荷を背負うことになったのだ。

 王子は少しずつといい、時間が掛かると確かに言った。今すぐにでもわかりあいたいであろう孤独の中のあの人が、どんな気持ちでそれを言ったか?諦めと同時に彼が手にした「キミがいてくれるだけで」という仄かな希望の祈りを、俺はあの時そうとは知らずに無下に踏みにじってしまったのかもしれなかった。

 子供のように無邪気に甘える王子が、少しずつまた変化し始めたのは五輪予選が終わった直後の、丁度その頃のことだった。そして同じ時期から、抱き締めても声をかけても王子が悪夢からナカナカ抜け出せないようになっていった。

――ねぇ、好き?

 あんなに繰り返されていた王子のこの言葉もまた、いつの間にか俺達の中から姿を消していた。