絆に結ばれて 5
いつかちゃんとまとめようと思っていた下書きです。断片的なシーンをただ楽しく書いて数年このまま放置になってしまいました。あの時勢いでラストを仮でもいいから書いておけばよかったと後悔。ぼんやりと頭には残っていてずっと自分でもそれを書くのが楽しみだったんですけど、もうまとめる力がなさそうなので供養のために(表現が重複していたり繋がってなかったりのままですが)UPしておきます。
アンカーシステム
「はー、重たかった。あ、王子それも貸してください。一緒に冷蔵庫入れちゃいますから」
帰宅早々賑やかに、ザッキーが片づけを始めている。
「ああ、やっぱり王子の言ったとおりでした。たまごが残りあと1つしか」
ボクは今、狭間に立っている。
「ぅわっ!あっぶね、落とすところだった」
未だに時々ボクの身にあれが来ることがある。例えばテレビの湿布薬のCM。例えば転んで泣いている子供。なにがきっかけかもよくわからない、些細なことでも想起が始まる。今日は点かなかった廊下の電気。寄せては返す波が見える。幻の水平線が真っ暗に見える。
(ザッキー、ザッキー……)
そうしてボクの不安定が蘇る時、一つの弊害もやってくる。
(波が足元の砂を削る。立っていられなくなる。ザッキー、そうしたらまたボクは連れて行かれる)
コントロールは今でも普通に壊れたままだ。意思に反して音が溢れ、色が溢れ、やがてその全てが失われ。かつてその静謐は紛れもなく、ある種の命綱でもあったもの。冷たく暗い、ボクのシェルター。でももうそこに一人でいたくはない。
「じゃあ次は早速、電球の交換を……しっかし、それを買いに出掛けたっつうのに王子ときたらすっかり忘れちゃって。さっき、点かなくて思わず焦ってませんでしたか?」
(ザッキー、ボクはキミの横にいたい)
「ははは、まあ、わからないでもないですけどね。王子って意外ととぼけたところがあ……」
(脚立にのぼろうとしているキミのその手に……電球を渡しながら笑いたい。何事もなく、そう、何事もなく)
「……王子?」
傍にいるキミに手を伸ばし、足りなければ抱き寄せる。それでも足りなければキスをして、ただただそれを見つめるといい。自分の意識のあるうちに、すっかり連れて行かれるその前に。
「いや、だから、先に電球を……あの、王、じ……んぅ……、ふ……」
それは一つのおまじないで、けれども効き目は絶大だった。数えきれないキスの合間に、少しずつ己を取り戻すボク。戸惑いの彼を凝視する。意識がクリアになっていく。
(……よかった、もう……大丈夫だ)
消えていく波、目の前には、ボクを留め置く強靭な碇。
今日もボクの傍に、キミがいる。
* * *
「ん……」
うっとりとボクに身を委ね始める、そんなかわいいキミが好きだ。
「……、おう、じ」
ボクに無理やりつき合わされて、やがて夢中なキミが好きだ。
「……」
簡単に絆され、目を潤ませて、ボクはそんなキミが本当に。
だからボクはしれっと今日もまた。
「ザッキー、のりのりなところ申し訳ないけれど、電球をそろそろ」
「はぁ!?人の服ここまでひん剥いておいて、どの口がそれをっ」
何故なら、我に返って頬を染めて、眉寄せ怒るキミもまた。
「だって、あんまり暗くなっては取り換えにくいんじゃないかな?と」
「……っ!!」
文句の続きそうな口にキスをして。にっこり笑ってウインクをして。
ああ、今日もとても綺麗だと思う。鮮明なキミという存在の、その全てが、この世界が。
