お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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絆に結ばれて 5

いつかちゃんとまとめようと思っていた下書きです。断片的なシーンをただ楽しく書いて数年このまま放置になってしまいました。あの時勢いでラストを仮でもいいから書いておけばよかったと後悔。ぼんやりと頭には残っていてずっと自分でもそれを書くのが楽しみだったんですけど、もうまとめる力がなさそうなので供養のために(表現が重複していたり繋がってなかったりのままですが)UPしておきます。

猫にマタタビ、傷痕に薬2

 ああ、王子、寝たなと俺は感じた。

 彼の重みが心地よい。最近の王子は突然俺の顔を見て、揺れる様な目線を寄越し、抱き締めてキスして、そうして気が済むと甘い溜息を一つ吐いてからなんでもないいつもの王子に戻ったりする。彼の行動パターンはよくわからないが、今日もまたドギマギとときめいては、嬉しくて泣きたい気持ちになった。常に理性的な彼の、ほんのちょっとした本能的な動き。過敏過ぎるほど神経のたつ男が悪夢にうなされる夜は、最後にはこうしてふと散漫になり落ちるように意識を失わせていく。きっと、こんな時の無防備な王子は俺の話の半分も理解出来ていないはずで、だから俺はいつもより少し素直に自分の思いを口にすることが出来る。

 かなり前、王子は自分のことをセックス依存だと言っていた。スキンシップが大好きなのは確かにその通りで、けれどその延長にあるセックスそのものに関して、果たして本当に執着があるのかといえば、それは疑問だと考えていた。彼とのセックスは、実に気持ちがよく、素敵なものだ。ただ、やはり彼にとってあの行為というものは、人と関わりあうための単なるコミュニケーションの一つの手段にしかすぎないのではないか。おそらく彼はキスが最も好きなのだ。呼吸のように常にそれを必要としている。昼も、夜も。そう、今も。

 彼はとても寂しがり屋で、けれど上手に人になつくことが出来ない人だ。沢山の人に囲まれて、沢山の愛に恵まれ、何人もの相手と時を過ごし、夜を過ごし、それでも満たされずに、寂しさの中にいた。少し前に、俺相手にも彼女達と同じようにどっぷりと性快楽に埋もれていた時期があったけれど、あの時感じた気持ちはやっぱり勘違いではない気がする。楽しそうに笑う彼の顔が、俺には泣き顔に見えていた。あの頃の彼は故障したロボットであり、いくら充電をしようとしてもうまくできない、身動きもとれない状態にあったのだと思う。

 彼のセクシャルな技術はサッカーのそれと同様とても高度で、抱かれた人間はみんな勘違いしたことだろう。俺もまたあの行為の中で互いの渇きが癒される勘違いに陥った。そう彼自身ですら、満たされるためにあの行為が必要なのだと考えていた。

「王子……」

 サラサラと長い髪を触らせてもらう。本当にこんな風に彼が重く怠く寝ついてしまう時、その無防備に胸が締め付けられる。王子の一挙一動が、俺の熱情を激しく煽る。
 彼のセクシャルな手によって引き出される官能はおそるべきものだ。ただ、それは彼の中にある本質的な輝きではない。彼のサッカーによく似ている。王子の今のサッカーは基本的には人に合わせるサッカーだが、それがあまりにも卓越したプレイなために、見ている者はそれが彼の才能の全てであると誤認さえする。でもそれは違うのだ。ほんの時折気紛れに表出する彼本来のサッカーは、いわゆる猫かぶりの日頃のプレイとは桁外れなものであると言ってもいい。全てではないにしろ、王子の一部分にでも触れ得る生活の中にいる俺にはわかる。王子の本当の本質が他者にきちんと通じ合えたそんな時きっと、とてつもない瞬間が生まれるに違いない。いや、実際今、日々それは生まれ始めている。王子は挑戦し始めている。

「だからかな。王子、疲れがたまってんのかも」

 疲弊し、ふいに充足を求め、そうして今日も深く眠りに落下していく。心の底からの根本欲求、彼の中にある人への渇望は、向き合うほどに王子を苛酷に痛めつける。それでも重い岩戸に手をかけながら、彼は懸命に戦っている。

「怖がらないで、もっと、もっと、求めてください。俺はいつでも傍にいますから」

 苦しみの中では切望のままに俺に腕を伸ばすことにさえ、彼には訓練が必要だった。

――ねぇ、こんなこと、本当は……変、だよね?

「変じゃないですよ。変じゃない」

 彼にそうされている相手の幸せをわからず、時折怯えている王子が悲しい。性快楽を遥かに超える、まるで天国に連れて行かれるかのような彼の腕とキスの嵐を受けて、それらが俺の中の情熱に変化していくのが心地よくて、もっととさえ思っているというのに。
 ぐにゃりと脱力したままの王子の状態に、なんだかこちらの力みまで抜けていく。猫のように滑らかで、子供のように無邪気でもあり。何もかも全てを委ねるようにして、ここで静かに眠っている。それはとても幸せなことだ。