絆に結ばれて 5
いつかちゃんとまとめようと思っていた下書きです。断片的なシーンをただ楽しく書いて数年このまま放置になってしまいました。あの時勢いでラストを仮でもいいから書いておけばよかったと後悔。ぼんやりと頭には残っていてずっと自分でもそれを書くのが楽しみだったんですけど、もうまとめる力がなさそうなので供養のために(表現が重複していたり繋がってなかったりのままですが)UPしておきます。
波と風2
ジーノは試合する度、興奮冷めやらぬ感覚に陥り、強く強く赤崎を求める傾向がある。だが、ここ最近は2度ほど
「用事がある」
とその夜の来訪を断ることが続いていた。足に張りがあると監督に休みを願い出たのはその翌週、3週目のことだった。
「いいんだよ?言ってごらん?」
絡み合う手を口元に寄せ、赤崎の甲にそっと労わるようなキスをする。いかにも遠慮がちな、自制的なジーノの行動。
「言って欲しかったのは俺の方ですよ。王子」
「……」
じっと見つめる赤崎の目は鋭く、思わずそらしたくなるような力を持っていた。それでもジーノはその目をじっと見つめ返していた。
「足……痛めてたの、結構前からだったんですね。家でアイシングしたりしてる姿、見られたくなかったですか?」
「……」
「もう、俺と寝るの、飽きはじめてきたのかなって感じてました」
ジーノはどうでもいいことは口にするし、嘘も装飾も色々大げさなほど派手で、けれど、聞いておきたいことほどこうして黙ってしまうことが多かった。無駄口は隠蔽の邪魔になるとでも言わんばかりに、相手に情報を与えることを一切やめてしまう。でも、やっぱりこのあたりも二人の時間が増えるにつれて少しずつ変化が出てきていた。
「……なかなか楽しかったよ。ヤキモキしている可愛いキミを眺めているのも」
話を逸らそうとはしていたが、これは負傷が試合中の交錯で生じたものではないという赤崎の指摘に対して肯定の意を含んでいた。そして飽きてきていたわけではないという否定の意味もあった。言いにくい言葉を努力する時、饒舌なジーノの唇は少々重く、聞かせなくないような囁き声になってしまう。
「あんたが趣味わりぃのは知ってました」
「……」
「試合後も、ハーフタイムも……いつも以上に冷水でクールダウンしてるの気付いてましたし。そうか、家帰ってからも風呂に水張って入ったり氷で冷やしたりしていたんスね。だからか。最近俺のこと呼ばなくなったの」
「ほら。そんな風に大げさになる」
大したことはないんだよと、苦笑して首を横に振る。
「そんな風にされると足よりも心の方が痛くなってしまうと思ったからからだよ。でも、キミの心をも痛ませてしまったね。悪かった。謝るよ」
その腕を僅かに左右に広げて、胸に赤崎を迎え入れる。
「全くですよ。隠し事や嘘は、もうって話、ついこの前もしたところだったのに」
「……そうだね、ごめん」
「本当に大したことないんですか?」
「うん。もちろんだよ」
新シーズンが始まって以降、ジーノの連投は続いていた。
「ボク個人の事情とは別に、今、チームも色々と過渡期だからね。でも、タッツミーは話がわかる人だから、休ませてもらえて助かるよ」
言いにくそうに赤崎が言う。
「……例の症状との関係は?」
「ないない、全然。それは大丈夫」
「本当に?」
「本当に」
強張っていた赤崎の体から力が抜けて、ようやく己のすべてをジーノに預けるように抱き着いてきた。ジーノは己の緩和に拍車がかかって、それが故に赤崎に甘え過ぎていることを感じた。
「誠実さが足りなかった。気を付けるよ」
「いえ、別に王子を責めてるわけじゃ。ただ」
「自分を守るためだけにキミを傷つけてしまった。努力不足だ。もっと怒っていいんだよ?」
「違う、王子は俺に心配かけまいと……ちゃんと頭では理解出来ているんです。なのに、感情的になって嫌味な言い方をして、俺の方こそ王子に」
「ううん、ボクがわがままだったし、怠慢だった」
「いや、だからそういうんじゃ」
二人でそんなやりとりをしながら、急におかしくなって同時に笑い始めた。
「やめよ?」
「そうッスね」
ふんわりと寄り添うようなキスをする。喧嘩のような、懺悔のような、のろけあうただのじゃれ合いのような。思わず意地を張ってしまうこと。それを素直に認めること。最近の二人はこんな風に、互いの認識をすり合わせる。相手の愛を信じていて、それでもところどころ不器用で、表現の形を間違えては、己の在り方を変化させた。空気と水。風が吹けば波はさざめいて、荒れれば風が渦巻いた。どちらともなく影響し合って、次第に凪いだ長閑さが来る。
