呑気な話
臆病ザッキー、見守るジーノのセンチメンタルラブジノザキ(に偽装したコメディ寄りの話)。書き始めたのが4月4日だったせいもあり「もし二人がどうしようもない乙女系男子だったら」と想定。客観的には完全に骨抜き&出来上がってる状態なんだけど、何故か延々とおっかなびっくりな生活を続けている、という少しずれてるお話を書こうと。
うららか、というのはこういう時に使う言葉だろうか。王子の家の広いリビングルーム、大きな掃出しの窓から見える青空は透き通るように遠く高く、そして差し込む日差しはポカポカととてもあたたかい。カウチでのんびりこうしていると、あまりの穏やかさにいつも眠気に誘われる。
ふと目を瞬いて室内に視線を移すと、意外な程近い距離に王子のサラサラとした美しい黒髪。俺とは毛の質そのものが違うようだ、日光がキラキラと反射して目に眩しく、次第に彼自身から光が漏れているような錯覚に陥る。馬鹿な妄想のおかげで俺に憑りついていた眠気が一気に吹っ飛んでしまった。
(すっげぇ眩しい……なんだこれ、マジか)
呑気そうに寛ぐその姿は、笑えるほど高貴な王子のそれだった。出会ったなりの頃、俺は彼の自称王子発言について半分出落ちのギャグみたいに考えていたというのに。
(……何食ったらこんな風になるんだ?海藻とか好きだったっけ?この人)
シゲシゲと観察すればするほど、奇妙な気持ちになってくる。その一方で馬鹿みたいに口を開けながら王子に見惚れている自分を心の中で笑い飛ばす。
そして。ふと現実に立ち返り俺はガックリと気落ちした。何故なら今隣に座るこのアホらしい程神々しく見える男と俺は、あの出来事があってからずっとぎこちない状態のままにあったことを思い出してしまったからだ。
* * *
一緒に過ごす二人の時間は心地良くて楽しくて仕方がなくて、でも時々どうしようもない不安を感じさせるものだった。不安の理由はよくわからない。
「お腹空かない?なんか作ろうか……ってあれ?どうしたの?あぁ、またかい?」
勘の鋭いあの人はすぐにそれに気が付いてしまう。
「いや、あの」
「フフ、いいからおいで?」
俺はその度オタオタと狼狽しなんとか誤魔化そうとするのだけれど、彼は当たり前のように俺を、つまり不安と、それを知られた動揺を抱えたまま混乱する俺を、丸ごと全部優しく包み込むように抱き締めた。そして反対の手でフワフワと髪を撫でてくれるのが常だった。竦むような不安が俺を襲う度に王子は自身の持つ魔法の力でそれを消し去った。あたたかい触れ合い、繰り出す王子の言葉の数々。飼い主のような、兄のような。いや、彼はそんな一言では形容しがたい大いなる庇護力を持っていた。王子は正真正銘、民を落ち着かせて統治する力を持つ、高貴で実力ある王族のような存在だ。
「そんな風にしおらしくしているとキミはまるで雨に濡れた迷子の子犬のようだね」
「いいから、ほらもっとこっちにおいでよ甘えっ子」
戯言。戯れ。説明付かない俺の不安は当たり前だが説明する事が不可能だ。だから、日頃思っている小さな悩みを、こうされる度にポツリポツリと俺は口にする。
「うん、うん、そっか……まあね?でも原因云々というより時間が解決するってこともあるとボクは思うよ?」
「そんなに難しく考える必要は……え?簡単じゃない?そんなこと……そうかぁ……うん、まぁね?でもそれはキミが優しいから……またそんなこと言う!困った子だなぁ」
繰り返し繰り返し王子は聞いて、俺を包み込むあたたかい言葉をキラキラ口元から溢れさす。
「もっと自由になってごらんよ。大丈夫、怖がらなきゃキミの望むとおりになるんだから」
「え?うん……そうだね、確かに難しいよね。そこがキミの良さでもあるし、え?厄介?全く何言ってんだか、全然そんなことは……まあ焦ることはないよ。のんびり、さ、ね?」
「だから素直が一番って……えぇ?まさか!全然ボクは面倒くさいだなんて……うん、ホントだよ?……そう、うん。嬉しいんだ、キミのいろんな話聞くのが……どんな事でも。違うよ、そんなことないってば。理解したいんだよ全部ね」
時には冗談交じりに、時には諭すように、そして時にはただただ相槌を繰り返し受け入れ受け入れ。言い回しを変え、触れ方を変え、王子は何度も何度も魔法を使って俺を癒し続ける。
「安心していい。怖いことなんてホントは何も起こってなんかないよ」
「…大丈夫だよザッキー、わかってる。理屈じゃない、うん、怖いね、我慢しなくていい……うん、そうだよそれはしょうがない、うん、そうそう。無理しなくていいんだ、うん、うん……なんにも変じゃないよ」
ありのままでいい。無理は不要。大丈夫。思いつめないで、焦らないで。簡単に、シンプルに、もっともっと自由に。王子は根気よく同じことを何度も何度も俺に繰り返す。そんな、俺の中の楽しい楽しい王子との記憶。
「イタリアでは親愛の情を示すのにこうして頬と頬を……こらザッキー!逃げるな!え?キミねぇ、それ失礼じゃない!?」
「あったかいね?こうしているとさ……気持ち良くて、なんだか眠たくなってしまう」
「今のもう一回?いいよ何度でも。なんなら朝までだってずっと……えぇ?もう、可愛くないなぁ……フフフ、嘘、可愛いよ?え?なんでそこで怒るの?」
だから、日に日に。
俺は彼からの誘いはいつかいつかと心待ちに過ごし、声を掛けられれば断る事など考えもつかず喜び勇んで何度もこの部屋を訪れる。
けれど、それでも。その大好きな時間に比例して増える奇妙な不安がどうしようもなく辛かった。今日も王子に髪を撫でてもらおう。困った時にはいつも王子が助けてくれる。そしたら俺は楽になれる。あぁでも俺はそうやって楽になる度に何故かドンドン辛くなる。いつしか俺はグルグルとそんなことばかり考えるようになっていった。王子はその度、俺の髪を優しく優しく撫でてくれた。その心地よさがあとからあとから苦痛を呼んだ。
* * *
ある日、いつものように不安定になってしまった俺はもう随分長いこと王子の腕の中にいて、その時は心地良さのあまり少しうつらうつらとしていたんだと思う。すると王子はカウチに俺を置き去りにして、ふいっとどこかへ行ってしまった。
「ザッキー」
すぐに戻ってきた王子は俺に小さく声を掛けて、頭の下にクッションを差し入れ、そして眠りを妨げないような繊細さで体にすっぽりブランケットを掛けてくれた。優しいな、と思うが半分、でも王子の肩の方が、と思うが半分。
すると、俺の寝たふりに気付かない王子がポツリと俺に呟いた。
「可哀そうに。キミはドンドン苦しくなっていく一方だね」
まるで王子らしくない話しぶりだった。苦しみを抱える俺を知っていたのかという驚きよりも、その響きがあまりにも切ないことの方が衝撃的だった。苦しいのは寧ろそんな風に胸を痛めている王子の方がじゃないか、と。
どうしよう?寝たふりなんてしなきゃよかったと思いながらも、後悔してももう遅い。見てはいけないものを見てしまえば、もっと覗きたくなるのが人間だ。
「結局キミの事はキミが自分でどうにかするしかないのに、それをわかってて……こうしてキミにいつもいつも解決にもならない誤魔化しと気休めをボクは繰り返すばかりで」
消え入るような王子の語尾。でも最後のくくりは確かにこう言っていた。ザッキー、ゴメンね?と。
その一言にドキリとして、馬鹿な俺は寝たふりをしていたことも忘れてハッと身を起こしてしまった。寝ていると思っていただけに王子はとても驚いたようだったけれど、あっという間に何事もなかったかのようないつもの優しい微笑になっていた。でも俺は驚く前のほんの一瞬の王子の表情を見逃さなかった。苦悩を表す寄せた眉、懺悔をするかのような悲しい目。思わず背筋に悪寒が走った、見たこともないその暗さ。
「起きちゃった?」
目の前にいるその人は、あまりにもいつもの王子だった。でも、さっき俺が聞いたのは明らかに異質な自責の言葉だった。別人のような姿だった。
「あの……今のゴメンって王子、どういう意味ですか?」
「フフ、何のこと?寝ぼけてるの?」
「!」
明るさ、爽やかさがいつも通りであればあるほど、強引にそれを誤魔化そうとしている王子の二面性が感じられ、隠そうとする態度が自分への裏切りとさえ思えた。
俺の思う王子の優しい言葉の数々は、全部、全部、本当は嘘で、聞きたいと言いながらも相談される毎に彼は秘密裏に悩み、そして自責の念を抱いて?そして?二人で過ごす時間を、王子は本当は?心の中でどう思っていた?
結局、俺はあの時から王子の家に誘われれば遊びには来るものの、以前のようにおいでと言われても素直に体を寄せることが出来なくなった。我慢じゃない。目が覚めただけだ。王子は無理するなと言っていたけれど、数回俺の頑なな態度を確認するとそれ以降もう何も言わなくなった。心細げに震える俺を見つけても何も言わず苦笑するだけとなり、こうして二人の戯れの時間は終わりを告げた。
* * *
パラリ、パラリ
日の光の中にいる眩い王子の、雑誌をめくる音が耳に心地良い。これもまたいつもの風景。けれど物言わぬ彼はすぐそこに座っていながらリアリティを全く感じさせることがなかった。こんな時の王子はまるでフワフワと青空に浮かぶ風船のよう。見るもの全ての者が心惹かれ見上げずにはいられない、けれど見れば見るほど根なし草、フラフラ頼りなげで不安定。そんな危ういものにとてもよく似ていた。俺が今必死な思いで握り締めている彼との繋がりは風船についている一本の糸のようなもの。デリケートで気を抜けば知らぬ間に見失うような儚いもの。
パラリ、パラリ
非日常。特別な日。遊園地に遊びに来ているかのような一過性の夢物語。俺達って何だろう?彼は俺をまるで本物のペットのようにとても可愛がってくれている。多分今も同じだろう。俺達はいつも一緒に居て、じゃれ合い、時には人間の男同士がやるには行き過ぎのことすらしながら、そんな甘い甘い悪戯な行為が終わった後は二人して楽しんだ飼い犬ごっこ遊びを馬鹿げてるなんて笑いあい。
手を伸ばせば触れ合う距離に並んで座りながら、とうに失われたあの奇妙ともいえる戯れの時間がなんだかとても恋しく思えた。
パラリ、パラリ
室内に響く紙の音。時々前のページに戻っては、同じグラビアを何度も何度も眺めている。きっとあのクリスタルが気に入ったのだろう。この家に同じシリーズのグラスがあるのも知っているし。そんなことを考えた拍子に、旅先で一目惚れをして買ってきたのに帰る途中で一個割れてしまったとションボリしていたのを思い出す。あの時の王子もとても美しかった。
何かに集中しそれを堪能している時の王子はいつにも増して本当に目が離せない。内側から光り輝くかのような王子の、その長いまつ毛とイタリア系らしい高い鼻梁が頬に深い影を落とし、そのコントラストもとても綺麗。これはまさに彼特有の魅力の一つだ。
(あぁ、本当になんて綺麗なんだろう)
もう何度そう感じたことだろうか。俺はまたその美しさの虜になりつつ、いつもとは違う奇妙な衝動が身の内に生じ始めているのを感じた。この思いは何だろう。不思議に思っているとそれは瞬く間に急激に膨れ上がり、その戸惑いのままに俺は気が付いたらほとんど無意識に彼の美しい目尻に唇を落としていた。
特に拒絶することもなくやんわりと目元のキスを受けとめた王子が雑誌を読む手を止める。驚いて身を離した俺の方に、チロリと流す視線はまるで清水のように澄んでいた。その光景に一瞬見惚れ、次に急に我に返った俺は息を飲んだ。
自分が今、何を思ったか。そして、彼に何をしたか。
それに気が付いてカッと体温が上がるのが自分でもわかった。ああ、そうだったのか!と思うと同時にカウチに転がるクッションに突っ伏したい気持ちになった。
――この人の事、俺だけのにしたい
つまりはそういうことだった。自分の中の彼への気持ちの本質を、俺はたった今自分の行為を以って理解したのだ。俺の不安の正体は、未知なるそれに根差した独占欲だった。
そんな俺の心境を知ってか知らでか、王子は俺をジッと見ながら優しく微笑んで極自然に俺にもたれかかるように身を寄せた。硬直してしまった俺がもう1mmも動けずにいると、彼の唇がフワリと俺の唇に。なんて懐かしいんだろうこの感触。それは実に1か月ぶりになる待望のごっこ遊び、当たり前の様にしょっちゅうやっていた二人秘密の甘い触れ合いだった。戯れのような、じゃれ合いのような、そんないつもの癒しの時間、王子の腕は俺の体に優しく絡みつき、彼の頬が俺の頬に触れ、彼の指先が俺の髪を梳き、彼の唇が優しく俺の唇を食む。
そんな中、王子の見慣れた甘えた仕草に、いつになく俺の体がジンと熱くなる。所謂、明らかにマズい状態だ。高鳴る動悸に王子が気づきませんように。そんなことを惨めに願いながら俺は彼との触れ合いの時を過ごしていた。
けれど。残念ながら唇を離した王子の目には全てを見透かすようなキラリとした光が宿っていて、つまり、つまり、やはり彼に隠し事など出来るわけがなくて。その彼の人を蕩かす魅惑的な表情は、抑えようと苦心していた俺の狼狽を強烈な衝動に変化させる作用を持っていた為、ああもう俺駄目だ限界、とコクリ生唾を飲み込んだ瞬間、俺は彼に押し倒されてしまっていた。
「……ッ」
いきなりバランスを崩されて俺は更に小さく戸惑いの声をあげる。混乱するばかりの俺を見て、王子は呆気にとられた顔をした。
「なんでそんなに驚くの?」
「だ、だって」
「別にボク達いつもこういう事してるじゃない」
「い、いや、そんな事」
「ん?」
「して、してるけど!なんか、ちょっと待っ」
「ハハハ!ホント面白いよザッキーは。久しぶりで緊張しちゃってるのかな?可愛いね」
そう言って王子は極当たり前の様に俺の唇に、頬に、耳に、首筋に、露出する肌の至る所に沢山沢山キスをした。
「あッ」
どうしようどうしよう、王子に変に思われる。ドキドキドキドキ。王子はいつも通りの事をしているだけなのに、俺は一度彼への気持ちを自覚してしまったが為に、遊びだった二人の行為の意味が一瞬にして根底から変わってしまって、戸惑いながら、それでも王子が触れてくれる感触がいつにも増してあまりにも心地よくて。
「……んッ、はぁッ」
「感じちゃった?ここが好きなの?」
堪え切れない声を煽る様にからかわれ、俺がムッと来て身を起こした王子を睨むと、そこにはやっぱりあの笑顔。クラクラして、益々呼吸が乱れてしまう。なんだかとても恥ずかしい。
「な、何言って」
「アタリ?」
「んなわけ、な……なんスかその顔!やめてくださいよ」
「ゴメンゴメン、フフフ、ちょっと意地悪だったね?こんな言い方」
自分の思っていることは全部王子に筒抜け。そんなことに気づくなよ馬鹿王子、気付いたとしてもわざわざ指摘すんな根性悪、と俺は心の中で文句を言っていた。だが眉をしかめる俺を見つめる王子はさも楽しそうに笑っていた。柔らかく穏やかで、そして、なんとも甘い表情で。
「キミがそんな反応するの初めて見たからさ?」
「違う、優しい顔して誤魔化そうったって無駄ですよ?もう俺本当はあんたが何考えてんのかわかってんだし」
「わかってるって、何を?」
「……どうかしてる、でしょう?平気な顔して見せたってそんなフリ簡単に見破れ」
「?」
「いや、だからあんたがしてる事で俺が……」
「キミが?」
「お、俺の今の反応、本当は気持ち悪いとか、お、思ってんでしょ?普通に」
「まさか」
「無理して」
「え?何のために?」
「俺が傷付いちゃうと思ってかばってくれてるんでしょう?だってこれって別にそういうんじゃないのに。俺の事、どうかしてるって、その……変だって思うのが当たり前だし、本当はドン引きしてんのに王子は優しいからきっと我慢を」
クスクス笑って王子は答えた。
「今更何言い出すんだい?ザッキーったら」
「だってそうでしょう!?」
「あのさぁ?だってそんな事言い出したら、どうかしてるのはボクの方じゃない」
「え?なんで?」
「なんでって……要するにこっちが気持ち悪くて変な事をキミにしてるわけで、キミがそんな風に恥ずかしい気持ちになっちゃったのは全部ボクのせいでしょう?」
「いや、王子がしてるのは別に普通の事じゃないですか。王子はなんも……俺が……おかしいんですよ」
「は?」
「……スイマセン」
「本気で言ってんの?」
「だって……」
「ボクが普通でキミが変だなんてそんな……それ、どういう意味?」
「いや、王子にとってはこういう、い、犬を可愛がるのとか、凄く日常的っていうか……極普通の事でしょ?他意がないっていうか」
「普通なわけないだろ?」
「え?」
「キミ、今までボクの事をどういう風に……ねぇ、やめてよ。本当に本気で言ってるのかい?まさか一度も?こんなのいくらなんでもおかしいなって、全然?」
「え……」
「嘘でしょ?大体キミ、犬じゃなくて人間じゃないか」
「そりゃあ、でも、王子にとっては」
「ボクはそんな馬鹿じゃないよ」
「いや、違います別に馬鹿にしてるわけじゃ!人間なのにそんな風に思ってくれるくらい俺の事可愛がってくれてるんだなって」
「犬みたいに思ってくれてる?」
「そうです、そういう意味で言ったんで決して馬鹿にはしてな」
「ねぇ、聞くけどさ、本当に意味わかってなかったの?」
「?」
「ボク達の現実を受け入れられず目を逸らしてたじゃなく、キミはそんなそもそものところから何一つわかってなくて?」
「俺らの現実?」
「ボクがどんな気持ちで今までキミに……全然?それなのに犬だしそんなもんなんだってだけで、違うか、寧ろそんな事さえ嬉しいと思いながらこんなにボクに好き勝手させ……」
「王子の気持ち?なンスか?それ」
「ハハハハ!何それ、呑気過ぎてわけわかんないよ!」
馬乗りになったまま王子が俺の腹の上で大笑いし始めたので、
「失礼な!わけがわからないのはこっちの方だ!」
と怒った俺は、そのまま王子を突き飛ばして非難がましい目で睨み付けた。
「笑い過ぎでしょ!自分ばっかりわかった顔して!一体なんなんだ!そんなに俺の言った事面白いんですか!?馬鹿にして!」
鼻息荒く起き上がった俺が、そんな風に王子に噛み付いてみれば、王子はクククと笑いをかみ殺しながら、
「わかった、ゴメンゴメン、わかったから、そっか、そんな……」
と言った。そして、
「あのね?つまりね?要するに……」
と続け、俺が、はい何でしょう、と憮然とした態度でのぞめば、
「キミがボクを気持ち悪いだとか変だとか思わないなら、キミも当たり前の様にボクにいくらでもキスをすればいいんだってことだよ」
と口にして、最後に今までで一番最高に優しい笑顔で、
「あー!もうそんなのどうだっていいから、早くおいでよ!ボクのところに」
と王子はいつもの通り、俺に両手を広げたのだった。
