お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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あまりにもそれに似ているので

【4895文字】
出来てないデス。
ジーノの気配を読めない赤崎は、いつもビックリさせられます。突然触ってくるなと文句を言うと、反対にある事を提案されて?全くのチームメイトのお二人からふんわり恋未満の関係へ、そして?
もう少しラストの締めを盛ろうと思って片付けてあったヤツだと思います。

        ジノザキ

 試合が終わり、汗を流し、着替えが終わって、そんな一時。流し見る薄めたその目が、今日も何やら言いたげに俺を誘う。
「……」
 返事もせずにその場を立ち去る。彼はそれに気付いて満足げな笑みを浮かべる。

 こうしてこっそりと人気のないトレーニングルームに向かう時にはいつも、心臓が踊り、足取りがそわつく。こんな事になってしまったのが全てが俺のせいだとは故、奇妙な罪悪を感じてしまうのは、決して不自然な話ではない。

*

 王子はとにかく、誰彼かまわず触れて回る。別にそれは他の選手も、そして俺だって同じ事で、ストレッチ、円陣、ゴール後の歓喜と、別に大した話ではない。けれどあの人のスキンシップに苦手意識を持っている俺だったので、常に躱すよう心掛けていた。
「ぅわ!」
「な、なに!?どうしたの?」
 心掛けたとて、無駄な事だ。そもそも、苦手な理由がそこにあったからだ。王子は本当に気配がなくて、いつでも簡単に俺に触れる。
「だから、いきなりで驚くンスよ!」
 触れられて初めて、居た事に気付く。全身が総毛立ち、飛びあがるほど驚く。見れば必ずそんな時、王子の方が驚いている。本人は全く気配がないという意識がないのだ。
「ねぇ、って声掛けてから肩に手を置いたつもりだったんだけど」
 悪気がないのはわかっている。それでも、いつも驚かされた。彼の気配は特別製で、痛烈な存在感があるにもかかわらず、時々俺はそれを見失っては、飽きることなく吃驚する。これは互いに不便な事象で、俺達は二人で取り決めをした。
「ともかくいきなり触られんの嫌なんで」
「そんなの理不尽だよ。キミだけ配慮が必要とか、そんなのイチイチ気に掛けていられない」
 王子の言い分は当然であった。何故なら彼は王子だからだ。でも、試合前などの繊細なメンタルに十分な悪影響がある事、強いては王子にもデメリットが生じる事を、俺は言葉を重ねに重ね、彼の説得を続けていった。
「……仕方ない、か」
 渋々ながらに納得した彼は、
「なら取引」
と俺に提案をする。俺の為に配慮をすれば、自分のコンディションにも影響が出て不公平だと。
「試合後ならいいんだよね?我慢した分だけ触らせて」
 俺がその条件に頷いてみせたのは、勝ち負けが全てである者同士として、絆されるような親心からだった。それに高を括っていたのもあった。
(後から、だなんて。王子の事だ。どうせ忘れるに決まっている)
 そのまま引き下がるのが癪なだけで、ただの戯言に過ぎないと思った。実際その通りだったのだ。以後も王子は間違えて触れて、その度俺は彼を責め、ゴメン、ゴメンと謝る王子は、次第に気を付けてくれるようになった。呼び出される事も特になかった。俺がアシストするあの日までは。

*

 暫くして王子が部屋に入ってきて俺に言った。
「今日、キミすっごく冴えてた」
「どうも」
 壁に背もたれてぼんやりしていた俺は、目を泳がせながら返事をした。
「じゃ、いい?」
 壁にしなだれかかるように俺に寄り添い、にこやかに微笑んで王子が言う。いつもとても奇妙に思う。プレイを褒められて抱き合う行為も、ピッチの上なら別に普通だ。けれど俺はそれを拒否し、こんな奇妙な許可制にした。そもそも俺の提案だ。だから、仕方がないのだけれど。
「い、いいッスよ」
「じゃあ、いくよ?」
 俺を吃驚させない為に必要な王子が言うこの一言は、やはりとてつもなく不自然に思う。でも戸惑いながらも頷いてみせれば、王子が笑って、俺に近づく。
(……ぅわ……来た)
 この時の王子のこの表情が、なんだか駄目なような気がする。
「偉いね、ザッキー。よくあのボールに合わせられた。結構難しかったかな……って出した時ちょっと思ったんだけど」
 人を見ないでパスを通す男とのワンツーに関して、確かに自分でもよくやったと感じていた。今日はそういうものが何本かあって、でも彼が言うのはきっと後半頭のあのワンプレイだ。
「それにその後も。よくブロックしててくれたね。キミのおかげだよ?」
 その後の派手な王子のプレイが話題の全てをさらうとしても、彼は俺の献身をつぶさに見守る。ゴールでもない。アシストでもない。輝ける王子の生み出した起点の前の、その前の、そんな部分を拾い上げては、
「さすがザッキー」
と目を細める。そして、こんな風に人を抱き締める時の王子の顔は、いつも「何か」を感じさせてしまう。俺に「何か」を、間に「何か」を、気配に過ぎないそんなものが心をそぞろにさせてしまう。
 腕の優しさは感謝に溢れ、饒舌さはいっそ純粋過ぎる程澄んだ喜びを俺の隅々に伝えてくる。俺の頼みを受け入れて、王子はちゃんと手順を踏んで、こうしてまるで人目を忍んで、ふんわりと穏やかに体を包む。でも、そんな彼の渾身の労りの所作の影で、それでも俺の体には鳥肌が立った。熱いのか、冷たいのか。なんだかわからない変なものが、必ず全身を駆け巡る。
 気付かぬ王子でもないだろうに、俺の不快を彼は無視する。
(ゾワゾワする……やっぱり、なんだか気持ち悪ぃ……)
 ピッチ上でそれをするのと根本的に違うのは、この行為に特段時間制限がないという部分で、王子は、満足するまでそれをやめない。強いられた我慢のツケみたいなもの、と、それを言われると何も言えない。彼には到底無理であろう譲歩を、させているのはこちらだからだ。
 そうしている間にも彼の髪が頬に触れる。痛い程毛羽立つ俺の首筋の産毛もまた彼の頬に触れているだろう。恐らくはほんの数十秒の、でも恐ろしく長く感じる時を、もうこうして何度も俺達二人は過ごして、また何もなかったかのように体を離して、日常の世界に戻っていく。
 満足げな息を漏らして今日も王子は、ポンポン、と軽く背を叩いてから去っていく。総毛立つ肌そのままの俺を、置き去りにしたまま姿を消す。

      ジノザキ