お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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二人の日常、二人の秘密1

【6171文字】
文体は飼い犬が「将来俺が(人気出過ぎちゃって)コラムとかラジオとか動画とか始めることになっちゃったら」と鼻の穴膨らませて日常で練習してみたっていうシチュを想定しています。
流されやすいのすっごくかわいい。意味も分からず抱かれて欲しい。あと飼い主もべろべろになって欲しい。没箱行きだったいろんな部品的ネタを勝手気ままに継ぎ接ぎした連作です。

        ジノザキ ,

 俺は、俺は、誰だったのか。誰か教えて欲しいです。最近いつもこうなんです。なんだか時々恐ろしく、どうしていいのかわかりません。王子の掛ける暗示は緩く、とても解けやすく出来ていて、俺にも見えぬ俺の本意を、見透かされている気もします。
(違う、別にそんなんじゃ……)

ふわふわタオルにベッドの軋み。零れる吐息、噴き出す汗。体や視界、そして意識が、抱き合い、触れ合い、擦りつけ合い、やがて足が自然に開いてその膝裏に王子の腕が。
(あ、来る……)
ないまぜになる不安と高揚、待っているのに体は竦み、王子は俺をよく知っていて、甘いキスで体を緩ませ、焦らすみたいに時間を掛けて。
「やっ……あ、ぁ……」
「まだ痛い?」
王子が離れて行こうとするので、嫌だ嫌だとただ繰り返し、子供みたいに抱きつきながら、首を小さく横に振り。
「焦らなくていいんだザッキー、ただもう少し苦しくないよう、ん……こらこら、言うこときいて?」
呂律は回らず、言葉にならず、それでも王子は耳をそばだてていて、話を全然聞かない人が、何故かこういう時にだけ。
「わかった。じゃあ、ちょっとこのまましばらく……」
「あ、ああっ、嫌っ……んっ、やぁっ」
「ほら、駄目だよザッキー動かない、ねぇ、聞いて?入れたくなっちゃう、奥まで全部」
包まれながら溺れるみたいな、怖くて、優しく、まるで、まるで。
「駄目だよ、ねぇ、痛いんでしょう?ああ、それ無理、気持ちいい」
肌と熱い息を互いに絡ませ、何が何だかわからなくなり、幸せという名の不幸の杭を、深く深く打ち込まれます。
「お願い、二人でよくなりたい。痛い?まだ嫌?返事して?」
俺の中身はとても空虚で、そこは王子の形をしていて、器用に今日も隙間もないほど、俺は王子と、王子も俺と。
「きつい?ザッキー、僕を見て?いいって言える?気持ちいい?」
耐えて、解けて、嗚咽みたいに、声も涙も溢れてしまう。
「イけそう?ザッキー、イくって言って?それとも、ここが善過ぎて無理なのかい?」
呼吸が止まり、軽い痙攣、愚かな体が恥ずかしく、そんな俺をも全てを見られて、再び我慢しきれずに。
(あ、ヤバ……連続で……っ)
浮かんだ汗も、緩んだ口から落ちる唾液も、ついには下肢からたらたら零れるそれをも指で淫らに弄ばれて、絶頂しながら意識も理性も、自分も、もう何もかも。
「そろそろ僕もイっていい?」
何も考えられなくなって、引き攣る体を突き上げられて。
「ああ、いい……っ、このまま、いい?」
荒い息と、言葉にならない漏れ出る声と、純度の高い本能・欲望、痛みと快楽、光の洪水、熱と匂いとただひたすらに王子が俺と、俺と王子で。

 ぼんやり俺が自分を取り戻す頃、身体は綺麗になっていて、そんな俺に背を向け座り、王子は外を見ています。
(あぁ……俺、またあんなに……)
美しく締まった背中には、赤い爪痕がありました。爪は短く切るたちなので、挫く力が強いのでしょう。気付かぬはずもない傷なのに、文句を言われることもなく、だから謝る機会もなくて、いつも眺めるだけでした。俺は傷つきながら傷つけて、意味を何度も考えて、結局わかることなど皆無で、やっぱりぼんやり見るだけでした。
(王子……)
 つ、と腕を静かに伸ばすと気配で王子が振り向きます。月光で浮かぶ肢体の輪郭は、まるで絵画のようでした。物憂い表情、思索の影、息をも忘れる姿です。とてもよく知る人なのに、知らない人に思えます。一番不思議を感じる時です。全てが全部夢か幻。
「おや、ザッキー。起きちゃったのかい?」
「……」
「眠ろう、すっかり夜中だし」
どれだけそっと抱き寄せられても、痛みが俺を苛んで、それでも耐えて抱きつきます。王子もそれをわかっているので、やや強引に引き寄せられます。だから痛みは一瞬のこと。元の鈍痛に戻ります。
「大丈夫?」
「……全然、平気ッス」
「おや、声がかさかさだ」
俺達一体何なのでしょう。答えもわからず、問えもせず、わからないままに過ごしています。王子にとって俺は飼い犬、でも何故、なら何故、次々と、疑問だけが浮かぶのです。
「ん?なんだい?ザッキー」
伝えたいこと、問いたい思い。愛に見紛う、暴力的な。

 俺はいつでもグチャグチャで、ゆったり王子は微笑んでいて、だから、ついつい口から出るのは。
「……つか、王子、いっつも乱暴過ぎ」
「えー?何それ。本気かい?」
「当たり前でしょ」
「はいはい、全部僕のせい」
文句しか言わない唇に、クスッと、おやすみのキスが降ってきます。俺はひねくれてばかりいて、それごと抱き締められるんです。
(あぁ……それにしても……)
王子が中にいないというのは、物理的にというよりも、もっと気持ち的な感覚です。どこか心細くて不安で、そう、言うなれば寂しくて。
(王子、ぎゅって……さっきみたいに……)
その最中は、いつでも夢中。離れた後は駄目でした。残る痛みは王子の痕跡、薄れるとともに濃くなる寂寞、沈みながらも意地を張る、俺をこそ抱き締めて欲しいんです。
「もう少しこっちに」
二人の身体は一つになって、終わって再び二人になって、それでも痛みと共に余韻は残って、俺らは何度もキスをします。その身を削って相手に与える、拙い延命、儚く虚しい、悪あがきに似た慈愛のキスを。

「え、何……?待っ……」
「だって物足りなそうだから」
「違っ……も、無理ッス。あんたも、さっきもう夜中っつって、ちょっ」
「触るだけだよ。なでなでされるの、好きでしょう?」
王子は変な人というより、変な生き物と言えましょう。俺もきっと変でしょう。形だけの抵抗をして、寂しさは消えていきたがり、今は弱さが二人の本性、寄り添い、そのまま一つになりたい。
「ねぇ、もう無理じゃなかったの?」
それは、意地悪なのか、労わりなのか。やっぱり頭が真っ白になり、わけがわからなくなるのです。
「見せて、顔」
恋人同士でもないくせに。
「隠さないで、僕を誘って」
恋人のすることをする二人。一緒に居ると俺達は不埒をせずにはいられません。だって王子が抱き締めるんです。愛だと思ってしまうんです。
(気持ち良過ぎて、いかれちまう……)
王子が、二人の欲望が、混ざって昇華していきます。同時に思い知るのです。俺はすっかり王子のものだと。溺れて、その都度酔いしれて、とても怖くなるのです。天にも昇る幸せと、我が身独りの悲しみと、王子の笑顔がみんなのものでどうすることも出来ないことと。
(助けて……怖い……抱き締めて……でも抱き締めないで、これ以上……俺が壊れてしまうから)
王子の心は誰のもの?俺のものではありません。もう一人では生きられない。なのに今の終わりは来ます。王子と二人のごっこ遊びは、どういう形で終わるのでしょう?その時俺はどうなるのでしょう?

 動けなくなるほど深く犯され、拷問のような絶頂の波。やめなきゃいけないことなのに、求めて、満たされ、泣くほど幸福、抱える絶望、窒息しながら、さらに飢えが強まります。
(ああ、欲しい……もっと欲しい、俺の、俺のためだけのっ)
俺の小さき呟きを聞き、気怠い目をした優しい人は頬にキスして言いました。
「うん、『また』買って来てあげるよプリン」
『俺の』と震えて示唆した先を、プリンと上手にすり替えて、狡い王子は笑うのです。残酷なほど鋭いながらも、心得ている人でした。
「『また』一緒に食べようね」
王子は天然、忘れっぽくて、次などいつかはわかりません。けれども『また』は未来を示唆する俺への呪文で、今日も重ねて呪われるのです。一緒の未来、俺の希望を、気軽に生み出し微笑まれ、俺の飢え(孤独)を知ってるみたいに、まるで俺より知るかのように、今を未来に繋がる道を、ほんのり伸ばして笑うのです。

 月光差す部屋。静かな寝室。眠る前の小さな約束。俺達二人がこうである、痛み由来のこの安らぎを、どうかどうか末永く。痛みは二人の結び目で、許容するには苦痛が強く、それでも大事なものでした。王子がそうかはわかりませんが、俺には多分そうでした。王子は本当に不思議です。こういう時間を生み出す魔法を、呼吸のようにさらさらと。
「おやすみ、ザッキー」
俺の弱さは途方もなくて、強くなりたいと願います。弱さ故に疲弊の深まるそんな俺を捕まえて、王子は抱き締め眠ります。誤魔化しと背伸びは別物なのだと、言葉にもせずに滴るように、強さの形と意味と力を、こうして滾々仕込むんです。
(ああ、王子……大好きだ)

 恋人のようなことをしますが、俺らは恋人同士ではなく、友と問われればそうでもなくて、先輩後輩とも違います。犬と飼い主、躾を受けて、優しさ、苛酷、飼われたご縁、そんな風にも思います。蟻には砂糖は糧ですが、多大になると死ぬ毒で、俺は全身毒に塗れて、それでも砂糖、王子なしには。
「……ザッキー、寝てるの?泣いてるの?」
終わってひっそり抱き合って、今の全てが睡魔に閉じて、王子の腕の中の世界で、記憶も残らぬ夢の闇。
(おやすみなさい、俺だけの……)
そんなことを思わせる、思わせてくれる腕の優しさ。愛でなくても、恋でもなくても、嘘でも、詐欺でも、気まぐれでも、それでも時々二人でこうして、唯一無二の不思議な世界を噛みしめながら泣きたいのです。

      ジノザキ ,