そよ風ロマンス第2章(水際クライシス2)
【21781文字】
そよ風ロマンスシリーズの第2章。
前半は変態遊び。番犬病みに病んじゃいまして、壊れます。話の内容もぐちゃぐちゃですが、書く文章もズタズタ汚い。しんどいけれど虐めたい……。
後半は病気療養です。こういう病気(変態性癖)に完治はないので、寛解と憎悪(ぞうあく)を繰り返させます。こんなだけど飼い主は至って正常(?)です。まだまだつられている程度。ドはまりさせるのはもっと後。の、予定……そこまで無事にたどり着けるか?
重症
綺麗な王子が覚えた欲は、とても奇妙でへんてこだった。こんなの誰にも付き合いきれない。こんなのこの世で俺以外。
*
今日の王子はご機嫌なので、きっとギフトの降る日と思う。
「これね、友達が」
(友達……)
それは都合のいい時、現れる。彼らに会ったことはない。交友関係が全く謎、王子の世界は不可思議だった。
風呂場で裸に。王子が言うので。
「待ってて、ザッキー。寒くない?」
「はい、平気です」
自分にはあんまり自覚がないが、最近表情がないらしい。だから前より会話が増えた。意思の疎通に大切なので。
「ジャーン。これはなんでしょう?」
「……?絵具?」
「正解。ザッキーは頭がいいね」
パレット、絵筆。馬鹿にしている。王子に悪気は一切ない。
「ボディ用なんだって。キャンバスはもちろんザッキーだ」
体がヒクリと疼いてしまった。
「良かった。こういう感じ、きっと好きだと思っていたから」
*
王子が色々喋っていたが、ずっと絵筆の先を見ていた。
(……なるほど)
最近、痛い行為に嵌り過ぎて、調整を試みるつもりなのだろう。
(不安だ。うまくやれるだろうか)
王子に俺の全てを見せる。きっと演技は通じない。絵筆の感触を想像しながら、自分でも準備の調律をする。
(大丈夫……冷たく、ソフトで、繊細で……そして王子は天才的だ。多分、ちゃんと感じられる)
どんな絵を描こうというのだろう。俺に何を見るのだろう。始まるトランス、夢うつつ。俺は今から王子の絵になる。
「さあ、どこから始めよう?」
王子の声が体に沁みる。すでに俺はキャンバスだった。湯船の枠だと危ないからと、床に座れと指示された。足は伸ばして、少し開いて。上体は少し後ろに倒し、両腕でそれを支えて座る。開いた膝と膝の間に、服を着た王子がしゃがんで言った。
「ん……迷うねぇ」
王子の体にタトゥーはない。あまりに体を隠したがるので、女の名でも刻んであるかと疑う過去もあったりもした。俺の体もまっさらだったが、王子がそれを望むなら、入れてもいいと考えていた。
「……っ」
絵筆が肩から胸へと袈裟懸けに。肌に黒いラインがきっかり、いきなりこうとは思わなかった。
(まあ、らしいっちゃらしいな……大胆なこの感じ……)
まだほんの数分なのに、熱が集まり目覚め始める。感覚の全てを絵筆に向けて、王子の呼吸に耳をすませて。届くようで届かない、なのにすでに、もうすぐそこだ。王子は焦らすのも大好きなので、その期待だけで鳥肌が立つ。
「気持ちいい?」
「……くすぐったくて、ゾクゾクします」
軽い酒に浮足立って、夜道を歩く日のように。絡むツタのように自由自在で、なのにすべてに意図を感じる。王子の絵筆もプレイのように、精密緻密、豪胆奇想。
「あっ、」
自然に声が漏れ、肌の白が朱に染まる。
「あっ、ああ」
王子の邪魔をしてはいけない。呼吸は深く、そして静かに。
「かわいい。伸びあがってぐしゅぐしゅだ」
気まぐれな絵筆が先端に。そんな刺激であっという間に。王子はそれと絵具を混ぜて、俺の体に塗っていく。
「お花が咲くよ?見ていて、ザッキー」
「あっ、やっ」
黒いラインに色味を飛ばす。赤、青、黄色、グラデーション。水気が欲しいと言われて刺激を受けて、ぴしゃりとそこから湧き出る惨め。上半身に描かれるのは神経質な精密画、下半身は色味の交じった印象画。王子の画才はまるで狂気で、支離滅裂で調和的。
「そろそろかなぁ?今何時?」
背中一面にも描きつつ、澄ました声で耳を噛まれた。いたずら好きの王子の合図。きっと何かが始まるのだろう。
(……え?……なん……??)
「し、駄目だよ動かない」
「あ、あ……?」
「写真をちゃんと撮ってから」
「や、あっ、おう、……あっ」
「まだだ。ザッキー、大人しく」
「あああっ、や、あああっ」
身悶えながら堪える俺を、制するふりして笑ってみていた。
「おうじっ、あっ、いやっ」
「いい反応だ。気持ちいい?」
最近、俺は表情がないらしいので、だからそれも理由と思う。いつもそう言われては泣かされる。
「今日は痛くはないでしょう?」
どけと腕で王子を払い、シャワーの取っ手にしがみつく。背中も、耳も、首も、胸も、腹も、足も、それこそ体全てへの。
「待てだよ、ザッキー?出来るよね?」
絵具のついた肌が熱い。焼け付くような熱さじゃない。ぴりぴり針を刺すような、微細で色濃い愛撫のような。
「全部撮り終わったら流していい」
「あ……ああ……」
「いい子だ。そのまま大人しくするんだよ」
*
「終わったよ、じゃあ、遊ぼうか」
「やああっ!!」
背後から抱きつき愛撫を受けた。あまりの刺激に乱れに乱れた。叫ぶ口に指を入れられ、中にも全部絵具を塗られた。
「こ、いうの……好き、でしょ?」
(や……絵具、のど……奥……)
「舐めても害がないそうだ。ね、すっごく君用だ」
目の前がチカチカし始めて、耳を舐められ引き攣って、王子の服がはりついて、その感触にも身悶えた。
「水に溶けるけど、乾くとパックみたいに剥がれるらしい。ほら。シャワーなんかで流すより」
「いやあっ~~~っ!」
「こら、騒ぎすぎ」
セロテープのように一気に剥がされ、赤い患部に空気があたる。そんなことすらもう駄目だった。泣きながら何度も悲鳴を上げた。
「や、王子っ、やああ」
「そうだよザッキー。小さく呼んで、それくらい」
「ひっ!」
甘噛みはもはや暴力だった。逃げ出したくても逃げ出せない。ぐっと強く抱き締められて、ただそれだけで気が狂う。どこかで冷たい自分が見ている。お前はこんなに大馬鹿者だと。王子はとことん俺を虐める。お前をめちゃくちゃにする奴だと。
「助けてっ、いや、ゆるし、ああっ」
イッて、イッて、搾り取られて、それでも激しく擦られ続けた。かぶれたみたいにひりついて、触って欲しくて身を捩る。限界を超え、逃げ出したくて、抑えつけられ愛撫を受けた。信頼なんて幻だ。時折過激な拷問を受け、乗り越えられなきゃ捨てられる。気力が持たねば崖から落ちる。叫びたいのに声が枯れてる。嫌だ、王子、と溢れる心は、もはやただの吐く息だった。
(や……あ……駄目……それだけは……)
尊厳。大人の、男の、人としての。腑抜けた体はままならず、弛緩した下肢から始まる決壊。王子もすぐにそれに気付いた。それでもそのまま抱き締めていた。
「や……、とま……、いや、見な……」
「またお漏らししちゃったね」
恥ずかしいのにとまらなかった。王子が全部それを見ている。
「あ……おう、じ……かかっ……」
べそべそ小さい子どものように、泣き出す俺に王子が諭す。
「そうだね。ザッキーは酷い子だ。僕の大事な左の足に」
王子は俺を崖から落とし、わざわざ壊して観察をする。そのことに俺は安堵する。
(大丈夫……まだ見てる。見ているうちは大丈夫)
心底王子が怖くなり、でも、王子が恐怖を与えるならば、まだ終わりでないと思う。見られたくない。見続けて欲しい。とことん、裂かれる心と体。
「二度としないって約束したね?」
シャワーのお湯に刺激を受けて、再び引き攣る体にキスが降る。
(大丈夫……罰が来る。罰が来るなら大丈夫)
罰もいじめで拷問で、とても怖くて不快なことだ。それでも俺はそれを求めた。受け入れなければ捨てられる。未知なる恐怖も強烈ならば、既知なる恐怖も絶望で、俺はぼんやり考える。
(捨てられるのが一番の罰、嫌だ……きっとそれには耐えきれない……)
逃げ出したいと考えていた。もう逃げられない気持ちになった。でも本当はずっとこうして、王子の玩具になっていたい。
王子は服が濡れるのも厭わずに、火照りの残る俺の体を全身綺麗に流し続けた。腕の中、俺はもう動けずに、うなだれたまま身を任す。
「『大丈夫』だよ。怒ってない」
当たり前だ。あんたがわざわざ俺にやらせた。
「でも約束を破っちゃったし、仕方がないし」
破らせたんだ。あんたが。お前が。浮かんでは消える恨み言。王子は俺を虐めるための理由を作って微笑みかける。それがいいなら、それでいいと、褪めた自分が遠くで見ていた。
*
「あっ……」
王子の罰は時折甘い。勝手に沢山涙が落ちる。とても愛によく似ているので、嬉しく、辛い罰だった。
「好き……王子、ファックして……」
心の底から湧く切望を、今日も王子に踏み潰される。
「好き、あっ……んっ!ああ」
王子を貰う魔法の呪文は、もう効力を失っていた。俺は最初の一夜にそれを言えずに、みすみすチャンスを逃していたのだ。もう俺に王子は王子をくれない。ちゃんとそれを知っていた。
「入れてっ、王子、俺のこともっとぐちゃぐちゃにしてっ」
王子は俺を抱き締めて、かわいそうにと囁いた。ここが俺の地獄の底で、王子は心の欠片も持たない、綺麗なだけの天使に見えた。穴の周りに塗られた絵具の痒みと、疼く快楽に体が狂う。
王子、オ願イダカラ堕チテキテ
飢餓感に伸ばす俺の手を、王子が掴むことはない。観察しながら理由を分析、結果がわかればいいだけだ。風呂場で遊ばれた俺の体は、ベッドではドロドロに甘やかされて、疲れ果てた動けぬ俺の頭を王子が撫でていた。
アア、本当ニ愛ニ似テイル
王子はとても親切で、多分俺を気に入っている。たったそれだけのことでも嬉しく、だからこそ張り裂けんばかりにこの胸が痛む。
モウ、何モ考エタクナイ……
体にきっと理屈はなくて、もしそれだけになってしまえれば、きっと随分と楽だろう。その願いが届いているのか、最近思考が散漫だ。表情がない。そうかもしれない。
ソウシタラ、王子ジャナクテモ、誰デモ、物デモ、何デモイイヨウニナレルノニ……
心なんてもういらない。その考えが脳裏に浮かんで、王子が時々邪魔に思えた。いらないと思うと逆説的に『心』が見える。存在を認識してしまう。求めることに疲労して、逃げ出したいと考えて、でも全部一緒に居たいがためで、思考は堂々巡りを続ける。
(何だろう、俺、支離滅裂だ。こういう時は)
過負荷と思える筋トレをほぼ毎日自分に課した。王子に虐めてもらうかわりに、自分で自分を攻撃したのだ。放置される時間が増えていくので、それにどうにも耐えきれないから。汗をかいて水分を取り、筋細胞を傷つけて、長めの風呂で血行を促進、バランス重視の栄養を補給、必死になって睡眠をとる。そうしていないと呼吸を忘れる。王子の飢えで気が狂う。
