そよ風ロマンス第2章(水際クライシス2)
【21781文字】
そよ風ロマンスシリーズの第2章。
前半は変態遊び。番犬病みに病んじゃいまして、壊れます。話の内容もぐちゃぐちゃですが、書く文章もズタズタ汚い。しんどいけれど虐めたい……。
後半は病気療養です。こういう病気(変態性癖)に完治はないので、寛解と憎悪(ぞうあく)を繰り返させます。こんなだけど飼い主は至って正常(?)です。まだまだつられている程度。ドはまりさせるのはもっと後。の、予定……そこまで無事にたどり着けるか?
療養2
生まれ故郷を去ってしばし。練習をして食べて寝て、試合をしたら少し休息。人生は全て地続きで、でもあの頃の記憶はやはりなかった。それが過去形であるという意味は、なかったものが見えてきたから。まるで夜霧が消えてくみたいに、最近思考の調子がいい。色んなものが見えてきて、失っていた過去に気付いた。
あの頃、俺は過重な負荷に喘ぎながら生きていた。思考能力が死に絶えて、生きるためだけに生きていた。自虐のようなオーバーワーク、痛みと苦痛を自分に課して、考える力を壊していった。今も自主トレに明け暮れていて、けれどコントロールは出来ている。あの頃無茶苦茶をした中で、加減を理解したからだ。それでも周りには呆れられる。
(よくやるな?それって絶対褒めてねぇだろ)
ある意味嘲笑に近くもあった。そんなものには興味がないので、無視して淡々と毎日暮らした。
俺を見る目は一つじゃないので、近づいてくる輩もあった。笑って色々質問される。秘訣、考え、座右の銘?この地区はアジア人は沢山いても日本人は珍しいらしい。
(東洋の神秘?禅の概念?なんだそれ。意味不明だし)
文化的なイメージ?何かの投影?そんなものを重ねられても、俺には全然わからなかった。
(やりたいことをしているだけだ。ストイックとかそういうのじゃない)
俺は勝手にやっていた。ただそれだけの話でも、次第に周りに味方が増えた。
(正直、ほっといて欲しいんだけど)
何度か数回断って、それでもしつこく誘われた。ふとした拍子に気分が向いて、考えなしに流れに乗った。
(そう、これだ。この感じ……)
楽し気な周りの雰囲気。俺はこれを知っていた。あの日、つまらないと何度も考え、あの人のところに帰りたかった。今は帰りたいという気持ちはなくて、でも周りと自分は隔たっていて、みんなと一緒に居るというのに、一人遠くに居る気がしていた。これを感じにやってきたのだ。忘れた自分を思い出すため。
「お?なんだそのスケベ顔」
「彼女のことでも思い出したか?」
「おいおい、こいつにいるのかよ」
「なあ、リョウ教えてくれよ」
酔っ払いの話の流れは、どの国に居てもおんなじだ。
「飲んでないな」
「リョウは体質的に駄目なんだって」
「ああ、そうなのか。気の毒に」
感情的で、荒々しくて、喧嘩っ早くて、気がよくて、みんなとてもいい奴だった。俺はこいつらとは全然違うが、好印象を持っている。
(不思議だ。思うことが全然違う)
大事なことだと王子は言った。それが少しわかった気がした。相手に対するサービスじゃない。自分にとって有益なこと。あの日も薄っすら感じたことを、ようやく今頃理解する。
(そう、こういうことは大切だ。種類が全然違うとしても、一緒に居ると力を貰える)
少しずつあの頃の王子の年齢に近づきつつある時期だった。人の中にこの身を置く。とても自分に大切なこと。
*
ある程度の生活リズムは守っていたが、出歩く機会が前より増えた。サインを求められる度に思わず笑う。
(確かにこれはきりがない)
王子はサインを滅多にやらず、手を振り、微笑み、感謝を返した。王子と実際に関わるまでは、不精だなんて考えていた。でも最適化された選択とわかる。最小限の労力と最大限の範囲と効力。世に言う王子、ルイジ吉田。奇妙な人間と感じたものの、形成の理屈を理解していく。そういう感じの日々だった。王子は人が好きなのだ。分け隔てなく、広くあまねく。
*
全然理解不能の言葉の意味が、急に今更わかってみたり。
(そうだよな。王子は人が好きだった。じゃなきゃ……)
俺はここでは異邦人で、俺の普通は異質であった。一人一人も全部違うが、カテゴリそのものがあまりに違う。王子は俺と椿を見つけた。それは今の俺のように、少しでも近しいものを感じ取る、本能的なものかもしれない。そう、あの独特なあの視線。あるようでいて、ないような、王子の放つ微弱なサイン。
俺が体感を理屈として理解したのは、とある人からの求愛だった。
(幻聴じゃない。なんか聞こえる……)
自分に向けられた好意、愛。激しく、強く、俺を呼ぶ、口からじゃない聞こえない声。愛は、仲間を呼びあうコールに似ていた。呼ばれて何かが呼び覚まされて、なんの意思も力もなく、ふらふらそこにたどり着く。
(王子。こういうことか)
自分の中にあるものは、愛とは全然違うもの。似ていて非なるものだった、でも。
(そう……このまま行ったら、しちまうな)
愛を乞われて求められ、自分の何かが反応している。欠落、そしてある種の投影。足りないところを埋めろと言われる。そんな思いに応えるだけで、かの人の幸せを生み出せた。
(しようと思えばできること。性欲なんかとまるきり別物……)
極めて心情的な行為であった。愛でも、欲でも、なんでもなく、迷子の子供を慰める、人としての慈愛に近い。相手の心が綺麗であるほど。鮮烈なほど淫らであるほど。二股されるのは論外で、その声が強くて乱暴なほど。
(ああ、なんてこと……)
王子自身が迷い子だった、それはただの錯覚かもしれない。なのにまるで王子の挙動が、我がことのように感じてしまう。穏やかなそよ風が愛撫に似ていて、どうかしていたかもしれない。でも、俺は流れのままに、呼ばれて抱いていたかもしれない。全部自分に起きたこと。俺は好きでも何でもないのに。
王子は利発な人だった。そして強い人だった。だからこそなお、俺は思った。自分の罪を知っているのか。理解した上で背負おうとてか。なんて悲しいことだろう。あの人はあまりに一人に過ぎて、泣いて海になった気がした。
(俺も寂しさに負けるのか。王子、いつか俺にもその日が来ると?)
王子の海はここにはないので、返事が戻るわけもなかった。
