そよ風ロマンス第3章(さざ波コンフルエント1)
【13041文字】
そよ風ロマンスシリーズの第3章。
ジーノ視点。ごめんなさい、軽くですがジーノのモブカノとのお付き合いやワンナイトラブ描写あります。最後のページと書いていましたがよく見たら最初のページにもありました。
腕の中で彼が泣いて、ようやくそこで理解した。僕が高を括ってやったのが、暴力に過ぎないことだったのを。
些末なはずのお化け屋敷で、必死で閉じた目の奥で、未成熟で純な子供は、僕の顔をした化け物を見た。その証拠に彼はもうただしくしくと泣くしか出来ない。減らず口も、プライドも、すべての鎧が崩れ去り、心の素肌を見事に晒し、怯えて体を竦ませていた。
彼にはそもそも根深い性嫌悪のケがある。それを知らないわけではなかった。自分に向き合いきるような力もない。それも僕は把握していた。では何故。
(そう、では何故僕は……全部わかっていながらわざと?違う、僕はただ……)
理路整然としていたはずが、矛盾に陥り困惑していた。自分の整理もつかなくなった。怖い目にあわせた僕に縋って、胸でザッキーが泣いている。
すでに予感は確信だった。彼は大人になるのに失敗をして、淡い恋も衝動もろとも、重いトラウマに変えたのだ。
*
良かれと思ってやったと思った。けれど、そこに悪意の存在を問われれば、僕は何も返事が出来ない。
「……王子、二回目以降は有料ッスか?」
後日、彼が頼って来た日も、僕が何を感じていたか。その問いにも応えられない。本当にわからなかったのかもしれないし、無意識の逃避なのかもしれない。
口では強いことを言いつつ、中身は怯える少年だった。誰にも相談できない悩みを、加害者にしか打ち明けられない。
「そう、それは大変だ」
訥々と説明をするザッキーを、気の毒に思うのは嘘じゃない。さも悲し気な表情で、同情深くそっと囁く。
「慣れなくて体が驚いたかな」
自分の奥にある謎の感覚。お化け屋敷(僕の中)にはお化け(悪意)がいる。おいで、と再び彼を引き寄せ、どうして罪を繰り返すのか。
「う……、んっぅ……」
声が漏れるその口に首に掛ったタオルを押し込む。なんて酷い仕打ちだろう。何故こんなことをするのだろう。
トラウマに苦しむ憐れな男は、それでも何度も僕に縋った。トラウマに向き合うつもりでいるのか。逃げ出せなくて引き摺られるか。ザッキーの中は混沌として、けれど考えないようにした。僕が彼に何をして、彼に何が起きているのか、現実なんて不要と思った。彼が僕に縋るなら、その動機なんてどうでもいいと。
*
元気がないのも、そのイラつきも、理由を知るのは僕だけだった。体の膿を吐き出したくて、常に手助けを待っている。
今日は彼自身のやり方を模倣しながら、手を重ね合わせ一緒に扱いた。自分一人でするよりも、少しは具合がいいらしい。頬が薄っすら赤らんで、朦朧とした目が潤む。でも多少の改善は見られても、結局そこ止まりの程度であった。
(ザッキー、なんて顔をしてるの?)
彼は確かに苦しんでいて、なのに不思議とその口元が。ゾワリと背中に鳥肌が立ち、続けられなくなってしまう。
「ごめんね、今日もそろそろ時間切れ」
男の甲斐性を忘れた体を、触っていると変になる。ザッキーは僕と同じ男の体で、女性に触れるのと感じが違う。
(寒気……熱?……違う、多分疲れているんだ)
機能障害に苦しむ子を見て、自分の機能に苦悩していた。別に求められてもいないのに、時々緩むあの口元に、体が勝手に反応をする。
(ああいう表情、なんか嫌だな。邪悪っていうか毒々しくて……体を治して縁を切ろう、あんまり関わり合いたくない)
徐々に形が見えてくるのは、彼の中にある悪いもの。
(だるい……家に帰って横になりたい)
毎日前戯を重ねるみたいに、彼の体は愛撫を学ぶ。禍々しいまでの性欲が溢れんばかりに蠢いている。瞳に灯った僕への媚びが、べっとり僕にこびりつく。
(……これは僕の責任だ……早くこの火は消さなきゃいけない)
彼にも、自分にも嘘をつく。追い詰めるように刺激をしながら、彼の邪悪を大いに引き出し、どんどん変化の促進をした。
「そう。大人しくするんだよ。暴れたら中が痛んじゃうかも」
男も女も知らない体が無邪気に指を受け入れていく。意味も理由も知らないままに痛くて苦しい目にあわされて、けれどそれだけだったらどれだけいいか。しがみつくばかりの愚かな彼は事の重大さに気付いていない。
「出てきた?良かった。もう少し我慢」
苦しみと毒が彼から溢れる。練習着に散る罪の白濁。これを出すザッキーは真に見もので、秘密を堪能できる権利はこの僕だけが持っていた。
「ごめんね。もう終わるから」
もっと、ずっと見ていたい。でも、僕はそれほど馬鹿じゃなかった。仕組みを変えていくには時間が掛かる。如何に貪欲な体でも。
「はい、おしまい」
中から内臓をかき回された気の毒な子は、僅かながらの胃液も吐いた。それを見ながら僕は思う。
(どこもかしこも子供の体だ。でも手入れされたくてウズウズしてる)
腫れあがった器官への刺激は痛いばかりで、今はただ歯を食いしばり耐えねばならない。でも絞り出されたおかげで楽になれたか、苦悶の陰に満足がある。今日はそれだけで上出来だ。
先に個室を出て手を洗いつつ、見つめた鏡の中に。
(ああ、僕までなんて顔を)
それはザッキーがあの日に見つけた、僕の顔をした化け物だった。
(帰ろう、早く。今すぐに)
ここ最近の僕の口癖。時間は前にしか進まないのに、あの日の前に帰りたかった。
僕は僕でなくなりながら、不安ながらもどこか楽しく、このミステリー列車の行き先を暇に任せて想像をした。いつでも最後は断崖絶壁。ザッキーは運転席を僕に押し付け、怖い、怖い、とエンジョイしている。
(狡いよねぇ、そういうの)
僕は彼を悪くするし、僕は彼で悪くなる。やってはいけない。だからこそ、やらずにおれない状態だった。そうしていないと苦しくて、そうしていても苦しくて、まるで苛立ちをぶつけるみたいに僕はザッキーを虐め始めた。
(逃げずに来るからいけないんだよ)
何度も言い訳を繰り返し、でも日々エスカレートしていく行為の中で嘘を維持するのも難しかった。体を軽くするために何度も彼は指を受け入れ、少しずつ変化が続いたある日、とうとう彼にその時が来た。痛みに逃げたことはなかった。だからすぐに僕にもわかった。いつものように壁を向くように彼は立っていて、僕はその背を閉じ込めるみたいに寄りかかり敏感な内部の腫れた器官に単調な愛撫を延々続けた。同じリズムで同時に扱いた。上手に彼は昇りつめ、でも達しながらも出なかった。何が起きたかわからぬ彼に素知らぬ顔でそっと囁く。
「あれ?今日はうまくいかないね」
ある意味期待通りの成果で、でもそれを言う必要はさらさらなかった。苦しみの膿をそのままに、満足をして指を抜く。あまりのことに動けぬ彼を置き去りにして僕は帰った。明日は家に呼んでしようと考えて、鏡の中の化け物はさも嬉しそうに微笑んでいた。
