そよ風ロマンス第4章(さざ波コンフルエント2)
【16103文字】
そよ風ロマンスシリーズの第4章。
ジーノ視点。特殊性癖にさせ過ぎたきらいがありますが……ジーノは自分を真人間と信じ切っている設定で、変態ぶりが赤裸々になりどんどん自分で混乱してます。「百戦錬磨の恋愛童貞」VS「処女童貞の淫乱天使」
ここで終わればメリバですね。まあ、当然ながら終わりません。次は5章そよ風ロマンス1です。一応本編扱いになるのかな。起承転結の転です。
彼とのセックスは物理的には出来ても不可能だった。彼の心は窒息しており、自慰をするしか出来ないからだ。僕は彼のある種の道具で、例え体を繋いでみても、道具を使う性処理になる。
「王子、お願い……もう指は、いい、からっ」
欲にまみれて精を吐き出す、ただのそういう生き物の乞い。
「頼む、ちが、あん、たを……入れ、ああっ」
涙ながらに僕を求める。それは摩擦への欲と渇望に過ぎない。
射精への欲求は本能だったが、挿入の快楽を仕込まれて、男以上の欲にまかれて、今日も彼は僕の名を呼ぶ。
(そんなに、生身のバイブを使ってみたいの)
僕に対する物欲を、死んだ心で、本能だけで。
涙はあの日を思い出させる。心の肌を見事に晒して零れた、一度だけはっきりと見えた彼の本音だ。如何に淫らに彼が乞うても、これはただの暴力に過ぎない。痛みを痛みで忘れていたいと、本物の彼はあの日のように大粒の涙を静かに落とし、ポロポロ泣いているだけなのだろう。ウブで儚い彼の心は声も涙も僕に奪われ、砂粒のように粉々だった。僕が彼を欠損させた。
(いっそ見えなきゃよかった、あんなもの)
僕も一緒に苦しんでいた。自らも使うことを欲しつつ、寸前素面に戻ってしまう。自分の肉欲に慣れてもいないし、こんなに強烈に誘われながら、しないというのも更にそうだ。ブレーキとアクセルを一緒に踏まされ、僕が軋んで憎しみが増す。だからかわりに何度もイかせた。耳を舐めて口に手を入れ、乳首を刺して血を流させた。執拗なまでにへそを弄って、隅から隅まで愛撫して、僕のかわりに指を突っ込み、扱きもせずに出せとも言った。
やがて彼は息絶え絶えに、意識を手放し大人しくなる。毒の匂いが充満し、僕まで痺れて動けなくなる。死ぬほど不快な行為を重ねて、僕らの口が醜く綻ぶ。
(さすがにちょっとやり過ぎた……でも、次はきっと、もっとかな……)
狂ったみたいに彼を攻め、それでも僕はずっと正気で、全てを委ねる彼を恨んで、犯したくて、出来なくて。憎しみと同情が渦巻いている。激しい不快は快に似ていた。
眠れる彼の先端を舐めた。相も変わらず、苦くてまずい。口の中にねっとり広がり、強い吐き気が込み上げてくる。しばらくそれをやり過ごし、もう一度それを口にした。唾液がどんどん増えてきて、たらりと口から垂れてしまった。だからそれを舌で拭った。すすれば卑猥な音がした。
(ほんと、なんて嫌な味……)
それでも、鳥肌をたてながらそっと深く咥え込む。空っぽなそれはくったりしていて、その感触を味わっていく。起きている時は絶対しない、倒錯的な欲望だった。人知れずこうして過ごしていると、頭の奥がジンとするのだ。荒ぶる感情が凪いでいき、同時に理性も緩慢になり、何故かどこかが満たされていく。彼は女性器の感触を知らず、僕の口だけ知っていて、でも知っていることも知らずに寝ていた。誰にもこれをさせたくなかった。僕だけの権利にしていたかった。
「んん……」
快楽とするにはあどけない声。昂ぶらせるのが目的でもなく、咥えて舐めて、時々吸って。頬ずりをしてまたキスをした。最初はティッシュで拭く替わり。今はただただこうしていたくて。僕も壊れているかと思う。
たかがセックス出来ないくらいで。その現実を鼻で笑った。掴まれるみたいに胸が痛くて、自分の何かが満たされて、彼が女であればだなんて、でも男だからこそ良かったなんて。
(僕達はあくまで牙と爪だ。他者を挫くことしか出来ない)
体だけでなく心の形も、噛み合うようにはなってなかった。それでも一緒に居ると色が冴え、一緒に居ないと灰色になる。とても悲しく寂しい世界。僕達はそれぞれひとりぽっちで、どれだけ一緒に過ごそうと巡り合うことなど不可能だった。自分で自分を慰める、他に術が何もなかった。それでも頬寄せる肌は心地よく、そのぬくもりがやるせない。
僕は君がとても嫌いだ
知らなかった絶望を教えてくるから
溺れる姿を見せつけて、こっちに来いと誘うから
牙を剥き爪で引き裂く、ケダモノと化せと訴えるから
僕に噛みつき血を流させて、そのくせ、震えてメソメソ泣くから
そうして粉々に砕けた彼の心が、嫌い嫌いと僕に降るから
何故酷いことをするのかと、風に飛ばされ消えていくから
そして
憎悪を互いに募らせる、そんな今に興奮するから
「ザッキー、僕は君が大嫌い」
彼の苦しみ、毒を舐め、負の感情に包まれる。息苦しいのに心地よかった。人にあって僕になかった、それを僅かに手に入れたから。
