そよ風ロマンス第4章(さざ波コンフルエント2)
【16103文字】
そよ風ロマンスシリーズの第4章。
ジーノ視点。特殊性癖にさせ過ぎたきらいがありますが……ジーノは自分を真人間と信じ切っている設定で、変態ぶりが赤裸々になりどんどん自分で混乱してます。「百戦錬磨の恋愛童貞」VS「処女童貞の淫乱天使」
ここで終わればメリバですね。まあ、当然ながら終わりません。次は5章そよ風ロマンス1です。一応本編扱いになるのかな。起承転結の転です。
「ねぇ、やっぱり」
「何スか何度も。しつこいな」
友達と遊ぶこともなく、実家にも最近帰っていないらしい。人と関われなくなっていたのだ。
「行っておいでよ同窓会」
「……」
「行きなよ。面白いこと、してあげるから」
性的なことにだけは反応がある。複雑な気持ちでギフトを手渡すと、ザッキーは薄く僕に笑った。
彼にベッドで寄り添いながら、僕のしたことを考えていた。
「恋って本来素敵なんだよ。一緒に過ごすと幸せになる」
ザッキーは興味もなさげに、死んだみたいに熟睡していた。例え起きていたとしても、その目は世界を見ていなかった。贖罪のような嘘・幻を、僕はその耳につらつら囁く。この残酷で静かな夜は、僕の頭を馬鹿にする。
「家庭を持ったらもっとだね。きっと毎日とても楽しい」
彼の匂いが充満する部屋。胃の奥がむかむか気持ちが悪くて、僕の意識もふらついている。匂いは僕の悪意の証拠で、甘くて苦い毒だった。
(……駄目だ……君の幸せを願いたいのに、もうそのやり方を思い出せない)
僕は人を慈しむ術を忘れてしまった。過去、それは容易なことだった。彼もまた理性が壊れてしまった。僕のこの手が殺したからだ。
(抱き締め、君を癒したい。なのに傷付けたくて仕方がない)
僕の爪は鋭く尖り、牙まで生えた化け物で、挫かれ慣れたザッキーは、夢も世界ももうわからない。憐れな迷子のように、知らない大人に手を引かれ。
(ああ、こんなはずじゃなかったのに)
努力、願い。振り子が揺れる。肺と気管がいがらむような、熱、眩暈。僕の中にある善意と偽善、どす黒いまでの悪意と本音。僕はザッキーと関わることにより、知らない自分を知ってしまった。それを嘆く資格はなかった。被害者はなんの非もないザッキー。憐れに眠る小さな子供。
「ごめん。ごめんね?ザッキー」
外界から遮断された暗がりで、体だけを大人にされて、夢を忘れて、足が萎え、食べて寝るを繰り返す。
「謝ったって、無意味だね……」
とても憐れで、それが良かった。世の残酷に蹂躙されて、眠れる姿がとても良かった。
*
「ねぇ、海外から照会が届いたそうだよ」
今日も彼は空っぽにされ、四肢を投げ出し目を閉じていた。こうなることが一番安らぐ、そう言わんばかりの血の気のない顔。
「ザッキー良かったね?」
なんの言葉も返って来ない。やはり興味もないのだろう。
「……夢だよ?君の。わからない?」
本来の姿はこうではなかった。僕の知り得る昔の彼は。
過激な筋トレやロードワークで彼は極限まで脂肪を落とし、顔立ちも尖り、精悍になり、世間の事情を知らない人は、やはりそれを評価した。
「皮肉だね。幸せが君の肩で鳴いているのに」
自信も意地も粉々にされ、夢も希望も失って、今では苦悩も日常化、かわりに動きが軽快に。迷いや葛藤も枯渇して、幸か不幸か彼のプレイは壊れていくほど洗練された。
僕はいつでも意識が半分。そんな自分に肯定的だが、それは僕が正常だからだ。けれど彼は全く違った。どこか薄暗い闇に包まれ、つまらなそうにぼんやりしている。自分の意思や選択でなく、結果的にこうなってしまったからだ。不幸に気付けず、幸せが見えず、ザッキーは静かに眠るのと同じ形で、人生をやり過ごしているように見えた。それをどこかで喜んでいる、僕の本性はとても醜い。
(でも、きっとまだまだ彼を不幸に出来る。僕は……それをやれてしまう生き物だ……)
今日も振り子が揺れている様子を傍観していた。その糸を笑って見守る僕と、阻止しようと引き千切らんとする僕がいた。腹が捩れるほど滑稽で、叫びたいほど辛く感じた。
*
心も体も疲弊していた。ザッキーとまるきり同じ症状。食欲がない。眠りが浅い。活動的過ぎる私生活。
「そろそろ直接聞いたんじゃない?嬉しくないの?返事して」
引き摺るように家に連れ込み、今日も散々いたぶった。彼がすぐに眠ってしまうのは、やはり日頃熟睡出来ていないからだろう。
「何を考えることがある?ぼやぼやしている暇はないのに」
だらりと全身脱力していて、まるで死体のようだった。体を拭ってうつ伏せにして背骨に沿って指を這わせる。首から下へ、腰へ、そして。洞は仄かに朱色に染まり、ぷっくり腫れてモチモチしていた。十分僕を受け入れられる、そういう器官に僕がした。今はもう傾く自分を放置しがちで、彼の身体を使う日もまさに時間の問題だった。
「いいの?それで。本当に?」
僕が彼にしてやれるのは、見送る、手放す、それだけのこと。互いの体を道具に使う、地獄の生まれるその前に。
「本気で人生リタイヤする気?人でいるのをやめちゃうの?」
すでに誰にも顔向けできない。それでも僕は怖かった。彼はもう何も考えられない。僕が彼をそうしたからだ。
*
ザッキーはどうやら固辞の意思をフロントに伝えたらしい。僕の中のケダモノが奇声を上げて、口を塞ぐのはもう無理だった。
(ああ、多分……今日が、その日だ)
夢が伸ばす手を振り払い、今晩、彼がやってくる。期待と恐怖で体が震える。僕が祈れる神などいない。
(これは彼自身の意思だから。別に無理強いするんじゃないから)
吐き気がするほど興奮していた。そして今すぐ消え去りたいほど、強い失望を自分に感じた。
