そよ風ロマンス第5章(そよ風ロマンス最終章)
【27605文字】
実に2年半くらい前のシリーズの終章。今回は改ページごとに視点が交互です。
中断して気にはなっていたんですけど、書きかけに掃除と追加などなど。終盤一瞬ジーノが下品。似たような話ばかり書いてますけど、今回は番犬がこじらせです。
僕達の関係はとても奇妙であった。時に二人はあり得ないほど密接な距離にいて、なのにそれぞれ一人であった。
(ほんと、変な感じだったな)
ザッキーは己の性欲を憎んでいるのに、その快楽に弱かった。体に色々させられて、羞恥に全身朱に染めて、己を深く傷つけて、そんな夜ほど激しく善がった。追い詰めるほどに悶え狂って、正直うすら寒くもなった。僕らは二人近づくほどに、どんどんどうかしていった。それが僕らの日々だった。間違いなのは明確だった。
*
上手に眠れず枕にしがみ付き目覚めるそんな朝は、大抵雨が降っている。あの日々と同じな体の重さは、僕にあの頃の記憶を連れてきた。どうにもならない悪意と残酷、僕と彼との悲惨な毎日。全ては昔のことだった。悔いでありつつなおも煌めく、僕の中にある汚泥。
(怠いなぁ)
眠るでもなく起きるでなく、僕は天地もわからぬ無味蒙昧を独り怠惰に過ごしたりする。
(ああ、そういえば明日だっけ?)
海外に移籍したザッキーは帰国時しばしばクラブハウスに顔を出す。他愛無い会話が楽しみで、気付けば自然に笑顔が零れた。
(時が経つにつれて尚更なんだか、あれなんだよねぇ)
彼の古巣に居さえすれば、活躍も自然に耳に入った。アシストをした、ゴールを決めた、話題は常に事欠かず、今でも代表に召集されれば毎回フロントが騒ぎ出す。そんな日々の細やかが、こんなに僕を伸びやかにする。
(随分と貫禄も出てきたみたいで……それでも一部は変わらずそのまんま)
会って話をすれば、彼の健全な精神性、元来の伸びやかさや素直さが、僕の心を優しく包む。僕をすっかり幸せにする。会話の中身はなんでもいいのだ。たちまち消える無為そのものが、忌まわしき過去との距離感をしみじみ僕に分からせる。卒なく、軽く、他意もなく、そういう今を抱き締めたい。彼の中の差異を見つめて、その強靭への祈りを強め、幸を、幸を、と身悶える。そして心に刻み込む。近づくことが罪なこと。僕が害である事実。それでも僕は僕として、然るべき真摯なプレイに勤しむ。それはまさに贖罪で、彼の浄化を祈る儀式だ。
(大丈夫。全然やれる)
適切な負荷、栄養のバランス、何より優先すべき修復の休息。雨の日、気怠く寝臥せることすらもそんなに悪い気分ではなかった。
(そう、全然悪くはない)
思わず腕に力がこもって、抱き締めるのが枕で苦笑し、意識して心をスライドさせる。
(明日だ。明日、ザッキーが帰国する)
ぬくもりはもう二度と供給されることはない。身に沁み、それでも、いや、それだからこそ、今のこの適切な日々を思う。
(今回は何分くらい話せるのかな)
目のいい僕はたちまち彼を見つけてしまう。だから静かに避けざるを得ない。彼はそんな僕の背を追って、さりげない顔で話をする。二言三言、くだらない、でもそれがとても愛おしい。心には不快を忍ばせて、睨むみたいな鋭い視線で、それでも不器用に全てを誤魔化し、下手な嘘で大人の顔で、僕に関わる努力をするのだ。その健気さに大いに踊り、早く明日にと歪んだ笑顔を僕は堪えることも出来ずにただ漫然と浮かべてしまう。雨がどれだけ僕を重たくしても、明日このまま止まずに降り続いても、浮足立って行くだろう。あの子のあの日差しの匂いを感じるためだけに。会いたい。それを許して欲しい。
(ああ、まだこんなにも愚かか僕は)
生まれた邪悪は死に絶えもせず、僕の中に息づいていた。けれど自分を宥めるのもとても得意だ。美しい偽善を着飾って自分を殺して作り変え、ああ、あまりにもそれは容易い。
(許さなくってもいいんだザッキー。でもその根元の記憶を忘れて?)
幸せになる術を知っているから、僕の人生は簡単なのだ。
