そよ風ロマンス第5章(そよ風ロマンス最終章)
【27605文字】
実に2年半くらい前のシリーズの終章。今回は改ページごとに視点が交互です。
中断して気にはなっていたんですけど、書きかけに掃除と追加などなど。終盤一瞬ジーノが下品。似たような話ばかり書いてますけど、今回は番犬がこじらせです。
王子はまるで輝く太陽、俺に向かって明るく言った。
「愛は犠牲を要しない」
*
頭痛と吐き気と眩暈がおさまり、散漫な思考も復活し始め。
「彼女はいない。君だけが好き」
それが脳へと届いたその日、これを繰り返した記憶が脳裏に。
「心もパスも何もかも、僕の全ては君のだよ」
祈りのような額へのキス。それもまた初めてのことではなかった。
「いい子で待ってる。また来てね」
「……」
「ん?ザッキー聞えない」
俺が再び問うた時、満面の笑みで王子は言った。
「いつから?そんなの随分昔から。ずっと君だけ。愛してる」
まるで当然と言わんばかりに、さらさらと自由に愛を囁く。戸惑う俺の気配に気づいて、笑みは意地悪なそれに変化した。
「その顔……ようやく届いた?心に?」
「……っ」
そうして彼はこう言ったのだ。
「大丈夫だよ、安心していい」
まるで咲き誇る花そのままに。
「愛は犠牲を要しない。だからずっと楽しかったよ」
そして光零れる眩い太陽。
「君がいることが素晴らしく、それでも今がすごく最高。そしてこれからはもっとだね。幸せで変になっちゃいそう」
子供のようにまるきり無邪気な、それでいてあまりに神聖な。
「届く日がこんなに早く来るとは。なんて素敵な今日の始まり」
*
めくるめく記憶が蘇る。王子は卵を抱く鳥であり、舐めるように子を可愛がる猫のような存在だった。何度も二人で抱き合い眠り、時には子守唄まで歌い、俺は王子に全てを預けて彼を堪能し続けていた。楽しかったと王子は言って、確かに楽しそうではあって、愛しているとの言葉通りに、まるきりそれは愛だった。繰り返し体を求める俺を、そうではなくて、となだめすかして、育児みたいに根気よく、王子は俺に寄り添っていた。
「あっれー?どうして泣いてるの?」
いたたまれない。そして幸せ。気付いているのにわざわざ言って、背ける顔をのぞき込む。
「本当に可愛い。愛してる」
抱き締められて、耳への囁き。ゾクゾクと鳥肌を立てさせながらも。
「それでも抱く気はないんでしょ。こういうからかい、やめてください」
まるで親鳥の王子に対して、真っ赤になりつつ意地を張る。
「あるよ?普通に。ブチ犯したい」
「!?」
突然の毒にびっくりとして、硬直の俺に王子は言った。
「君をめちゃくちゃにして泣かせたい。そんなの当然のことだろ?ザッキー」
「は?だって、いや、ほら……」
「心を犯すのが先だと思って」
暗示の消失は非処女の印と、やはり無邪気な笑顔を浮かべて。
「いっぱい、いっぱい愛撫を重ねて、さっきようやくスルって入った」
「ちょっ!なんでそんな下品な物言いっ」
「心に僕の愛が刺さって、さっき泣きながらイってたね」
憑りつくみたいなキスをされ、無力に口を犯された。
「ああ、夢みたい。キスしたかった」
再び頭が朦朧とする。それでもストレス由来ではない。
「お願い、怖くはないって言って?」
恐怖心を自分で溶かして、その上で王子は問いかける。きっと大事な問いなので、蹴散らしはせずに素直に言った。
「ねぇ、本当にこれって夢じゃない?」
その表情はしどけなく、溢れ零れるその寸前の。
「そう……夢じゃなくて現実なのか……」
裂けんばかりの声の切実、今までの王子の日々の壮絶、それがあまりに愛おしく、思わず俺からキスをする。こんなに喉から手が出るほどの。愛で欲望を削ぎ落し、それでも俺らはこんなにも。
夢のようなこの現実を、その日俺らは手に入れた。初めての夜のあのしくじりを、やり直すかのように何度も言った。求めに応えるわけでなく、ただただそれを言いたくて。
「ねぇ、君が好きだよザッキー」
「王子、俺も好きです王子」
好き。嬉しい。ようやくだ。どれだけ言っても足らなくて、伝え合うこともいらなくなって、下品な言い方そのままの王子の激しさを受け止めて、その情熱に何度もイって、熱くて体が溶け出しそうで。それでもずっとしていたかった。心も体も届き合い、それでももっと届かせたかった。こんな俺らの関係性は、再びチームメイトになるその日まで、そしてその後も延々続いた。
「ザッキー、好きだよ、ずっと好き」
溺れるみたいに、やがて泳いで、そのうち空を飛ぶかのように。手にした俺らのこの幸せは、死が二人を分かつその日まで。
はは、ちげーわ。死んでもだ。
