お花結び

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ただ胸披(ひら)かるる二人の必然

【13917文字】
出来てないジノザキ。延々番犬扱いしてからかい続けてきた赤崎が移籍する事になったある日の二人の日常の記録。赤崎目線。タイトルはお題った―で引いた中也「盲目の秋」の一節のもじり。お題悲恋モノだけどいつも通り無謀強引ハピエン厨
文学妄想お題ったーの中原中也作「盲目の秋Ⅳ」が元ネタSS

        ジノザキ

 人を馬鹿みたいに犬扱いしてからかい続けていた王子が突然、今までのお詫びにご馳走すると言う。
「そんな殊勝な事言う神経あるならもっと早く自重してくれてたら良かったンスけどね?」
「ハハハ」
「もうあと数日で日本去るって段階で反省されても遅せぇよ」
「おや、しないよりマシだとは思ってくれないのかい?」
「ったく本当に“お詫び”なつもりならそんな台詞は」
「ね、何がいい?キミの行ってみたいところ、何処でも連れてってあげるからさ」
 パチリとウインクしてみせる仕草がキザで、俺は呆れたように溜息をつく。
(あー、ったくもう。この人は言い出したらきかないから……)
 いきなりの申し出に戸惑いながらもそれなりに考えてはみた。ものの。王子と一緒に行っておかしくないような店なんて知ってるわけがないじゃないか、とあっという間に思い至る俺。
「遠慮しなくてもいいよ?」
 王子は相変わらず悪びれもせず、お詫びを理由にゴリ押しをする。反省とは反対の図々しささえ感じさせて、この人はどうしようもなくマイペースな人だ、と苦笑する他なかった。しかしかと言ってこれといったお店を提示すら出来ない俺は、悔しくて結局、
「お詫びなんですよね?」
「そうだよ?」
「じゃあ、それに相応しい店を形であんたに示してもらいたいもんだ」
「え?」
「どんな店連れてってくれるのかなぁ?そりゃあもう吟味して選んでもらわねぇと全然勘定に合わないッスから」
などと嘯いてしまった。減らず口の意地っ張りだ。本当は移籍前に王子と個人的な形で出掛けられること自体嬉しい事だったのに。そう、俺はよく王子の酷い扱いに耐えたけれど、そんなの相手が王子だったからに他ならないわけで。
 にやけた顔を我慢しながら強がって見せた俺のチンケさを、王子は鼻で笑うだろうと構えていた。なのに、その日のあの人ときたら、
「善処するよ」
なんて一言を残し、そのままあっさり去っていった。拍子抜けしたのは当然のことだ。けれど王子のそれは俺の挑戦を受けて立つような挑発的な物言いでもなければ、呆れたように幻滅して引いたわけでもなさそうだった。なんだかところどころ調子が狂って、少し引っかかる気がした。

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 約束の食事の日。

 今日の王子はとても無口で、悪ふざけのじゃれ合いがない俺達の時間はとても気詰まりなものになってしまった。でもチームのエースと生え抜きの若僧の付き合いといえば、これが普通の形かもしれない。そう考えると誰に対してもフラットでそれ風の壁を作ろうとしない彼の今までのやり方に、随分と助けられていた自分に気付いてしまう。
(そうだった。俺、最初の頃、この人の事、すっごく苦手だったんだっけか)
 すっかり俺は忘れていたのだ。今日こうして居心地の悪さを体感するまで。

 ETU育ちの俺にとって、ここの人達は皆まるで身内のようなものだった。育成のコーチは勿論、トップの選手やフロントのメンツ、スポンサーのお偉方ですら俺は怖いと思った事がなかった。大人の狡さをズバリと指摘すればキチンと取り合ってくれる人ばかりで、反対に何かを感情的に言い返されたとて、消沈どころか発奮の材料にしかならなかった。
(でも、この人だけはなんか違った。この、何を見ているのかわからない、穏やかなくせに深く意味深なこの目の色が。なんだか吸い込まれてしまうみたいに見せたくないものまで全部洗いざらい見通されてしまう気がして俺は……)
 初めて彼を見たその日から、俺は王子のこの“目”が怖かったのだ。その為か、この人が居ると思うだけで俺はギクシャク、いつも通り普通にしていられなくなった。まるで天敵からコソコソと逃げ隠れすらしているみたいに、目立たないよう、気付かれないよう、息を詰めて、気配を消して。すっかり忘れていたこの萎縮の感覚を、しばらくぶりに思い出しては尚の事居心地の悪さを増加させてしまっていた。
(そうだよ、あの年の冬も……この人がいなかったせいで結構伸び伸びやれてたんだよなぁ……)
 間が持たない俺は思い付きのくだらない話をツラツラと並べ始めなければならなくなった。そして王子は、その筋もオチも何もない出鱈目をただ穏やかに見ているだけであった。
(出た……そう、これだ。この空気)
 波一つたたない湖面の穏やかさ。俺にとってとても恐ろしいあの深い色をした、特徴あるこの張り詰めた目。焦燥が無駄に口を滑らかにし、次々に余計な事を口走る。
「そう、そういう事があったの?」
「えぇ、で、俺はそん時に……」
 気が付けば王子が居なかった頃のETUの小ネタや、学校、家族、私生活の色々を、俺は一方的に話し続けていた。そしてどうして俺がこんなにも世界に飛び立ちたいかという切なる願いのその根幹まであらけざらけ暴露する羽目になった。
「へぇ、そうか。そういう事があって……良かったねぇ、とうとうその一歩を本当に今まさに踏み出せたってわけだ」
緊張にじっとりと汗が滲んでいたはずなのに、いつしか俺は気持ちが高揚し、興奮しまくってあれもこれもと、まるでもっと聞いてと言わんばかりに息せき切って話をしていた。笑って相槌を打つ王子はとても聞き上手で、最後のコーヒーを飲みながら、ようやくその段になって自分が予定以上に訳の分からない事を喋らされていた事に気付いてしまう。
(しまった。くそ、やられた)
 自らのミスなのか彼の誘引か。そんな事はどうでもいい。ただ、俺はやられた。あんなに恐れていた事が、やっぱり今起きてしまっていた。

 *

 約束通り王子が会計を済ませて、家まで車で送ってもらう。
「ズルいッスね、王子は」
「ん?」
「お詫びだなんていいながら騙された」
「どういう事?」
「だって俺、今日調子に乗って余計な事まで全部あんたに。やっぱズリぃよ、王子は」
「余計な事?寂しい事を言うねぇ。ボクはキミの事全然知らなかった分だけ、今日のこの時間をとっても嬉しく思えていたのに」
 のほほんと呑気に微笑む横顔が、俺の想定外の自己開示は彼の意図するものではなく、たまたまそうなっただけであった事を強く指し示していた。
(どうだか。王子が狐か狸ばりの性格なのはわかってっし?)
この気持ちは所謂俺の猜疑心。そして一方、
(そうだよ。勝手にベラベラ話したのは俺で、王子は別に俺のくだらない話なんて興味なかったに決まってる。それなのに嬉しかったなんて気遣うくらいこの人は余裕の紳士で……)
と恥じ入る気持ちがあったのも事実。
 まあ、おそらくは心地良さのあまり俺が勝手に自分で服を脱いでしまっただけだったんだろう。別に無理矢理剥がれたわけじゃない。
 王子はまるで北風と太陽の太陽のような人で、誰彼なく降り注ぐ癒しの日差しのような在り方は、恵みでもあり、旅人を弄ぶ邪悪でもある。自分で脱ぎ捨てておきながら俺は今、裸の自分に居た堪れない。
「ま、どうせもう毎日顔を合わせる事もなくなる相手だ。気にする事もないか?」
 自らの暴露を無効化する為に?俺は自分に言い聞かせる言葉すら口に出して王子に伝えた。言いながら途中で、このえげつない言葉に反論が来ると思った。けれど今日の王子はやはり時々無口で、俺の強がりに返事をしてくれる事もなかった。居心地が悪かった。

 *

「あ、次の道を左で」
「了解」
 一度乗ってみたかった赤い車の乗り心地は想像以上。近道を指示せず公道経由でルート案内をするのは、多少の気まずさがあろうと、それでも今をもう少し楽しんでいたかったからだ。クルリ遠回りを促し、ここらでは珍しく少し広い駐車場のあるコンビニに停めてもらう。
「どうしたの?何か買うの?」
「いえ、ここで。王子、今日はありがとうございました」
「いいよ、家まで行くよ?どこ?もうすぐのとこなんだよね?」
「道、狭いから」
「いいってば」
 王子はまるで子供みたいに、俺が降りられないよう鞄を取り上げて後ろの席にポーンと勢いよく投げてしまう。
「あ、ちょっと!」
 窘めながらも、王子が一日変な調子だったせいもあって、その仕草がいつも通りの我儘王子でなんだか少し安堵をおぼえる。
「ったくしょうがねぇなぁ」
「うん、しょうがないんだよ」
 ご機嫌な調子で笑って王子は、車を降りてこう言った。
「せっかく来たんだからコーヒーでも買っていこうか」
「王子、コンビニコーヒーなんて飲むンスか?」
「ううん、でも興味あるじゃない?いい機会だから。さ、降りて?」
 鞄を取ろうとした俺の手をはたき、
「言ったろ、今日はボクの奢り」
なんて唇を尖らせ。そんないつもの彼らしい表情にまた俺は安堵するのだった。

 *

 やり方もわからない王子が後ろで俺の手先を見つめる。なんだかくすぐったい。
「いい匂いだねぇ」
 俺の肩に手を掛けて乗り出す様に、王子はコーヒーの匂いをうっとりと嗅ぐ。
(いい匂いがするのはご機嫌に笑っているあんたの方だ)
思ったけれど言わなかった。

 *

 王子とコンビニ。変な感じ。今日の王子は色々不思議だ。
「あ、飲む場所なんかもあるんだね、ここ」
 足取り軽く行きかける人の服を引っ張り、引き留めながら俺が言う。
「あの、良かったら車で」
 飲食禁止でなければ、なんて俺が言葉を添えれば、何それ、そんなわけないだろう?と大声で笑っていた。

 車に戻って暫くして王子が言った。
「どうせならその辺もう少しドライブしようか」
成程ジロジロ、通りすがりの人目が痛い。
「そう、ッスね」
さも困惑と言ったつもりだ。思わず嬉しいと思った気持ちは上手く彼から隠せたろうか?笑う王子との別れがこんなにも寂しいだなんて。

 *

「ボク、本当にキミの事を全然知らなかったんだね」
 シミジミという言葉に、俺は何故か返事も出来ない。付け足されたようなオマケの時間に、尚更これからのお別れを意識するから、包み込まれるような言葉のぬくもりに対する、適切な解が思いつかない。
「ハ、今更か」
 薄暗い車内、王子の横顔からはその言葉の裏にある心なんて上手く読み取れるわけもなかった。でも、その穏やかさ、温かさに、なんだか急に胸が苦しくなった。だって彼の顔はあまりにも平気に陽気で、そして朝露に濡れる葉のようにつややかでいて。だからなんだか見ているだけで変な気持ちになって、わー、と思わず大声を出してしまいたくなったから。
(ヤベェ、嘘だろ、俺、そんな……今更こんな事に気付いちまっ……) 
結局、俺にとっての王子とは、眩しすぎて目を逸らし続けた人だったという事だった。いつしか彼はからかいと悪ふざけの雲を纏い、その強い日差しを隠して、そっと寄り添い続けていた。その眩さに再び気付けばもう抑えきれない。俺の心は嵐にも似て、ただ唇を噛みしめて食い入るように王子を見つめるばかりだった。
(そうだ……俺は……)
魅入られてしまうから目を逸らし続けた。近づきたくなるが故に距離を置いた。俺は最初のその日から彼を。面白おかしい二人のじゃれ合いの中、俺は今の今まで、この思いを自分からも隠し続けてきた事に気が付いてしまう。
(何て事だ、王子、俺は……)
目を逸らし続けていたものを、どうしようも魅入られてしまっていたこの人の傍を、俺はもうすぐ自ら去るのだ。全ては既に後の祭り。今更何も。時は進んで後戻りしない。

 *

「キミの言う通り、もっと早くこうしておくべきだった。もっとキミの事、沢山知っておきたかったな。なのにもう時間が」
 今まさに自分が思っていた事を王子が言うので、俺は少々混乱した。
「ボクは狡かったね。臆病だったんだよ。真っ直ぐキミに向かう事も出来ないくらい」
 俺の心の吐露を王子がする。全く意味がわからなかった。ただ、コップの中のコーヒーはとうの昔にぬるくなって、でも飲み干してしまえば今が消えると、最後の一口に手を出せない俺。
 気が付けば湾岸、車は王子のように美しいイルミネーションを抜け、いつの間にか人気のない海岸沿いのちっぽけな駐車場。真っ黒な海側は何も見えず、ポツンと一つ照らす街灯の明かりがスポットライトで俺達を車ごと現実の世界から切り離してしまう。なんだかドンドン怖くなった。どこか奇妙な異界に紛れ込んでしまったみたいに。
「こういうとこ来たらせっかくの車が砂だらけに……傷だって……」
思わず貧乏くさい事を言う俺に、やっぱり王子は噴き出すように大声で笑った。息が詰まるほどの眩しさ、たった一つの拠り所のような笑顔だった。

 *

 降りようも何もなく、王子が無言で車から降りる。俺は慌ててその背を追い、小走りになりながらついていった。彼の傍に居なければ暗闇に呑まれる恐怖を感じる。今日の王子はやっぱり変だ。
「ここ、どこッスか?」
「どこだろうね?」
「また!」
「ハハハ」
 時々顔を出すからかい王子。俺の安心を、彼自身は臆病と名付けてしまった。そんな事をぼんやりと考えていた時聞こえてきた声。
「このままキミの事置き去りにしてっちゃおうかな……」
「え?」
 風と波の雑音が不自然な程細いその声を邪魔して、俺は自分の耳を疑う。
「ボクしかわからないようなこの場所に、キミを置いて行こうかな、と」
 聞き間違いではなかった。
「駄目かな?」
 全身ささくれ立つような痛みとともに総毛立つ中、それでも俺は何を言っているんだと鼻で笑って愛想笑いを浮かべ、ぎこちないながらも精一杯王子に、またさっきみたいに明るく笑って欲しいと願った。なのに、よく見れば彼の目は意外な程強く鋭く、俺は足が竦んでしまう。
「お、王子?マジ、じゃないでしょう?やめてくださいよそんな」
返事はなかった。真っ黒な世界が殊更彼の服の白を映えさせ、同時にその存在感すら現実離れしたものに変えていく。
「真顔だと冗談に聞こえな……」
 蚊の鳴くような俺の声、刺すように鋭い王子の視線。薄暗い街灯が遠くに一つ。王子のガラス玉の目の闇は更に深く、俺は夜の魔物に魅入られるように、息すら憚られるような気持になった。なのにその反面、魔物の方こそが息を潜めて、俺に魅入られるように動きを止めてしまったかのようにも思えていた。
 海独特の磯の匂いに紛れて、風が砂とともに彼の香りを俺に運ぶ。その距離僅か数センチ。大概慣れてしまったこの近過ぎる二人の位置を、嗅ぎ慣れた香りによって俺は突然意識し始めてしまう事になる。思えば、これは本来あり得ない距離間だ。赤の他人と過ごすにはあまりに危険なその近さ。俺達はいつもいつもあと数センチ、不自然な程近接しながら寄り添い続けた二人だった。
(いつから?こんな……当たり前のように……)
 目も眩む、あまりに間近な王子のかんばせ。見惚れ染まる頬が恥ずかしくて、半ば強引に距離を取ろうと、そう思った瞬間の事だ。相手のマーカーを腰砕けにしてしまうあの美技発現の瞬間のように、虚を突かれた俺は呆気なく王子に抱きすくめられてしまった。
「痛ッ」
 それは問答無用の拘束であった。たった二本の腕の力が、俺の全身を無力にする。

「ね、ボクがキミの事ずっと好きだったって事、知ってた?」
 いつもいつも、近過ぎると思えるくらいの、ほんの僅か数センチの。驚く程近かった距離に今日気付いた俺に反して、魔物はその壁に手をこまねき続けていたようだ。俺が距離感を察して気を取られたと同時に、まんまと王子は俺を捕まえてしまった。骨をも壁をも砕かんばかりの王子の激情を、俺はその腕の力の強さで知る事となる。服越しでさえこんなにも痛い。息も詰まるほどの王子の。
「嘘でしょう?」
吸いきれない浅い息。ひ弱な戸惑いの言葉を返す俺を断罪するかのように王子は言う。
「何故?」
「だって今更だ」
更に強まる拘束の腕。でも俺は続ける。この力は理不尽の力だ。
「あんた、詫びるって俺を騙して、最後に滅茶苦茶にぶっ壊して終わらせるつもりか?」
「わかってるよ、何もかも遅すぎるって事くらいボクだって」
 ひょう、と強まる風が更なる砂と香りを運ぶ。その事で気付くのは詰まっているのは息ではなく、彼の力もそれ程はなく、ただ込上げてくる感情のままに胸が詰まっていたのだという事だった。それはまた王子も同じのようで、その初めて聞くような切迫の声色の芳香はまた、罠のように俺の全身を絡めとってしまう。

 遅い?何が?俺は自分で今更と言ったにもかかわらず、ギュ、と抱き締められているうちに何が何だかわからなくなった。そうして俺はやがて、俺の移籍の事実も忘れて、ただガムシャラに彼の背に腕を回してしがみ付くばかりになってしまった。
「ズリぃよ、王子」
 その声色の切なさに自分で驚く。大の男が二人で浜辺、馬鹿みたいにしがみ付き合いながら息苦しさの中で佇んでいる。もうお互いあまりにも抱き締めあって、互いの顔すら見えない中で、ただ声と心臓、うなる風と波の音。
「こんな、ズリぃ……今更だ」
「そうかい?」
「そ、ッスよ」
「ゴメンね?」
「謝らないでくださいよ、悪いとも思ってないくせに」
「思っているさ。でも」
「思ってない。自信たっぷりじゃねぇか」
「……」
「ま、そうなるのも仕方ねぇけど」
 時々黙ってしまう今日の王子。ますます強くなる彼の抱き寄せる腕。
「やっぱりあんたズルい。こんな土壇場で俺にそんな事言い出しちまって」
「うん……わかってる」
「だって、もうあと数日しか」
「うん」
 遅すぎた時満ちるタイミングへの切なさは感染し合い、そして相乗の効果をもって、俺達はただどうする事も出来ないままにひたすら、今後一層離れるであろう距離を今だけでもと必死になって埋め合っていた。
「今日新しいキミをまた知ってしまった。おかげでもっと知りたくなってしまった。こんなはずじゃなかったんだよ。信じてくれるかい?」
「あんたばっかり俺を知って、本当は俺だってあんたの事、もっともっと知りたかった」
「……」
「知ってもらって、沢山知って、そんな風にお互いもっともっと本当はこれから……なのに時間がもう」
「ん……」
「時間が……」
「うん……」
 焦りは心の昂ぶりを強める強烈な力だ。
「ザッキー、もう時間が」
「王子……」
 それは極当たり前の、二人で導き出した結論だった。

――だから残された時間はもう、出来るだけあんた(キミ)と

 何を言い合うわけでもなく、互いが互いにそれを察知し、同時に互いの腕は解かれ、それが俺達の初めてのキスであった。すればするほど渇望してしまうような、そんな息継ぐ間も惜しい程の口づけだった。

      ジノザキ