他人に依存しないのは
超絶自信家のジーノと意地っ張りザッキーのお話。「王子って、ほんとセックス好きですよね…」のシチュをはじめの頃と暫くしてからの頃とで比較。
「王子って、ほんとセックス好きですよね…」
「え~?まぁ、否定はしないけど、キミほどではないよ?」
「…あ。そのリアクション、懐かしい。」
「まぁね。覚えてたんだ?キミのことだから記憶にもないかと思っていたよ。でも、何回も同じ質問するとか無駄だと思わないの?ボクがセックス好きだって話はキミにとってそんなに大事なことなのかね。呆れるよ。」
あんなに濃厚だった体調管理だと称する二人のセックスの時間も、そのうちあの頃彼が言ったように飽きたのかドンドンそうでもなくなっていて、一時期そのことが赤崎を不安にさせていた。でも、ここ最近はこうして二人でカウチでのんびり過ごすだけでも十分彼が一緒の時間を楽しんでいるような感じがあって。セックスに飽きたとしても自分に飽きたわけではまだなさそうだなと少しリラックスできていた。
最近ちょっとずつ彼がセックスの時に変なことを試してくるのが気になっていた。だけど今の感じるこの気持ちの余裕からか、それは彼が飽きたのをなんとかしようとしているのではなく、色々と楽しく遊んでいるのだろうなと考えることが出来ていた。だからその流れを受けて、先ほどの“セックス好きですよね”の発言となった。なんというか、おぼれるような快楽を強烈に刺激し合うセックスというよりもまさに飼い主と飼い犬がじゃれあうような、優しい時間になっていたのを感じていた。それは性的快感だけではない、とても充実感のある時間だった。
「だって、俺、そんな言葉一つもわかんねーし。ま、英単語だからなんとなく想像つくけど。」
「ん~?ああ、ボクがジャンクセックスじゃなくてスローやバニラが好きだっていったことか。でもそんなの見りゃわかるでしょ?こんだけ一緒にサッカーしててわかんないかね?ナッツみたいなガサツな即物的っぽいセックスなんて嫌いに決まってる。奥さん可哀そうだけど、ま、他人の性癖云々言っても仕方ないしね?でも気の毒だよね。」
「なんか、セックスが変わってきたって質問して、そんな答えがかえってくるとか思わなかったし。てか何気に夏木さんディスるのやめてくださいよ。同意求められても返事に困る。」
「まぁねー。キミのことだからあれだね、また“もう、俺ら、ダメなんすかー”とかバカ言い出すかと思ったけど別にそうでもなかったから素直に答えただけさ。」
「なっ!」
「思ってもなかったなんて誤魔化してもダメだよ?きつめのセックス少しやめようとしたらいつも不安そうにしてたじゃない?もう、ホント、この子セックス好きで好きで、困っちゃったねーとかしょうがない子だねーとか思いながらしてたの気づかなかったでしょ?まぁボクもどんなセックスも基本楽しめるからガッツンガッツンしてたけどねぇ?テンションあがっちゃうとどうしてもバンバン入れたくなっちゃうじゃない。色々大変だったよー、あの頃。」
「はぁ??」
「当たり前でしょ?キミも随分手とか口とかでするのも上手になっては来てたけどさ。それでもね?気持ちがのってきたら素股でやるよりつっこんだほうが気持ちいいに決まってる。いくらボクが色々口では言ってたってキミ男なんだからそれくらいわかるでしょーに。なに?なんも考えてもみなかった?本物の馬鹿だねー、まあ、キミらしいけどねー。」
「!」
「あられもない姿でキミがこう、して、して!って据え膳してるんだよ?ボクはそのたびに心に葛藤を持つわけ。性欲とキミの明るい未来をね?こう天秤にかけて。」
お前はミュージカルでもやっているのかとでも思いたいほど大げさに手を広げ、朗々と誰に向けてか陶酔しながらこう続けた。
「どうする?あんまり激しい事をしてしまうと、この子の未来をボクはつぶしてしまうよ?二人のこれまでの努力を、こんな獣の一時的な欲求で台無しにするのかい?この子は馬鹿だから後先なんて考える知恵がないんだよ。ボクの理性にすべてがかかっているんだ、どうする?ジーノ!」
「……」
彼はちらっとからかうような目線で俺を見ているが、どうリアクションしていいのかわからなかったのでただポカンと口を開けて見つめ返した。突込み待ちだったんだろうか。まぁ、いいや。
「ってね。人の気も知らないでさぁ。口酸っぱく言ってただろう?アナルセックスを体が覚えちゃうとアジリティに問題が出てくるからダメだよって。本当にダメなの!!そういうのを日常的に楽しむ癖をつけちゃうのは!これはボクも昔痛い目にあってるからね。すっかり懲りたよ、もう二度としないってね!キミはホントなんも考えてないから煽っちゃって煽っちゃって、何度ボクが流されちゃったことか。そういう日のあとは、ボクの心は苛まれちゃって大変だったよ、とても眠れやしなかったさ。優しくて、デリケートだからねー。」
「あの…痛い目にって…実体験だったンスか…てか、やっぱりさりげなく責任転嫁してますよね。」
「なんかいった?」
「なんもないッス。」
「フフフ」
本音なのか、冗談なのか。いつもよくわからない、この人のこういうところ。ショックというか、呆気にとられたというか。確かにああいった時の王子が何を思って俺とやってたのかなんてしっかりと確認したこともなかった。不安な俺は彼が俺を貪るのが如何に自分に心をむけているのかの尺度にしていたのは事実だし、そうでなくても散々嬲られて体が我慢ができなくて泣きながら彼のモノをねだったことも数えきれないほどあった。一度覚えてしまうと、もう際限もなく、じらされ、時には断られ、射精そのものは叶っても一番欲しいものが得られず体中が苦しいまま帰宅することも多かった。そのことは、俺にとっては彼への忠誠を強いる完璧な調教の有り方なのだと感じていたし、それが自分の中の事実だった。今日の彼のこんな答えは俺にとっては心を軽くするものだった。するのもしないのも、どちらも俺を思っていたことだと説明してくれている。冗談だとしても王子の優しさを感じるには十分なセリフだった。何気にまた馬鹿扱いされているのではあるけれど、ちょっと照れくさかった。
「しかし、いろんな経験してるンスね…。セックス系の知識ってどうやって習得してるンスか?エロ本とか見てる王子とか想像もつかねーし。やり方とか。研究熱心だからやっぱ人知れず収集してるんスか?」
「…あのねー。ホント、キミ、そういうこと普通聞く?どうかしてるよね。恥ずかしくならない?」
「全然。」
「だろうね。」
「エロ本見るんスか?」
「あんなのくだらないね。お金の無駄。だからってエロ動画ですか?とか聞かないでよ?それもセックスするときのスパイスとしては使うこともあるけどそれそのものにはあんまり興奮とかはしないねぇ。そういうの見慣れてない女の子がテンションあがっちゃうの自体は面白いけどね。ボク自身は別にー。実物の方がいいねー、やっぱり。」
「そんなもんッスか。」
「そ。最近の人は逆な人も多いみたいけどねー?実物は汚いとかさ。動画どころか絵じゃないと抜けないとかさ?それって生物としてはどうなの?おかしくない?人類滅亡しちゃうよね?ま、それ言ったらゲイも一緒だけどさ。女の子に立たないとかなんか気の毒な気がするよ。実物って自分でするより断然気持ちいいのに~。」
「…あぁ、王子って相手が下手くそでも他人とするほうが好きだっていつも俺に悪口言ってますもんね。」
「悪口じゃないでしょ、好きだっていってあげてるのに、ひねくれてるねーキミ。偏屈だよ~そういうとこ。」
「…ま、いろんな人いますよね。(あんたみたいな変なのもいるし)」
「そうだよね。あ、そうそう、この前思ったんだけどさ、あれだよね、パッカ君とかで抜くようなフェチな人とかもいそうだよね?着ぐるみフェチ。考えたことない?そういう人いたら話きいてみたいよねー。」
「いつ、なんでそんな発想でてくんのかもさっぱりわかんねッス。」
「おかしいかな?だって、なんかああいうのに蹂躙されたい子とか、いそうじゃない?」
「どうッスかね…」
「いるんじゃないかなぁー?」
王子があくびをしながら眠そうに返事をしている。結構すごい話をしている気がするけれど、彼にとってはどうでもいい日常会話なんだろうなと感心というか呆れるというか。恥ずかしいと言いながら全然気にもなっていないようだった。
最近こうしてこの人があまりにものん気な様子なので、彼の話す女性関係の話も前に比べたらそんなに嫌悪することもなくなってきていた。この人にとっては本当に俺の存在とロマンスと彼が呼ぶ女性との情愛の世界とは別次元のものなのだ。この俺達の関係を彼は“特別”で“喜ぶべきいい関係”と呼ぶのだから、俺もそう考えてもいいはずだ。
「パッカフェチって何考えて生きてんすか…。ま、いいけど。」
「いいんならそんな言い方しないでよね、傷ついちゃうじゃない。」
「それにしても…あんた、ホントいろんなこと無駄に詳しいッスよね。あんたが過去やられまくってたっていうのも意外というよりまあなんか納得できる部分もあるけど。ゲイじゃないっていうけど普通に生きててよくそういう人にも簡単に遭遇できますね。あとアニオタの話があんたの口から出てくるとも考えたこともなかったし。交友範囲広すぎ。」
「なにそれ。なんかボクのことまた宇宙人扱いしたがってる?なんにしても世の中にはこんなに人がいるんだから別におかしいことじゃないよ?普通に話してて、普通に交流してるだけさ。時々日本人は未だに鎖国でもしてんじゃないの?って思うことあるよ。世界はもっと広いし、かつ手に届くほど近いものだよ?つまんないね、そういう狭い世界観。」
「オ…俺はそんなに世界は遠いなんて思ってないッス!」
「当たり前。キミがそうじゃなかったら今こうしている意味もないでしょー。当たり前のことが当たり前だってわかってないのは不満だね。バッキーなんてその典型。才能の無駄遣いは世界の損失だよ。」
「…あんた椿のこと好きですもんね…」
「そうだよ?キミも好きでしょ?ほんと、あの子もロスが多いよ、全く。」
椿の件については何度か衝突したことがあったけれど、最近では彼の中で椿がどんな存在なのか少しずつわかってきた気がした。俺の考えているような不純な気持ちなどひとつもなく、だからこそ、それを嫉妬して咎めるような態度の俺が気に食わないのだ。そうして今のように何度も俺に言う。キミはバッキーのこと好きなんだよ、と。心の中のこのモヤモヤはあくまでも俺自身の勘違いであるのだと、何度も何度もこうして言うのだ。
最初の頃は聞きたくもなかったけれど、最近ではスッと心に入ってくるようになっていた。そう、多分俺は椿のことが好きなんだと思う。王子のことがなければ最初から普通にかわいい後輩として面倒をみていたはずだ。まぁ、屈折しているからそれをうまくやれてたかどうかはわからないけれど。何度も落ちる雨垂れのような彼の言葉は、俺の心の形を変えていく。それはそれはとてもキレイな形に。俺は椿には時々辛く当たってしまうこともあるけれど、それでもそれなりにあのビビりにどう接すればいいのか、わかってきていると思う。こうした王子との生活で身に着けてきたいろんなことが、結果的には最善の形になってきていると感じる。ライバル心だけでない、王子と一緒に彼を育てているかのような、そんな気持ち。チームメイトなのだから当たり前なことだけれど、今までユースでやってきていても頭では連携のことはわかっていても心の中では周りは全部ライバルだという認識で。自分の中にあるそういうチームとしての、この王子が見つけて教えてくれる俺の中にある一体感を求める思いに全く気づいていなかった。
彼に出会わなければ一番重要なものが欠落した最悪の選手になっていただろう。ETUはステップだと思っていたけれど、彼との出会いに本当に感謝している。それと同時に、なぜ?こんな素晴らしい選手がこのチームでこうしているのか、不思議な思いと間違ってるという不満がでてくるのも確かだった。
「でも、世界の損失って言う割には、あんたのプレイスタイルはどうかとも思いますけどね。」
「ん?ボクはこれ以上ないくらいに最適な仕事をしているつもりだよ?」
ちょっとムッとして王子は答えた。
「だって、陰でこんなにスタミナづくりしてたり、プレイ向上に取り組んでるのに、現場でその半分も発揮してないじゃないッスか。そういうのは…あんたのいうロスとは違うんスか?」
「バカだなー。やらないのとやれないのとは意味が違うだろう?必然性が出てきたらいつでもやれるように準備しておくに越したことはないのさ。ロスなんて失礼じゃない?」
「その必然性のジャッジのポイントが人とは違うンスよ…」
「ま、それはそうかもね。でも、わかる人にはわかるから。」
「その自信、どっからきてんですかねー。あんたの経歴を知りたいっすよ。謎が多すぎる。」
「どっからって簡単だよ。根拠のない自信は単なる過信。最善を尽くすことで自信を構築するんだよ。その基礎をキミに教えているというのに、いまだによくわかってないのかい?心が揺れてしまうのはまだ限界まで自分を追い込んでいないからさ。そういうことが楽しいとでも思えるようにならないと次には進んでいけないよ。世界を目指すというキミの言葉が本物ならね。当たり前のこと。その年で気づけてないのは少々遅いよ?」
「本気ッスよ!」
「フフフ…だよね。じゃなかったら相手してないって。キミのいいとこだよ、楽しそうでなにより。ま、ボク自身はぜーーんぜん世界なんて興味ないけどさ。」
「…そこまでわかってて、最後にそうなるのがどうもわかんねぇ…それこそ世界の損失って思うのが普通だと思うけど。最大のロスじゃないッスか?」
「そう?人には向き不向きがあるからねぇー。好きなことを好きなようにやるのが好きなだけさ。多分ボクはそういうガンガン上を目指すタイプじゃないんだよ。」
「何言ってんだよ!」
「わー、びっくりしたー。なに?大きな声出さないでよー」
そう、この人は何事にも客観的で、こんなに大好きなサッカーに関しても一事が万事こういうことを言うのだ。これだけの能力を、これだけの努力で支え、しかもそれを徹底的に隠し、ピッチではその力の半分も出しているとは思えないあり方。なんだか、イライラした。なんでだ。どうしてそうなんだ。
「…上を目指さない男が、上を目指す男を育てることはできないと思うッス。」
ムカついて、考えもなしにこんな言葉がでてきた。…いきなりなんてわけのわからないことを。俺は本当にダメだ。油断すると、どうしてこう、人に対して嫌な言い方しか出来ないんだろう。言いたいことが、違う形で出てしまう。せっかくいいムードで二人で話をしていたのにと情けない気持ちでいたら彼の顔色がふっと変わったのがわかった。
「ああ、考えてみたらその通りだね、ボク全然気が付かなかったよ。これは困ったねぇ?どうしようか、この遊びもう終わりにしちゃう?」
飼い犬の偉そうな言葉にキレると思ったのに、王子はなんだか妙にあっけらかんとしていた。突然のお別れをのん気に口にする王子に、ずっと傍にいて欲しくて、気付いたら飛びかかるように抱きついていた。きつくきつく、王子がここから逃げ出さないように。カウチに二人倒れこむ。
「痛ッ、ちょっ…」
痛がってはいるけれど、そのまま身を預けている彼に少しほっとした。俺の気持ち、簡単に弄ぶなよ王子。
「加減を考えて・・よ…キミ、自分の力…わかってな…」
そういいながらも、首を振ってしがみつく俺を振り払わない。それをいいことにさらに力を込めて抱きしめる。傍にいてほしい。もっともっと、傍に。
「あんた、自分のことがわかってないんだ。だから悔しくて!」
「…なにいってるんだい、ハハ…」
「上を目指さない男が、上を目指す男に興味を持つわけがないだろ?あんた、頭いいのに、そんな簡単なことわかんないのか?自分でおかしいと思わないんスか!?」
「…ザッキー…」
「俺より、あんたの方がバカだ。あんたのことわからないことだらけだけど、あんたがわかんないあんたのことは俺はわかってると思う。そういうとこ、沢山ある!」
「……」
「なんか、ややこしくて、なに言いたいのかわかんなくなってきた…ケド…」
「…フフフ」
「なんだよ!笑うなって!俺おかしいこと言ってるってまたバカにしてんのか?!」
「取りあえず…もう少し…これ、緩めてくれない?」
いつもどれだけ俺が乱暴に暴れても簡単に組み敷いてしまう彼のことだから。いくらでも形勢は逆転できるだろうに何度もそうして俺自身に手を緩めるように言ってくる。抱き返してくることもなく話すように命令する彼の言葉が悲しかったけれど、大人しくそれに従った。
「いい子だね。ありがとう。」
腕を緩めたことを褒めているのか?不安と闘いながら耐えているのが彼には見えているのか?本気なのか試しているのかからかっているのか、こういう時の王子の心は本当に全くわからない。表情がまるでつかめない。暖かくも、冷たくも、楽しくも、悲しくもない。なんでこういう顔ができるんだ。この顔は嫌いだ。言葉がとても暖かく、それだけにその違和感は耐えられない。
「なんスか…それ…わけわかんねぇ…」
無意識に彼の唇に自分の唇を寄せる。無反応な彼のそれに、どうしていいのかもわからず、ただただ寄せるような口づけを長く長く。何度も何度も。無反応な唇。無反応な体。眠り姫の物語の王子は、キスをするとき、姫が死んでいるとは思わなかったのか?俺はそんなこと、とても耐えられない。恐ろしくて仕方がない。でも、体が自然に彼を求めて、やめられない。蘇生するかのように、ねぇ、どこにも行かないでください、傍にいるって言ってください、俺は一人ではいられない、と何度も何度もキスを。繰り返す。そうするうちに、まるで子どもをあやすかのように寝かしつけるかのように彼の手が俺の背中をゆっくりとポン、ポン、ポン、ポン、と叩いた。それに気づき、唇を離す。
「フフフ…キミは本当に面白い。」
「やっぱバカにしてんだろ…なんだよ、それ…腹立つ…」
「そういう反応も、面白いよ。」
「俺は全然面白くねぇよ。」
そうして、また、俺は唇を寄せる。何回も何回も。悲しくなって、また涙が出てきた。この人の前で俺は何度泣けばいいんだ。女々しくて情けない。幼稚園以来泣いたことなどなかったのに。俺はあまりにも不安定だ。
「フフフ」
「笑うなって!」
「…だって、キミからこうしてキスされるのって、考えてみたら初めてなんだもの。」
「!」
「ちょっとじれったいけど、こういうのもいいね?」
「~~~知らねぇよ!人の気も知らないで!」
「ん~、そうかな?わかってるよ、キミってホントにボクのことが大好きだってね?飼い主冥利に尽きる。」
「な!なんだよそれ!」
「ボクはかわいい愛犬にふさわしい理知的な飼い主だよ?キミがどこに遊びに出掛けようが、ボクはボクでいつでもこうして家で待っていられるさ。だって上だろうとどこだろうとキミがなにを目指したって、キミがボクから離れられるわけないだろう?」
「なんスかそれ…」
「自分で勝手に出て行って、あっち向いたりこっち向いたりして、目の前にちゃんとある飼い主の家を見失うなんて。キミって本当にバカな飼い犬だ。」
「な!あんた今別れるって言ったじゃネーか!」
「フフ、かわいい。」
「かわいいって言うなよ!あと馬鹿も!」
王子は声をあげて笑ってチュッといたずらのようなキスを唇に寄越す。そうして次は急に優しい笑顔で顔を寄せ、そっと触れるようなキスをした。
「知っているかい?地球って丸いってことを。さあ、キミの言うところの上って一体どこなんだろうね?ボクに教えてくれないかい?」
今度はいつものように優しい腕を赤崎の背中に回して引き寄せ、深くて甘いキスをした。
「ほら、考えてみてよ。ボクは上なんか目指さない。そんなことは必要ない。だってボクはいつだってこうやって上からキミを組み敷く支配者じゃないか。」
そのまま彼は猫のように滑らかに体勢を入れ替えて上から俺を見下ろした。彼の甘いキスの味におぼれながら、ああ、王子、とだけ呟くのが精一杯だった。
