お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

とある雨の日、ベッドの上で

【3078文字】
猟犬が飼い犬を卒業したあの日のことに関する、出来ているジノザキの雰囲気雑文
じっくり時間が取れないもんだから長文のやつグダッてきたので、習作でちょっと気分転換をば……

        ジノザキ ,

 とある雨の日、ピッチの上で、俺は初めてそれを目にした。選手と小競り合いになる情景、肩で息する、疲弊の王子。それは自分でも驚くべき衝撃であった。
 かの人は自分の心に素直でいて、感情表現がとても豊かだ。けれども、どこか常に冷静であり、沈着であり、激することとは無縁に思えた。彼のあの強さはまさにプライドの高さと同じであって、素を晒すことは死に値する恥辱の如く、いつでも不動の心でそこにいた。
(王子……)
 中盤のぽっかり空いた広大なスペースを、あの雨の中を、彼は重い足取りながらも埋め続けていた。今まで見たこともない姿だった。変な話、あれを見て初めて、俺は王子が『人』であることに気付いたのだった。
 雨、汗でしとらせたその黒髪。抑えようにも抑えきれない荒い息。涼やかさの失われた熱帯びた頬。その血の巡りから想像するに難くない、激しい動悸、『生』の証。

 監督が彼にそれを強いたのだ。
 そして、彼はそれに従った。

 『全力を尽くすこと』からほど遠い選手が、おそらくは限界を超えてそれをした。俺は、あの日ほど王子のことを、美しいと感じた時はなかった。また、彼の匂いの混じる湿度が全身を包んで眩暈も起きた。びしょ濡れになりながら交代直前まで走った壮絶なまでのその不屈は、今でも俺の心を捉えて離さないままだ。以来、時々彼のような顔が出来ているだろうかと、鏡を見つめる癖もついてしまった。俺はこのチームの副キャプテンであり、チームを支える使命があった。

(うわッ、ビックリした……またかよ……)
 そして、そんな時彼の視線を感じるのも、珍しくない出来事になりつつあった。俺がそれに気付いて驚いてみせると、王子は必ず僅かに笑った。
「何スか」
 時折、不満げに声を掛けてみても、返事がくることは皆無であった。俺はそこに揶揄を感じた。

 夜、ベッドの中で二人の時を過ごしながらも、俺はいつでも考えていた。
(チクショウ、また……)
 翻弄されるのは必ずこちらで、手玉に取られて悔しく思った。好きなのはどんな時でも俺ばかりで、慈悲やお情けを与えられている気がした。俺はいつか一度でいいから、あの日の彼に抱かれたかった。寝乱れる王子を見てみたかった。
(結局、俺がまだまだ……っつうことだよなぁ)
「ん?何だい?」
 時折、不思議そうに問う王子を見上げながらも、俺は返事が出来ないでいた。目の前にはただ大いなる存在があるだけであり、そんな相手に嫉妬するちっぽけな男の、その惨めを覆い隠すのに精一杯だった。俺はいつでもそわついていて、彼はいつでもそれを宥めた。

*

 何故かその雨の晩は、あの日の話題。王子に責を負わせたのは監督であったが、その確固たる信を理解させたのは椿であると彼は言った。基準点をセイフティな位置に設ける癖のある自分の殻を、二人が叩き壊したのだと笑って言った。
「手厳しいよね、あの子にあの人」

*

「どうしたの?ねぇ、待っ……」
 そこからの俺はもう滅茶苦茶で、自分でも訳がわからなかった。体中が燃えるように熱くて、怒りをぶつけるように彼にキスした。
「何だい?急に……ザッ……」
 やはり俺は何も言えなかった。返事のかわりに貪った。初めて、他人の服を脱がせた。王子は戸惑いつつも協力的で、それでもボタンひとつにも苦戦をした。剥ぐのにもかなり苦労した。されてもしたことのないようなことも、ドンドン俺はやり続けた。手で彼のそれに触れたのも初めてだった。口に含んだのも初めてだった。当然王子は喘ぐこともなく、けれどひっそりと息を詰めて、それでも、それなりに快楽を感じているようだった。変化していくそれで実感した。

 熱帯びるそこにはあの日の湿度と匂いの気配。よぎる記憶と、そして欲望。渇望し、満たされ、恍惚とした。今、王子を欲情させているのは、彼らではなく、この俺なのだ。
(やべぇ、めっちゃ興奮する)
 様子を伺うように目だけで彼を見上げると、虚空を彷徨う彼の視線が俺を捉えて、その時いきなりそれは起こった。
「ゴメンね」
「王子……?あッ」
 グルリと世界が一回転したと感じた途端、いきなり二本の指が俺を犯した。
「痛ッ」
「ゴメン、ちょっと我慢して」
サラリと二度目の謝罪の後は、続けざまの、過ぎるほどの彼の性急、痛み、激しさ、未知の感覚。強引な性交の圧の中で、嗚咽のような声が漏れた。どうにも堪えることが出来なかった。
「ザッキー、ゴメン、凄くいい……もっと声を……」
その時、ポツリと滴り落ちる水滴を感じた。それは王子の汗だった。初めて尽くしの不器用な俺の愛撫を受けた彼は、初めて赤裸々に俺を欲していた。とても綺麗な姿だと思った。

*

 あっという間に二人絶頂を迎え、彼は何度目かの謝罪をした。そのまま崩れ落ちてくる猫のような肢体を、俺はひたすら抱き締めていた。
「なんで謝るンスか?」
 不思議に思いながら王子に囁くと、彼は返事をしなかった。胸の上にはいつもの穏やかな王子がいるだけであり、でも不規則な呼吸と、微かに汗濡れる髪の毛先が、俺をいつまでもドキドキさせた。そして、今や俺よりも王子の鼓動のほうが尚激しいことに気付いてしまい、それでドキドキが更に増した。
「……痛かったろう?」
「いや、そんな……」
「嘘、キツかったはずだよ?いつもより慣らし方も乱暴で……ボク、あのままキミのこと壊しちゃうんじゃないかと……」
そうして、圧し掛かる体重が逃げていった。労りのために彼が体を脇に降ろしたのだとしても、俺は少々寂しかった。
「カッコ悪くって」
 自嘲気味に少し笑って、切ない表情で俺を抱いた。
「恥ずかしい」
「何がッスか?俺は寧ろ嬉しかったのに」
「ザッキー……」
「変な言い方だけど、初めてまともにセックスが出来た気がしました」
と言えば、王子も、
「……実は、ボクもそう」
と小さく言った。
「だって、ずっと怖かったし……いつでも誘うのはボクばかりで、なんだか一方的だと思っていたから」
そんなことを小声で言って、最後に、
「怯えてたって言ったら、信じる?」
と、付け足した。信じられるわけもなかったけれど、優しい嘘に感謝した。二人何度も肌を合わせながらも、今夜、心が初めて結ばれた。それは確かな事実だから。
(ようするに……今までの俺ってただのマグロだったってわけか……)
 含んで知った未知の味を、思い出しては頬が染まった。ありえないことをやったにしては、彼のそれがただ当たり前に愛しく思えるだけで、ちっとも不快なことではなかった。寧ろもう少ししていたかった。もっと味わっていたかった。
(思えば王子も、必ずあれを俺にしてくれてたよな……やっぱりさっきの俺みたいな気持ちでやってたのかな)
 彼はとてもうまかったけれど、それよりもあの人にそれをさせていること自体に、いつも俺は興奮し過ぎて、すぐにギブアップするようにそれを拒んだ。
(どうせなら王子でイキたかったから……もしかしてやっぱりさっきの王子も?)
 嫌われるかもしれないと思ったはしたない行為を、王子は寧ろ喜んでくれた。愛されているのだと泣きそうになった。俺は彼に甘えていたのだ。俺達には会話が足りなかった。
「……」
「ザッキー?どうしたの?黙り込んで」
「王子」
「ん?」
「も、もう一回とか言ってもいいッスか」
「え」
「いや、物足りないとかそういうんじゃなくて、すっごく良すぎて、だからこう、もっと」
すると王子は
「ザッキー、なんだかすっごくカッコいい」
と耳元で囁き、ペロリと舐めては甘噛みをした。
「でも、次はボクにさせてくれるかい?」

 湿った毛先の感触と、吐息と、鼓動と、彼の全てが心地よかった。

      ジノザキ ,