お花結び

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捉えどころなき俺らの水域

【17151文字】
赤崎入団1年前後、社会に出たなりの青くて若いフレッシュ崎と優しい先輩ジーノのお話(ポエム炸裂ェ)

        ジノザキ

 それはほんの数時間前。

 俺は練習が終わってシャワーを浴び、自販機で買ったスポドリ片手にテクテク廊下を歩いていた時、ふとある事に気付いたのだ。
(あれ?もしかして今週末の土曜日って)
 土曜日はホーム戦。ここ最近のそんな日は試合が終わった後に王子の家にお邪魔することが増えていた。
(やっぱそうだ。土曜日だった!)
 だから俺はいつものように人気がない事を見計らって、帰り支度をしている王子にこう話しかけてみようと思いついた。

――今週末の事ですけど、飯、どこ食いに行きます?
さりげなく、当たり前の様な顔をして約束を確約させてしまおう。そう考えるだけで心を弾ませ、足取りが浮き立ち、ああ、いけないと。抑えよう、努めよう、冷静に、冷静にと、いつの間にか俺はまるで忍者のような音を立てない歩き方になっていた。そんな自分に思わず苦笑いしながら、
(今の、誰も見ていなかったよな?)
なんて、
(俺はどう時々やる事が極端になるきらいがあるなぁ)
なんて、ふるふると顔を振ったりなんかしながら、軽く、ソワソワとした足取りで。
 何故なら、週末の土曜日は俺の誕生日で、別に王子に祝って欲しいとかなんて言うつもりもなかったけれど、ただ、土曜日で、ホーム戦で、そんな奇跡的な偶然に気付いた時俺はとても興奮したのだ、当然の話。
(今年の誕生日は、王子と夕飯食いに行って、帰りにあの人の家にお邪魔させてもらおう。またこの前みたいに俺ンちで映らない海外リーグの生中継をでっかいテレビで見させてもらって、王子には誕生日だとかそんな事は別に内緒のまま、単に二人で一緒に夜通しサッカーの話で盛り上がるんだ。それが、王子も気付かない、王子から俺への?なーんて?)
 そんなささやかながらも楽しい時間を俺にとってスペシャルな存在であるあの人と。尊敬するプレイヤーである極上のあの存在と俺の一年に一度の特別の日を過ごしたい。夢の実現がまるであつらえたように不自然なことなくやれそうなカレンダーの偶然が嬉しくて嬉しくて、なんだか格別な記念日のおかげで今後王子のご加護で自分にもご利益や幸運さえ巡ってきそうな気までして、それより何より、やっぱりあの人と過ごせる一時の幸せに喜びを感じて。俺は。

 だから。
 その時、俺の身勝手な邪心に対する王子の本音を聞かされたような気がして、ただ茫然と竦んでしまったのだった。半開きになったロッカールームのドアの隙間。丹さんと王子の話。

「冷たいなぁ、そういう言うなよ」
「いーや、言うね。ボクが人気者だからってそう簡単に客寄せパンダみたいな扱いしていいもんじゃないよ?」
「だからそういう事じゃなくて!」
「そういう事でしょう?っていうかタンビーはもっとボクの事を理解してくれているモノと」
「いやだからお前のそういう態度が相手によって変な誤解を招きやすいからこそ」
「へつらってまで理解されようなんて思わない。どうぞご勝手にだ」
「そうじゃなくて!わかれよそれ位、お前一体自分がいくつだと思っ」
「いくつでも関係ない。ボクは死ぬまでボクをやる」
「あー」
「キミが色々と気苦労が多いタイプなのは知っているけれど、そういう余計な事は是非ボクの関係ないところでやってもらいたいね」
 盗み聞くつもりもなく、耳にしてしまった。聞きたくも知りたくもなかった、王子の心。
「そんな楽しくもない場所にボクが行ったところで何の意味もないよ。っていうか寧ろそんなチンケな真似して喜ばれるシチュ自体最悪」
「そんなこと言わずに」
「やだなぁ、週末だよ?オフ前日に!超面倒くさい!」
「まあ、お前なら絶対そうなるだろうとは思っていたけど、でもそこをなんとか」
「ボクの出欠でどうこうなっちゃう程度の集まりならいっそやめちゃえば?どうせ盛り上がらないよ」
 その時、王子は如何にもクサクサするというような言葉をピタリと止めて、いきなり振り向いて息を潜めている俺を見つける。王子の目ざとさは私生活でも異常なレベルなのだ。
(ゲ、やべッ)
 俺が思うよりも早く、その、ふと交錯した視線の中には不快の色が灯る。俺は悪さが見つかった子供のようにドキリと身を竦ませた。けれど、おそらく反射的なものだったのだろう、王子の剣呑はスッと消えて、
「ねぇ、キミもそう思わない?」
すかさず、しれっと俺に何がしかの同意を求め、
「わー!ちょっと!駄目だって!」
丹さんが何故か叫びだし、
「え?な……何が……?」
俺は意味がわからず戸惑うばかりになった。
 その光景に王子は呆れたように大げさな溜息を一つ、しかしながらその姿もまた腹が立つほど絵になっていた。
「あのね?」
 ツカツカと革靴の音を立てながら王子は出口の俺のところまでやってきて、肩を撫でるように手を添え、僅かにしな垂れながら、
「なんかのパーティ?みたいよ?全くくだらない」
「あぁ、ご、合コンかなんかッスかね」
「とにかくタンビー、ボクは用事もあるから参加しない。パスって事でよろしくね」
「ジーノ、おい、待てって!」
「じゃ、また明日」
と白けた様子でそのままふわりと身を躱すように去って行ってしまったのだった。
 なんて事だ。俺は結局、王子に今週末の話を出来なかったどころか、一緒に過ごすチャンスさえ失ってしまった。
(王子、用事あったんだ。今週末……)
 浮き立った分だけ沈鬱の落差が激しい。予定と予想のピントがずれて、己の大ポカに俺は泣きたい気分だった。いや、穴があったら入りたい様な居た堪れなさ。
(一人で、俺、本当に馬鹿だ……)
「赤崎ィ!」
「わッ!」
 けれど、突然突き飛ばすかのように飛びついてきた丹さんのせいで現実に引き戻されて、暗い気持ちは払しょくされる。
「なぁ、なぁ」
「ってぇっつってんですよ!なんであんたはそういつも」
 俺の苦情もお構いなしに気安くヘッドロックをかけている。毎度のことで本当にムカつく!という態度をとるものの、実は不思議とこの人のこうしたナチュラルなじゃれつきは嫌いじゃなかった。それに今はとても救われた。
 丹さんは俺が何をどう言おうとおかまいなしで、こうしていつも、思い返せば初対面の俺がトップ入りする前のずっと前から彼は手は荒いながらも俺に対する親和的な態度を一切崩そうともしなかった。彼はまさしくこのチームのムードメーカーであり、その行動は端々に好意と繊細な気遣いすら感じさせて、だから俺もいつも安心してこの人とは遠慮ない話が出来ているんだと思う。
「突然ですが、今週末、君は俺達と飲みに行くことになりましたぁ!」
「はぁ!?」
「はぁ!?って、どうせ暇だろ?」
「どうせって……また今回も数合わせッスか?やってらんねぇなぁ、王子の穴埋めなんて」
「まあまあ」
「ったく……その合コン、可愛い子いるンスか?」
「勿論!その辺はバッチシまかしといちゃって!」
「あんたの言う事はいつもアテになん……」
「じゃ、決まりな?」

 狂いに狂っていく俺の歯車。いつもは嬉しい丹さんからの強引な遊びの誘い。この人幹事の合コンは、飛びきりの子はいなくても粒ぞろいで、機転の利くいい子が多かったりする。上手く彼女が出来ないのは俺の受け答えが偏屈なせいで、丹さんが仲人ヨロシク、あれやこれやと善意で俺に合いそうな子を紹介してくれているんだって事は口にせずともよくわかっていた。けれど、今日ほど返事に困る日はなかった。白紙になってしまった予定を埋めるにはちょうどいい。でも弱った心で行ったところで、気持ちが晴れるわけもなく。
 だって、今は俺は出会いだとかデートだとか、サッカー以外にパワーを注げる程余裕もなくて、色んな事で目一杯で。気を使わなきゃいけない事なんてまっぴら御免で。ああ、だからこそ、恋愛とはそういうんじゃなくて、そこから得られる安らぎが心のゆとりを生むんだ、と丹さんはいつも俺に苦笑いをして誘ってくるのだけれど。
 まあ、ともかくそんなこんなで。結局俺の今年の誕生日はなく崩しに、名もなき飲み会で過ぎ去っていく事が決定したのだった。

(あー、何て事だ……)

      ジノザキ