お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

捉えどころなき俺らの水域

【17151文字】
赤崎入団1年前後、社会に出たなりの青くて若いフレッシュ崎と優しい先輩ジーノのお話(ポエム炸裂ェ)

        ジノザキ

 本当にこんなに美しい人を俺は知らなくて、何故そうも彼が俺を求めてしまうのかも理由もわからず、けれど嘘臭い台詞の全てには真実味があった。その表情には真摯な意思が感じられた。
「キミにそうされると、ボク一体どうしていいのか……何だかわからなくなってしまうんだよ」
「・・・・・・スイマセンでした、笑いません、王子」
「本当?」
「王子自身も今のこの状況がよくわからないって事ですよね?多分」
何か言わねば。ただそれだけの事を思って言う言葉。
「そう。変だって事くらい何度も考えた。でも、だからこそそんな反応されるととても辛い」
「ですよね。だからスイマセン。実はなんか俺も本当はよくわかってなくて、王子の事、俺の事」
「キミ、も?」
性急さが止み、ジッと聞き入るような目をする王子に、俺も落ち着きを取り戻す。王子は本気だ。そして冗談でもからかうでもなく、本当に誠実なままに思いを伝えてくれている。ならば、俺にしても真剣に今この時と対峙すべきなのだろう。俺のそんな思いが伝わったのか、やはり王子は静かに俺の言葉をひとつも聞き逃すまいと見つめ続けていた。
「普通に、俺も王子と居ると楽しいって思っていたし……結構前から。まあ、嫌いというよりは寧ろ好きなんだなぁっていうのは、実際問題、確かッスから」
 俺がそう言えば嬉しそうに笑って、
「今こうして一緒に居られる事自体が冗談みたいで、あ、冗談だなんて語弊があるか。光栄って言うんですかね?とにかく俺そんな気持ちで一杯なばっかりで、だから一緒に居るだけじゃ、っていうより一緒が当たり前に思えるまでまだ到達してないっつーか、それこそ俺の方が今、状況理解しきれなくて何が何だか」
こんな事を口にすればまさに花開くように王子は綻び、飛び付く様にキスを求めて、
「待った!だから全然俺そこまでたどり着いても、ねぇ!待てって!」
制すればみるみる萎れてしまう。全力で(というよりも寧ろ大袈裟に)愛を伝えるこの手法は、イタリア独特の文化と聞いた。けれどそれを目の当たりにすれば、文化か、それとも彼自身の本質的なものなのか、わからなくなる。でも、涼やかないつもの姿とは似ても似つかぬ、驚く程の情熱を秘めているのだという事だけはよくわかった。
「王子、俺の事、そんなに好きなンスか?」
「うん、好きというより、うーん」
「いや、あの、ちょっと、そういう反応されると、また更にわかんなくなるっつーか」
王子は自らの想いを突き詰めすぎているのだろうか?
「駄目かい?好きは好きなんだけど、もっとこう、なんていうんだろう?上手く言えないんだけど」
適切な言葉が見つからないと王子は言う。誤魔化しではない事を信じたいのに、その度俺の心が揺れる。ハッキリと、いつものように明快過ぎる程の言葉が欲しい。
「いや、その、つまり恋人みたいになりたいって意味?ッスかね?……とか、なんだろう言っててめっちゃ恥ずい」
「みたいじゃなくて、寧ろ……うーんやっぱりよくわからない」
「わからないって言われても」
「そうだよね。あやふや、困るよね?でも、うーん、なんだろう?ともかくこう、一緒にいて、それで、うーん、恋人?どうだろ、そういう事なのかなぁ。でもなんか少し彼女達とは違う感じなんだよね」
身振り、手振り。確かにそこは表現力豊かで、けれどその割には。
「何?」
「その肝心なところの言葉を濁しちゃうのはわざとなのか、天然なのか?それとも王子、照れてます?」
「?」
「だってそうでしょう?」
「そうかな。よくわからない」
「俺、そんなじゃわかりません」
「だよねぇ」
やっぱり、誤魔化しているのかといえばなんだかそうでもないらしい。今王子が何を思うか、それを表現しきれるような、そんな言葉が見つからないのだと、眉を寄せる王子が繰り返し言う。
「でも、わかる事はあるよ?」
「?」
「キミと一緒に居て、どうしたいか」
「……」
「そして、ボクがこの気持ちをキミにどれ程わかって欲しいと思っているかもね?」

 だからもう、ただ当たり前のような仕草で。
「あとは、そんなボクをキミが知りたいと思うのか、知りたくないと思うのか。それだけなんだろうとは思う」
 返事も出来ず。
「伝える術は一つしか知らない。でも、そうするに当たっては絶対に無理強いしないよう、努力したいとは思っている。だってボクはキミの事が本当に大切だから。キミが喜ぶ為ならなんだって出来るし、というか、出来る自分でありたいと思うし、今は伝える為だけにそれをしたいし、そうするつもり」
 俺はただ瞬きする度に変化していく王子のその姿に見惚れるばかりで。
「そういうのって、結構ボクとしちゃ珍しい事なんだよ?知ってた?」
 その唇や指先はまさに俺を喜ばせる為だけに存在しているかのように全身くまなく触れて回る。だから俺は本当にあやかしに化かされた憐れな村人のように、呆然としながらその行為に甘んじていく事になった。
「んッ!」
「ゴメン、痛かった?」
「……いえ……へ、平気ッス」
 王子の行為はくまなくその思いを伝えてくる。少しでも俺がよくなるように、欠片も怖がらなくて済むようにと、行き届いた配慮の数々に溢れかえって、俺は身を以ってそれを知る。これが王子の伝えたいものなのか、と、そんな風に体中に沁み込んでいく。
「無理しないでいいからね?やめとく?」
「だ、大丈夫です。だから」
「急ぐことはないよ、こういうのはまた今度って事でもいいんだし。まあ、それもキミがよければ、の話だけどね」
優しい言葉。けれどその陰に例えようもない暗がりを見る。
「違うでしょう?『今日のうちに』だ」
 この時の少し戸惑う王子の様子に、自分の予想が確信になる。何故俺があまりにも意味不明な今を受け入れているのかの、その明快なまでの理由の一つだ。俺は、王子が過去に口にした言葉を思い浮かべながら、「今」というこの時の持つ深い意味を俺がきちんと理解している事を王子に伝えていく。
「『埋め合わせはまた今度』なんて絶対許さない、今日の埋め合わせは今日のうちじゃないと何の意味もない。あんたはっきり俺に言った」
 王子が何を思ってこの時を作ったか。それに気付く事なく、少しでも俺がブレれば、きっと。これは確信だ。
「わかってンです。今日無理なら、もう俺達次なんてないって事くらい。だって王子、今日の事全部、単なる勢いでやってるわけじゃないんでしょう?それも俺に説明してたし?」
「……」
「あんたは逃げた人間を走り回って探すような人じゃない。それに、一度決めた判断を俺が覆す事なんてない事もよくわかっている。だから、今日の魔法が解けたら全部終わりだ。そういうつもりでやってるんでしょう?」
王子は返事をしなかったけれど、長い前髪をサラリと掻き上げた。まるで俺を試しているかの様でもあった。

*

「だから王子」
この思いや、こうする事のはっきりとした意味など、俺は決してわかってなどいなかった。でも、王子は思いを俺に伝えたいと言い、そして、
「俺はさっきちゃんと知りたいって決めたから。あんたは?違うのか?」
「……そう、だったね」
この場にそぐわない、とても厳しい表情だった。だから、あれが王子が本当の意味で腹を括った瞬間であったのかもしれないと俺は思った。俺達のこれが一体何であるのか。俺も、そして結局のところ王子もまたしっかりとした意味が多分わからなかったせいだろう。いつも軽やかに道をいざなう王子もまた、この時ばかりは先見えぬ霧の中を俺とともに歩いていただけであり、それでもこの俺の手を引こうと決意をしてくれたのではないだろうか?これは単なるセックスではない。それだけは二人の中の事実だった。

 そうして、俺は王子とのこの時の中で、王子の言っていた、一緒に居るだけではいられない、こうなってこそ得られる、そんな痛烈な幸福を感じる事となった。その瞬間王子が何を思っていたかなど、やはり何も俺にはわからなかったけれど、ただひたすらそれをしている間中、少なくとも俺自身はとても幸せな世界の中にいた。いられた。確かだった。それはおそらく、全部、王子が俺に伝えたかったであろうもの、そして実際に与えたものの全てであったのだろう。

      ジノザキ