捉えどころなき俺らの水域
【17151文字】
赤崎入団1年前後、社会に出たなりの青くて若いフレッシュ崎と優しい先輩ジーノのお話(ポエム炸裂ェ)
「大丈夫……だった、かな」
「女にもそういう事、訊くンスか?終わった後」
「もう、意地の悪い事を言うねぇ」
そうして、王子はキスをする。
(うわ、気持ちいい……)
キスの行為は相手が女でも男でも、王子のそもそもの実力を発揮できるといったところか?それくらい、とても手慣れている感が実際あった。行為が終わった後もずっとこうして、これは王子の癖なんだろう、延々と飽きる事無くそれを続けていた。本来男は事後はとても淡白になってしまうものなのに、何故なんだろうか、穴の開いたコップに延々水を注ぐみたいに王子はずっとそれをするし、俺もまたそれを楽しみ続けていた。
(なんか変な感じだ……でも、全然嫌じゃない)
キスの合間に王子が笑いながら。所謂これまた男ならうんざりなはずの、ピロートークというモノを続けている。眠って起きれば忘れてしまう程くだらない内容、そもそも意味自体がない会話。なのにやはり俺の心は楽しい思いで満ち溢れていく。言葉の隙間にウットリと王子のキスを受け入れていれば、それこそ終わりがないみたいに延々とそれは続く。飽きもせず何度も王子は繰り返し続けて、やがて、
「ね、王子疲れませんか?」
と俺が問えば、
「疲れる?何が?」
などと、やっぱり綻ぶように笑う。口づける。
王子にはキスが思いを伝える手段で、伝える事が彼の心を満たすのだろう。ともかく、もうとっくに今日は終わって明日になって、それでも王子は魔法よ解けるなと、そんな素振りでキスを続けていた。
「ね、もう寝ましょうか」
俺の台詞に返事もしないで、このキスがもう最後のキスのようにそれを欲する綺麗な人。コンコンと湧き出る涸れない清水を、もう一口でも飲んで欲しいと俺に注ぎ込んではまた笑う。
「王子」
それでも忍びないとまた一つ。
「あれでしょ、明日はリカバリだし」
やっぱりまた一つ。
そんな中、次第にわかってくる事がある。王子はきっと幸せだ。でも、もしかすると。
「ねぇ、王子」
つまり、一緒に居たいよりももっと強く、離れられないとでもいうような?満ちてしまったが故に、今、一人喪失の不安の中にいるのではないのか?
「ん、もうちょっとだけ」
更に一つと俺をつまみ食うそんな王子に、だから、俺は初めて自分から。
「わかりました。じゃ、これで今日はおしまいですからね?」
そう言ってきつく王子を抱き返して、王子に負けない熱いキスをしてみた。
王子は突然の事に僅かに竦んで、それでも嬉しそうに受け止めてくれた。最後には僅かに甘い息さえ漏らしながら、王子はふわんと遠い目をする。
「じゃ、おやみなさい?王子?」
「ん……、おやすみ……?」
俺は上掛けをかぶりなおして、王子の事をポンポンして。
(王子、これで少しは眠れそう?……かな?いくら涸れないからってちょっとは蛇口しめとかねぇと、流石に見てらんねぇ)
これ以上出来ない程体と体をくっつけあって、もう離れないと一緒に眠った。体を合わせてそれから気付く。俺が本気で好きな事。怖くて怖くて色々誤魔化し、それでも丸ごと王子はそんな俺の事を愛してくれた。手招きをして城に呼び込み、ようこそ、ようこそと満面の笑みで。
――大丈夫、怖くないよ
ゴソゴソと身じろぐ俺をまるで母親のように抱き込む王子は、全身全霊で愛の魔法を掛けているように思えた。笑わないでと言った人は、好きだ、好きだ、と、全部忘れてもいいからと俺の退路を残したままに、そうしてありったけの気持ちで何度も何度もキスをした。そんな王子は、キスを返されてようやく、安心を得た子供のように眠りに落ちていったのだった。
*
(あれ?そうか、もしかしてまだ俺、王子に一回も?)
すっかり夢の住人となった、ぐっすり王子の胸元で囁く。
(明日、ちゃんと伝えなきゃ。俺だって王子の事……)
きっと、愛を囁きキスをすれば、眠れる王子はまた目を覚ます。そうして彼は渡した以上に、再び俺に返してくれる。寄せては返す波のように、俺達は互いに魔法を掛けあう。もう二人がどこにも行かずにいられるように。
(王子、王子、ねぇ、聞いてください、俺ね?)
大好き、大好き、感謝を込めて。
そうして俺も向かったのだ。俺の誕生日にこれまでの人生で一番の「特別」をくれた、そんな王子の眠る幸せの夢の海へと。
