【お題】泡沫の夢より
【10940文字】
秋ごろ書いていた習作詰め。
Twitterのお題bot「泡沫の夢」さんからお借りしました。
殆どワンドロ未満。イメージはひとコマ漫画的、一部連作っぽいものも。番犬海外移籍前提の悲恋設定多め、脳内で再会妄想の補完ヨロシクお願いいたします(丸投げ)
理由なんて、作ってしまえば良いだけの話だった
— 泡沫の夢(手動お題) (@ut_dree) October 11, 2015
<SS>
サッカーの話がしたい。知りたい。もっと。最近、特に王子の話が聞きたい。日頃ピッチの上で何を考えているのか、何をどうしようと思っているのか、俺はそういう事が物凄く知りたい。教えて欲しいと思っていた。
勿論、直接質問もした。けれど言ってくれるはずもない。たかだか名前もうろ覚えの後輩、ようやく認識した程度の関係。至極当然の話ではあった。
*
「王子の家ってCS映るんですか」
「ん?まあ」
「じゃ、今日のCLの試合、王子んち見に行ってもいいッスか?」
ドン引きする顔の意味もわかる。非常識レベルな言動かと思う。でも俺は屈しなかった。力押しで何とかなるような相手ではないのだとしても。結局こうする他には、なんら手段がなかったからだ。
勿論断る方法も想定済みだ。
「でも、うちじゃ映らねぇから」
「それはあれですよ。貧乏なんで国内リーグの契約で手一杯で」
「勿論確認済みですよ。でも知り合いとか皆お財布状況、似たようなもんで」
「周りで高給取りなのあんたくらいだし」
「テレビもきっと大きいんだろうし」
「どうせその上見てねぇんだろうし」
「遊ばしとくだけなら勿体ねぇから。そう、せっかくならって思いませんか?」
「デートで留守なら尚気楽です」
「いや、ちゃんと迷惑にならないよう、王子が留守でも大人しく出来ます」
立てつづけに言い返す俺に辟易。そんな王子のゲンナリが面白い。とても変わった男ではあったが、基本的にこの人はいい人なのだ。
(やっぱ怒らないんだなー。意外と)
ともかく懐に入ってしまおう。それが俺の考える作戦だった。
*
そんなリカバリの練習帰り。俺をまこうとするのも予想済みだ。よくない事だとわかっていても、王子の自宅は特定済み。王子のデカい車とは違って、小回りの利く俺の相棒は最高だった。混雑する道を避けて、スイスイ裏道をカットイン。俺はとっとと先回り。マンションのところで待ち受けた。
その様子に絶句する王子に、俺は言う。
「出掛けるんでしたよね。ちょうどいい。このまま一緒に入って留守番してます」
本当はやり過ぎなんだってドキドキしていた。怒られなくてホッとした。
*
観念した王子は俺にとても優しかった。卒なく俺をもてなしてくれる。本当に大人な態度だと感心をした。突然訪れたにもかかわらず、王子の家はとても綺麗だった。何もないと言いながら出された食事はすごく美味で、食後のコーヒーも最高だった。
食事後の王子はまるで俺がいないかのように、マイペースに自分の日常を過ごしていた。クラブハウスでも入っていたのに、風呂から全然出てこなかった。出て来たら出て来たでまた王子はコーヒーを飲み、ソファに寛いで雑誌を眺めた。気に入ったものがあったのだろう、印をつけては手帳にも書き込み、何やら考え込んでみたり、立ち上がってみたり。置き場でもイメージしていたのだろうか?
(本当に用事があって出掛けてくれてたら、まだマシだったんだけど……)
王子は、自分の事など気にしないで、俺も自由に過ごせと言った。けれど、俺もそんなに馬鹿ではないので、自分の非常識について考え込んだ。ここまでゴリ押しで迷惑をかけて、何も得られなかったでは本当に馬鹿だ。
「ザッキー、はい、これ」
「?」
ポスンと渡されたのは部屋着だった。
「よくわかんないけど試合、夜中だよね?泊ってくつもりなんでしょう?」
「え……いや、いいッス、そんな。このままで全然平気で」
「僕が平気じゃないから言ってる。出来ればシャワーも浴びて着替えてくんない?」
外着のままでうろつかれるのは不快なんだよ、と。気を遣わせて恐縮する。
「いや、別に怒ってるわけじゃないさ。君、全然邪魔にならないしね」
「……はぁ、どうも」
「試合が観たいならまた来るつもりなんだろうし。なら最初にお互いの無理のない生活について理解し合った方がいいものね」
思いもしない一言が続き、俺は恐縮を超えて動揺する。
「そろそろ僕は寝室に行くけど、君の部屋はあそこ。テレビはお好きにどうぞご存分に。朝は僕の事は放っておいて構わないから、帰るならその旨メモ置いて帰って」
ニコニコと立て続けにものを言われて、俺はただコクンと頷くしかない。
「ごゆっくり」
クシャクシャと頭を撫でられて困惑する。俺は受け入れられ過ぎてしまい、どうしていいのかわからなかった。
*
その後、週末も週半ばの時も、王子が声を掛けてくるようになった。
「今日は僕出掛ける用事があるけど、別に気にしないでいいから」
カードキーを渡されるまで、俺達の関係は近づいていた。勿論帰宅後毎回返した。そんなもの平気で預かれる程、俺は強心臓の持ち主じゃない。
時には夜中の試合を二人並んで、楽しく観るようにすらなっていった。俺も家の食器の位置や食品の在庫、その他この家独特のルールや習慣なんかを、徐々に覚え始めてもいた。眠りを妨げられると調子が悪い事。王子の生活の中にあまりサッカーそのものが存在しない事。けれど日常のあらゆる全てが、極自然な形で感性に繋がっている事。思ったほど物事を考えてない事。思いもしないものに執着する事。俺達の奇妙な関係は、俺の大人げない強引さと、王子のいい加減紙一重の寛容さと、多分そんなものから成立していた。
「王子ってもっと怖い人かと思ってたンスよ」
「へぇ?とてもそうは見えなかったけど」
「負けてたまるかっていう虚勢ッスよ」
「そういうもの?」
「そういうもんッス」
先輩後輩のそれとは少々違った、不思議な関係になっていった。俺は圧をかけられて素直に受ける程、ものわかりのいい選手ではない。いつでも王子が俺を受け入れるので、自然に彼のやり方を受け入れていっただけだ。
「王子ってなんていうか」
「なんていうか?」
「いや、よくわかりませんけど、ともかく変わってますよね」
「は、何それ」
王子を尊大だと言う人も多い。でも話しているとあの態度こそが、極上のフェイクだとわかり始めた。王子は実にスケールがデカくて、デカ過ぎるが故にわけのわからない印象になる。
「君も随分と変わった子だと思うけど」
呆れるような表情を浮かべ、王子はクシャクシャと頭を撫でる。俺はその頃にはもう理解していた。『ゲームメーカーの秘密をもっと』と自分にそんな言い訳をして、つまりは結局王子そのものをもっと一杯知りたかった。だって見れば見る程この人は不可解で、本当に底知れぬ人だと思ったから。
(でも、そんな事もどうでもいい程、ただ傍に居てみたかった?のか?)
多分、それが本音だったのだろう。そう、理由なんて何でも良かった。結局そういう事かもしれない。
