お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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それを一言で言うならば

【4932文字】
今日は七夕、ところによっては催涙雨。当サイトのお誕生日です。自サイトへ贈る自作のジノザキ。久しぶりに甘めのやつ?を。元々はお題モノ「今ぎゅってしたら、どんな顔するんだろう」で書いていましたが、趣旨がどっかに行っちゃいました。そしてワンライでもなくなってしまってました……。書いて放棄を続けていると、色々忘れちゃいますね。書き終えてUPしたものなのかも、散らかしまくりで目も当てられない。

 遅刻に関しては常習犯、隙あらばすぐに帰ろうとする。
「自分が一番自分を知ってる」
「体調管理は完璧さ」
なんて、王子はその目で多弁に語る。自らが正義と言わんばかりに。

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 高らか嘯く彼の姿に、なるほど、と納得しかけつつ。
「王子、ちょっと待ってくださいよ」
帰るのを妨げるということ自体、心情的にもNOではあったが。
「王子!」
駆け寄り、追い越し、道を塞いで、笑われ、躱され、また走り寄る。まるで主にじゃれる犬コロ、俺はそれでも。
「根性あるねぇ?あきれるくらい」
「だって」
「他にやることあるでしょう?時は金なり、貴重だよ」
「いや、だからこそ俺は一度話を」
「チャオ」

*

 ある日、真っ暗な駐車場。
「おや、ザッキー今帰り?」
「王子!?どうしてこんな時間に」
「ん?取材が終わって戻ってきたとこ。君は?」
「いや、普通にウエイトを」
「ひとりでこんな遅くまで?いつも?それとも今日はたまたま?」
「……はぁ、まぁ、大体これくらい?」
「すごいね毎日。疲れない?」
「逆にスッキリする感じです。王子もたまにはどうッスか?」
「もちろん遠慮しておくよ」
クスクスと王子が笑っているので、機嫌がいいのだな、なんて思った。まさに今日は天啓、もしくは千載一遇のチャンスかも。
「王子、この後、なんか予定は?」
「何故?」
「良かったら、飯食いに行きません?」
「……ごめん。食べてきちゃったよ」
「そ……スか」
別にチャンスでもなんでもなかった。ガックリと肩を落とす俺。今日は無駄に期待をしただけビックリするほど落ち込んでいた。そんなことがまた恥ずかしい。
「ごめんね?」
「いえ、全然」
いいよ、だなんて言うわけがない。王子にとっては俺なんて、ただの、しがない、モブ同様の。卑屈な気持ちが渦巻いて、尚更、馬鹿をしたと思った。
「えっと……じゃ、王子、お疲れッス」
すぐさまこの場から立ち去りたかった。いっそ消えてしまいたいほど。
「ザッキー」
なのに、王子は俺に手酷い。何故か俺を呼び止めて、こんなことを言ってのけるのだ。
「確かにお腹はいっぱいだけど、話しくらいは付き合える。今日は時間があるからね」
「え……」
「どこか移動する?それともここで?」
王子は本当に俺に酷い。上へ、下へ、振り回し、何故今そういうことを言うのか。

*

 突然のことに戸惑いながらも、やがて思いつくままに、ぽつぽつ気持ちを口にした。
「あんたの言い分はわかります。結果が全てなのはそう」
急に訪れた幸運だから、気持ちばかりが溢れてしまって、上手く話せはしなかった。けれど王子は嫌がりもせず、黙って聞いてくれていた。
「俺ももちろんそう思うから。規律とか輪とか枠とか型とか、ああ、なんかうまく言えませんけど……手段は目的とは違う。楽をするのと手抜きも違う。違うことはいっぱいある」
人にはそれぞれやり方がある。俺は理解をしているし、ほとんど納得してもいる。仕事に全てを捧げる俺と、仕事は仕事のこの人と、守備をする気もない人と、無駄に走り回る犬。ロスと効率。判断。選択。いつも一番大切なのは、勝つための、強さと潔さ。
「でも全部わかるのに、なんかどうしても腹立って」
俺は王子にムカついていた。何度も彼の理不尽を、我慢したくて、出来なくて、けれど俺のこの言い分こそ、理不尽そのものだ。それをわからない俺ではない。だから、苦しくて苦しくて。
「毎日、毎日、そうだよ例えば!今日は朝から来んのかなとか、最後まで居る気でいるのかなとか、そんなつまんないこと気になって、どんどん集中出来なくなって!」
考えたって仕方のないこと。俺には関係ないようなこと。理不尽な気持ちがこの身を飲みこみ、自分の管理が自分の制御が、どうにもこうにも出来ないで、つまり、これは泣き言なのだ。ただの惨めで未熟な愚痴だ。溢れんばかりの俺の理不尽。ずるいと駄々を捏ねて暴れる、どうしようもない愚かな駄犬。
「あんたのせいとか言いたくねぇけど、でも、ちょっとは考えてもらえません?飼い犬の調子が落ちるのは、あんたからしてもマイナスでしょう?」
以前は平気でいられたことだ。他人なんて気にもならない。気にはなっても気を取り直し、ちゃんと自分と戦い勝った。よそ見はせずに自分に集中、そうあるべきだし、そうでいられた。自分に負けてこうして泣くなど、俺がする羽目になるなんて。
「うるさいことを言う気はないです。ただ、事前にわかってんなら、俺には先に教えてくれれば。今日は早く帰るんだとか、明日は終わりまで居るつもりとか。そしたら俺もそうなんだって心構えもしておけますし」
言ってて自分が恥ずかしくなる。マネージャーでもあるまいし、と。
「そしたら少しは……俺、だって……俺を宥めて、整理して……」
口ごもり、やがて口は閉ざされ、いたたまれずに目も閉じた。こうして俺が黙るまで、特に口を挟むことなく、王子は聞いてくれていた。いつもつれなく帰る王子が、俺の八つ当たり、理不尽を、静かに佇み受け止めていた。
 王子がどういう表情だったか、当然俺にはわからなかった。ただ、懲罰を待つ心境だった。彼に怒られたかったのだろう。王子にぶつけて、踏みにじられて、壊れてしまいたかったのだろう。彼ならきっと遠慮なく、俺をズタズタにしてくれる。それでようやく底を打ち、今を抜け出せるような気がして。
(……でも、そうだよだからって、そんなの当然王子には……)
しでかしたことで理解する、彼にしでかした罪の意味。実際すべてをこうしてぶちまけ、想像以上に途方に暮れた。俺が無様なのは仕方がない。でもこんなことをやられた王子はまごうことなきただの被害者。たかが飼い犬に『救え』と言われて、『俺を怒れ』と噛みつかれ、ああ、明日も練習なのに。毎日顔を合わすのに。
 辛い沈黙がしばらく続いた。目をギュッと閉じ、こぶしを握り、体中が緊張していて、頭も痛くなってきた。なんで俺は馬鹿なんだろう。そんなことばかりで頭がいっぱい。何故なら俺は馬鹿だから。

*

 そんな俺に王子は言った。
「もう一度ちゃんと言ってごらん」
思うのと違う王子の言葉が、俺の目を自然に開けさせた。だから見ることになってしまった。話を聞き終えた王子の姿を。
「言いたいことはよくわかる。でも、言い方が間違っている」
そこにいる王子は想像通り、呆れるように鼻で笑って、馬鹿にするように首を竦めて、なのにどうしてこの瞬間、想像していた誹謗や批判、そんなものよりも圧倒的な、命をも震わす脅威を感じた。諭すような瞳に捕まり、追い詰められた憐れな子ネズミ、窮地で猫を噛めもしないで、無抵抗にその爪を受け。まさに今断罪の刻が訪れ、王子が俺にもたらすものは。
「ちゃんと、って……」
「もっと短くまとめて?ザッキー」
鉤爪のような王子の言葉が、俺の心を無下に貫き、まるでモズの作るはやにえ、彼の面前、飾られた。手足を無様に垂れ下げて、俺はただひたすら茫然として、微笑んでいる王子を見つめた。
「ゆっくりでいい。言えるまで待つ」
「……」
「時間あるから。大丈夫」
ただ、二人で黙って佇み、俺はその爪ゆえに苦しみながら、紐解かれていく愉悦に浸った。
(そうか、焦らなくてもいいんだ今日は……)
彼の『大丈夫』が俺を支えて、居てくれることが安堵を呼んだ。時間のなさに慌てなくていい。己を取り戻していくうちに、狭まり続けた視野も広がる。
 だから、途絶えたはずの言葉が、心の穴から零れ出た。未熟で弱い。愚かで醜い。俺は自分が情けない。どうしていいのかもうわからない。進むべき道がもう見えなくて、一人、疲れて、俺は今。

『辛い』

もちろん、辛い。その通り。でも全てを表す言葉じゃない。

『苦しい』

これも正解だったが、やはり少し違うと感じた。

『孤独』

言い表すべき、すべてに近い。似ているものに『絶望』もあり、けれど俺を引き裂く爪は、それをもさらにズタズタにした。

(これも違うというのか王子。もう俺にはこれ以上……)
 
俺は王子をじっと見つめて、そんな王子も俺を見つめて。

(ああ、王子……もうこれ以上……)

暗闇の中で目が光る。見るほどに気が遠くなる。でもそれがここにあるということ。彼の目。その中に反射するもの。俺が潰して、砕いて、埋めて、見て見ぬふりをし続けたもの。

(そう……これだ。もう粉々の……)

 導かれるよう手を引かれ、俺は心を彷徨い彷徨い、王子と一緒にそれを見つけた。

*

 俺がそれを口にした時、よくできました、と王子は言った。状況はあまりわからなかった。無理矢理生まれた雛鳥みたいに視界がぼやけてしまっていたし、王子に抱き締められていたから。
「ザッキー、もう一回言える?」
「好きです王子。一緒に居たい」
俺の頭を王子が撫でた。まるきり子供扱いだった。けれどそのまま子供になって、王子、王子、と名を呼んだ。しがみ付くように抱きつきながら、王子、王子、とその名を呼んだ。
「ごめんね、ザッキー意地悪したね」
「……」
「ずっと甘えたかったよね。もちろん全部気付いていたよ。知らん顔してごめんねザッキー」
そう言いながらも王子の爪は、心を突き刺したままでいた。
「でも、わかりたくもなかっただろうし、もしもそのまま頑張れるなら、それが一番だっただろうし」
牙はきっと爪より痛くて、残酷なほどにきっと甘い。
「君はこれで変わってしまう。君の生き方そのものが。でもねザッキー、残念だけど……ここまでなったらもう駄目なんだ」
どんどん俺は子供に戻って、涙で王子の肩を濡らした。とても情けない気にもなったが、嫌な気持ちにはならずに済んだ。あまりに王子の手が優しくて、悔しさよりも、悲しさよりも、溢れ出る気持ちがあったから。
 彼は俺が望むとおりに、俺に根を這った俺の嘘、偽物の強さを壊していった。その奥に隠し続けた本音。苦しい。辛い。寂しい。暗い。一人で泣いていた俺を、王子が抱き締め過去にしていく。いつの間にかキスをしていた。俺の『好き』と『一緒に居て』は、舐めとるように食べられていた。
「ごめんねザッキー、もう限界で。こんなの良くない。わかってる。違うことはわかってるんだ」
『好き』を食べられ、『一緒』が成就し、王子の言葉が沁み込んでいく。
「でも、もう戻してあげられないし、もう逃がしてあげられない」
こんなの違うと言いながら、俺を求めて泣くような。彼の愛は補食と同じで、手枷足枷をつけるが如く、重たく俺の身を包む。でも抗う術も何もない。人目も気にせず駐車場、麻酔のように唾液が甘い。体の力が抜け落ちて、背中の冷たさはアスファルト。捲られたシャツ、解かれたベルト、それは風に、そして他人に、触れられるのに慣れていない肌。無理強いなんて俺は言わない。けれどこれは枷と約束。誰にも言えない二人の秘密。俺はこの日生まれて初めて、射精させられ、それを見られた。

 今日はこれで許すと言われた。震えながら服を戻して、差し伸べられる手を取って、息を殺しつつ静かに立った。
「……連絡先を教えてくれる?」
現実はまだそんな位置から。けれどもう一度キスをし合った。離れがたくて抱き締め合った。こんなの違うと王子は否定し、けれど俺はパンクしていて、何が何だかわからぬながらも、『幸せ』なのを口にしていた。
「ザッキー……今はお願い、やめて」
力いっぱい抱き締められた。だから、ギュッとお返しをした。何を怯えることがあろうか?こんなにも今が幸せなのに。
「じゃあ、もう少しキスしていたい。時間、別にいいんでショ?」
何も『違う』ことなどないと、再び俺からキスを求めた。何度も、何度も、飽きることなく、数えきれないキスをした。車に乗りつつキスをして、部屋に着いてもキスをして、目覚めた朝にもキスをし合った。二人になればずっとそんなで、離れる度に何度も気付く。
(あ、また連絡先……)

*

 オフの日、それを求めて来訪。それでも着くなりそれを言いつつ、何度も俺らは忘れ続けて、今も現実はそんな位置。俺も馬鹿だが王子も馬鹿だし、そんなだから寂しくないし、一緒なんだとまたキスで。移籍の夜にようやくで、移籍の後でも心にキスを。離れていても寂しくなかった。また会えば抱き合いキスが出来るし、それが俺らの『幸せ』だしで、間違いのない『事実』だからだ。