お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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後ろめたさに溺れる中で

達海後藤王子の3人は雨が降ると一緒にお食事に出掛ける風習があるっていうお話。達海とジーノは心の形が似ていて、近親憎悪と安心感を抱えています。タッツミーは少々後藤氏とジーノの関係を誤解している形にしてありますが、ジーノは両親に懐く子どもなんでキョトンとしてる感じ。

        ゴトタツ

 雨降りの日はジーノが達海の部屋に遊びに来る。そして二人で後藤が来るのを待つ。

 雨の日の夕飯は3人で。そんな奇妙な時間が当たり前になり始めていた。このお天気次第のあやふやな関わり合い。当然、必ずそうすること、と約束されたものでもなかった。でも、この時間を過ごすということを日常の中で心の保険にしておくのは大事な事だった。達海とジーノの二人が苦手な雨。その時間を乗り越えるためのちょっとした工夫だったりした。

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 ジーノは部屋に来るとすぐベッドで眠る。まるで電池が切れたかのように動きが止まってしまう。だから二人きりになった時に殆ど話をしたことがない。一人で過ごす二人の時間。そんな時達海はここ最近繰り返し見る夢を思い出す。ジーノが自分に何かを言い続けている、そんな夢だ。

「タッツミー、おかえり。帰って来るのに10年かかったね。随分長くかかったんじゃない?」
「何故だかボクは知っているよ?綺麗な形でお別れして、全部そうやってラッピングして勝手に全部片づけてしまおうとしたんだよね、ずるいよ」
「ボロボロの自分を見せるのが怖かったんだろう?プライドが許さなかったかい?」
「寄り掛かってしまいそうな自分が情けなくて逃げ出して」
「でも結局耐えられなくて葉書を出した。ちゃんちゃらおかしい」
「キミの帰りをずっと待っていた男の10年なんて、想像すらしなかった?ちょっとも?」
「ボクは見てきたよ?そんな彼の事を。つらそうだった。それなのに今更よくおめおめと戻ってこれたもの。恥ずかしくってあわせる顔もなかったんじゃないの?」

 当たり前のことだったが、ジーノが達海にこんな台詞をはいたことなどただの一度もないことだ。どうしてこんな夢を見るのか、達海はよく自分を理解していた。この言葉の数々はかねてから自分の中で渦巻いていた自分の言葉。これは自分が自分に見せている強い自責の夢。

   *  *  *

 雨の苦手なジーノは雨降りが続くと心細くて寝不足気味になる。元々体質的に疲労がたまりやすく、達海の部屋に来ると何故かコトリと眠ってしまう。だから二人きりになった時に殆ど話をしたことがない。一人で眠る二人の時間。そんな時ジーノはしばしばこんな夢を見る。達海が自分に何かを言い続けている、そんな夢だ。

「今日もまたフットボールなんてどうでもいい顔をしながら、お前は…馬鹿馬鹿しい」
「本当は一日でも長くこの世界にしがみついていたくて、怪我を恐れるプレイばかり」
「それのどこが華麗?どこが王子にふさわしいって?」
「本物の選手はそんなことなどやりはしない」
「ボロボロの自分を見せるのが怖いんだ、この世界に虜な自分を恥ずかしいと思っている」
「自分の気持ちに嘘をついて虚言ばかり」
「なにからなにまで逃げばかり」
「でも耐えられなくて後藤に寄り掛かった。卑怯者の癖に一生懸命やってるアピールかい?ちゃんちゃらおかしい」

「どん詰まりまで駆け抜けて、そしてなおこの世界に生きる俺の人生なんて、きっと想像することすらこわいんじゃね?」
「本物の王様のご帰還だ。お前はもうどこにも居場所などないよ?恥ずかしくて顔も上げていられやしないだろう?一体これからどうすんの?」

 当たり前のことだったが、達海がジーノにこんな台詞をはいたことなどただの一度もないことだ。どうしてこんな夢を見るのか、ジーノはよく自分を理解していた。この言葉の数々はかねてから自分の中で渦巻いていた自分の言葉。これは自分が自分に見せている強い自責の夢。

   *  *  *

「おい行くぞ、お前寝過ぎ」
「ん…」

 達海の部屋。ふいに起こされ物憂げにジーノが目を開く。石を飲みこんだように体が重い。夢の中にいた男の残像が現実のそれと重なりながら消えていく。ぼんやりと広がっている視界の中に見えてきた男は夢の中の嘲笑するように叱責していたそれではなく、まるで雨に打たれたかのように重たく凍えるような姿をしていた。

「どしたの?タッツミー」

 ゆっくりとした仕草で起き上がりながら、心配そうな表情でふわっとジーノは達海の耳の下あたりの首筋に自身の手を添えた。軽く触れる手の平には達海の脈の感触がコトコト。その小動物のように速くて、なのに力強さのない鼓動が二人の奇妙な胸騒ぎと不安を増加させた。

 自責する自分はとても辛辣。どんな姿を借りてそれを語ればもっとも効果的に自分が傷つくのかをよく知っている。夢でああ言ったのは達海ではないことをジーノは知っていたし、達海もまたあの言葉をジーノに話させる夢を見せたのは自分自身だということを理解していた。そう、あれは自分自身だ。でもこの心痛。自分の内包する果てしない弱さを、この人間だけは見抜いてしまっているのだろうというそぞろな不安感。そしてその逆にこの人間だけは自分のすべてを理解しているのだという安心感。ジーノは達海を見つめた。達海は黙ってジーノを見つめ返していた。自分の中にある目に見えない暗がりを見つめられ、相手の中にある目に見えない暗がりを見つめている様な気がしていた。

「俺腹ペッコペコでもう我慢できねぇよ、後藤の奴め…」
「珍しいよね。あの人タッツミーのこと最優先のはずなのに」
「事務室見にいこうぜ」
「そだね」

 今の自分達にはあの優しい男と一休みする時間が必要だ。この体の重たさは到底自分一人では耐えられない。自分が見せる自責の夢。この夢が綺麗に閉じ切る日は来るのだろうかと達海とジーノは二人で同じようなことを考えていた。

二人で救難信号を出して走っていこう?そんな風に肩を並べ、気持ちだけはあの男の場所まで駆けつけながら、ゆっくりゆっくり歩みを進めていく。

「言っとくけど、あれ、やんねぇかんね?」
「ん?何言ってるの?ボクいらないよ、あんなの」

 意味の解らない王様と王子様のそんな言葉。話が通じているともわからない。それでも二人肩を並べてゆっくりと。同じ雨降りの世界にいることを感じながら歩く。早くなにもかも晴れ渡る快晴の空の中に、あの男の世界に飛び込んでいってしまいたいと感じながら。

   *  *  *

 二人の晴天であるところの後藤は、想像通り切るに切れないスポンサーとの電話で四苦八苦していた。気のいい男は常にこう。くだらない老人のくだらない日常会話。果てしなく続く傾聴ボランティア。何もかも受け入れる男はいつもてんてこ舞いだ。並んで入ってきた二人に対して、片手を顔の前にかざして申し訳なさそうにゴメンの合図。何度も何度も切ろうとチャレンジしてはぶり返す相手の会話。

「どうしようもねぇな。あいつ」
「うん、どうしようもないね」

 達海はコピー用紙一枚取り出して、大きく“今日はゴトーのおごりね”と書いている。ジーノはクスクスと笑いながら後藤の肩を叩きメッセージを見るように促している。情けない顔をしながらうんうん頷く後藤を尻目に、子どものような二人は落書きを重ねていく。

 おごってほしいリスト。こまごまと書き足していく。調子に乗ってドンドン増える落書き達。

 〇〇屋のもんじゃ、お好み焼き。トラットリア〇〇のズッパ・ディ・パーネ、カプレーゼ、オッソ・ブーコ。ドクペ、タマゴサンド、アイス、椅子。肩たたき券、マッサージ券、取材お断り券。やっと電話が終わる頃には隙間もないくらい真っ黒になった憐れな紙一枚。

「ったくお前らは」

 遅くなって恐縮していたはずの後藤の顔にはいつのまにか苦笑いが浮かんでいた。でもその顔にはこの時間が幸せだと書いてあったので、達海とジーノは、あらためてどうしようもない男だと感じて苦笑いがうつってしまう。気のいい男。なんでもこうやって受け止めて笑ってしまう。もっともっと欲っして要求すればいいのに、と。

 達海はこの男の“よく帰ってきてくれた、嬉しいよ”という言葉に救われてしまう。この暖かさが後ろめたくて。でも嬉しくて。この気持ちにこたえるためには何をどうすればいいのかなぞわかっている。でも出来なくて。

 ジーノはこの男の“よく入団してくれた、嬉しいよ”という言葉に救われてしまう。この暖かさが後ろめたくて。でも嬉しくて。この気持ちにこたえるためには何をどうすればいいのかなぞわかっている。でも出来なくて。

   *  *  *

「ジーノ、お前後藤の為にも真面目にフットボールやってやれよ」

「タッツミー、キミ彼の為にも真面目に気持ちを伝えてあげなよ」

 言葉にしない言葉。言葉にならない言葉を心に浮かべながら目配せをして、そうして早く早く!と後藤を急かしながらいつもの雨の日と同じように3人肩を並べて夕飯に向かうのだった。

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