お前は昔からそういうヤツだよ
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エスコートキッズに受けが悪い崎。有里&赤崎の会話の中に途中から堺さんとガミさんが乱入します。浅草トライアンフ15thで行われた赤崎トライアンフ企画に参加した無配。どうにも印刷のやり方がわからなくて一時はどうなることかと思いました…浅トラ万歳、赤トラ万歳~
赤崎の子供受けが悪いことは、チーム内でもかなり有名な話だった。
「だって今日の試合のエスコートキッズのヤツも、なんかやたらな生意気で」
「だから、ヤツとか言わないの!そういうところよ?」
「何が」
「何がって……」
有里は赤崎とこの手の話をもう何回も繰り返していた。今日こうしていつにも増して強い説得を試みていたのは、そろそろ笑い事では済まされないトラブルに発生しつつあったからだ。当然ETUの広報として、大変頭の痛い問題でもある。
(んもう、子供相手に何対等な立場で喧嘩してんのよ……)
理由も原因もわかっていて、対策しようにも結局毎回このとおりで、現在のところどうにもこうにも、お手上げといったありさまだった。
有里はげんなりと肩を落としてから、もう一度気を取り直して赤崎に言った。
「媚びを売れとまでは言わないけれど、もう少し愛想よく出来ないの?」
「俺にそれ求められても……つか、毎回も言ってますけど、そっち系は得意なヤツがチーム代表で担当すればいいンじゃないっスか?」
そういうわけにも、と言いかけた有里だったが、かわりに諦めるような溜息をついた。何故ならこんなことを言いながらも赤崎はそもそも、取材やファンサービスを嫌がるそぶりなどほとんどしたことがないくらい、交流に対して大変真摯なタイプだったからだ。
考えあぐねている有里に赤崎が言った。
「俺、別になんにもしてねぇのに……」
それは実にその通りだった。独特な喋り方や傲慢にも思える不遜な態度が時に誤解を生むことはあっても、基本的に赤崎はそこそこ気のいい人間であるのは間違いがなかった。本人は正論をただ率直に言っているだけのつもりであり、そのことはこの生え抜きと付き合いが長い有里にはよくよくわかっていることだ。だからこそ、今回燻り始めているキッズたちとのあれこれはとても厄介なのだった。
(そうなのよね……これじゃいくら話をしても結局平行線のままだわ)
物怖じしない赤崎の発言は悪気があるなしに関わらず、年齢の上下を問わず相手に炸裂し、時々怒らせたり、傷つけたりもしてしまう。幼い子供というのは敏感なもので、直接やりとりをしたことがない者でも、その性質を察知して過剰な反応をする子もいるのだった。
「この前なんて、ハイタッチキッズの子、ちょっと俺にだけ手を避けるそぶりあったし」
この話は有里も知っていた。あとから丹波がからかっているのを耳にしたのだ。
「その前は俺と手つないで入場するの嫌だって大泣きしている女の子もいたらしいッスね、人づてに聞きましたけど」
そう、あの日は確かにスタッフも大変な苦労をしていた。有里はなんとかその場をおさめようと、保護者や子供たちの間で四苦八苦していた。
「でも、俺は子供受けするタイプじゃないのは自分でもわかっていますし。それでも今回のことは確かにそんな俺でもさすがに思うところはありますが」
「でしょう?このままではやっぱり私も駄目だと思うのよ」
五輪選出によって認知度も上がり、周りからそれなりのアクションを受けるようにもなった。いわゆる、よくも悪くもというやつだ。
「試合直前の団結力や集中力に水を差すような場面が何度もあるっていうのは、あんまりよくないことなんじゃないかしら。あなた自身は気にするタイプじゃないかもだけど」
「だからって、どうすればいいンスか?俺、この前それなりに頑張って笑ってみたら、何怒ってンだって逆にキッズにキレられちゃったンスけど」
なんだかんだ言って、やはり本人も協力しようとする意思があることが十分わかる一言を口にする。やはり赤崎は基本いいヤツなのだ。実際には全くそのようには見えないのだが。
すると、堺がたまたま通りかかって、立ち話をしている二人に言った。
「懐かしいな」
「あ、堺さん。懐かしいって何がッスか?」
堺は意味深にニヤリと笑っていた。
「お前、今日キッズにウゼェだとかなんだとか絡まれてただろ?昔俺もそういうことあったなぁってさ」
「そうだったンスか?」
「ああ。さすがにお前みたいに蹴られはしなかったけどな。大丈夫だったか?」
「そんな……あんな程度、全然大したことじゃないッスよ」
「そうか、ならよかった」
「堺さんも昔、色々あったンスか?」
「まあな」
そうして堺は昔話を始めた。
「昔、俺が言われたのはウザいとかそういうんじゃなかったけどな。『今節こそテメェにはぜってぇ点なんて決めさせねぇから』って、やたら威勢よくっつうか、どぎつい目で凄まれたことあるよ」
すると石神も後ろからやってきて、三人の会話にさりげなく加わった。
「おぉ、俺もあるわ。『調子に乗って今日もガンガン攻めあがってくださいね』って前節の俺のミス見ていたのか、ニヤニヤ笑って挑発されたなぁ」
「へぇ……」
楽しそうに言う二人に、赤崎はかえした。その途端二人は大笑いして、石神が
「ほらな?堺!やっぱコイツ全然覚えてねぇぞ?」
と堺を肘で軽く小突いていた。
「覚えてない?何がッスか?」
きょとんとしながら赤崎が問うと、あきれたような顔をして有里が言った。
「嘘でしょ?本当に覚えていないの?今の話は両方、あなたの話よ?ジュニアの頃にボールボーイとかで試合に動員された時、色々他チームの選手達と揉めごと起こして大変だったんだから」
「は?」
「いやいや、揉めごととか言うとコイツがかわいそうだ。当時のうちとこのチームでは結構人気者だったよ?あの威勢のいいヤツいるのかな、的な感じでさ」
と、石神が言い、それに相槌を打つように堺も言った。
「うちも『あいつは今日はいないのか』みたいな話よくしてたな。アウェイでキッズからまで洗礼を受けると結構燃えるもんもあるからね」
そういうものなのか、と有里は少し肩の荷が下りた。
(昔からお父さんに謝罪や後始末に苦労した話を散々聞かされていたのもあって、大げさに考え過ぎちゃっていたのかも。意外と通じていたりするものなのね、赤崎君の邪気のない心根みたいなところ。ならキッズたちもいつかはきっと……)
ぶっきらぼうに赤崎は言った。
「全然覚えてないッス。本当にそれ、俺ッスか?」
ベテラン二人はさらに笑いながら返事をした。
「これだよ。間違えるわけねぇだろ?そのつんつん目にへの字!見れば見るほどあの頃の『あいつ』そのものだよ」
「そ……ッスか。へぇ、そうなんだ……」
次の瞬間、無表情に聞いていた赤崎は、例の憎たらしい満面の笑みを浮かべた。
「なるほどねぇ。昔っから俺ってそんなに有名だったンスね。いわゆるあれですか?光るものがあったっつうか?沢山のキッズの中でも埋もれようもない、そんな強烈なスターのオーラってもんがちっさい頃からこの俺には」
「ああ、ああ、本当にお前って昔っからそんなヤツだったな!」
「だから、何回も言うようだけど、そういうところよ!?」
「はぁ?」
「そうだぞ、そういうところだ」
「何がッスか?」
