お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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アシンメトリー

【15682文字】
ほのぼの告白のすれ違いから、転げ落ちるように虐め愛へ。二人とも属性持ちではあるものの最初は完全に真っ当。破壊を以て相手を自分専用機に改造していくSM調教ジノザキ。ジーノは赤崎に導かれる形で悪質な性的虐待を、赤崎はジーノに大義名分を与えるために精神的虐待を繰り返します。無邪気に飼い主の性癖を引きずり出している飼い犬のほうがタチ悪い。

        ジノザキ , ,

――絶対いけると思ってたのに

 あれはすべて終わったことだ。
「ん?どうかしたのかい?」
少し変だとたまに思って、気のせいだろうと無視をして、やっぱりこれはと再び思い、なのにあやふやで確信が。
(あやふやっていうか巧妙な……?いやいや、さすがに被害妄想……)
触られているような気がする。もちろん触られてはいるのだが、その触り方が問題だった。
(いやいや意識し過ぎだ、きっと)
背中を押される最初と最後。開脚の際にかかる息。
(今首筋にキスされた……?違う、多分気のせいだ)

 告白をされて断った。振られちゃったと王子も言った。終わったことだと繰り返し、でももしもこれが実際そうなら、ある種のセクハラではとも思う。
(まさか王子が。考え過ぎだ)
そう、問題はそこではなかった。こうして頭を抱えているのは、自分の思考が不可解だから。練習が毎日とても楽しい。会話をするのもとてもいい。そして。
(違う。別にそういうことじゃ……)
コケて王子に腰を抱かれた。ストレッチでも触れ合った。
(でも……多分そういうことだ……)
毎日、探してしまっているのだ。そういう感じになりはしないかと。王子と一緒に居る間中、告白されたあの日みたいに、彼のあの世界に酔ってみたいと、まるで心待ちにするかのように。
(ああ、まただ……なんか最近気付くと俺、必ず……)
さらりと俺を抱き寄せて、痺れる色香で、溢れる思いで、俺のことを好きだと言った。
(これって王子に……)
あの日を考えると反応をする。機能もそれの持つ意味も、知識的には理解していた。けれど実感や体感なんかに、あまりに俺は無知だった。

 王子と二人で話をする時、練習疲れでぐったりとして、いわゆるそうなりがちだった。体がふいに『ああなる』ことは、疲れのせいだと考えていた。脈絡もない自然現象。それが男に起こりうること。それは経験で知っていたから。それでも王子に気恥ずかしくて、会話はいつでもそぞろになった。
(なんか嫌だな……こういうの……)
あの日の王子の仕草や表情。とても美しいと感じたことは、それなりに認識は出来ていた。けれど、ぐるぐるとしたあの感覚が、これに繋がるものだったとは。枕に突っ伏し、独り言。
「駄目だ俺、どうにもいたたまれない」
風吹くパンチラに反応している同級生を馬鹿にしていた。誤魔化すなよとかシラケるだとか、言われても、うるせぇ、ただそれだけで、鼻で笑う俺だったのに。
「つか、こんなに制御が効かないのかよ。なんだお前しっかりしろよ」
刺激で出るのは経験していた。でもそれは物理的な排泄の欲。心情がもたらす性欲を、俺は知らない人間だった。

 王子を思う。反応をする。ぐるぐるというより、もやもやとする。思うほどに強く脈打つ。ともかくそれが驚きだった。心で体が導かれること。気持がいいのか悪いのか、心臓が移動したかのように血が全部そこに行ってしまう。楽になりたくて、自制をし、いつしか我慢が出なくなった。俺は初めて誰かを思い、名を呼びながらそれをした。

*

 『俺』と『王子』と『付き合う』という、不可解過ぎた言葉のパズル。俺は挑戦する前に、ゲーム自体を辞退していた。

「何?ザッキー。なんか用?」
「いえ?」
「ふーん?じゃ、おつかれ」
終わってしまったことなのに、今更あれこれ考える。俺は欲情を初めて学び、かつて王子は好きだと言った。あの好きはこれと同じだろうか?そこに欲情があっただろうか?今とは違う未来のIFは、一体どういうものだったのか。
(馬鹿だ。俺は何を考えて……)
そもそもの話、こういう感じの世界のことは、男女であろうと何であろうと、どこか遠くの文化みたいに俺には関係がないことだった。ファーストキスは自分の腕だし、手を繋ぐのはフォークダンスで、スポーツが出来れば確かにモテたが、ピンときたことは一度もなかった。俺の青春はサッカー一筋、むしろ恋愛は夢を邪魔する害悪そのものの存在であり、むしろ堕落しないで律した、そんな自負さえ持っていた。

 王子は俺とは真逆であった。女性たちと気軽に笑い、誰彼ともなく気後れもせず、たやすく仲良くなっていた。羨ましさが確かにあった。ああして生きてもあの才能で、俺は全てを捨て去り生きても彼の高さには届かぬだろうと。俺も本当は王子みたいに何もかもを謳歌しながら、ガツガツしないでゆったり生きて、自由に拗ねたりへそを曲げたり、それでも愛されて暮らしたかった。幸せな人。恵まれた人。知れば知るほど惨めになって、泣きたくなるよな『あっち側』。
(ああ、思えばまあそうだよな……)
一番身近に存在している、異次元の世界に住んでいる人。世界に焦がれる心のように、俺は王子を切望していた。夢見る未来のひとつのひな形。心の棚にそっと飾って、思いを馳せてうっとりとする、崇拝の形をとった恋。
(そう、だから俺は全然……)
だからこそあんなに戸惑ったのだ。宝物に愛を告げられ、びっくりしない人はいない。神秘相手に欲情をする?想像だにせぬことだったのだ。でも今嵐が過ぎ去った後、心の棚を一人見つめて、彼がどんなに大事だったか、どれだけ愛してしまっていたのか、そのことばかりを考えていた。

*

 神秘との練習は刺激的。たくさんのものを俺は得て、想像以上に充実していた。でも神秘が人である一面も、俺はたくさん知ってしまった。
「王子……」
あの日、神秘は花咲くように、香りと皮膚のぬくもりで、人の姿で、思いを告げた。あれから棚に何度飾っても、その度ひらりと棚から降りて、好きだったんだと抱き締めてきた。俺はそんな彼を抱き締め、ごめんなさいとメソメソ泣いた。すべては終わったことだったのに。嵐が行ってしまった後に。

 見つけてしまった思いがこじれて、俺は途方に暮れていく。医者にも治せぬ重い病に、この年齢で初めて罹患し、浅い眠りの夜を重ねて、あの日の自分の彼への仕打ちを、不誠実さを深く呪った。
(あんな言い方するんじゃなかった……もしも逆の立場なら、あんな風には笑えなかった……)
刻一刻と時は流れて、世界も回る。めくるめく。俺は過去にとらわれたまま、今からどんどん遠のいていた。

      ジノザキ , ,