アシンメトリー
【15682文字】
ほのぼの告白のすれ違いから、転げ落ちるように虐め愛へ。二人とも属性持ちではあるものの最初は完全に真っ当。破壊を以て相手を自分専用機に改造していくSM調教ジノザキ。ジーノは赤崎に導かれる形で悪質な性的虐待を、赤崎はジーノに大義名分を与えるために精神的虐待を繰り返します。無邪気に飼い主の性癖を引きずり出している飼い犬のほうがタチ悪い。
ある日、王子は笑って言った。
「十分アピールできたと思う。君と僕との仲直り」
「え?」
「周りも納得出来ただろうし、そろそろ元に戻してもらおう」
笑っているのに冷ややかな。今もまた俺は驚いていた。今日の神秘は割れた宝石。鋭利の凶器はいや増す輝き。魅惑に近づく者などいれば、深い傷を静かに負わせて、己をその血で飾るのだ。
「僕と組むのはもう終わり。上には僕から伝えておくよ」
半分以上も聞き取れなかった。王子の行う会話というのは、言葉は情報のたかだか一部で、俺のような凡人なんかは、すぐにオーバーフローを起こす。そしてきっとあえてのことだと、それが俺を悲しくさせた。君と僕とは無関係だと、宣言のためのひと時だった。
(もう過去は過去だよ、か……)
その後のミニゲームの間中、俺はミスばかり繰り返し、当然ヤイヤイ文句を言われた。王子はずっと無視をしていた。気に掛ける素振りもしていなかった。
*
「王子」
「ん?」
話がしたいと俺が言ったら、鋭利は少し考えて、それでも、
「いいよ」
と俺に応じた。
「俺、王子がわかりません」
「何が?どういうところがだい?」
鋭利はあからさまだった。わざと危険の気配を振りまき、話をする気もないようだった。俺はそれに怒っているのか、悲しんでるかもわからなった。ただ、彼のらしさが損なわれ、そのことがとても辛かった。
「あんたはいつも突然過ぎて、マジで全然わかりません」
「そうでもないよ。わかりやすいよ」
「俺には全然わからないです」
もともとペアを組む練習は、組めとか解消するだとか、規約的なものではなかった。組みやすい相手があるとはいえども、大いに適当なものなのだ。組まされたのが命令とはいえ、鋭利の今のこのやり口は、わざわざ作った決裂だった。
「だって今日まであんなに」
「あんな楽しそうにしてたのに?」
「そうッスっよなのに」
「ただのアピールだったのかって?」
鋭利の煽りは破片の嵐。
「そんなことくらい当然だろう?少し考えりゃわかることだよ」
口調も表情も柔和なままに、空間を使い攻撃してくる。表情、姿勢、声色、動き、言葉以上の情報量で、傷つけようと傷つけてくる。
「……」
涙をぐっと必死で堪えた。例え悪意の輝きでさえ心奪われて憧れが増す。鋭利はすべてを見透かすように、冷笑しながら俺に言う。
「イライラするよ。そういうところ」
「俺があまりにも馬鹿だから?」
「ちゃんと自覚があるんじゃないか。ほんと、そういうところだよ」
その一言は剣ではなく、玉座の高みから言い放つ、本来の彼らしい台詞であった。そこには少しの侮蔑もなくて、いっそ解説に近かった。
「君はあまりに愚かが過ぎる。これ以上付き合いきれない僕は。悪いけど降りさせてもらうよザッキー」
王子は俺の苦手を鍛えた。強く蹴られる体に変えた。教えられたというよりも、沢山俺は王子を浴びた。あれらはきっと王子の真心。
「もう僕を解放して欲しい」
ボールを交わし、触れ合って、今日も少し課題が見えて、王子はそれもわかっているのに急におしまいだからと俺に。理由があるに違いなかった。説明する気がないようだった。それを知る権利も俺にはなかった。そんな感じの会話であった。
