アシンメトリー
【15682文字】
ほのぼの告白のすれ違いから、転げ落ちるように虐め愛へ。二人とも属性持ちではあるものの最初は完全に真っ当。破壊を以て相手を自分専用機に改造していくSM調教ジノザキ。ジーノは赤崎に導かれる形で悪質な性的虐待を、赤崎はジーノに大義名分を与えるために精神的虐待を繰り返します。無邪気に飼い主の性癖を引きずり出している飼い犬のほうがタチ悪い。
攻撃性を隠しもしないで、王子は俺を捨てにかかった。こんなことをする人ではなかった。異変であるに違いなかった。
*
あの日拒絶をしたから俺は、ちゃんと話をせねばならない。頭に何も浮かばない。でも、ぐちゃぐちゃになる思念の中で、ポッと一つの問いが生まれた。
「王子、これって」
うまい言葉が見つからなかった。それでも必死で俺は探した。今を端的に言い表すもの。俺がこの目に見えるもの。
「もしかして、泣き言ですか?これ」
言ってしまったその瞬間、王子の顔を見て理解した。そんな顔をさせるのは前回同様この俺だった。そうだ、あの日、この顔を見た。無防備な王子を深く刺し、ひどく痛いのにそれを隠して、あやふやなまでの微笑を浮かべる。
「……ザッキー、君ってほんとに馬鹿だ」
抱き締めるような言い方だった。あの日のような優しさだった。愛の弱さと秘めた憎しみ。なす術もない無力な王子。
「そうだよ、これは泣き言だ。もう許して欲しいんだ」
心臓の音が耳にうるさい。彼の思いが空気に滲んで、どんなに俺が好きなのか、どんなに今が辛いのか、まるで服を濡らす霧雨、包み込むような王子の本音。
「君といるのがすごく楽しい。だから君が憎いよザッキー。無邪気に君に壊されて僕が僕でなくなっていく」
何度も打ち消してきたこと。密かに期待まであったこと。王子の言葉は明快なほど、悲鳴に近いものだった。
小さく開いた、開かずの扉
その部屋を覗いては駄目だった
完璧な神秘の、裏の暗闇
壊されていくと彼は言い
でも、すでに扉は壊れていたし
起きてしまっていたことだった
全てが手遅れだったことなど、彼はわかっていたことだろう。君は馬鹿だと責めた王子は、必死で堪えてきたことだろう。もう遅いのに逃がそうと、必死に鋭利を振り回し、許して欲しい、解放してと、壊れてしまった己を見せた。完璧にふさわしきあのプライドは、今はもう見る影もない。愛に屈して壊れた事実は、彼をズタズタにしたことだろう。だからこそ美しい崩壊だった。今が一番、美しかった。
「君は本物の馬鹿だよザッキー。でも悪いのは僕。わかっているよ」
その腕はまるで幼子みたいに、俺を求めて差し伸べられた。
「王子様はいないよザッキー。けれど君は馬鹿だから、こんなになってしまった僕をきっと振り払えないよね?」
俺が飾り続けた神秘は、本当に惨めに棚から落ちて、愛してるんだと頭を下げた。まるで助けを求めるように、僕は人だ、と静かに告げて、俺の救いを静かに待った。そんな王子を抱き締めながら、俺も俺の気持ちを告げた。こんなになるまでごめんなさいと、俺も王子に頭を下げた。
*
愛に壊されてしまった王子は、絶望しながら俺を抱き、俺は彼が求める全てを、王子の全てを、受け入れた。俺達は愛を叶えていたのに、王子はますます壊れていった。どれだけ俺が愛を告げても、彼の心には届かないまま、俺がそうすればそうするほどに、王子は苦しみ、手を伸ばし、俺がその手を掴むほど、身食いのように壊れていった。
「好きだよ」
王子は愛に壊されて、愛し方も破綻した。
「好きだよザッキー嫌なんだ」
逃げる力も彼にはなかった。苦しみながらも俺を求めて、誰にも言えないことをして、そんな王子が愛おしかった。
