文学妄想お題ったー詰め 2
【15058文字】
文学妄想お題ったーで一日一ジノザキ。2015年5月の21本分。GWもそうですが重複お題も増えて既に一日一ジノザキは無理にorz
【お題】室生犀星「この道をも私は通る」
あなたは室生犀星作「この道をも私は通る」より「お前達の送る毒の花をも 自分は優しく接吻して上げる」でジノザキの妄想をしてください
<SS>
最早何千何万、俺はこうして、血を吐く思いで自分自身を痛めつけるように練習を続けて、それでも目標は遥か遠く、気も遠く、そしてさも美味しそうに己を蝕む絶望は深く。
(ッ下手くそが!)
思い余ってゴールポストを蹴飛ばし鈍い音が響く。途端崩れゆく足元のピッチ、俺は真っ逆さまに落ちていく。
「ッ!」
いつも見る夢。怖い夢。びっしょりと冷たい寝汗張り付く肌が不快で、それを振り切ろうと俺は頬を、両手でバシバシと殴って起きたのだった。
*
一番楽しいシュート練習。ぎらつく太陽もなんのその。どこを狙うか、どう打つか?インステップかインサイドか?蹴る瞬間まで思考を巡らす。
「ッ!?」
ツルリと突然ケツを撫でられ、頭にきた俺は王子に向かって辺り構わず怒鳴りつけた。でも当の本人はケラケラ、まるきり平気な顔で笑うだけ。
「だから、さあ蹴ろう!ッつー時にそういうのやめてくださいよ!王子」
人前でなんて。言いかけて、ハッと口を塞いだ。
「だって、そんなに頭でっかちで考えてちゃ上手くいくモノも……大声出して気が晴れたら、次はもう少し気楽にやりなよ」
「うっせぇなぁ!気楽どころか気が散るンスよ!邪魔しないでください!」
「おー、こわ」
気を取り直して蹴ろうとした時、俺はスケベ面がケツをジロジロ見ている気がして、ケツばかり気がかりにボールを蹴った。そぞろのままで手応え、いや違った足応えがなく、インパクトの瞬間舌打ちをする。
「あ……?」
「はい、ナイスシュート。気なんて散っちゃってるくらいの方が丁度いいのさ」
そこで初めて、王子が俺に何をしたのか気が付いた。最近読んだ武道の本の。
「上虚下実……?これか?」
「何それ、それ日本語?」
やはり王子はケラケラと呑気に笑いながら、俺よりも遥かに華麗なるシュートをサイドネットに食い込ませるように打ち込んだのだった。
*
そんな事があってから、いつものあの絶望の夢の中で俺は目線を感じるようになった。それはとても慈愛に満ちて、とても身近でよく知る感覚。
「王子……?か?」
見守るそれを感じる夢では、俺は光に包まれているみたいに充実していて、思った事が何でも実現できるような、自分への万能感を得る事となった。
「よし、なんかコツ掴めた気がする。王子、ありがとうございました」
――いえいえ、どういたしまして
気配だけなので返事はなくて、でもそれを口にした後に広がるキラキラとした輝きが、返事がわりのキスに思えた。
*
その夢を見た翌朝の練習ではいつも、ミリ単位であろうと己の成長を実感出来た。夢程上手くいかないなりにも。
「よっしゃ!」
「最近調子いいじゃない?」
「王子のおかげで」
「何それ、それどういう意味?」
お気楽な男は呑気な調子で、やはりケラケラと笑うのだった。
(いや、感謝してるンスよマジで)
恥ずかしくて口には出来ない。でも王子と居ると色々わかる。わかったつもりの頭だけの知識が、腑に落ちるというか、身になるというか。
俺がそんな調子で思っていたのに。
「ッ!王子!!!だからそういうのやめろっつーの!」
背後から脇腹にちょっかいを掛けられ。
(んだよ、そんな事されたらヤカンみたいに怒るしか出来ないじゃねぇかクソ王子!)
ケラケラ笑う呑気王子を睨み付ければ、返ってきたのはウインク一つ、も一つおまけの投げキッス。俺は呆れて溜息一つ、王子にはかなわないとつられて笑った。
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多分この犀星の詩の「私」は神様なんだろうなという事で。
上虚下実はとある記事と「バガボンド読んでからサッカー上手くなった気がする」っていうネタを最近目にしたので。尚、セクハラはジーノの単なる趣味の模様。
