お花結び

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文学妄想お題ったー詰め 2

【15058文字】
文学妄想お題ったーで一日一ジノザキ。2015年5月の21本分。GWもそうですが重複お題も増えて既に一日一ジノザキは無理にorz

【お題】中原中也「無題」

あなたは中原中也作「無題」より「幸福なんだ、世の煩ひのすべてを忘れて、いかなることとも知らないで、私はおまへに尽せるんだから幸福だ!」でジノザキの妄想をしてください

<SS>

 五輪代表に選ばれるだけで自分も周りもガラリと変わった。椿がAに選ばれて更に変化して戻ったように、自分ももしその日が来れば本当に自分が化けるだろう事もわかったつもりでいた。でも、それはやはり想定の遥か上を行く、まるで今までの自分が死んで生まれ変わったかのような劇的な出来事であった。
 人生という意味で大きな充実は当然あった。そしてもっともっとという貪欲も。いつかは王子に認めて欲しいと思っていたから。自分の為の夢はいつしかあの人と二人の為の夢に変わっていたから。
(ねぇ、王子、俺って使えるだろ?)
 代表監督が替わるとその度召集依頼が来て王子はそれを断っているという。理解出来なかった。でももしそれをこなしていたら今俺とこうしている事があり得ないものになっていただろう。そんな事がなくてもただでさえ手の届かない人。ゆったりと困惑の笑顔で今日も王子は俺を迎え入れる。

 気楽がいいと何事にも淡白な王子が最近益々怖くなった。固定的なスタメンに入れないような俺でさえこんなに華やかな世界に囲まれ、時々ドキドキするような事も起こる。
「一晩だけでも」
「思い出が欲しい、好きにして」
 遭遇する度に俺はとても怖くなる。王子にはこれが日常茶飯事なんだ。実際にこうして体験するまで、人気商売の裏にこんな世界が広がっているなんて事はわかっているようでそうでもなかった。闇の世界だ。
 そのせいもあって、王子の周りに綺麗な女性を見かける度に、それが全て彼に纏わりつく淫靡な誘惑の罠に見えるようになってしまった。彼は今日も薄く笑って、己に触れさせもせずにスタスタと手を振って立ち去ってしまう。俺は王子が益々怖くなった。闇に全然動じない王子が、物凄く怖くなってしまった。闇の濃さ、その美しさが問題ではないのだ。彼自身の中にある気紛れだけが彼を動かすトリガーなのだから。
 何故俺が彼の元を訪れても何も言わないのか。日に日に恐怖は高まっていく。王子にとってピッチ外にいる俺もまた、惨めに纏わりつく淫靡の手の一つ、いわば王子のグルーピーに過ぎない。俺は彼女達の同類、大したかわりもない存在だ。
(王子、俺、使えるでしょう?)
 いつこれに触れられなくなるのかもわからない恐怖の中で、使ってくれる事に幸せを感じる。世の煩い、現実の全てを忘れて王子にベッドで奉仕を続ける時、俺は彼に尽くせている事を光栄に思う。だっていつしか始まった二人の関係は今尚形留める事を知らず、おそらくは始まった時と同じ気軽さでいつしか泡と消えてしまうだろう事を知っていたから。
 今日も扉は開き彼は俺を迎え、子供みたいに縋る俺をあやすように優しく、俺に彼を与えてくれる。
(使えるでしょう?だから今日もあの一晩だけの夢を、深く体に刻むような思い出を)
 それを手に入れた奇蹟を、儚い絆の泡を大切に大切に心と体に仕舞い込む。俺はそんな時、自分から湧く我儘に人知れず苦悶の涙を落とす。これは闇だ。醜い負の闇、身の丈に合わぬ独占欲。
(王子、王子。こんな風に簡単にこれを俺以外に与えないで、お願いだから)
 俺は俺の同胞であるところのグルーピー達を出し抜く事ばかり考えながら、今日も王子に尽くして、尽くす。
「どうしたんだい?今日はやたらと情熱的だね」
誰よりも抜きんでて彼に尽くしたい。気紛れな王子の意識を、一秒でも長くこっちに向けていたい。
「何か興奮するような事でもあったのかい?」
言葉の影には、今日も暗喩的な卑猥がたっぷり含まれている。俺は王子の中にある過去の夜の記憶を言外に見、比べられ、値踏みされている今に目を閉じ、必死になって、更に尽くす。
 早く王子にそれを貰って、何もかも全て忘れて貴方だけを感じていたい。王子、王子、早く早く。俺を幸せのどん底まで連れて行って欲しい。

 今だけはそれを俺だけに、王子。王子。


※次のお題と対です。