金蘭の契り
【3686文字】
酔った赤崎がジーノに絡んで、友情とはなんたるやと一席ぶちます。一緒にいわゆる普通のデートをさせてみたかった、ただそれだけです。続きはあるようなないような……多分これ書いてて虫垂炎で入院したような……私自身が月頭の忘年会で痛飲したんやね確か
~金蘭の契り~
金をも断ち切るほどの固い
蘭の香りにもまさる
美しい友情
*
「じゃあ、今日は色々とよろしくね?」
ニッコリと微笑む王子に困惑しながらも、俺は胸を張って、
「うス」
と答えた。鼻歌交じりの呑気なこの色男と、出掛ける先はボーリング場。行った事がないと言う話から、まずはそこから、となったらしい。
らしい、というのは、つまり俺には約束した記憶自体がそもそもなかった。自分では別に酒に弱いつもりもなくて、けれど景気づけの集まりの中で酔って絡んで、厄介な事になったのは事実のようだ。俺は王子に講釈を垂れて、周りはやめろと俺を止め、なのに王子がそれを制して、
「もっと聞きたい」
と乞うたとの事。俺は女にモテる王子に嫉妬した挙句、
「あんたには友達がいないでしょう!?どっちかっていうとそっちの方が人として最悪だから」
と、わけのわからない噛み付き方をしたのだそうだ。
「ちょ、人として最悪とか何言ってんだよ。赤崎お前いい加減に」
「いいから……続けて?」
「大体同室禁止とか、さぼりとか、あんたみたいな粗暴な奴の事を黙認してちやほやして甘やかすからうちのチームはいつまでたっても」
「強くならない?」
「そう!」
「ボクに人望がないせいで?」
「そう!」
「赤崎お前、人脈の鬼の王子にそんな、支離滅裂だぞ?」
「そんなもんハッタリか勘違いに決まってんだろ?王子が勝手に友達だって思ってるか、そういう事にしておこう的に取り繕ってるだけの」
「なるほど、じゃあ取り繕いではなく勘違いだ。今キミに指摘されるまで全然気付いていなかったんだから」
「はっ、どうせそんなこったろうと」
「だから王子、こいつの話に変に合わせなくていいんスよ!ややこしくなる!」
「よく気付いたね。ザッキーって凄い」
「王子!」
「見てりゃわかりますよ。大体あんたの日頃のその態度が」
「王子もやめましょうよ、こういう醜態面白がるの……赤崎ィ。いい加減にしねぇと酔い醒めてからお前えらい恥かく事に」
「面白がってるわけじゃないよ、色々新鮮な考察だから参考になるなって」
「新鮮じゃなくて酔っ払いの出鱈目ですよ!ただのやっかみの絡み酒だってわかってるくせに悪趣味ッス」
「やっかみじゃねぇよ!俺は事実を言ってんだよ」
「おーいー、勘弁してくれ」
「あんたがそんなだからうちのチームはいつまで経っても」
「赤崎ー!」
「女にモテてもピッチではそんなの全然意味ねぇから!大事なのは男同士の友情と信頼の」
「友情と信頼の?」
「王子もー!」
真の友情とはなんたるか。俺が朗々と語り出して、王子は微笑み、頷き、最後には世良さんも俺らに愛想を尽かせて、勝手にどうぞ、ととうとう放置を決め込んだらしい。
別に王子に友達がいないだなんて、馬鹿な話はないと思う。当然本気で思うわけもないし、大概王子も酔っていた。だから、その場限りの酔っ払い同士の戯言が、現実と地続きであるなど、誰が思おう?
*
今日にしたってただ単純に、王子が面白半分、俺をからかう為だけと俺は。
「何スか?」
「靴、レンタルってどういう……やだよ。そんなの無理。靴を貸し借りだなんて気持ち悪い」
でも、こうして約束だからと誘われ、出掛け。俺の困惑は広がっていく。だって、王子は想像以上に、色々な事を知らなかった。
「だからってその場で新品のマイシューズ買ったりします?頭おかしいでしょ」
「いいじゃないか。だって『友達の前では遠慮はいらない』んだろう?デートなら我慢の一つもするけどさ」
そう、先日の講釈の中で、俺は王子に嘯いていた。友達の仲では遠慮は無用。いいも悪いも我慢ではなく、それも含めて許容するのが友情なのだと。
「相手の価値観を尊重し合って、心打ち解けてこそ真の友達。でしょ?」
シレッと王子が黒歴史たる俺のあの日の言葉を言うので、無理矢理話を逸らすしかなかった。
「じゃ、ボール選びましょうか。何ポンド、って言ってもわかんねぇか」
「え、こんなに重いの?なんだかとっても理不尽なスポーツだね?」
「王子、それキッズ用ッスよ?大人用はもっと重い」
「嘘。なんでそんな……どう考えても危なくない?」
「知りませんよ」
イチイチ面白い王子のボーリングは、一目で初めてとわかるほど下手クソだった。大体、投げ方自体がおかしかった。でも俺はその時すぐに気付くべきだったのだろう。王子は軸足が人と逆なのだから。
(でも慣れてきたら結構普通にスコア伸ばしてたんだよなー、センスの塊かよ)
最初のゲームこそガタガタなスコアで、けれどコツを掴んでからは調子も上がり、王子がダブルやターキーを出せば、周りの女どもが拍手を贈った。イケメンはともかく狡いと思った。下手なら周りが応援をして、上達すれば喜んでもらえる。
(俺なんかの方がよっぽどいいスコアだったのに誰も何にも……)
「何?」
「いや別に」
「楽しかった。全ゲーム負けちゃったのは心外だったけど」
王子はまるで子供みたいで、
「初めてにしては上出来ッスよ」
と俺が素直に褒めても、口を尖らせて眉を寄せた。負けず嫌いが悔しがる姿は、俺の胸をスッとさせた。
「これで今度からデートとかでボーリングも大丈夫ですね。知らないで変な恥かく事もない」
「そうだね。こういうのは機会がないと体験出来ない事だから。キミの友情に感謝だな」
「ったく、あんたの青春は何やってたんだって話ッスよ。こういうの野郎ども一杯でワイワイやるのが結構楽しい時間なのに、ってあれ?王子?」
王子が足を止めていたのは併設のスポーツやゲームなんかをやる施設で、
「入ってみます?」
と声を掛ければ、
「え?いいの?」
と嬉しそうに笑った。アーチェリーだ、バスケだ、テニスだ、と、王子は、
「凄いね、なんでもある。遊園地みたいだ」
と目を輝かせ、俺をコテンパンにのしては笑い、勝負に負けては歯噛みした。王子はやっぱり想像以上に、色々な事を知らなかった。
*
朝から何も食わずに遊び回って、お腹がペコペコになってしまった。商業施設の中の店か、外で別の店か少し迷った。すると
「ここに入ろう」
と王子が言うので、目の前のファミレスで食べる事になった。
(王子もこんな店に入るんだな)
なんだかそんな事が面白かった。でも、入ってみたらもっと面白かった。実はというか想像通りというか、案の定ほぼ初めての入店とわかったからだ。
(さも当たり前のように入って行ったと思ったら、これだもんなぁ。やっぱ変わってるわ、この人。王子的振る舞いがネタじゃなくてここまでガチだとか、実は周りもあんまりわかってねぇんじゃねぇかな?)
ドリンクバーの仕組みすら理解していなかった王子は、最後に俺にこう言った。
「色々驚かされることばっかりで……でも、ただみたいな値段であの店よくやっていけるね?」
意外と美味しいと目を細めつつも、王子はコーヒーをたった一杯だけしか飲まなかった。ドリンクバーなのだから何杯でも飲んでいいのだと言っても、配慮なのか、遠慮なのか、
「また来た時に」
と笑っていた。
(わけわかんねぇけど、王子、やっぱ面白いわ)
本気で店の採算を考えていたなど、驚くを通り過ぎて呆れてしまった。
(採算が合うからやってるに決まってんだろ?頭がいいんだか悪いんだか)
*
そんな、こんな、帰り道。俺の車の助手席に座る美麗の王子は、やっぱりなんだか違和感がある。
「今日はありがとう」
と感謝する王子に困惑しながらも、俺は頭を掻きながら小さく答えた。
「いえ、別にそんな」
「実はね、ザッキー」
「はい?」
「キミがあの晩ボクに言った事、最初は何を言ってるんだろうってカチンときたんだ」
ドキリとしたが、それもそうだろうとしか思えなかった。喧嘩腰の絡み酒について、ちゃんと自覚があったからだ。俺はどう考えても失礼な奴だ。
「でもさ、キミの言う通りだった。こんな楽しい時間、ボクが過去友達だと思っていた人達と、一度も過ごせていなかった」
「……」
「まるで家族と過ごすような……みんなはこんな日常を過ごしてたんだね」
王子は、新しい友達の定義に触れて感謝している、と俺に言った。そして。
「ねぇ、ザッキー」
「はい?」
「ボクの友達になってくれる?本物の友達に」
真顔で言われて噴き出してしまった。王子は全く以って掴みどころがない。
「つまりね?今日みたいないきがかりの義理でじゃなく……本当に、本気で、ボクはキミとちゃんとした友達になりたいんだ」
「……」
「駄目かい?」
「いや、駄目だなんてそんな」
「じゃ、いい?」
「いや……そ、そういうのはこう、宣言してなるもんでも」
「そうなんだ?」
(そうか……普通に変だけど王子は人と仲良くなるのに『付き合いたい』とか言ってから始まる関係性とかやり方しか知らない?だからか?)
「じゃあ、どうすればいいのかな」
「まあ、いいッスけど。俺も今日すげぇ楽しかったし、また出掛けられるなら違うところ一緒に行ってみたいと思ってましたし」
「良かった。じゃあ、またボクと遊んで?」
そうして友情にウブな王子からの要求を以って、俺達は『友達』になる約束をした。俺達二人の奇妙な関係は、全てここから始まったのだ。
