もし、うちの王子がヴァンパイアだったら
【3230文字】
ネタがネタのため血関係の表現が混ざります、特殊タグを入れました。あと、いつもですけど、オチ、とは?ハッピーコメディのつもりでしたが、途中からなんも考えず好きにしました。あと、本文内の法則は「招かれないと家に入れない」とかいう習性を敢えていやらしい意訳にて使用ԅ( ˘ω˘ԅ)
ともかく、まあ、血ぃ吸うたろかぁ~byカンペー
「ねぇザッキー」
「嫌っスよ王子」
「まだ何も言ってないのに」
「言われなくてもわかりますしね」
「じゃあ、いいじゃない血くらいさぁ」
「ダ、メ、です!」
抱きついてくる王子を腕で跳ねのけ、ソファから立ち上がって俺は怒鳴った。
「あと、何スか!血くらいって!!普通に大ごとな話でしょう!?」
「……だあって、吸血鬼には日課だし……」
*
人工芝で太腿に大きな擦り傷をこさえた日、変態じみたことを言われた。
「ねぇ、その傷、舐めていい?」
「は?」
「痛くしないし、早く治るようにもしてあげる、だから」
「いや、あんた何言っ!?ちょっ!」
部屋の物陰に追いやられ、ね?なんて微笑まれ、半ば無理矢理?なし崩し?気付けばペロペロ舐められていた。
「WinWinだよね♪君は治るし僕は吸えるし♪」
金色に変化した瞳はまるで猫のように縦に細く、抑えつけられているわけでもないのに体が麻痺して動けなかった。
「待っ、王子頼むから……」
舌先がねっとりと傷を這い、時々、チュウチュウ吸い付かれ、まるでミルクを飲む猫の無邪気さ、それでも喉を潤すその液体は、傷から染み出た俺の血だった。悪びれもせず見上げるその眼は、やはり人のものとは程遠く、
「ほら、もう治ってきたよ。これくらい僕なら楽勝だ」
と微笑まれても、言葉を失うばかりであった。
*
変態の方がマシだっただろうか。未だに、嘘だろ?と思う俺の正気と、冗談にしてくれない王子に挟まれ、頭を抱える日々だった。
「じゃあ王子、やっぱあれっスよ。あれやってくれたらいいッスよ」
「……」
「なぁ、王子。やれよ、ほら。どうしてもどうしても吸いたいんでしょう?」
某関西系芸人の古典的な蚊の真似ネタをしろというと、王子は口を尖らせ黙る。血への欲求の強さは理解していた。それ以上に強いであろうプライドもだ。俺に弄られて歯噛みをしている王子の姿を見るのは楽しい。しばらくからかい続けていたら、とうとうソファのクッションを抱き締め、ポスンと向こうに倒れてしまった。貝のように押し黙り、不貞腐れながら固まっている。
(おっと、ちょっとやり過ぎたかな)
度を過ぎるといきなりとんだ目に合わされるので、ほどほどで譲歩も必要だ。
「王子」
「……」
「こら、こっち向けって」
抱き締めているクッションを剥がそうとしても、ぎゅっと掴んで顔さえ上げず、やれやれなんて子供な王子のご機嫌をとってやる羽目になる。
「十割本気で言ってますけど、冗談にしといてやりますよ」
「……」
「あーもう、めんどくせぇなぁ、たかだかこんな」
頭を撫でてやると機嫌がよくなる。しつこい所もご愛敬。
「王子、なぁ、わかった。降参」
「……」
王子は無駄に甘えん坊で、とても手がかかる。その分可愛い。じゃれていたくて仕方がないのだ。遊んでやるのも俺の甲斐性。うずうず、もう俺を許したがって、そのやせ我慢が愛おしい。
「……ちょっと怠いんで、あんまりがっつりとは駄目っスよ?」
「え?体調悪いのかい?」
「まあ、それほど大袈裟な話じゃ」
王子は餌に親切だった。味が悪くなる、なんてただの言い訳だ。少し素直じゃない人で、普通にそういう人柄だろう。
「平気ですって。ほら口にしたらすぐわかる」
そう言い、俺はまだ戸惑っている王子の口にそっと唇を押し当てた。頸動脈からの摂取より、唇を噛まれて吸われる方が、行為の生々しさがないからだ。
最初は少しおずおずと、その後舌をひとしきり絡めあい、静かに王子に許可を与えた。
「噛む時、あんまり痛くしないで欲しい……」
恥ずかしくともお願いすると、笑って必ずそうしてくれた。
「んっ……」
痛みを完全になくすのも、そのままも増幅も思いのままで、王子は俺が望むとおりに適切な痛みをそこに与えた。激しくされるのは少し怖くて、舐められるだけでは物足りなくて、そういう好みを掌握されつつ、俺は吸血行為を受けた。
(あぁ、こんなに手加減してくれてるのに)
頭の奥がジンと痺れる。餌への負荷を軽減するのに、行為に毒はつきもので、傷を塞ぐのもこじ開けるのも、王子にとっては自由自在。
(ヤバ……もう無理、限界……)
淫魔と吸血鬼は広い意味で同族であり、彼の一族は血よりも人の精(快楽)を好む、より古い血脈を持つ種族であった。その毒をして餌の性欲に火を灯し、まるごと平らげたがるは本能。唇からは血が滴り落ち、それでも大人しく許可を待ち、その間も猛毒が降り注ぐ。
合意がなければ何もできない。
舐めてもいいかと問われた日から、すでにあった法則であり、表層の言葉に意味はなく、ただ純粋に心だけが作用する。
「うん、あんまり痛くはしないよザッキー」
虹彩は細い時よりも、丸い方が邪悪が強く、その微笑みは呪いそのもの、ぞっとするほど美しかった。
「はっ、あ、ぁ、」
王子の表情が俺を本来の形の餌にさせ、少しでも美味しく平らげるため、執拗な愛撫が繰り返された。指先や舌であり、牙であり、挿入というより侵入であり、摩擦というより擦過に近く、それでもドロドロに全てが甘く、なにもかもを根こそぎ奪われ、こんなにも欲され贄と化す、その幸せに深く溺れた。
*
「がっつりは無理って……」
「うん、まあ……返す言葉もないよね、普通に」
しょげた顔をしながらも、その表情は満ち足りていて、なんだかなぁ、と思ってしまう。こういう生活、いいのだろうか。
「ねぇ、ザッキー怒ってる?」
牙も爪もある可愛い子猫は、自らの魅力を知っていて、ろくでもねぇな、とため息交じり、ほとほと俺は王子に弱い。
「つか、そもそもあんたら死なないんだし、本当は血とかもそんな必要じゃないのでは?」
何気なく口から零れた疑問に、王子はまるで当然のことかのように。
「さすがに気付いてしまうよねぇ」
「は?」
「ん?」
「いや、だから」
「?」
確かに薄々そんな気は。
「待っ、今の、どういう、え?」
「ザッキー、何だい?どうかした?」
「マジで、あの……え?血、吸わないと死ぬとかじゃなく……?」
「ハハ、いちいちそんなで死ぬとか、ウケる」
「いや、え?じゃ、なんで?」
「人はパンのみにて生くるにあらず?強いて言えばそういう感じ?」
さらりと聖書の一節を聞き、呆気にとられる唇にキス。
「僕らにも祝福は必要なんだ。君達の愛と祝福が」
王子その人の瞳のままで、うっとりとした蕩ける口調で。
「ね、噛まずにするからもう一回……」
猫にするみたいに顎をこちょこちょ、彼の懐柔はとても巧みで、愛と祝福と血と意義と、そういうものがもうぐちゃぐちゃだ。
「したい……我慢出来ないよ」
俺に甘える王子が可愛い。いつでも、なんでもしてあげたくて、けれどもなんでもされてしまって、WinWinだよねと抱き締められた。
「え、なあに?聞こえない」
強く求めて、もう少しだけ。
幸せそうに微笑みながら、わかった、なんてまたキスされた。
「怖がらないで。愛してる」
少し素直じゃない人で、それでも普通に優しい人で。
「もっと……なんでも言うこときくから言って、好きなこといっぱいしてあげる」
激しい欲望を内包しつつ、俺を深く傷つけはしない。とことん俺を善くしたがって、愛され上手の愛情上手。甘えてみせて、それを教えて、俺に模倣を促している。
噛まれずにするのは初めてであり、おねだりをするのも当然初めて。なんだか普通に、あまりに情交、恥ずかしくなるほど沢山イった。
「可愛い……好き。大好きザッキー」
まるで人間同士みたいで、つまり恋人同士みたいで、胸が痛くて苦しくて、愛おし過ぎて切なくなった。そんな姿を見つめる王子の瞳がキラキラあまりに綺麗で、やはり俺は言うのだ多分。言わされるでなく自分の意思で。
きっと王子はそれを聞き、わかった、なんて微笑むだろう。金色の目が俺を射すくめ、牙が頸動脈を突き刺すだろう。生々しいほどの邪悪と痛み、彼の本質をそのまま受け止め、悦びの涙を流すだろう。
愛と祝福、告解と贖罪、意味があろうとなかろうと、すでに俺達はそうだから。そういう形の俺と王子は、もはやそれが普通だからだ。
