飲む男
ジーノが達海(仮名ハニー)攻略の為にみんなで飲みに行って作戦会議をします。赤崎目線的。出席者はジーノ、赤崎、椿、世良、堺、丹波、石神、堀田の8人。
「ねぇ、ザッキー」
ペアのストレッチ中に珍しく王子が話しかけてきた。
「なんっスか」
「君さ、交際経験とかある?」
「…あ、あるに決まってるじゃないっスか?」
「じゃあ、僕に口説き方とかを教えてくれないかな?」
「はぁ???怒」
よりにもよってあの王子が俺に?絶対この人ふざけてる。また俺からかって遊ぶつもりかよとムッとした。
「実は、とても魅力的な人に出会ってね?珍しくボクがハニーに素直な気持ちを伝えたというのに反応が悪いんだよね。こういうことって初めてで。特定のステディがいるわけでもなさそうなのにこのボクを断るなんて常識的に考えてありえないでしょ?どうやらやり方がいけないんだとは思うんだけど次何をどう話をすればいいのか考えると頭が痛くて…」
これ、マジなのか?一部トンチンカンなことを言ってる気もするけど、それは元のキャラだし、どうやらふざけているわけではなさそうだ。
愁傷な顔をしながらふっとため息をつく麗しの王子の目はうつろで潤んでおり、それがなんともいえず艶っぽくて、思わず赤面して目をそらしてしまった。王子はつっと俺の顎に指を差し出して自分の顔のほうに向けさせしっとりと俺を見つめた。
「ねぇ、力になってくれない?」
「…や…まぁ、俺で役に立てることがあるんなら…まぁ…」
出来もしないのについ生返事で答えをすると王子はハッハー!!と満面の笑みを浮かべるとこう言った。
「よかった!!!ザッキー女の子にもてないから絶対女の子口説きまくってきた感じがしたんだよね!勝率はどうあれ、色々なパターンの話を持ってるでしょう?!!!夕食でも食べながらいろいろ聞かせてもらうことにするよ!よろしくね!!!」
「!」
上機嫌の王子は大きな声でペラペラと何気にひどいことをしゃべり始めた。そして
「せっかくだから、バッキーも暇だったらおいで?」
と俺に断りも入れずに勝手に椿に声をかけた。飼い犬を散歩に誘うがごとくにこやかに。
「えっ!はい、それは喜んで!…ていうか…あの…」
「なに?バッキー」
「失礼かもしれませんが、もしかして王子って片思い初めてなんですか?」
「…」
「あ、すいません、すいません!僕ッ!」
「いや、いいよバッキー。…なるほど、そうか、これが。」
王子は腕を組み顎に指をそっと添えて少し考えこむと、不意に
「この痛みは今までになく苦しくて不愉快なんだけどなんだかそれだけじゃない気がしてたんだ。そうだね、これが片思いというものなのかもしれない!今まではいいなって子を見かけて、その子がボクに告白してくるまで待っているその数時間がいわゆる片思いってものなんだと思っていたんだよ。ボクすっかり勘違いしてたみたいだ!」
「えっ」
なんだかありえなさそうで、この人ならそれが普通のことなのかもしれないなんて妙に納得していたら、王子は左右の指を絡めて祈るように胸の前に組み、虚空を見つめて高らかと話し出した。
「ほんと今まで全然気づかなかったよ!わかっていたようでいて、実は全くわかっていなかったんだ!!そういう意味においては、片思いどころか、本物の恋というものを知らなかったのかも!だってこんな気持ちは初めてなんだもの!!これは初恋であり初めての片思いというものなのかもしれない!!ハニーはそれを初めてボクに教えてくれていたんだね!!なんて素敵なんだろう!」
「はぁ???なに言ってんスか、王子」
俺の話はすでに耳に入らず、くるくると王子の心はどこかへ飛んでいってしまっていた。
「そう思ったら、確かに、なんというか、今ボクとても不思議な気分だよ!はじめてボールを買ってもらって、蹴ったりリフティングをしたりした、あのままならないもどかしくて楽しくてワクワクする感じ。なんだかあの頃の!」
興奮して早口でしゃべり続けている王子がいきなり俺の後ろから腰に腕をからませてギュッと抱きついてきた。
「ザッキー!そうとなったらボクはなんとしてもハニーを手に入れるよ!?記念すべきボクの初めての人なんだから!よろしく頼むね!!」
ちょっと!興奮しすぎ!痛い!苦しい!俺の耳に頬ずりしないで!顔近い!近いから!真っ赤になりながら引き離そうと焦っていると、
「ん?なに?赤崎先生ってば恋のお悩み相談にのってあげるんですって?まぁ、奥様これは聞き逃せませんことよ?」
「あらやだ、それほんと?」
ゲッ!と赤崎が顔をあげるとそこにはニヤニヤウフフと口に手を当てて笑う石神と丹波が。
「おーい、今日暇な奴!みんなで晩飯食いに行こうぜ~♪」
ちょうどストレッチを終わらせていた丹波は下世話な笑顔を浮かべながら足取り軽く周りに声をかけ始めていた。
「勘弁してくれ!!!」
思わず追いかけようとした赤崎だったが、王子にがっつりとホールドされていたため動けず、ただじたばたとその場で暴れるしかなかった。そして王子は
「ザッキー!ねぇ、なんてすばらしいチームメイトなんだろうね!?今までボクちっともわかっちゃいなかったよ!みんながこんなにボクの力になってくれるなんて考えもしなかった!いろんなアドバイスをもらえば、きっとボク上手に口説くことができそうだね!なんだか今日はとっても世界がまぶしいよ!!」
テンションの高い王子とは裏腹に俺はすっかり心が折れそうになっていた。
…どうしてこうなった。
* * *
「しかし、王子が手こずるなんて、何気にすごい女もいたもんだね」
先日飲み会で利用した居酒屋で乾杯してから早速石神がそういうと並んで座っていた丹波と堀田はうんうんとうなづき、俺も確かにそうだなぁーと思った。
「それだけ魅力的な人だってことだよ、タンビー」
ホホを赤らめうっとりとつまみのイカげそをもてあそぶ王子の姿は滑稽なようでいてなにやら妙な色気があった。
「で、今ンとこどんな感じでアプローチしてたんすか?」
キラキラと目を輝かせて世良が尋ねると、「実・演!実・演!」とベテラン勢がはやし立てた。
「そうだねぇ~ボク、ごちゃごちゃと回りくどいこと苦手で…この前は普通に…」
とつぶやきながら、ちらっと左隣に座る椿に目をとめて、左手で椿の右手をつかんだ。いきなりのことでドギマギしている椿の目を潤んだ瞳でじっと見つめると
「好きだよ、本気なんだ。必ず君を幸せにしてあげる。」
突然王子がこの世のものとも思えないつややかな色気のあるトーンでつぶやくようにささやくと(キャー!!!)と同席していたメンバーの大部分が声にならないハートの叫び声をあげた。
「ねぇ、わからない?ボクは今、君をこれ以上ないくらいに本気で口説こうとしてるんだよ。」
ふっと魅惑的な微笑を浮かべたのち、椿の手に軽く唇で触れると、じっと目を見つめ、続いてごく自然につないだ手をひき椿を引き寄せ、軽く椿の唇にも口づけをした。
「!!!」
いつの間にか右手は椿を抱きかかえており、そのままぐっと身を乗り出して押し倒し、つないでいた自分の左手をはずして椿の額、瞼、耳、頬、口の順に指を這わせはじめた。
「愛してる」
全身真っ赤になりながらぽかんと口を開けて硬直していた椿に再びゆっくり顔を近づけ、今度は椿が経験もしたことがないような思いきり舌を絡ませる深いキス。王子の濃厚なキスはおよそ居酒屋の個室には似つかわしくないなんともアレな音を立てて繰り広げられ、その光景はあまりにも官能的なものだった。
そうしてそれを誰も止めることも煽ることもできずに茫然と見守る中、ふいにジーノは自分の前髪をかき上げて一人起き上がった。
「って、本当はこんな感じで致す予定だったんだけどね?なんだか全然うまくいかないんだよ。なんかあれなのかな、べた過ぎて工夫が足りないのかな?」
声のトーンが急にいつもの調子に戻って肩をすくめて大げさなため息をついた。
椿は目を回してそのまま横たわっていたが、そんなことは誰も気にかけられないほどにメンバー全員の体にはジーノの女性サポ達のようにものすごい興奮の鳥肌が立っていた。
軽く女性に優しい声掛けをしている光景はみたことがあるが、実際そういう場面になったとしたらこの男のセクシャルな魅力はキザでくさいセリフと行動によってさらに圧倒的なものになるのだということが理解できた。それは想像をはるかに上回る淫靡な力を持っていた。
あのビジュアルに声のトーン、率直でシンプルな愛の言葉と滑らかすぎる一連の動き。
その破壊力はそれはもう恐ろしいもので、正直こんな人と平気でサッカーやってたのかと改めて戦慄が走った。
(だめだ…やばい。どう考えてもムリ。今すぐどうにかしてここを立ち去らないと!)
こんなんみせられてどうやって俺が口説き方の講釈を垂れることができるっていうのか!王子の右隣に座っていた俺は思わず高鳴ってしまった心臓を忌々しく抑えながらビールを煽った。
王子は「好きというだけでキモいとかウザいとか言われてね」等と眉をひそませてあれこれ文句を散々言った挙句に急にこちらに向き直って、期待に満ちたなんともいえない目線を向けて
「じゃ、ご指導お願いね?ザッキー」
とニッコリと笑った。
ニッコリと笑っていたのは勿論王子だけではなく、向かいに座るベテラン軍も同じだった。
何度か話を振られる度に話を振りかえしてどうにかお茶を濁し続けていた俺だったが、そうこうしているうちに参加者全員酔いが随分進んできているようだった。
「ってか、やっぱりその女、王子に直接攻撃食らって平気とかかなり変人じゃね?丹波」
「ハニーの悪口を言うのは許さないよ!」
(石神さんに変人呼ばわりされるとか…椿どうよそれ)
(し!ダメですよ!世良さん!聞こえます!汗)
「でも石神さー、王子のあのやり方がダメなんだし、もう少し口説きの基本に立ち返ってひとつずつ試していく他なさそうだよ。やっぱ赤崎先生に一からご教授願うしかないよな?」
だめだ、もう逃げられない。まるで卓球のように何度打ち返してもすぐにこっちに話が戻ってくる!いよいよ俺は追い詰められていた。
しかし、その間飲んだお酒の量が多すぎて、すでに頭がさっぱり回っていなかった。でも話が何度も何度もループしながらもワイワイやってる状況をみればまともに話を聞いてる人間は少なそうだ。俺は(このままみんな泥酔して俺の話など記憶からとばしてしまえ!)と内心叫びながら呂律もまわらない口でしゃべりはじめた。
「あれじゃないっすかね、要するにサッカーで言うとシンプルに縦に速い攻撃ばっかだと結局単調になって相手に読まれてしまうとかそういう感じとか。ま、 如・何・に・も!王子が好きそうな攻撃展開ですけど?」
ふんぞり返り、態度だけは偉そうに上から目線だったが、本当はテンパっていて自分でも適当すぎて何をいっているのかよくわからなかった。
「あー、確かにな。ゲームでも苦しくなってくるとどうしてもワンパターンになって相手にはがっちり引かれて決めきれなくなる展開ってあるよな。そういう時は気持ちは熱くなってても冷静さは欠いてはダメだ。」
堺は、丹波達に主旨を説明されないまま声をかけられて参加してたため終始憮然と状況を眺めていたのだが、赤崎の発言に今日初めて感心するように頷いた。
「そっすね!さすがです!堺さん!」
「るっせー世良。お前に言ってんだ。いつもギャーギャーわめいてないでもっと落ち着けよ。」
でまかせだったけど結構ウケが良くて俺はちょっとほっとした。
「なるほど、ザッキー、確かにハニーに好きって何回言っても全然面白くないって言われたんだよね。そして、次にテンパってるの全然ダメ、無理だって言いわれた。バッキーみたいなのはね。要するにボクは冷静さを欠いて単調なプレイをしていたわけか。」
(ガーン!!!)
椿はようやく先ほどの衝撃から立ち直り会話に参加し始めていたにもかかわらず流れ弾に当たって再び沈没した。
俺はそんなことはお構いなしに調子に乗って
「そそ、相手にそれが来るって最初から読まれてちゃとてもそんな攻撃通らないっすよ。そういう時はあれじゃないっすか、一旦中盤にボール戻したりして相手のDF釣り出してまた形作りなおすとか」
と返した。するとそれに今度は堀田が続いた。
「そうだな一旦引いて広くワンタッチでボール回してパスで相手崩してってあるよな」
「自分だけで突破を考えるんじゃなくて展開したサイドから絶妙なクロスもらうってのも大切っすね!」
「世良さんのいうこともそうだけど、時には強引に攻めてってPKとかFKゲットを狙うってのもアリじゃないっスか?」
「俺はともかく赤崎、てめーはファールもらうよりむしろカードゲッターじゃねーかよ。自分がくらってどうすんだよw」
「なんか説得力あるね。でもサック、君はもてるからいいけどザッキーはもてない可哀そうな子なんだから、あんまりいじめないであげて?一生懸命なんだし。時には野蛮な真似をしなければいけないのも仕方ないことなんだよ。」
「なんっスかそれ!王子、それ失礼でしょ!」
「ようするに他にちょっかい出したりして気のないそぶりをする作戦と、協力者と一緒になって攻める作戦だな。あと危険を承知で無理矢理押し倒す作戦か。」
サッカー論をナンパ論に翻訳しつつ丹羽は勝手に全員分のビールのおかわりを頼んでいた。
「バッキーはどういう作戦がいいと思う?」
「えっと…僕はなんというか単調とか駆け引きとか難しいことわかんないんで、ともかく諦めずにチャレンジし続けるくらいしか思いつかなくて」
「んー、如何にもバッキーらしいね。」
「あ…てかそもそも俺なんて…というか、まず恋愛にしろサッカーにしろ王子にアドバイスって変な感じです(汗」
「いいんだよいいんだよ。王子とか年上とか関係なく、こっちは初心者なんだから!なんだか知らなかったんだけど恋愛に関してはボク本当に攻撃力あまりないみたいだよねぇ?でも、昼間も言った通り今まで恋愛に関しては攻撃力がないっていうか攻撃そのものを仕掛けたことなかったんだよ。なんていうか受け身だったっていうか?気になる子がいたらこっちが単に普通の話をしたりしてるだけでいつも飛び込んできてくれるしね?なんか自然にそんなムードになるからあれこれ考えたこともなかったんだよね。」
「王子、人にもてないとか野蛮とか言っておきながら、それ、何の自慢すか。話の途中で論点ずれてきちゃってますよ?」
「自慢?なにそれ意味わかんないよザッキー。ちなみにボクを好きになってくれる子に悪い子がいるわけがないからね?気になってなかった子でも基本的に好意を寄せてくれる子に関しては断る理由がないからすべてお受けするよ?都合と気持ちの余裕のつくかぎりはって感じだけどね。」
「さらに話ずれてきてますよそれ。」
「…じゃ、王子、意外なんですけど恋愛に関しては守備的な選手ってことなんですかね?」
「いやいや、違うぞ椿。告られて全部ベッドインだろ?それ、守備力全然ないだろ!即効突破されてんじゃんwwww」
「王子、シュート打たれたら全部ゴールwwwww」
丹波と石神と二人がそういいながらゲラゲラと笑い続けて暴れるので堀田は慌てて周辺のコップを遠ざけていた。
「じゃあ、なにかい?ボクは恋愛に関しては攻撃も守備もからきしダメな無能な選手ってこと?センスないのかなぁ…。それはちょっと困るんだけど。練習すれば少しはましになるのかな?」
それをきいてさらに笑い過ぎて助けて助けて息ができないとヒーヒー言ってる二人をるっせーぞ!そこ少し落ち着けや!と堺が自分も笑いをこらえながら声をかけた。
日頃の王子はびっくりするほどお酒が強くてどれだけ飲ませても全く様子がかわらない。なのに、今日はほんの数杯のお酒ですっかり酔いが回ってしまっているのかまるで別人のように幼く素直で、そしていつもにもまして陽気だった。
「なんか、こういうのって新鮮だね。知らなかった新しいことをひとつひとつ積み上げて覚えていくのってとても楽しいよ!君たちは恋愛に関していつもこんなすばらしい世界にいたんだね!ボクは今とても興奮してるよ!恋愛ってとっても素敵だ!ボクはハニーを幸せにしてあげるって思ってたけど、逆なんだ!ハニーはボクを幸せにしてくれる!絶対ボク射止めてみせるよ!」
「サッカーも常にそれだけ真剣にやってくれたら後藤さん達の気苦労も少しは減るだろうって思いますけどね!」
片思いに震えて悶える泥酔の王子は周りをさらなる爆笑の渦に陥れてた。
いつもはゴージャスを通り越してやりすぎ感もただよう微妙で高慢な王子が、まるでなにもしらないウブな生娘のように恋を語る姿はあまりにもアンバランスでいながらいつもとはまたまったく違った魅力が醸し出されていた。
気持ちの高揚と酔いの相乗効果で柄にもなく周りに気を許して振りまかれた朗らかな王子の笑顔は謀らずも周りのメンバーの心を射抜き続けていた。
ようするに、実際のところは恋愛においても無自覚ながら超攻撃的なテクニシャン系のまさにサッカーと同様のファンタジスタそのものであったのである。
「もっとみんなの話をボクにきかせて?一杯いろんなことをこれから覚えていかなくちゃいけないんだから」
[maroyaka_webclap]
