お花結び

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わたしを祝福しておくれ

完全に相思相愛なのに王子が絶対にそれを認めないお話。ホノボノ系?ラブチュッチュの次の日ザッキーと王子が喧嘩→後藤さんに相談→後日談という流れ。ジノザキ?ザキジノ?どっち?な空気感。

        ジノザキ

もし君が悩む友を持っているなら:後編

 赤崎は午後練の日は軽食を持ちこんで午前中から自主トレをしていることが多かったが、今日もそんな日だった。

「おはよう、赤崎。今ちょっといいか?」

 ロッカールームで支度をしていた赤崎に後藤が声をかけた。ETUのユースだけあってそれなりに前から顔見知りだったが、こうして個人的に声をかけられたことはあまりなかったので赤崎はちょっと驚いた。

「あ、おはようございます。なんッスか?」
「あのな、前からちょっと気になってることがあって。王子の、あの…飼い犬云々とか言い出してるやつ、お前困ってたりしてない?」
「え…?」
「椿はさ、ほら。ああいう性格だから別に大丈夫かなとは思ってるんだけど、お前はどうかなって。相手があいつじゃ万が一はっきりお前がNO!っていっても、ちっともいうことききそうにないだろうなーって思ってさ。」
「…後藤さんって、なんか背負わないでいい苦労自ら背負いたがるっていうか、バカみたいなとこありますよね。」
「いや…ははは、バカか?手厳しいな。達海とかむしろ面白がっちゃってるし尚更そうなりがちなのかも。」
「色々気苦労多いンスね」
「結構、前から王子がお前に絡んでた感じあっただろ?でも、ここにきて突然あの扱いじゃ…って気になったんだよ。名前わかんないわけないのにわざわざ間違えてふざけたりとかね。」

 後藤は日頃ジーノから赤崎の話がよく出てきていたため随分気に入ってるのだなという程度の認識だったが、それを知らない赤崎は秘密裏にしてきたはずの二人のいわゆる性的な関係がばれているのかと思って顔をこわばらせた。この場合、一体どういう話をすればいいのだろう?確かに俺は犬扱いについては困っている。だが、彼が嫌だというわけではなく体だけではない気持ちのつながりのある関係になりたいのだと思っていることなど相談できるはずもなかった。答えに窮した。

「あれ?どした?」
「……」
「やっぱり困ってるのか?」
「えぇ…まぁ。当たり前だけど俺犬じゃないですし。あの人ほんと結構俺より年上の癖に非常識で色々わかってないみたいで困惑はしてます。」

 バレていない可能性もあるので有耶無耶にしつつ言葉を選びながら言ったつもりだったのだが、逆にそれを意識しすぎて悪口みたいになって嫌な気分になった。いつも偉そうな物言いをしてまっすぐ素直な自分の気持ちを出せない。

「あいつホント変ってるからなぁ~。」

 ジーノの話から二人は意外と仲がいい関係にあると思っていたのに返ってきたのは赤崎の必要以上につっけんどんな受け答えで後藤は苦笑した。

「先輩後輩の縦の関係ならともかく犬扱いとかマジありえないッス。失礼でしょ?普通に。まぁ今は我慢ならないところまできてるわけでは…。飽きたらやめてくれるかもしれないし。」
「…そっか。ならよかった。お前が大人で助かるよ。」
「なんか、後藤さんも大変ッスね。才能はあってもあんなトラブルメーカーみたいな選手のフォローして廻んなきゃいけないなんて。」
「まあ、そういうなよ。今回の件に関しては、王子がお前らに変な形で絡みはじめた原因、俺が達海呼んで新体制になった影響もあるかもって少し責任も感じてるんだよ。あいつタフそうに見えて意外とデリケートな部分あるからね。環境の変化で不安定になってなんかやらかしはじめるかなーってちょっと心配してたけど、まさかお前らにピンポイントで負担かけるような形になるとはね。想定外だった。」
「あ、いや、それは考え過ぎっていうか…別に大丈夫ッス。」

 監督交代とか関係なく、みんな知らないだけでずっと前から王子の飼い犬だったし…と赤崎は心の中でつぶやいた。

「あいつのほうが先輩の癖に子守頼む感じで申し訳ないけど…しばらく懐貸すつもりで付き合ってやってよ。そんで、どうしても嫌だったり困ったことになったら遠慮しないで俺頼ってくれていいから。そんときはまた相談に乗るし。一応今日、後で王子がきたら俺からもさりげなくやりすぎないように注意はしておくよ。」
「いや…どうも…」
「負担か?」
「別に大丈夫ッス。わけわかんないとこあるけど勉強になることも多いんで。」
「頼むね。偉そうな態度に見えて腹立つかもしれないけど、単にあれ天然なだけだから。基本的に気のいい奴なんだよ。」
「……」
「屈折してるけどお前らのこと馬鹿にしてるんじゃなくてよっぽど気に入ってるんだよ。あいつのマンションのジムでやってたTPPT講習に二人で行ってきたんだって?びっくりしたよ。俺なんて何回つれていけって頼んでても、ごめんだねって断られてばっかなのに。」
「え?」
「うん、行ってきたって聞いたけど?TPPT講習。」
「まあ、行ってきましたけど。なんッスか?」
「あいつ他人のこと絶対家に呼ばないからさ。なのにこの前シレッと赤崎のこと家に連れてったって言ってさ。誰も入れたこと無いし部屋番号も自分しか知らないっていってた癖にって言い返したら、あのジムはドレスコードあるからスマートカジュアルの着替え貸すのに入れたってさ。」
「え?誰もって?…冗談でしょ?」
「いや、ほんとだと思うよ?友人は愚か彼女や家族も中には通したことないって何度も言ってたし。」

 赤崎はとても驚いていた。あの人が俺以外の人間を家に入れたことがなかったなんて。それにジムにいくのにドレスコードがあるのなんてことも考えたことがなかった。いつも普通に一旦部屋に立ち寄って着替えを借りてジムに行っていたが、それは赤崎が着た服でそのまま帰れるようにという説明だった。だが俺は俺で王子にとって俺のいつもの恰好がマンション内で一緒に歩くには恥ずかしいものなんだろうと勝手に卑屈になって考えていた。ドレスコードなんて固いルールを俺に意識させないように自然に誘導して着替えさせていたなんて思いもしなかった。もしそういう話を事前に聞いていたらそんな高級そうなジム、堅苦しくて絶対行きたくないって我を張っていたことだろう。
 王子の配慮のやり方はあまりにも自然すぎて大人すぎて、気付くといつも自分の小ささに恥じ入っていたたまれない気持ちになってしまう。本当は犬扱いされて怒る筋合いなんて全然ないのだ、多分。

「…後藤さんはよく王子のことご存知なんですね。」
「えー?そうでもないよ。こっちがプレイ態度とか真剣な話をしようとするとすぐこんな余計な話し始めるんだよ。まあ、そういう感じで結局煙に巻かれちゃう俺も情けないんだけどね。」
「…いや…なんかそういうの、大変だろうけどある意味うらやましいッス。俺なんて人間扱い以前の問題だし…」
「あ…。おい、そんなしょんぼりするな。屈折した言い方になってるだけであいつ悪い意味で犬だって言ってるわけじゃないんだから。色々常識はずれな奴だから、おかしいことが素でわかってないだけなんだよ。そんなこと言ったら俺なんかあいつにとっては単なるおもちゃみたいなもんだしな。GMなのに情けないよなー。」
「そんな…。」
「お前が嬉しいかどうかは別だけど、お前はおそらくみんなが羨む不可侵のあいつの城に出入してる唯一の特別な存在なんだからな?しかもあいつが来てほしいってくらいだ。寧ろ本当は堂々と鼻高くして行ってやるよくらい威張っててもいいんだよ。」
「……」
「あんまり難しく考えないほうがいいぞ?そんなことしてたらあんなややこしい奴相手するの大変だよ。シンプルに額面どおり受け取るようにして宇宙人の観察日記書いてるくらいの感覚であいつのママゴト遊びに付き合ってやってればいい。そしたらきっと今の状況を楽しめると思うよ。」
「さりげなく超エグいこと言ってますね。それが後藤流の極意って奴なんスか?」
「…まぁね。達海とか王子とか、ああいった奴らと付き合うにはそのほうが自分だけじゃなくてあっちも楽ってことだよ。お互いのためにはそういうほうがいいんだ。」
「…あぁ監督か。昔チームメイトだったんすもんね。なんか物凄い説得力感じました。」
「ハハハ…」

 後藤は力なく笑った。

「ま、なんかあったら言ってよ。俺は”いい選手に育てたいんだ”なんて、あいつの口から聞ける日がくるなんて想像もしてなかったし実は嬉しかったりもするんだ。あいつが本気ならきっと赤碕も他では経験できないような知識や指導を受けられると思うよ。ETUが強くなっていくためには万々歳なことだ。」
「確かにそッスね…」

 ニコニコと穏やかな笑顔を見ていると、後藤は王子と俺の今の関係性についてあんまり把握できていないんだなということがわかった。経験できないような体験は勿論している。サッカーに関することもそうだけど主に性的な意味で…。

「赤崎は一杯王子を利用してうんと成長すればいい。そんで抜かしてやるくらいになるんだ。そしたらきっと王子も楽しみながら負けまいと頑張るだろう。あいつは才能あるのに上を目指す欲がないから、赤崎を見てそういうところ成長したらいいなって思ってるんだよね。」
「…なんかGMっぽいこと言ってますね」
「っぽいだろ?たまにはいいよな、俺もそういうこと言ったって。」
「そうッスね…。あの…アザッス。」
「ん?」
「……」
「どした?」

 突然お礼を言われたと思ったら赤崎がそれっきりだんまりになってしまったので、言いたいことがあるけれど出てこないのかな?と後藤は感じた。そのまま黙って近くにあった戦術ボードのマーカーのらくがきを消したりし始めた。言っても言わなくてもいいよとでもいうように、赤崎を必要以上に焦らせないように。こうしたさりげない優しさを持っている男だった。

「…なんていうか、俺…。意地っ張りだったりするから今の状況、結構戸惑ってたりしてたんッス。実は。でも話してもらって少し気持ちが楽ンなりました。あの人が俺にからんでくる意味とかさっぱりわかんなかったし、嬉しかったけど俺なんにも相手にはしてやれることなんてないし、気が重いとこもあったっていうか、なんか変に考えすぎちゃってたとこもあって…。」
「そりゃ、あんなの相手してたら普通そうなるよ。」
「やっぱさりげなく言い方エグいっすね。意外と後藤さんのこと面白い人だってわかりました。俺が成長することが王子にとっても得るものがあるっていわれたらなんかホッとして…。ともかく俺…サッカー頑張るッス。それくらいしかやれないけど、大事なことだって再確認できました。」
「そっか、ならよかった。しかし、お前ホントいい奴だな。あの屈折した王子がなつくのもわかるよ。ここ最近メチャメチャ楽しそうだし…かわったよあいつ。」
「いや!全然そんな!」
「ま、でもあいつ打ち解けると調子に乗りすぎるとこもあるし、あんま我慢すんなよ?なんかあったらいつでも言ってきてくれていいからな。」
「助かります。」

 じゃ、と軽く手を振って後藤はトレーニング室を出て行った。

 一緒にいることも多いのに、俺は本当に王子のことをよくわかってないなぁ…と赤崎はため息をついた。王子が一番繰り返し俺に言ってることは「いい選手に育ってほしい」ということだ。額面通りに受け止めればそれが彼の一番の欲求だ。彼はちゃんと俺に言ってる。だけど俺は勝手に裏があるのではないかとか、本当はなにがしたいんだとか、美味しい餌をぶらさげて俺の心も体も翻弄しているんだとか、そういうことばかりを考えて。わかっているようでいて、全然わかっていなかった。俺は王子が大好きなんだから、彼が喜ぶことをやりたい。

(犬呼ばわりなんて…本当はどうでもいいことなのかもしれない…)

 ともかく頑張ること。いろんなことを王子から吸収する。そして後藤さんの言うようにそのことで王子が喜び、彼もまた情熱的にサッカーに今まで以上にのめり込んでくれたらそんなに嬉しいことはない。そう考えたら、二人の関係が恋人同志なのかどうなのかなんていう、そういうこだわりが不思議とスーッと消えていくような感じがした。

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