お花結び

Just another WordPress site

*

わたしを祝福しておくれ

完全に相思相愛なのに王子が絶対にそれを認めないお話。ホノボノ系?ラブチュッチュの次の日ザッキーと王子が喧嘩→後藤さんに相談→後日談という流れ。ジノザキ?ザキジノ?どっち?な空気感。

        ジノザキ

あなたに切願する

しかし、
わたしはわたしの愛と希望の名において、あなたに切願する。
あなたの魂のなかの最高の希望を投げ捨てるな!
あなたの最高の希望を聖なるものとして保ってくれ!
 by ニーチェ

+++++++++++
「しつこく言うの嫌いだけどさ、ボク」
「いや、十分しつこいですけど。あれからはちゃんと気を付けてるでしょ」
「付けるにしてもキミ素人なんだよ!下手くそなの!どんだけ長い事あれの痕、残ったと思ってるんだかね!」

 朝練のあった午後は大抵王子のマンションに行く。二人でジムに来て負荷トレをした後に併設されたプールに泳ぐのがいつものパターンだ。だが、今日こうしてきたのは随分久しぶりなことだった。理由は今プンプン王子が怒ってる、先日俺が付けたキスマークだ。ちょっとした独占欲でつけたものだったが、王子の「しばらくプールに行けないじゃないか!」という怒りはすさまじく、あれから何度謝っても何度謝ってもずっと事あるごとにこうして文句を言い続けていた。

「女性とかにもいつもそうやって愚痴愚痴言ってんですか?なんか格好悪いですね。」
「キミ、この状況でそういうこと言うなんて信じられないんだけど。本当に反省してるのかい!?」
「いや、反省はしてますよ。素朴な疑問ッス。」
「文句なんて言うわけないだろ?大体こんなになるまでさせやしないし。もしこんな下品なことするような子だってわかったらその夜限りで笑顔で理由も言わずにさよならだからね。愚痴愚痴なんていう機会もないさ。」
「あ、そんなもンスか。」
「当たり前。ボクは紳士だから女の子を傷つけることなんて言いやしないよ。」
「今、おもっクソ言ってますよ?」
「キミは女の子どころか人でもなく犬じゃないか!」
「この前、もう犬扱いはしないように努力するって言ってませんでしたっけ?」
「Va a fare il culo!努力するって言っただけだよ!そのボクの思いやりを台無しにしてるのはキミだろ?!」
「王子って興奮してくるとイタリア語混ざってきますよね。全然わかんないんですけど。それ。」
「犬に言葉が通じるなんて最初から考えてないもないさ!ホント、キミはボクを理解していないね。イタリア語以前の問題だよ。でもボクがこんな下品な言葉使うなんて誰かに言ったら承知しないからね!」
「いや、だからわかりませんって。」

王子は性格やプレイスタイルから、なぜサッカー選手をやっているのか不思議なくらい不真面目に見える。だが、実はもうオタクかマニアといってもいいほど骨の髄までアスリートで生活がほぼサッカーを中心に回っているともいって過言ではなかった。日常としてこのプールや併設しているジムにもきているし、自宅の中にもトレーニング用の広い部屋が用意されていたりもする。また、それにサッカーやトレーニングに関連する専門書籍は一体いつこんなに読む時間があるんだというほど、しかも日本語やイタリア語はともかく何語かわからないものも含めて大量に積み上げられていた。そして暇さえあれば興奮しながらサッカーの録画を見まくっているのだ。

 ここ最近は練習中も我慢ができなかったのかしょっちゅう「プールに行けない」「プールに行けない」と愚痴愚痴言っていたが、チームメイトのほとんどはそれについて「またバカンスに行けないとか文句いってんのかよ」という風に受け止めていた。実は全然意味が違うのを知っていたのは俺だけだった。彼が自分で考えている体作りの為のメニューの消化ができなくなってしまったことへのどうしようもないイラつきだったのだ。バカンスは確かに行っていたが、本来の目的は最新トレーニング系分野の講習への出席だったり、生で見たいサッカーの試合観戦だったり、個人的な付き合いのある一流系のサッカー選手との交流だったり、ともかくその内容といえばサッカー、サッカーだった。

キスマークを付けたとき、怒るだろうな、とはちょっとは思っていたけれどこんなに怒るなんて俺もその時は思ってなかった。自分の都合からすれば少しでも王子とつながりを感じていたいという切実な思いだったわけだけど、そのちっぽけな独占欲を満足させるメリットよりも、はるかにトレーニング馬鹿の彼へのダメージが大きすぎた。だから、本当に申し訳ないことをしたと感じているのだが、性格上、つい素直に反省できなくて偉そうな態度をとってしまう。

「ま、俺も自重します。でも、ともかく今回の痕の件に関しては結局あんたも俺に自由にやらせなきゃよかった話でしょ。そもそも。俺はあんたの言うとおり素人だしわかんなかったからあんなにやっちゃったんだけど、逆にそっちはプロみたいなもんなんだから、わかってる奴が指導するのが普通じゃないッスか。」
「あのね!そういうこと言わないでくれる?ホント頭に来るよ!あんたも楽しんだだろとかこの前もそういうこと言ってたけど!ホント!本気で信じられない!キミのそういうところ!」
「だってそうじゃないですか。」
「知らないよ!」
「俺、次の日大変だったんだけど…気持ちよくなかったンすか?」
「あー、聞きたくない。」
「なんかそれ、俺損じゃないッスか」
「あんだけイかせてあげたのに損なんて言う?普通。言われたことないよ前代未聞だよ!」
「でも、それは王子が気持ち良かったのが前提で気持ち良かったってのがあるんで…損じゃないッスか。」
「あー、聞きたくない!」
「でも、王子も一杯イッて…」
「もう、二度とキミとはしない!」

 王子は乱暴に脱いだ服をロッカーに押し込んで一人勝手にプールに行ってしまった。俺も特に急ぐでなくゆっくりとついていった。最初の頃はイチイチ不安だった彼の「もうしない」宣言も、いい加減慣れてきていた。また何事もなかったかのようにケロッと忘れる。自分自身でも言っていたがこの人は人を切る時はなにも言わずに切るのだ。口に出しているうちは大丈夫。

  * * *

 昼間の太陽が大きな全面ガラスを透って人気の少ない20mプールの水面を輝かせる。プールで泳ぐ王子はとても綺麗だ。トレーニングと称してここに来ている割には、王子はまるでバカンスを楽しむかのようにゆっくりとゆっくりと水の中を泳いでいる。その姿はまるで前世はイルカか何かだったのではないのかというほど滑らかで流麗で、他の利用者は優雅なショーが始まったかのように泳ぐのをやめ、自然にプールサイドにあがり見惚れるのが常だった。

「王子って、プール大好きなんすね。」
「トレーニングだよ!」
「でも、めっちゃ楽しそうですよ?」
「うるさいなー。邪魔しないでよ。っていうか、キミは見てないで泳いだらどう?なにしにきてるの?負荷トレした後は筋肉のクールダウンするのが必要なことくらいはキミのその頭でもわかることだろう?」

 刺々しい彼の言葉が俺をほっとさせる。うんざりするけれど、こういう感じで饒舌な彼は口で言ってるほど機嫌が悪いわけではないというのが最近わかってきていたから。本気で怒る王子の悲鳴のような言葉はできればもう二度と彼の口から出ないで済むようにとまで感じるようになっていた。今は、そうした毒舌を吐いているその顔が、他の利用者の目を気にするのか、王子スマイルのままなのがまた面白くて。二人でいるときはあんなにブスッたれているのに。

「俺、泳ぐの好きじゃなくて。」
「ボクもだけど、体脂肪率が低い人間は仕方ないよ浮力足りないし。あと体も必要以上に冷えやすいしね。でも、やっといて!キミの体はボクが手を入れてるくらいなんだから乱暴に扱ってもらっちゃ困るんだよ。ホント、キミはイチイチ自覚が足りない。」
「ちょ!手を入れるって昼間っからなんてことを言って…」
「なに連想してんの?管理してるって意味だけど。」
「…じゃ、最初からそういう言い方してくださいよ。」
「今、無表情になって自分が間違えたことごまかしてるつもりだろうけど、顔、真っ赤だよ。恥ずかしかったんでしょ。」
「!」
「あ、おねだりなの?やだなー、ここまだ人いるのに。変態だね。そうだね、んー…」
「いや!いいッス!死角とか探さなくていいから!」
「え?せっかくのご注文に付き合ってやろうっていうボクの優しさをそう簡単に無下にするの?」
「あんたの住んでるマンションでしょ!あんたがバカだよ!」
「アッハッハー、いつまでたってもキミはバカ丸だしだね。本気にしないでよ。」
「あんたのそういうとこ、本気と冗談の線引き難しいッスよ!」
「ホント、いっつも、がっついちゃってやらしい子だねー。」

そういって、まだプールサイドに座りっきりの俺を置いて、またのんびりと泳ぎ始めた。その姿は楽しそうで、なぜかいつもの色気とは程遠く、俺は頭にきながらも、まいったなぁー、きれいだなー、と見惚れていた。

「ザッキー、遊んでないで早くこっちにおいでよ!ちゃんと泳がないとダメだよ!」

 対岸のプールサイドでなんとも大きな声。あの人、プール久しぶりで自分のテンションが上がってるってことに気づいていないみたいだ。他に人がいてもまるで子供のように自由。

「そんなに遠くまで泳げないッス!」
「たった20mでしょ?頑張ってよ!」
「それより、もぐりっこしましょーよ。足ついた方が負けで!」
「そんな子どもっぽいことに付き合えるわけないでしょ?しょうがないなー」

 そういってまたゆっくりと泳ぎながらこっちに来てくれる。泳げなかったイライラは、泳いですっかり洗い流されたようで、俺はほっとした。二人の関係が結局なんなのかなんて、もうどうでもいい。ずっとこの美しい男のこんな姿を傍で見ていたいと感じた。

[maroyaka_webclap]

      ジノザキ