お花結び

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わたしを祝福しておくれ

完全に相思相愛なのに王子が絶対にそれを認めないお話。ホノボノ系?ラブチュッチュの次の日ザッキーと王子が喧嘩→後藤さんに相談→後日談という流れ。ジノザキ?ザキジノ?どっち?な空気感。

        ジノザキ

わたしを祝福しておくれ

わたしを祝福しておくれ、安らかな瞳よ、
おまえはどんな大きな幸福でも妬むことなく眺めることができるのだから。

 by ニーチェ

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「さて、じゃ、お風呂に行って、きれいにしておいで?」

 王子が部屋に戻るなりお風呂に入るのはいつものことだったが上がってきたと思ったら早速これだ。

「…もうッスか?」
「ん?」

 俺にお風呂を促すときに、語尾に“きれいにしておいで?”と付け加えるのはあの行為のはじまりの合図だ。回数を重ねるうちに自然とこの暗喩のようなものが出来上がっていた。

「…あ…いや…なんていうか、その…元気ッスね」
「…やだった?」

 王子は俺を観察するような目で見つめた。彼がとても怪訝な顔をしているのはこうした誘われ方をしたときに俺が今まで一度もあれを断ったことがないからだ。彼は必ず相手の状態を観察し断れない環境を完璧に整えてOKするのを見越して声をかける。だから俺の今の言葉尻に想定外のひっかかりを覚えたようだ。

その目をみて、俺は王子が誤解をしているのに気づいて焦りながら言った。

「あ、そういうんじゃなくて…」

 そう、本当に、そうじゃなくて。さっきプールで“キミとはもう二度としない!”といわれた直後で。どうせ王子はケロッとなかったことにしてまた声をかけてくるだろうと思っていた。だが、あんまりすぐだったので驚くやら嬉しいやらで、つい思わず“もう(忘れたんで)ッスか?”と言ってしまったのだ。でも、王子のことだ、そのまま本心を伝えたらまたヘソを曲げるかもしれないと考えて、咄嗟にごまかすのに元気だねとかなんだか変な言葉を続けてしまったのがよくなかった。口は本当に災いだ。王子と話す自分はホントにちっぽけで、おどおどしちゃったりもして、情けない気持ちになる。堂々としていればいいことを、こういうのは本来の俺らしくないし、嫌いだ。

「…いいんだよ?シンプルで。ボク達にはロマンスも無理も必要ない。こういうことはお互いの合意が大前提なんだから、遠慮しないでYESでもNOでも率直に言えばいい話。」

 見ている側からはなにを感じているのかつかめないような微妙な王子の表情と目線が俺の居心地を悪くさせる。

「あ、いや…勿論、…YESで…」
「……」

 真っ赤な顔になりながら指示に従って返事をしたが、王子の表情からは観察するような目が全く消えていなかった。もともと日ごろから王子の物言いについては言葉どおりに受け止める癖がついておらず俺には素直な反応はとても難しいことだった。だから、やましくも無いのに言い方に違和感が出てしまうのは当然だった。そして、残念なことにその違和感を王子が見逃さずいぶかるのも当然のことだった。王子はこういった態度の俺には特にこうしていつも過敏に反応してしまうのだから。
 目じりの下がった優しい王子の目なのに、どうしてこんなに鋭く見えてしまうのだろうと思うくらい、目線を合わせているのがきつかった。

「…なんだかどっちつかずであやふやだね。…ボクがどれだけキミをわかっているのか心理的な駆け引きをしたいのかい?ボク達の関係にそういうのを持ち込まれちゃうのは…ちょっと疲れちゃうかなぁ…」
「だから、そうじゃないっていってんでしょ!」
「……」

 ドンドン表情が曇っていき、ほんの少し眉を寄せている。たったそれだけのことだったが、いつもの冗談半分のものではない、本気の不機嫌さを感じた。これがそのうちそれをごまかす無表情になって、最後にはきっと普通の王子スマイルになる。多分、何の解決もなくそうなってしまったら俺はこの人に切られるってことだ。こうやってちょっとした王子の感情の揺れを読み取れずにそうとは気付かないままに切られた女を何人も知ってるから。俺は誤解をちゃんと解くために王子の要求どおり率直に話をする努力を決心して口を開いた。つい意地を張ってしまうけれどシンプルが一番だ。この人の傍にいるにはそういうことを大切にしていかなければいけない。

「聞いてください。駆け引きとかそういうのじゃなくて。」
「……」
「あの…率直に、王子に抱かれるのが気持ちいいし嬉しいッス。あの…わかってくれてると思いますけど!」
「…よくわかんないよ、キミの事はね。犬扱いとかさ、あんなに怒ってるとも思わなかったし自信ない。」
「いや、まあ、…あの…」
「なんかさっきとか…?嬉しいときの態度じゃないよね。」
「…王子に、もうしないって言われるの、今まですごく…あの…辛かったっていうか、さっきプールでも実はちょっとは嫌だったっていうか。」
「…そうなの?いつも辛かったの?」
「でも、いつも“また誘ってくれるよな?”なんて思うようにしてるんだけど…。」
「…待ってるんだ?」
「…そりゃ…。で、今日はすぐこうやって…、あっという間にもうなかったことにしてくれたんだなって。」
「嬉しかったの?」
「…ま…ソッス。でもなんかそんな自分が気恥ずかしいっていうか…」
「ふーん、恥ずかしかったの?」
「その…、思わず“もうッスか”とかへんなこと思わず言っちゃったのがなんか…。変な角立つのもやだし、ごまかそうとしたっていうか…クソッうまくいえねぇ」
「なにをごまかそうって?」

 もう、言葉も出てこないし、心臓はバクバクしてるし、頭に血は上るし、もういたたまれなくてどうしようもなくて目をぎゅっとつぶったまま搾り出すようにしゃべる。駄目だ。苦しい!
「…わかんないから、もう少し説明して?」
「いや、俺もなんかわけわかんなくなっ…」
「大丈夫だよ、言って?」
「なんか…わけわか…」
「…ボクとしたいって、もっと言ってくれないと。」

 突然耳元で囁かれて総毛だって目を開けたら、意地悪そうな彼の笑顔が目の前にあった。さっきとは全然違う、高慢な王子という言葉がぴったりなその表情に俺はドッキリした。

「な!!!あんた!」
「ん?」

 ニコニコとした笑顔が俺のすぐ傍まで近づいていて、瞬きするまつげが頬に触れそうでゾクッとした。この人、俺の事からかってただけだったのか!と急に恥ずかしくなって突き飛ばしてしまった。が、さすがの体幹というかひとつもよろけることもなく王子はさっと俺を受け流してしまった。

「~~わざとだな??最初からわかってたんだろ?!」
「なにが?な~~んにも、わかんないよ?だから聞いてるんでしょ?」
「クッソ頭きた!!もうやだ!信じらんねぇ~!!あー!!恥ずかしー!!」
「フフフ、わかんないんだってば。言ってよ。」

 しゃべりながらニヤニヤして自然に腰にまわす王子の手が俺の快感を刺激するので、振り払うと反対の手で耳を触ってくる。ぞくっとするのでまた振り払うとまた腰に手を回してきて、いちいち振り払いながら俺は怒っていった。そのたびにまた王子はニヤニヤといろんなところにちょっかいを出していた。

「言うわけねーだろ!わかんないんじゃなくて、あんた言わせたいだけじゃねーか!」
「えー?いいの?キミが嬉しいか不愉快なのか自信ないから、してあげられないけど?」
「腹立つ!その言い方!」
「ボク紳士だからね?無理強いはしないの。」
「人のこと散々撫で回しながらなにが紳士だよ!外道だよ!外道!最悪だ、ホント!性格ワッリー!!」

その様子が面白かったのか、すっと体を離して王子は言った。

「…ま、いいよ、いいよ、落ち着けば?ボク、試合の録画みてのんびりキミが誘ってくれるの、待ってるから。」
「すでに誘うの前提になっちゃってるじゃねーか!もういいだろ?」
「いつでもボクから声かけるばっかりじゃ不公平だしね?あ、ごめん、不安とか言わないと角立つ言い方になるよね、フフフ」
「こういうの、あんたの持ち込みたくないって言った心理的駆け引きとどう違うんだよ!ズリーだろ!」
「駆け引きとは言わないよ~?こういうのは。確認だよ、確認。」
「違いなんてわかんねぇよ!なんかホントあんた騙すのうまいな!」
「騙してなんてないって。」
「迫真の演技だったじゃねーか!あんたが怒ったと思ってマジ焦ったし!」
「演技じゃないよー、普通通りだよー?いつでもキミのことはわからないことで一杯さ。」
「その割には自信満々じゃねーかよ!」
「そんなことないよ?」
「いつも手玉にとりやがって、いつかみてろよ!」
「それはボクのほうだよ、フフフ」
「もういい!風呂行ってくる!」
「じゃ、ボクのんびりしてるから、ちゃんと“きれいにしてきた”かどうか教えてね?」
「~~~!!!」

 王子にはお手上げだ。

 勝気で負けん気が強い俺はいつもこうして王子に弄ばれてカリカリしてしまう。シャワーで体を流しているうちに少し気持ちが落ち着いてきたのでふと考えた。

(でも、こんなに頭にくるのに、なんでいつも一緒にいたいって思うんだろう?)

 王子の機嫌が悪くなるのは、俺が不安になるとき。よくわからないが、そんな時が多い気がする。そして、最初は俺も意地っ張りで出鱈目なことを言いながら最後の最後には今日みたいに口にしにくい言葉を引っ張り出されてしまうのだ。俺はそれをいつも負けたと感じるし、彼のあの顔は勝ち誇った顔に見えて悔しかった。でも。これは不愉快なことかといえば、そうでもない。なんだかすっきりした気持ちになる。こうやって無理やり引っ張り出されなければ俺は気持ちを伝えることもできないし。そう、今まではそれができる相手じゃなかったから誤解が誤解を生んでいつもうまくいかなかったんじゃないか。
 いつも平気な顔をしてはいたけど、そういう別れが平気なわけではなかった。考えてみれば、そんな俺の中にある、屈折して誤解を生んでは孤立する悲しさを、王子はまるでくだらないとでもいいたげに摘み上げては笑い飛ばしてくれるかのようだった。

 気持ちがふっと楽になってきて、今王子がどんな様子で部屋で待っているのか想像して俺は思わずプッと噴き出してしまった。風呂場に向かう前に振り向いたときにちょっとみた、なんて嬉しそうな、あの顔。勝利の傲慢??違う、あれは破顔というものだ。自分の気持ちが変化すると、見えるものまで違ってくる気がした。

(食事も、トレーニングも、行為も、考えてみれば何から何まで、いつもいつも声をかけてくれていたのは王子で、俺はただ頷くだけだった。もうこうして二人で一緒に居る時間は随分になるというのに…)

 そのタイミングも誘い方も、あまりに自然で、全部俺の気持ちなんてお見通しだと感じていたけれど、考えてみればお見通しならこんなにいつもいつも無理矢理俺の言葉をひっぱりだす必要なんてないんだ。王子からの言葉が欲しくて欲しくてあんなに俺が怖かったのと同じように、王子の中にもまた、俺のこの気持ちが不確かである部分があるんだろうか。

 なんだか自分がつい自分の都合のいいように考えてしまうことが悲しかったけれど、「辛かった?」「待ってた?」「嬉しかった?」という彼の言葉を思い出すとあながち全部が全部勘違いでもなさそうな…。恥ずかしくて、目をつぶって、その言葉を発する彼の表情の変化をみていなかった自分が口惜しい。

 無理矢理言葉をひっぱりだされるのは苦しいけれど、それをする王子もまた、日頃は出さない言葉をひっぱり出して。それを武器に俺に向ってきているのかもしれない。大好きだよと気持ちを伝え合ったあの夜の後、恋人か飼い犬かの認識の違いで話がこじれて、関係が前進したのか、後退したのか、停滞したのかもあやふやになってしまっていた気がする。王子は犬扱いをなるべく控えると言ったし、俺は気にしないように努力すると言ったけど。そう思うと、自分も王子に頼りっぱなしでなく、自分の言葉を自分の意志で伝えていく必要があるのではないかと感じ始めていた。

(そう、ワクワクしている王子を、驚かすような声かけでもしてみようかな?)

いきなり単刀直入に寝室に誘う?それともそっと近づいて体に触れて?なんにも言わずに立ってるだけ?どういう形がいいのか考え始めてみたが、どれもこれもダサいし、いたたまれないほど恥ずかしい感じがして、どうにも王子のように自然なものが思いつかない。いざやろうとしたらこんなに大変なことだなんて、あらためて王子のすごさを痛感した。そうしたときにいきなりガチャッと音を立ててドアが開いた。

「おそーーーい!ボクをいつまで待たせるつもりなの?」
「あ!王子!なにしてんだよ!勝手にあけんな!」
「だって、キミが悪いんだろう?」

さっきの笑顔はどこへやら、眉間の皺が深く刻まれたその顔は、ついさっきプールに行く前にみたものとおんなじだった。せっかく素直になろうって思った途端、こんな態度されてはたまったものではなかった。

「なんだよ!のんびり待つって言ってたんだから、おとなしく待っとけよ!」
「…かーーーわいくないねぇ~~。キミ、そんなこと言っていいのかい?このボクに!」
「あんたが根性なさすぎだからだろ!」
「へー、そういうこと言うんだ?キミほど女々しい男はボクはみたことないけどね?」
「なんっ!!」
「ほんと、こんなにきれいな体してるのに!性格かわいくない!」
「はっ!でも、やりたくて仕方ないんだろ!」
「それはキミがでしょ!」
「~~~」
「なに?言葉に詰まっちゃったのかい?ハハハ、飼い犬が飼い主に勝てるわけがないからね!」

もう、ホント、この人、最悪だ…。

「なんか言いたいことでもある?」
「~~~」
「聞こえないよ!」
「このまま、体拭いて出ますから!!王子は回れ右して、ベッドで服脱いで大人しく待っててください!!!…ってことッス!!」

やけくそで大きな声で怒鳴るように言った言葉は自分自身を驚かせた。なんてスマートじゃなくて、バカみたいな台詞!それもこれも、あの人が焦らせるからだ。こんなはずじゃなかったのに…。どうせ思いっきりバカを見るような軽蔑するような目線でこっちをみているのだろうとそっと王子のほうを見たら、さらにびっくりした。彼は目を丸くして真っ赤な顔で俺を見ていたから。

「…あの…王子?」

声をかけたら、肩をビクッとさせて、

そのまま大人しく回れ右してテクテクと去っていってしまった。

本当になんなんだ、あの人は。

見ているこっちのほうが恥ずかしくなる。

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      ジノザキ