感涙の微笑、随喜の涙
【随喜の涙】
仲良しな二人の最近の夜の遊びの風景です。随喜の涙の意味わかんない人は検索して、「ジーノマジ肥後ずいき」って思ってもらってもいいんですよ?(エッ
【感涙の微笑】
仲良しな二人の最近の試合中の風景です。
感涙の微笑
ボクは困っていた。
試合中、この頃よく飼い犬はとても情熱的な目をしてボクを見る。別に本人は全然意識などしていないんだと思う。その姿がとてもセクシャルなのでボクが欲しいのかと思ってしまうのに、帰りに家においでよと夜を誘うとキョトンとした顔をするから。だから煽っている気なんてさらさらないみたい。
* * *
「でね、王子。先週の終盤、俺足に来てたの、わかりました?」
「うん、出だしはいつも通りのタイミングだったのに1mほどずれちゃってたね。」
「そ、あれ、ホントは届く予定だったんッス。今思い出しても悔しい!」
「キミだけのせいではないよ、ボクも少し配慮が足りなかったね。」
「いや!王子はドンピシャっすよ。俺の足の速度に合わせてたら簡単にカットされるだけでCKも取れなかった。」
今日、ザッキーはボクの隣で試合の反省会をしていた。最近の彼はボクの家に向かう車内で延々とサッカーの話をするのを楽しんでいる。そして、喜怒哀楽も激しく表情豊かにあられもない顔で興奮しながら心のうちのすべてをボクにすっかり預けてリラックス。その都度、スタジアムの歓声と、彼はボクのものだという例え様もない満足感が交互にボクに押し寄せる。毎回こうして、まるでサブリミナルのように15番のユニが快感と直結するように意図的に誘導され続けているかのよう。
「ああいうの、ホント駄目だ…体がイメージについていかない。そういうの、わかります?」
「そりゃね。ボクはキミのように若くないもの。当然さ。」
「はぁ?なにジジむさいこと言ってるンスか。」
「…ハハハ」
「なに笑って誤魔化してるんだか。あんた俺よりよっぽどスタミナあるし本来油の乗り切った年齢ッショ?」
「…それ、…キミさ。なんの話してるの?」
「な…!なんのってサッカーの話ッスよ!」
「フフフ」
キミはこうして極自然にアレを思い起こさせるような話をしだすので、ボクはいつも笑ってしまう。それを指摘するまで全然気が付かなくて、気付いた途端ほら、こんなに頬を染め、息を弾ませてしまって。益々ボクにあの時のキミを思い起こさせてしまう。
純朴なこの道一筋のサッカー少年。そんな彼の、その鋭利な眼差しの奥に潜ませている色情の潤み。誰にも届かない様な奥底に光る、ボクだけが目にすることが出来る情欲の泉。
「王子くらいの年齢って丁度体とイメージがフィットしてくる時期だったりするでショ?普通。」
「そう?」
「俺ジュニアの時コーチに言われましたもん。普通の奴は考えながらプレイする。だけどそれじゃ遅いんだって。相手に読まれてカットされる。センスある奴って体が勝手に動いて頭でなんも考えてないんだって。」
「それがなにか?」
「でもそれだけじゃプロになれない。だって体は練習でやっていることしか出来ないから。イメージの種が少なければ勝手に動くパターンなんて知れたものになっちゃう。で、プロのアスリートは違うって。体は勝手に動くけど常に頭はその先に行ってる。」
「フフフ、なんか難しい話だね?ボクはそういうのよくわからないなぁ。」
「わからない?なんで?なんかあんたってホントよくわかんねぇ人だなぁ。腹立つ。」
「えー?怒らないで?」
「ま、いいんですけどね。世の中には特別製のいわゆる天才っていう存在がいるのは知ってるしね。自分は自分のやり方やるだけ。俺はコーチにそれ言われてから一生懸命サッカー以外にも勉強とかも頑張ったし、今ンとこそれなりにはよくやってるって思ってるから。まあ、まだまだ足んねぇけど。」
「…キミは充分賢いよ。ボクを助ける頭のいい番犬だ。」
「だから、俺は天然物じゃなく…ってそういう話じゃなくて。えっとね?情報を蓄積してイメージが先に行くようになると今度は体が追いつかなくなる。だからそれには更なる努力が必要で。その二つの切磋琢磨で一番バランスがいいピークと言われるのが王子くらいの年齢だって話。」
「そんなもん?」
「なんか拍子抜けしちゃうなぁ、王子と話をしていると。日頃何考えながらサッカーやってんですか?」
「んー、なに考えるかなんてわかんないかな、ボクにも。雨嫌いだなぁ~とか?ナッツは見苦しいなぁ~とか?だからそういう意味ではなんも考えてないんじゃない?ハハハ」
「ちょっと!そんなわけないッショ?また俺のことからかって。」
「そんなつもりは…うーん、なんかあれだね、説明が難しいっていうか。」
「王子?」
「ボクに常に生じているイメージとのズレっていうのは自身の体だけの問題ではないから。そういう自分で閉じてる話なら些末っていうと失礼だけど結構対処やすい問題じゃない?」
「あ…」
「でも誤解しないで?勿論思うように躱せなかったりするのはイラッとくるよ?」
「それは安心してください。今日も一瞬でヤル気そがれてフラフラし始めたのわかりましたもん。ホント呆れる。」
「あれ?そうだった?」
ピッチに立つと彼の目がボクを執拗に追いかけているのがわかる。常に全身でボクからのパスを欲しがっていて、ボクをちっとものんびりさせてくれない。そう、今みたいに彼から“呆れる”なんて直接言われなくてもキミがボクを見て何を感じているのかなんてこともすぐわかる。あんまりキミがボクを見るものだから、ボクは自然に例えキミがどんなに遠くに居ようとキミの気持ちをキャッチしてしまうんだ。
だから今ではキミの仕草、気配を感じるだけでもボクの方が自然に反応してしまう。ボクのビジョンをキミが感じて反応しているのか、キミの動きからボクのビジョンが始まるのかも、最近ではよくわからない。でも、間違いなくボク達はピッチ上で感応しあっている。それは確かだ。
ボールを持っていても持っていなくても、なにをしてもキミのその強い目線のせいで全身にしびれるような快感が走るようになってしまった。ボクが一寸先の未来のビジョンの中にいる時、キミも同時にその中にいるのを感じて我慢がならないくらいにクラクラとした酩酊を感じる。
繰り返し刺激され、ピッチで走る度にサッカーの情熱と性快楽のような快感とが直結していく。ボクの飼い犬は飼い犬ではなくなってしまった。ボクの飼い犬はサッカーになった。そしてサッカーはボクの大切な飼い犬になっていった。すっかり二つが一緒になって、切り離せない情熱に変化していった。こんなことは偶然なのか、キミがわざとやったことなのかは全くわからない。
* * *
今日も試合。
攻撃布陣の中枢に立つボクは今、タッツミーの戦略上の未来視の中にいた。そのビジョンの中には勿論飼い犬が走り回っている。ホイッスルが鳴るまでの焦らしの時間。ボクはボールを通じた彼との快楽の世界が具現化していく期待に、ベッドイン前の激しい身もだえにも似たあの体感に打ち震えていた。
「王子!」
「……」
そう、これは同じものをみている証拠。ボクが声を掛けずとも彼はこうしてボクの欲しいタイミングでボールを寄越す。キミの体はまるでボクの体のようだ。それとも、ボクの体がキミの体なんだろうか。
「こっち!」
勿論キミのそんな声掛けなんかも不要で。キミがボクにボールを供給する前からボクはキミがどこに行きボールを欲しがるのかも知っていて。最近ではボクは特に返事もなく、キミが何をしているのかも目をあわせることもなく、光って見えるあの場所にボールを蹴りだす。ボクのかわいい飼い犬はそんなボクなどお構いなしに独り言のように言葉を続けている。
「ナイス!王子!」
キミは常に一生懸命駆けているので、きっとこの時間帯にはもう声も出せていないはず。でも、ボクにはずっとキミの心の声が聞こえている。うまくいったときの歓声、しくじった時の芬々たる思い。こうなってくるとボクはこれが自分の中だけのビジョンなのか現実のものなのか区別すらつかなくなってくる。
「そうして一緒に、ほら、一杯一杯感じ合いましょうよ。教えてください、あんたのやりたいこと、一杯伝えてください。ね?だから…王子」
「だから、もっと目で合図を。そしたら全身であんたを感じて、ほら、俺は勝手に走り出す。でしょ?王子?ねぇ、聞いてますか?」
聞こえてくるはずもないキミの声。そう、今キミの頭の中はサッカーの情熱だけになっていて、もはや思考もままならない状態。これは、あの時の顔だ。ボクに揺すられている時の官能の中のキミ。もうきっとキミにはボクの姿など見えてはいない。でも目を使わずとも全身で感じていることだろう。ボクもまたキミを目ではない全身でキミを見ているような気がする。今はただ、キミの声も、キミの姿もなにもかもわからず、ただスタジアムの熱さと、キミの情熱だけに包まれていた。ともかく熱くて熱くてたまらなかった。
「ザッキー!」
パスを放つ瞬間に、頭の中で混ざり合う、夜の飼い犬と昼のカルチョ坊や。同じで違う二つの美しい官能の姿が、サッカーと性快楽の世界に溶け込んで、一瞬の静寂の中に消えて行く。そして現実がビジョンに追いつくこの瞬間!空気を震わすスタジアムの歓声、チームメイトにもみくちゃにされているキミ、頬を撫でるこの風さえも完全に一致して。なんていう世界、なんていう時間。ボクがずっとずっと一人で待っていた、この快感!!
ボクはもう、何度もキミとこうした時間を過ごしてしまったので、大好きな何もかもが全部一つになってしまった。
* * *
今までたった一人だったボクは、キミを愛するのと同じような形でサッカーに捉えられてしまった。もう逃げ出せないくらいに、がんじがらめな状態になっていた。どんなことがあっても、キミそのものであるこのサッカーの世界から離れることなど、出来そうにもなかった。そう、もう、昼も。夜も。
そんなことだから、ボクは…
ボクは本当に困っていた。
キミのすべてを、なにもかもを、本当に好きになりすぎてしまって。
こうしているのがたまらなくて、嬉しくて嬉しくて、もう涙が溢れてとまらなくって。
