飼い犬
15日なのでザッキー過去編をば。沢山の人達に愛されながらサッカー一筋に生きてきたってイメージで書きました。家族設定がっつり捏造。登場人物は赤崎、王子、同級生、家族、チームメイト、彼女(H有)。変な時間にジーノがフラフラあらわれてたのは後藤氏と飲みに行く為。このシリーズの後藤さんはお母さんでタッツミーはお父さん的役割。
ユース~黒猫の王子
恋愛感情とはまったく違うはずなのに、彼女への気持ちと似たような思いを抱く選手が一人いた。練習場でも時々見かけるETUきっての伊達男。この頃の赤崎はいろんな試合を見ていたけれど、なぜかこの今年入団してきた大卒のキザなゲームメーカーのプレイから目を離すことができなかった。
守備を全くせず、とても奇妙で不自然にも見えるプレイスタイルでありながら、時々びっくりするようなプレイをやってのける人だった。天性のパサーとはこういう選手だと言えるほど、緩急自在の魔法のようなパス供給。かと思えば、マークがしつこければ明らかにやる気を失い、ピッチ上をさまよう姿はまるでワカメの様なフワフワと気の抜けた態度。マーカーが油断してちょっとでも自由になると、どんな角度からもどんな位置からも強引なまでの強烈なミドルを炸裂させたりもする。やる気があるんだかないんだか。パサーとしても、ストライカーとしても、キッカーとしても類を見ないほどの輝きを見せるのに、出し惜しみするかのように本当にそれは一瞬で。心底不思議で奇妙な人だった。敵にとっても、味方にとっても、いろんな意味で危険な男だと赤崎は感じた。
あの人、きっとつまんないんだな
一人でサッカーやってる
勝手にそう考えた。実際問題、このETUの王子と呼ばれるこの男のプレイは、今のETUに噛み合っているものとは到底思えなかった。彼は上手に他の選手の意図を読んでプレイをするけれど、合わせる一方にも見えるその態度が見ていて辛かった。彼の本当の意図を、彼の本当の思いを、誰も受け止めない。そんな風に何故か思えた。噛み合っていないのに辛くも繋がり、繋がっているのに今にも途切れてしまうような、そんな危うい、不安定なプレイの数々が見ていて痛かった。
彼は時々、研ぎ澄まされたプレイをやるような気配を感じさせて。そしてそれに失敗した後は、必ず平凡で固いプレイを選択し始める。そして最後には完全に気を抜いてしまって簡単にボールを手放してしまうような雑なプレイになったりしていた。ピッチ上でくるくる変わる彼の質。このチームにきたからムラがあるのか、それともムラがあるからこのチームにきたのか。赤崎の中には疑問が一杯だった。
長い事雑誌とか色々チェックしてるけど、
この選手の情報なんて全く見たことも聞いたこともない
こんな目立つ男がこんな目を引く個性的なプレイをしてる
世の中が彼を見落とすわけもないと思うんだけど
一体今までどこでなにをしてきた人なんだろう?
赤崎は海外サッカーの移籍情報などもチェックしていた。だからその知識から、どんな優秀な選手でもチームにフィットしない選手は実力を発揮しきれずに放出されたりしているのを知っていた。なんだか才能の無駄遣いだ、あの人きっともっとやれるんだろうに、もったいないなー、と絶賛低迷中のETUを見ながら感じていた。
* * *
ほら、王子が、
あの守備陣のアンマッチのスペースを示唆してる
あぁ、遅いよ、気付くのが
なんでか、そういうように思ってしまう場面がよくあった。実際に彼がボールをコントロールしているわけでもないし、目線を向けているわけでもない。ゲームは彼のいない全然別のところで他の選手たちの間で繰り広げられている。なのに彼のフラフラとしたあの不思議な行動をみていると、赤崎はなんだかいろんなことを自然と思い浮かべてしまう。今日の試合などでは赤崎の目には、マークを1枚も2枚も引き付けて誘導し、敵陣の急所をそれとなく作り出しているように見えてしまった。気のないそぶりで誰にも気付かれないように、こっそり試合の局面をコントロールしているかのよう。
ボールを持った時の彼のプレイは司令塔の名にふさわしい素晴らしいものが多かった。しかし、オフザボールの動きがともかく誰にも似ていない、独特で個性的なものだった。雑誌などでは守備に走らないまさに“不動”の司令塔なんて皮肉を言われることも多い彼だったけれど、逆にその印象を利用して、みんなを引っ掛けるような罠を随時仕込み続けているような、そんな気がした。
気付かれなさすぎで
敵どころか味方にまで通じなくてどうするんだ
と赤崎はため息を付く。
もし俺が今あそこにいたら…そんなことを考えながら赤崎は何度も何度も試合を見直す。
テレビ中継はボール中心のアングルが多くて不便だ
ずっと俯瞰の定点でいいのに
ワンタッチで捌くのが好きな性質があるのですぐに彼はフレームアウトしてしまう。それを残念に思うがあまり、そんなことに少し腹を立てながら今日も録画の再生と巻き戻しを繰り返す。パス成功率が異様に高い彼が信じられないようなパスミスをしたシーンは特に何度も見た。完全にミスに見えるようなものでも、俯瞰のカメラアングルから眺めてみれば画面に映っていない様な場所にいる受け手が全く感じていないだけだったりもした。そんな、あのタイミングでその狭いコースを見つけるのか?と思うほど厳しい繋ぎを意図しているように感じられるシーンも少なくなかった。
ああ、それはいくらなんでも無理だ王子~!
わかるわけねぇー!
なんて画面越しに勝手に赤崎は話しかける。
赤崎にとって、もうあと一歩のところまで近づいたプロへの道の、その入り口で待っていてくれるのが彼だった。そう思い込むことが明日に向かって今日を頑張る赤崎のエネルギーの元のひとつになっていた。同じピッチに立った時、彼の意図を俺が見つけて記録に残るような得点とアシストを叩きだしてやる。そう意気込んだ。彼の契約期間は知らないからいつまでETUにいるのかわからない。けれど、一日でも早くプロ入りしよう。そんな風に考えた。
赤崎はもうあと少しで卒業なので、高校でプロデビューとかはさすがにもう無理になってきて。それでも確実に卒業と同時にトップに上がりたいし、すぐにデビューを果たしたい。と毎日思いながら暮らしていた。そんな気持ちは王子のイマイチパッとしきれない中途半端なプレイを見れば、益々強くなっていったのだった。
* * *
そうして今日も赤崎はユースの練習に出掛ける。着替えが終わって練習場に向かう途中、廊下の向こうからETUの貴公子が歩いてきたので赤崎は少し緊張した。
こんな時間にここで王子を見かけるのは初めてだ
珍しい、忘れ物でも取りにきたのかな
私服の彼はヘラヘラとでも形容できるほどにのん気なムードを醸し出す不思議な存在感をもっていた。まるで鼻歌が聞こえてくるかのようなご機嫌な人だった。それでも、そんなご機嫌でのほほんとした風情とは裏腹に、そこにいるだけで周りの空気を一変する、自ら光を放つような強烈なスターのオーラをガンガン出していた。そういう感じだった。ピッチでのプレイが原因で目がひきつけられているのではない、彼そのものが元々そういう存在のようだった。私服で優雅に歩いている姿を見れば知らない人はサッカー選手だなんてとても思わないだろう。独特で奇妙な艶やかさを持っていた。
すれ違う際小声で挨拶して会釈をする。そして強い意志を込めて彼の目を睨むように見返す。
今はまだ俺はユースの中の十把一絡げ
まだまだまるでその辺の雑草のような、
そこにいないかのようなちっぽけな存在だろう
どれだけ彼のプレイを見ていようと、
何度心の中で彼に疑問や言葉を投げかけていようと、
現実は所詮こういうことだ
いつか、彼に俺の名を呼ばせてみせる
王子はそんな睨み付ける様なきつい目線を投げかけている赤崎に対してチラリと優美な流し目を寄越す。そしてチャーミングな笑顔だけで返事を返した。まるでファンに応対する時の、優し気ながら傲慢にも見える王子様らしいその態度。
なのになぜか。なぜかその瞬間、中学時代のあの記憶がよぎった。
雨の日の、人嫌いの鳴かないノラとの不思議な時間。あの時のノラの「ニャァ」という心に浸みわたるような優しい鳴き声が彼から聞こえたような気がした。思わず通り過ぎていく王子の背中を振り返る。その気紛れな風情のある背中は、やはりあの夜のノラの後ろ姿とダブって見えた。
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