お花結び

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閑暇とは何か有益なことをするための時間である 2

一向に発展しないゴト→←タツに焦れるジーノがけしかけてる話。

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 気儘な王子は気儘なまんま、勝手に料理を沢山注文し、適当に食い散らかし、そうして勝手に先に帰ってしまった。投げキッスひとつ残して。

「おい、後藤」
「ん?」
「あれ、なに?お前あんなんといつも二人で出掛けてんの?わけわかんねぇ。」

 達海は感じていた。後藤は世話焼き。昔自分の時もそうだった。後藤の彼女達もこんな感じだった。手間がかかる厄介な相手なほど、後藤は相手に親切になり、手をかけ、仲良くなっていってしまう。生粋の長男タイプだ。人の面倒を見る為に生まれてきたような男。

「ああ、あいつは…悪かったな。いつもはあんなんじゃないんだよ。今日はなんていうか…」

 まるで後藤の“俺達二人”と自分とでも言いたげな発言に少し癇に障るものを感じた。これは自分自身のわだかまり。昔々、後藤が移籍を決めた時からずっと残っているわだかまり。年下でもあるし、頼られる柄じゃない。だから肝心な時に俺は力になることが出来ない。仕方がないことだとは納得しつつも、誰にでもそうなのかよ、という。と達海は自分と後藤の関係性のことをそう評価していた。俺も我儘だけど、後藤だって傲慢だ、そんな風に少し口を尖らせる。

「ちょっと変わった奴だけど、根はいい奴なんだよ。お前ももう少し時間が経てばきっと…」
「いい奴ね…、お前は大概な人間とうまくやれるけれど、そんな風に手放しに人を褒めてるのも珍しいな」

 人を褒めるのは後藤の癖で、別に珍しくもなんともなかった。でも、後藤の浮かべる少しリラックスしたような笑顔がまた癇に障った。そんな顔、誰にでも普通に見せる様なものだったのかよと、勝手な自分の思い込みも含めて深い溜息を吐く。嫌な気持ちは全部消えてなくなれとでも言わんばかり。

「ハハハ、お前にはホントかなわない。昔当たり障りない対応する技術だけはピカイチだなんて、褒めてんだか貶してんだかわかんないこと言われたよなぁ。あの頃はよく女にもそんな感じで振られて…。いや、そんなことはどうでもいいか」
「あの頃どころか、今も全然変わった感じがしねぇけどな。お前のそういうとこ」

 後藤は優しい。誰にでも親切だ。達海はそういう、誰も特別扱いをしないような残酷にいつも胸を痛めていた。でも時々それでも自分だけは、なんて都合のいいものを感じてしまうのも嫌だったし、こうして後藤が今でも相変わらず手を焼く人間に吸い寄せられるように情を注いでいる姿を見るのも不愉快だった。溜息。全部出てしまえ、こんなむしゃくしゃ。そんな念を入れながら繰り返す溜息。

「ホントあいつは掛け値なしにいい奴だから。きっとお前らタイプも似てるし、気が合うと思うよ?」
「それ、どういう意味で?トラブルメーカー的な意味で似てるって言いたいの?」
「そんなこと言ってないだろ?」

 黒い江戸切子のグラスの冷酒を煽る。達海は赤。その昔、この小料理屋によく通っていたことを達海は思い出していた。このグラスは常連の後藤の為に特別にと二人の為に店主が用意してくれたものだ。達海はだからここは二人の秘密の店だと思っていた。なのに今日、自分がいない数年間の間に、ジーノと後藤がどれだけ通っていたかを感じさせられてしまった。お店の人が一瞬、自分とジーノの、どちらの前にこのグラスを置くか戸惑っていたのを察知した。ジーノがたっぷりの余裕を含ませてさりげなく俺の方を指示したのもムカついた。回数にしたらきっと自分なんか目じゃないくらいに二人はここでこうしてお酒を酌み交わしてきたのだろう、ジーノの場馴れ感にそんなことを知らされてしまった。

「なんだか、二人になるとぎこちないな…」

 後藤は気まずさに苦笑いを浮かべていた。何を話していいのかさっぱり思いつかなかった。思えばこの店でジーノと二人、どれだけ達海の話をしてきたことだろう。後藤はそんなことを考えていた。ジーノは海外育ちで達海を知らなくて、その話を後藤がしだすのを好んでいた。おそらく同じ話を何度も何度もジーノにしていたにもかかわらず、うっとおしがらずに優しい目でずっと話を聞いてくれていた。ジーノはまるで達海と旧友であるかのようにその行動原理を理解したし、今まで後藤が理解しかねた達海の心を彼の翻訳で説明してくれたりもした。そのことで更に達海に対する思いが深まっていったと言ってもよかった。

「……」
「あのさ、達海。あいつね、ホントおかしな奴で。」
「それはきっと世界中のあいつの知り合いがわかってることだと思うよ?」
「ハハハ、そう…。だな。でもあいつは、ホントいい奴で…」
「……」
「あいつ、酒すごい強いんだよ。でも一度この店で深酔いしたことがあってね。そん時にさ?」
「?」
「ボクはキミ達二人に恋してるって。ハハハ、いかれてるだろ?」
「…キミ達ってなんだよ、いきなり。わけわかんねぇ」
「ハハハ、あいつ、日本語が怪しいところが沢山あるから誤解されやすいんだけど。あとは、なんだろな、お前と似てるなっていうのは、人のことわかり過ぎちゃうっていうかそういうとこがあって。俺はこの店で随分あいつにお前の話をしてきたからね。馬鹿だろ?あいつ。あれで親心みたいなもんらしいよ?」
「…二人って俺とお前のこと?」
「ん、ほら。俺お前の事大好きだからね、仲良くしろってさ…ハハハ、まるで小姑だよ全く」

 酔った後藤はいつもとてつもないことを言い出すので、そんなときには必ず達海は面食らう。

「俺はさ、なんか自分からお前に仲良くしたいなーって声掛けらんなくてさ。ここ最近はずっとこうして、あいつ夜事務所に来ては俺の尻叩いてたんだよ。ハハ、情けないな我ながら」
「……」
「仕事のさ…ストレス。随分たまってて。ホントはずっとお前とこうしてご飯なんか時々食べに出掛けてさ?くだんねぇ話したり…、笑ったりしたいなって。ホント、ずっと。ずっと…。もう何年もそうやって俺が暮らしてきたの、あいつに聞かせてきたから」

 素面じゃ話せない心境なのだろう、後藤は空いたグラスに自分で冷酒を注いでは飲み、話しては飲み、そしてまた注いでいた。ちょっと飲み過ぎだと思ったが、沢山有り余るほど料理が並んでいるにもかかわらず更に料理も追加して、ついでにお酒のおかわりをまた頼んでいた。

「後藤、酔ってんね…」

 小声でぽそっと呟いた。オタオタした後藤の様子が嬉しかったなど、伝えられるわけもない恥ずかしい気持ちだった。

「達海も少し飲まない?ジーノはお前がそうやってこの器を手にして俺と二人酒を酌み交わすのをずっと夢見てきたんだ。まあ、結局恥ずかしくなっちゃって帰っちゃったみたいけどね。帰りしなに俺に、もう胸が一杯で食べられないよって言ってさ。ホントあいつは馬鹿だ。馬鹿。大馬鹿。ハハハ、この料理、はしゃいで頼みたいだけ頼んでおきながらさ、ホントどうすんだよなぁ?」

 後藤とジーノの二人のこれまでの情景を想像してみる。馬鹿はお前ら二人ともだ。俺がいない間に俺をだしにして一体なにをやってるやら。そんな気持ちで達海は今こんな台詞を言いながらグラスを差し出すくらいしか出来なかった。

「俺が冷酒そんなに得意じゃない事知ってるくせに。俺酔わせてどうするつもり?」

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