お花結び

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お大事に

風邪ひきタッツミーとそれを心配しているジーノの話。ジノタツですがタツユリ的な要素もほんのり含まれていますのでご注意。でもNLというより兄妹的な何かです。甘くしようと無理矢理頑張ってみたところなんだかモヤモヤとした仕上がりになってしまったような…

        ジノタツ

SIDE:達海

 過労でぶっ倒れた過去のある有里が、今回のことですっかり意気消沈していることなんてすぐわかった。いい奴なんだけど不器用で、女らしい可愛げのある甘え方を学んでこなかったサッカーフリーク。でも大丈夫。お前は不器用でも馬鹿じゃないから、お前が明るく笑ってそこにいることが、このチームにどれ程の活力を与えているかいつかわかる日も来るだろう。変な言い方しちゃったけれど、早期発見、早期治療。数日で復帰できてとてもよかったと思っているよ。お前のその情熱の病はとても強い繁殖力を持っているから、まあ、その辺は、今後とも、うん、よろしく。

   *  *  *

 それにしても俺は今、珍しく体調を崩してしまって自分で自分に驚いていた。全く、シーズン中だというのに迂闊だった。無理が効かないお年頃になったということなんだろうか?

 俺は心配されたり気を使われたりされるのがとても苦手なので、実は最近困ってる。ここにはとても聡い男が一人いて、そういう俺を何も言わずにじっと見ていたりするからだ。
 あいつはどうしてそうなのだろう?まるで魔法の力を持っているかのよう。喉が渇けば飲み物を、暑いと思えば窓を開け、淋しさを感じればいつの間にか隣に立っている。ジーノ、今俺はピッチの隅に立ちながら、とてもお前を感じてる。お前の、俺を気遣うその気配を。
 選手達に風邪を移したくない俺が、こうして皆から遠くに身を置く時。その所在なさをお前は知って、そっと人知れず寄り添っていてくれたりする。しかも豆粒みたいに小さく見えるそんな遠く離れた位置から。本来なら鬱陶しく感じるその視線と所作が、何よりも温かくこの身を包む。ただ、尚一層それが俺を戸惑わせるのもまた確かな話だった。

 魔法の力を持つジーノは、俺のことをとてもよく理解している。なんでそんなにお前はわきまえているんだろう?ETUきっての自慢の選手、優秀で有能なETUの貴公子。お前は俺の不調を察しながら、それでも俺の為に遠くでそうやってただ黙って見守っている。あぁ、お前がそんなにも選手でなかったならば。そんな馬鹿なことを考えてしまう。きっとこんな思いすら筒抜けで、お前は今、遠くにいればいいのか近づけばいいのか、果たしてどうすればいいものかと思案し揺れていることだろう。

 だから、俺の戸惑いが隠せない。何もかも当たり前のようにやりこなすお前を今それほどまでに困惑させているのが、この俺の心だとわかってしまうから。

   ジーノ、こっち来ないかな。ジーノ。もっと傍に。俺の隣に。

 俺の我儘な本音がどうあっても溢れ出すのを止められない。それを隠したいがために今日もお前から終始顔を逸らししているしかなかった。

   *  *  *

「ゴメンね?その話長くなりそう?」

 心が明後日を向きながら雑談をしていた時、ジーノの声がすぐ傍から聞こえて俺はとても驚いた。なんでいきなり?俺に用があると言って有里を追い払うと、かの聡い男はおよそどうでもよさそうなことを俺に言った。

「彼女の風邪、大分よくなったみたいね」
「そうみたいだな」

 言葉を交わすのは久しぶり。嬉しかった。それでも俺の口振りは不愛想にボソボソと。なるたけ菌が広まらないようにブツブツと。いけないこいつと長話などは厳禁だ、早くここから立ち去らねば。わかっているだろうにわざわざこいつは、ああ、そうか、やっぱり俺が呼ぶ声が聞こえてしまったんだろう。

「キミにうつったその風邪も、ボクにうつして治るならそれが一番いいんだけど」

 お前はこんなことを言う。傍に居て欲しい俺の心が、お前にそんな言葉をしゃべらせる。
 
「ボクはかまわないよ?」
「馬鹿言うな」

 とても不愉快な気持ちになって振り向けば、ジーノはいつもと同じようにとても優しい笑顔で俺を見ていた。思わず飛びついてしまいたくなるくらいだったよ、ジーノ。困った奴。

「今、何度?」
「知らね」

 歩みを進めるジーノに対して、俺はまるで磁石が反発するかのように後ずさる。俺は具合が悪くてなんだかとっても心細くて、勿論お前と一緒に居たい。けれど当然、大切なお前に風邪を移したりなんか出来やしない。だって俺は監督だから。お前達のプレイで観客を熱狂させるために存在している人間なのだから。意思伝達がうまくいき過ぎていることも全くメリット半分、デメリット半分。俺の具合など他の奴らと同様にこいつが気付けなかったら俺ももう少し気楽だった。でも気が付かないお前だったら俺はうんと悲しかったに違いなかった。

「ったく。お前のそういう目ざといとこ、ホント、うぜぇ…」
「…だって、タッツミー」
「わかってる、そんな顔すんなって」

 悲しげな顔。ジーノの心が伝わってきて、我儘を言っているのはそうだよ俺の方だと辟易する。ジーノはこの、しゃべるには少し遠い距離から少したりとも近づかない。監督としての俺の心が選手のお前を縛り上げているからだ。なのに、俺の本質がお前を呼び、お前は悲しい顔をしてそこから立ち去ることも出来ないでいるのだ。長話はいけない。なのに、俺はどうしようもなくこのひと時を楽しみたくて仕方がない。ジーノ、もう少しだけ。どうしても言いたいことをちょっとだけ。すぐに済ませてやるからね。

「あんがと。大丈夫だから。お前ってホント優しいのな」

 なんとも可哀そうで気の毒な男に、俺は一言声を掛ける。そう、ジーノは本当にとてもとても優しい男で、いつもこうして何一つ不自然さもないままに空気のように俺を包む。あからさまには見えなくて、そして、それがないと生きてはいけないかけがえのない存在。一度気付いてしまえばあまりの幸せに体が震えるその存在。お前が目の前にこうして立っているだけで、俺の呼吸が整っていく。まるで森林浴に出掛けたみたいに、体の隅々が洗い流されてキレイになっていく。

 だから、今日は。それを痛感させられてしまった俺は少し素直にこんな一言をお前に。

「よくなったらさ、ジーノ」
「ん?」
「一杯風邪がうつるようなこと、しようぜ」
「!」

 そんな驚いた顔をしてみせても、俺の気持ちなどどうせすっかりお見通しなのだろう?意地悪なジーノ。

「つまんねぇし早く治すことにするよ」

 さあ、言いたいことは伝えたし、後はゆっくり休息を。近づきながらも近づきすぎない、何もかもわきまえている聡い男。レディに親切なあの貴公子が、そのポリシーをひっくり返してまで確保してくれた俺の時間。有難く使わせていただこうと、俺は足早にその場を立ち去った。

 一刻も早くジーノの森に出掛けてあのすがすがしい空気に全身包まれないと、俺はもうどうしようもないような、そんな情けない心境だったからだ。

 早く治そう。そう、思った。

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