お花結び

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絆に結ばれて 2

ガンナーズ戦(ホーム)から最初の五輪予選が終わる頃までのジノザキ。一応回想のものも含めて出来るだけ時系列に並べてみました。そのため展開2系統がグチャグチャ混ざった形となりなんとも読みにくく申し訳ないです。章タイトルが2文字のものが裏でそれ以外が表ですのでそれを目安にしていただければ幸いです。因みに作中ジーノが使用している包丁はハーブチョッパーです。

食べよう~エビフライ

「なんスか?ご機嫌ッスね」
「フフ、そりゃあ…美味しかったしね?評判通りだ」

 今日は二人でご飯を食べて、その後テクテク夜道を散歩。地元を歩きたがらない王子は不思議とニコニコ楽しそう。

「付き合わせちゃって、その…ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。なんていうか全くキミらしい話で……フフフ、楽しかった」

 実は今回王子と俺の昔なじみだった店に一緒に行ったのだ。一日延ばしにしていた、昔からのある約束を果たしに。

    *  *  *

 商店街から少し外れた住宅街の、街燈も少ない静かな道のり。お腹一杯の俺達二人が歩いているのは薄暗いながらもあたたかなムードのそんな夜道だ。

 園芸の好きな主婦だろうか、あの家には家の前にキレイな小花が咲き乱れ、そちらの家は大家族なのだろうか、沢山の自転車がズラズラと。所帯じみた街並みなのに王子が歩けばそこはまるで映画のワンセット。だけどそれは非日常的だという意味ではなくて、ここ最近はなんというかちゃんと王子がそこにいるというか、しっくりと馴染んで調和を感じさせる空気感があった。この人、こんな人だったっけ?俺は、王子のことを明るすぎる太陽のように、まともに見てられないくらい眩しい存在だと思っていた。

「でも、これでやっと一段落出来るッス」

 心地よい、とても気分のいい夜だ。王子ではないけれど俺も鼻歌を歌いたいくらい上機嫌。

「同席出来て光栄だったよ。お店の人も随分喜んでたね?」
「ハッ!どうだか」
「フフフ、キミだってそんなことくらいわかってるくせに」

 行ったお店は昔から家族でよく行ってた洋食屋。あの店の親父は腕はいいけど兎にも角にも偏屈で。小さい頃から俺のことを寄ると触るとからかって、いつもいつもコケにするのが好きだった。サッカー選手とか漫画の世界に憧れてやがってお前は馬鹿かと。偉そうな口きく割にはなんだまたお前今日も負けたのかと。偏屈親父のひねくれトークはそりゃいつも慣れた話ではあったけれど、あの日あいつが言ったことは俺には絶対許せなかった。

“お前んとこのエースはなんだ?海外行った途端に役立たずか?”

 怒った俺と大喧嘩になって、そんで、あとは本当にくだらない売り言葉に買い言葉で。俺は大泣きして大暴れして、今に見てろと啖呵を切って。そしてそれっきり二度とあの店に行くことはなかった。今日のこの夜を迎えるまで。

「小さい頃から、キミは本当に街ぐるみで愛されて育ってきたんだね」

 王子が突然そんなことを言うもんだから、俺は潤む涙腺も素知らぬ顔で真っ直ぐ前を向いている事しか出来なかった。ずっと思ってた。いつの日か俺はあの店に行って、偏屈親父にどうだ見たか!と言ってやろうと。でも長い間尻込みしていた。トップに昇格した日も、デビューした日も、そして初ゴールを決めたあの日も。延々と、どうしよう、今日にしようか、明日にしようか、と。

“行こうよきっと待ってるよ?怖いなら一緒に行こう?ボクが行きたがったとわがままを言ったことにすればいい。実際ボクはそこに行ってみたいと思ってるんだから”

 2、3日前にそう言って、俺の背中を押してくれたのが王子だった。

「ずっと場所あけて待っててくれたんだね、あの人」

 当時白壁だったはずの場所はもうすっかり変色してしまって、店に入った途端どれだけ長い間そうしてあの場所が空きスペースになっていたのか思い知らされた。熱狂的な野球ファンの親父は、昔壁に大好きな選手のサイン入りユニと色紙を飾っていて、小さい頃からここに俺のサイン入りのユニを絶対飾らせてみせる!と俺は豪語していた。偏屈親父はいつも意地悪に笑っては、そんな日なんか来るもんかい!と俺のほっぺをつねってみせるのがパターンだった。

 つまらない意地を張っていた。俺は本当は、ずっとあの親父の作ったオムライスが食べたくて仕方がなかった。

 言い方は悪くても悪気はない人で、いつも、いつも、意地悪を言いながら俺を励ましてくれていた人だった。ゴールを決めたと言えば、やりやがったな小僧、とその数だけのエビフライを乗せ、勝った時には、まいったなぁ、と苦笑いをしながら当たり前のように特製プリンを出してくれた。俺はいつも悔しげな親父の顔を見ながら、ざまあみろ!と楽しく勝利を祝うのが好きだった。
 あの日のことにしたって、本当のことはわかってた。落ち込む俺をうんと怒らせようとしたんだろう。あの人は俺のことを泣くより怒っていた方が力が出せる奴だと繰り返し繰り返し言ってくれてて。力に変える上手な腹の立て方を俺に教え続けてくれていた人で。でも二人とも意地っ張りだから、思いも寄らないでっかい喧嘩になってしまった。

「……」

 10年ぶりに食べる親父のオムライスは昔と変わらず美味しくて、特製のクリームコロッケが乗せられていた。覚えてる。クリームコロッケは俺がアシストした時のご褒美だ。この前の五輪の試合をあの人は見てくれていたんだ。多分。今までもそうして、黙って俺の知らないところで、ずっと。そしてきっと、俺がユニフォームを持ってくる日を、まだかまだかと待っていてくれていたんだろう。

 平気なふりをしようとしたのに、思わず立ち止まる。王子はそんな俺のこぼれる涙を指で優しく掬ってみせた。

「なんでキミのことを忘れてるかもなんて心配をしてしまったの?あるわけないよ、そんなこと。でもそういう可愛いところが……」

 その先に続く言葉は?俺はドキリとして思わず顔を上げたところ、やっぱり王子はニッコリ笑って首を竦めてこう言った。

「とてもキミらしい」

 ガッカリして眉を寄せると、王子も同じように眉を寄せ、誤魔化すように俺の目元にキスをくべると、まるであの親父のように偏屈紙一重の意地悪な笑顔を浮かべていた。素直じゃない人だ全く。でも如何にもそれが、

「ったく、あんたらしいですね。そういうとこ」

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