絆に結ばれて 2
ガンナーズ戦(ホーム)から最初の五輪予選が終わる頃までのジノザキ。一応回想のものも含めて出来るだけ時系列に並べてみました。そのため展開2系統がグチャグチャ混ざった形となりなんとも読みにくく申し訳ないです。章タイトルが2文字のものが裏でそれ以外が表ですのでそれを目安にしていただければ幸いです。因みに作中ジーノが使用している包丁はハーブチョッパーです。
仲良く遊ぼう~お風呂
「ハハハ、そういえばそういう事もあったっけねぇ?懐かしいなぁ」
ジーノは洗い流した髪を手櫛で整えながら、湯船の中で顔をしかめている赤崎にむかって笑いかけた。
「あん時のキミ、ホント傑作だった」
「ったく、ろくでもねぇったら」
「フフフ」
「言っとくけど、あんたがろくでもねぇのは今もッスよ?」
「おやおや、参ったね」
二人が今話をしているのは、かつてこのマンションのエレベーターで起きた他愛無い戯れのこと。あの日赤崎はからかうジーノにのせられて、帰宅早々一緒にお風呂に入るべく湯沸し当番を仰せつかってしまったのだ。あれ以来、すっかりその役割分担が定着し、そして帰宅後こうして二人で一緒に入浴する事も当たり前の習慣になった。
「それにしても王子ってホント風呂好きですよね。いっつもなんか楽しそうで微笑ましいっつーか」
「だって気持ちいいじゃない?」
「まあ、そりゃ。でも入るのちょっと面倒な時とかないですか?」
「ないね」
「そッスか」
「でも、この頃一人で入るのはちょっと味気ないかな」
「馬鹿言ってる。ガキじゃあるまいし」
「フフフ、心外だな。キミも同じだろうに」
「お、俺は別に……」
ジーノが笑いながらチョイチョイと促すので、赤崎は大人しく湯船から出て当たり前の様に髪を洗ってもらうことにした。滑らかなジーノの指運びはまるでプロ並みで、赤崎がこれをされる時に目を閉じるのは、シャンプーが目に入らないようにというよりも殆どウットリするその心地よさのせいだったりする。今日も丁寧にジーノの指先が踊っているので、赤崎はずっとこうしていたいな、などと思いながらされるがままになっていた。まるでブラッシングを受ける従順な飼い犬のようなその姿に、男は歌うような口調でそれを言う。
「いい子だね」
「ガキ扱いしないでくださいってば」
この会話も二人手慣れたもの。何を言い合おうが、当たり前の様にお互い大いにこの時間を楽しんでいた。
「キミがOKしてくれるならいつでもボクが切ってあげるのに」
「ああ、伸びてきてます?」
「短いとわかりやすいよね。この辺とか」
「ぅわっ!」
うなじの辺りを指先でからかうので赤崎は驚いた後不満げに文句を言い、それをまたジーノは悪びれずに笑って受け流していた。
「うーん、この前王子が取材の日暇だったから切ってきたとこなのに」
「ねぇ、やっぱ駄目?切らせてよボクに」
「駄、目」
「つまんない」
シュワシュワと地肌をマッサージするかのようにシャンプーを洗い流すやり方も絶妙だ。ジーノが自分で髪を切る人間だという事を知る赤崎は、このテクニックをどんな場面で身につけたのか日頃からとても疑問に感じていた。けれど所謂女絡みの不愉快な返答がくるに決まっているので今まで聞くに聞けないでいる。
「ボク、カットしに行くのがどうにも苦手でさ」
その赤崎の引っ掛かりに気付いているのかいないのか、今日のジーノはふとこんな話をし始めた。
「だから何とか自分で出来ないかなってさ?ヘアモード系の技術本とか色々読み始めたのはそれがキッカケだったんだけど、一時期すっごくドはまりしちゃって、フフ」
そんなことを言いながら、カチリとシャワーヘッドを壁に戻して、赤崎の顔を上げるように指示したジーノはリンスの後のお馴染みのヘアマッサージをし始めた。赤崎が使うのはジーノのとは違うミントオイルのそれで、如何にも若者らしい涼やかなサッパリ感。勿論香りも手触りも赤崎だけでなくジーノもお気に入りだ。
「本見てたら自分のだけじゃなくて他の人の頭も弄ってみたいなって思うのも当然じゃない?なのに、ザッキーってケチで困るよ」
「ケチで結構です。でも意外だ」
「何が?」
「王子ってメンズエステとか平気で行くタイプじゃないですか。カットしに行くのもエステ行くのも似たようなもんだろうに」
「えー?全然違うよ。ボク髪触られるの大嫌いなんだもの」
「初耳だ。じゃあ、王子にムカついたら嫌がらせに髪触ればいいってことか」
「ちょっと、ちょっと」
「ハハ、いい事聞きました」
「わかってないなぁ、ホント馬鹿な子」
「え?」
「ボクはいつだって髪と言わず、キミには何から何まで体中、ぜーんぶ思いのままにさせてあげてるじゃない?」
あまりに意味深な発言に赤崎が焦って顔を染めると、
「ハハ!その顔!」
「わ、王子、待っ」
ジーノがさも愉快そうに赤崎の髪をクシャクシャ玩具にし始めたので、からかわれて不貞腐れた赤崎は、俺だって、と同じことをやろうと髪に手を伸ばすと、ジーノの行為がピタッと止まって、そして子供っぽいふざけた表情が急に大人びたそれに変わった。
「どうぞ?」
小さく、けれど体に沁み込むような深い声質のそれで呟くジーノの変化に思わずドキリと赤崎は手を止めた。するとジーノは宙に浮いたままのその手をとって、触りなよ、とでも言いたげにゆっくりと自分の頭に引き寄せた。ジッと赤崎を見つめるその目が、まるでキスを待つ時のようにやんわりと伏せられて、長い長い印象的なその睫毛の魅惑が、赤崎のクラリとした眩暈を誘う。スローモーションのような速度で導かれるままに恐る恐る耳元の髪に触れると、ジーノはその瞬間さも嬉しそうに優しい笑顔を浮かべて、
「ね?平気」
と言った。
「なんで」
「ん?」
「なんであんたはそんないっつもそうやって俺の事からかって……」
「違うよ、キミだから」
「嘘ばっか……本当は平気なんでしょ?俺でも、女でも、チームメイトでも、誰でも」
「どうして?本当だよ?キミはいつもボクの苦手を平気にしちゃうんだ」
「ずりぃだろ、そういう……ぬか喜びさせるようなことばっか……そういうのは苦手だ。俺単純だから」
「何故?そういう事ボクと一緒になってもっとキミに喜んで欲しいだけなのに」
「王子は……」
王子はどうしてこういうリップサービスをさも本当みたいにサラリと言ってのけてしまうんだ。そんなことを伝えたいのに、赤崎はやはりどうしてもその言葉を口に出来ない。すると、ジーノは、もういいよ、わかってる、と言わんばかりに穏やかな表情で赤崎に。
「触れて欲しいとさえボクに思わせてしまう事って、結構凄い事なんだけどなぁ?」
「またそんな事言う……」
「恥ずかしくってわかんないフリしたがるキミも可愛いよ?」
「やっぱずりぃ……」
そして、次に何が起こるのかわかっているジーノは微笑みのままに唇をほんの少し開けて待ち、赤崎は両手でジーノの両耳にかかる髪を軽く掻き上げるようにしながら、ゆっくりと男を押し倒すように導かれるままキスをしたのだった。
「ホントなんだ、ザッキー」
何故、いつジーノが髪を触られるが駄目になったのか。それがわからない赤崎にはジーノの言葉の意味はやはりわからなかった。その事をどれだけジーノが喜んでいるかということも、わかるわけがなかったのだった。
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