俺と王子と情熱と
時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。
Adventus 10
「あー、ゴメン。やり直す」
急に王子がいつもの彼に戻った。
「取りあえず、何か温かいものでも飲んでリセットしよう」
その口調、表情全て、くっきりと鮮やかに艶やかで、その豹変に驚いた俺は返事に窮して黙り込む。
「ザッキーはカフェオレ?いつもより少し甘めがいいかな」
「……いや、別に」
「それともホットミルクの方がいいかな?」
「いや、王子、あの、俺は……」
「ん、わかった。カフェオレね?すぐ作る」
俺の頭をクシャリと撫でて、スラリとソファから立ち上がりキッチンへ向かう。暗がりの部屋のカーテンが開いて急に朝が来たみたいだった。ただただその眩さに、俺はやはり呆気にとられていた。
(そりゃ今はどっちかっていえばカフェオレの気分で、って違うだろう!今、俺達そんな呑気にお茶してるような状況じゃ)
当然マイペースな王子は、俺の戸惑いなどお構いなしだった。
「やー、でも頼むよザッキー、ホント参ったな」
「え?何がッスか」
キッチンの明かりを点けながら王子が言う。
「手がおろせないとか火傷したい~とか。なんだよそれって思わなかった?」
「?」
「テキトーやっててそんな簡単にキス待ち顔されちゃさぁ?」
「キス待ち顔!?」
「危うくうっかり手を出すとこだったよ勘弁して」
王子はクククと笑って首を竦める。ボク堪え性ないんだから、と言われて初めて今更ながら気付いてしまう。王子は迫真の演技を重ねながら、何度も何度も俺をからかって遊んでたのだ。
「王子!あんたはなんでそういうッ」
「おっと、だから今こうして謝ってるだろう?待っててよ、償いにすぐキミの大好きなボク特製のカフェオレを」
「いらねぇよそんなつもりだったんならな!」
「ハハハ、そう言わずに」
彼の作戦にまんまと乗せられ、訝るどころかすっかり同調。本当に王子は何でもかんでもお見通しで、悪魔みたいに性格が悪い。ギリギリと歯噛みをしていると、王子は首を伸ばして俺を見やり、その顔にはケロリとした笑みが浮かぶ。悔しいながらもしてやったりと楽しげな姿が魅力的で、なんだか力が抜けて溜息もでた。
「んだよ、まったく……」
すると彼はいつもと同じに、手のひらを上に向けて人差指で俺の胸元を指し示し、今度は悠々と言い放つ。
「ザッキー、騙されたくないのはわかるよ?でもキミはどんだけ頑張ったところでボクには絶対に叶わない。いい加減あーだのこーだの下手に考え込むのやめたら?人間諦めが肝心さ」
彼ほど恣意的に神経を逆撫でるやり方を心得ている人間はいない、そう思った。カチンと文句の一つでもと思ってはみたものの、先手必勝、黙らせるように彼が言う。思考スピードがまるで違う。わかってはいるものの腹が立つ。何故なら俺は人一倍負けず嫌いだからだ。
「ま、プライドの高いのキミの事だもの。負けを認めるなんて屈辱以外の何ものでもないんだろうけど」
(なんでも、かんでも、ホントこの人は……容赦がねぇよなー、優しい顔して)
当たり前の様に二手も三手も先を行く。ヘボ将棋を繰り返す俺に向かって、早く降参しろと言う。繰り返し、繰り返し、もしや、俺の心が折れるまで?
「だってさ。イチイチ小さい事でそんなに混乱に混乱を重ねてちゃ、あっという間に悪い人の餌食になっちゃうよ?」
「……そりゃ、どうも御親切に」
「どういたしまして」
自分の悪さを人一倍知る男に皮肉交じりな感謝を告げると、王子は悪びれもせずにサラリと軽く受け応えた。やっぱり俺が飽きるまで、彼はこの調子を続けるらしい。
(そっか、そうだよな……わかってたじゃないか。この人の笑顔も言葉も、何一つあてになりはしないって。最初から、相手にならない。視野の広さも、判断スピードも、その正確性も、何もかも……)
「ん?どうかした?」
(一体俺はここで何をしているんだろう……)
心をかすめたのはそんな疑問。けれど最早俺はそれを思い悩む余裕もなくて、心地良かったはずの王子の心音のあの響きと、包まれた手のぬくもりを思い出してはそれに縋った。何故なら、今俺の支えになるのは、謀らずも知ってしまったそれらだけしかなかったからだ。生命を維持するための自律神経。流石の王子もそんなものにまで嘘をつく事は出来ないだろうと俺は感じた。
「くそったれ」
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