俺と王子と情熱と
時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。
Adventus 07
「ね、こういう事だよザッキー、わかった?」
「何がッスか?」
「ボクはキミが好きだから、キミの笑顔が一番の幸せ。本当はそんだけの事なんだよ」
その瞬間までコーヒータイムとは俺達二人の安らぎの時だったのは確かだ。だが今それは危惧していた通り王子の一言で大きく破損し、俺は呆然と去りゆく美しい過去を見送る事しか出来なかった。
(王子、さっきなんて言ってたっけ……そうだ、やり直すって)
彼が何か飲もうと俺に提案したのは、無惨に翻弄してまさに致命的な瞬間を迎える寸前の事だった。俺は、まだまだ遊びたい王子だから、衰弱した俺に猶予をあたえるつもりと思った。そこに微かな希望があった。
(やり直しって言った。優しくカフェオレ飲ませて、俺を落ち着かせて……、今のやりとり一旦全部有耶無耶にするのかとてっきり俺は)
疲弊とカフェオレが己の鎮静を促しながらも、甘い王子の言葉の裏にある劇薬のような悪意の毒素に、俺は心も体も苦悶した。
「そんだけって……」
「ん?」
「俺を笑わせて、そんだけって事」
「そうだよ、ザッキー。それがボクの一番の幸せ」
(そっか。本当に、もう。そっか……)
簡単に騙されてくれるなと笑いながら、その舌の根も乾かぬうちに安っぽい愛を囁く人。俺の笑顔が一番と言って、彼は全てを終わりにする。
「ザッ……?」
色味の違う二つの褐色を眺めてみれば、デミタスとマグに阻まれている本体自体はまさに別物と言ってよかった。空気の中では各々の香りが混じり合っても、そこに感じる何がしかの接点は単に私欲が呼ぶ錯覚なのだ。まさに王子と俺ではないか。今の俺の膜が張ったように不鮮明な視線の先には、表情も見えない程ぼやけた王子の顔。彼は一体何を思う?
「笑わせる為に、笑かす事やるってか?……あんたって本当に変な人ですね」
それはもう何度目かの王子に対する不信の言葉。違うとかなんだとか言って欲しいと思いながら、王子は絶対にそれについての返事をする事はなかった。
無意識に瞬きをしたのはズキリと胸が痛んだその拍子。瞼から熱が流れ落ちて、束の間の鮮明を取り戻す。
(わ、なんだ俺、何やってんだ)
パニックにも似た動揺と緊張の連続の中、とうとう俺の何かが決壊した。一度気付いてしまえば止めどものなく流れ落ちるそれを、そのまま俺は放置を続ける。腕で涙を拭ってしまえば、自分が泣いている事を認めるようで悔しかったのだ。
「俺の事、めちゃめちゃにしながら、笑えと言って」
「な、んも考えるなって言ってあんたは、簡単に騙されんなって続けて言う」
「あんたの言う、そんだけの事って、どんだけの事だか全然俺わからねぇ」
平静を務めカフェオレを飲む。その唇は涙声に震えて、既に悲しみを押しとどめる力すら残ってはいなかった。逆切れのように暴言を吐く事は今まであっても、一度もこんな風になってしまった事はなかった。
「あんたがちゃんと聞けっていうから俺は真面目に……」
「あんたと俺の二人の事、どうなってくのが一番いいのか……俺は俺で、これでも一生懸命やってたつもりなんス」
別に王子の指示に従ったつもりでもなんでもないはずだった。でも結局ヘトヘトになった俺は彼の思惑通り、白旗をあげて降参するが如く何かを深読みするも叶わず、屈辱の泣き言を連ねていく。
「俺が王子にかなわない事なんてそんなの最初から知ってる事だし。でも辛い思いなんてしたくないし、させたくないし。だから、出来ないなりに、俺、一人で悩んでるより王子と一緒に考えたくて、色々いい案がないかって、だから俺……」
部屋の中に香ばしい、王子の淹れるコーヒーの匂い。これは王子そのものだ。ウットリするくらい心を擽り、飲めば胃が痛む程に深く苦い。
(それを必死に薄めようにも、一滴二滴の俺の涙で一体何が出来るって?)
涙が落つるは手にするカフェオレのマグの中で、デミタスの黒には届かなかった。苦さを打ち消す事も出来ずに、己の甘さすら変わらなかった。
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