俺と王子と情熱と
時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。
Adventus 24
テレビの画面に映るのは、古いイタリア映画。けれど、隣のこの人はさっきから何やら難しそうな本に目を落としたまま顔を上げようともしない。時折情熱的なキスシーンなんかが入ってくるので一人で見ているのも居心地が悪く、リモコンに手を伸ばすと「聞いてるから消さないで」という声に遮られた。
時々こうして、俺は王子という人間の特異性を忘れてしまう事がある。本(視覚)、テレビ(聴覚)、俺(感覚)。彼は膨大な情報量をまるで電子機器が多重処理を行うように一度に扱う。人は誰しも頭つまり意識は一つしかないはずなのに、王子はあたかも彼が何人も存在するかのように同時並行的に生きている。
(……たく、聖徳太子かよ)
彼のプレースタイルはまさに唯一無二。誰も真似など出来はしない。非常識な程鋭敏な彼の感受性を駆使した情報収集、現状把握。そこから広がる数えきれない未来予想、推察、推論。そして何より異常と言えるのは、それらを脳裏に展開させると同時に一瞬にして最適解に到達し、恐るべき精度で解に向けてプレーし続けるという高機能な機械さながらの彼の所作を時折やってのけるところだろう。
人は王子をセンスの塊だがむら気があると称するけれど、知性でプレーする王子が90分あのテンションを維持できない事は実は責められるものではないと思う。あれをフルタイムやってのけられるなら王子は人外の化け物だ。研ぎ澄ます感覚とそれを基盤に体をコントロールし続ける実力、その平行。数十分間だけでもそこに到達してしまう現象は確実に彼の神経を焼く。稀有なあの才は寿命を縮ませる悪癖、生き物としての彼に対する、典型的な弱点と言える。
そして王子のこういう特性を肌で感じる度、自分が極当たり前の人間である事、一時に自分を一人としてしか存在出来ないという事実を俺は思い知らされる。つまりサッカーをしていれば無我夢中で体を動かすばかりで頭が真っ白になっている事が多いし、こうして彼のリビングで二人で過ごす時には王子の事で頭が一杯で己の全てが彼に雁字搦めになっている事を痛感させられるわけだ。
つくづく俺達の関係はアンバランスだなと感じざるを得ない。サッカー馬鹿でしかない凡人の俺。恐らくはどの世界に行こうと一流の仕事を軽くこなすに違いない王子。一度に一つの事しか出来ない人間、一度にたくさんの事を行う人間。同じ時を過ごしながら見聞きする量が違うし、そこからモノを知りえる内容の差、例えば単純な話今ならイタリア語がわかるわからないというような、そもそもの知性の能力差があり過ぎる。
そのプレーさながら全ての事柄を軽くいなして暮らす王子。そんな人が今、俺の隣に座ってのんびり本を読んでいる。彼は書籍の世界の中で、一体何を思うのか?
俺が王子であるならば。一体何度それを思ったろうか。俺ならたとえこの命が縮まろうとも、持ち得るその才の全てを情熱のままに、勝利その為だけに燃やし尽す事だろう。
なのに王子はあらゆる事柄と同様にこの俺もまたサラリサラリと軽くいなして、穏やかに微笑みながら暮らすだけ。王子くらいが気楽でいいと嘯く彼は、己が持つその余りある才の中の一つを気が散漫なだけだよと軽く弄ぶだけなのだ。彼は命が惜しいわけではない。惜むが故にやらないなら俺も納得できる。けれど彼はそうではない。その才の本当の意味での価値を見出しもしないで、口では誇りながらも手慰みの暇潰しのように粗雑に扱うだけ。
そんな王子は冗談ばかり。いつも、いつも、俺のわからない事で心が一杯。何を思い、何に苦しみ、そうして、本当は何を願うのか。あらゆる事に興味を半分。分散した彼の移り気なその心の中は、何をしていようと常にぽっかりと穴が、いやゆとりともいえる余裕のスペースが広がっているように俺は感じる。彼が何がしかに虜になっている姿が見たい。けれど凡人はその舞台の客席にすらたどりつけない事を俺は知っている。彼はその場所のヒントすら教えない。絶対にだ。
例えば、ナショナルチームを目指す俺を『偉いね』『凄いね』ともてはやすくせに、一緒に頑張りましょうと俺が説得を試みれば『うーん、そうだねぇ……』なんて口に手を当て考え込む。当然それは彼のブラフで、一期一会の選抜チームに興味の欠片もない男がまともに取り合うわけもない。そも生まれながらの勝者の立場の人間が選抜される側として見つめられる事に否を突き付けるというのは、至極当然の話でもある。
ドキドキと緊張して返事を待つにも、当然の様に『だって、ボクの情熱はキミの為だけにあるから』などとクスクス笑いながら彼は凡愚を煙に巻くだけなのだ。
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