お花結び

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俺と王子と情熱と

時々ジーノの家に遊びに来る程度のまだ出来てないジノ→←ザキ。なんちゃってアドベントとしてクリスマスに向けて連載やりました。しかし予定が狂って年末まではみ出してしまった……「私の書くジノザキから連想した文章」を書いていただいたので、それをベースにスタートしました。

        ジノザキ

Adventus 03

 電話をかけてもメールをしても、応答がある事は殆どない。だから当然アテにもしないで、いきなり王子のマンションへ行く。

(どうせフラフラどっかほっつき歩いてんだろうけど。つか、居てもあれか、出ねぇかもしんねぇな。俺相手だと)

 広い綺麗なエントランスでロビーインターホンとにらめっこ。押し慣れた部屋番号を頭の中で何度も押下。

(なんだよ、今更緊張してんじゃねぇよ)

 留守も居留守も出たとこ勝負。何事もやらねば始まらない。大きく一つ深呼吸をして、少し乱暴にボタンを押した。

 だから。

『やあ、ザッキー』
(いッ……居た!?)

 普通に王子が出たのには驚いた。確かここはモニタ付きで、しっかり俺だと確認済みで。

「ど、ども」
『驚いたよ急に。何かあった?』
「あー、監督からのお遣いッス」
『タッツミー、の?』
「入り口、開けてくれます?なんか見て欲しい資料あるらしいんで」
『……』
「王子?」
『あぁ、ゴメン。それじゃポストに入れておいてもらえる?ボク後で取りに』
「いや、これ手渡ししろって厳命なんで」
『バレないよ。大丈夫、ちゃんと見ておくから』
「あんたの言い分、受け入れるわけないデショ。俺は俺が頼まれた事をチャンとやれねぇの嫌なんで」
『……』
「恨むならあんた自身の日頃の態度を恨んでくださいよ。どうせ見ろって言われてもいつもクシャクシャポイしてたんじゃ?わざわざその場の開封確認を念押される程あんたは全くアテにならないッつー事ッス」
『ハハ、参ったな』
「いいから、早く」
『……』
「王子が開けるつもりねぇっつーんなら、マンションの他の人来た時に勝手にそっちまで行きますけど?」

 そのまま彼が黙ってしまうので、長期戦になる気がした。部屋の前までたどり着いても、玄関を開けてくれなければ意味がない。そんな事を考えていれば、王子は無言のままながらいとも簡単にドアを開けた。しかしこちらが何かを言おうとすれば、プツリと回線は切れてしまった。

 このマンションはダブルロック。しばらく歩いたらまたドアの前。上層階専用のエレベータの手前で、部屋番号をもう一度。こちらは最初の解除から制限時間内に操作をすれば、自動で開く入口だ。つまり、ここでは王子と話せない。

(変な切り方されたからって焦るな。どうせもうすぐ面と向かって話をするんだ。兎も角気持ちを落ち着かせて、この封筒を王子に渡して、)

 エレベーターで目的の階へ。何度となく歩いた道のり、数日前がもう懐かしい。俺はもう二度とこの廊下を歩く事はないはずだった。

(封筒渡して、そんで……焦る必要なんてない。今日ろくに話が出来なくても、大丈夫、チャンスはまたあるんだし)

「やあ、いらっしゃい」

 ドアを開けるといつもの王子。笑顔を浮かべて、どうぞ奥へと言いたげで。

「あ、いや、俺……」

 用事を出汁に話をする。そう思っていたはずの俺は、彼の対応を受けた事で寧ろ反対に尻込みをした。だってあまりにも。

「え?何?」
「俺、これ王子に渡して、ちゃんと中身見るの確認しろって、用事、そんだけなんで。だからここで」
「あ……、あぁ、なんだそうなの……っていうか、ま、そうだよね。せっかく来たんだからって思ったけどそんな気になんてなれないか」

 当たり前だが、気まずい空気がとても気まずい。家に入りたかったのに馬鹿を言った。でも仕方がないので封筒を差し出す。王子はこんな事をいいながらも渋々それを受け取った。けれどそのまま笑ってこんな事を。

「ん、確かに。わざわざありがとう。気を付けて帰って?」
「王子」
「ん?」
「何さりげなく追い返そうとしてンスか?」
「何の事?」
「わざとらしい。さっき話したトコでしょ?開封厳命。ほらチャンと俺の目の前で中身見てくださいよ」
「……」
「王子、Dai!(さぁ!)」
「ボクこんな使い方されるためにキミにイタリア語教えたわけじゃ……」
「ああ、じゃあ使い方あってるんですね」

 イタリアリーグ定番の応援ワード。それを俺は連発する。勿論これは嫌味の範疇。当然王子はみるみる表情を曇らせて、例の如何にも彼らしいしかめっ面が登場した。自分の人気を誇るくせに、飛び込み取材には難色を示す。

「一回聞こうと思ってたんです。なんでなんだと疑問だった」
「何が?」

 憮然とした声がまるで駄々を捏ねている子供のようだ。

「あんた何でそんな事でそんな機嫌悪くなれるンスか?ホント呆れますね」
「何で?急な取材だよ?そんなの大概どっかの予定がキャンセルされた記事の穴埋めに決まってるじゃないか。そうは思わない?」
「は?」
「滑り止めなんて」
「王子に対するリスペクトが足りないと?」
「そのとおり」
「やっぱあんた性格悪いな」
「どういう意味」
「だって他の記事ぶっ飛ばしてでもあんたの記事入れたかったっていう事だって無きにしもあらずで」

 しかめっ面が微妙に変わる。

「ともかく、もし滑り止めだとしても、それはそこに絶対的なニーズがあるせいでしょ?あんた記事にしたら鉄板だって証拠じゃないですか。んだよ、リスペクトが足りない云々、馬鹿馬鹿しいったらない」
「……」
「な、何ッスか」
「えらいポジティブだね。いっそおめでたいよ」
「悪かったな」
「褒めてるんだよ」
「……い、いいから早く。あんたこそ寒いデショ、そんな恰好で」
「あのね、ザッキー、キミ馬鹿なの?そういう気遣い出来るくらいなら、部屋入るの嫌でも玄関のドア締めるくらいの事は最初から」
「あー、わかりました締めますよ!締めりゃいいんだろ?」
「何その態度、なんかボク変なこと言っ」
「だから飛び込み取材は俺のせいじゃないんで!そっちこそネチネチ難癖つけてないでやる事さっさとやっちまってください!」
「キミのせいじゃない事くらいわかってるよ!」
「いいから、ほら、早く!」
「せかされるの嫌いなの!」

 ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う、俺達はまるでいつもみたいに、拍子抜けするほど普通の会話になっていた。俺も王子も言ってるほどには不機嫌じゃない。それはなんとなく説明し合わなくても理解出来るし、彼もまた同じなようで、一通り言い合って気が済んだのか、最終的には小さく溜息、苦笑して、ようやく気持ちを切り替えていた。

(ったく、王子ってホント時々大人げねぇな)
「今なんか言った?」
「いえ、別に」

 ゴソゴソと如何にも不愉快そうに封筒から用紙を取り出した王子を眺めていると、彼はそのまま目を見開いて固まってしまった。

「王子?」
「……どうやらこの取材、キミにも関係があるようだよ?」
「は?」
「取りあえず入って?中で説明する」

 そうやって王子は再び俺をいざなった。今度の誘いは有無を言わさず。踵を返して靡いた髪が、いつものように凛としていた。

「座って」

 ソファを指し示して王子が言う。

(話をするならダイニングテーブルの方がいいんじゃないか?あっちなら書類も広げられるし、向かい合って座れるし?)

 思った事は言わなかった。この家に来たならいつもいつでも、俺は隣に座りたかった。

 とはいうものの今日はいつもとは違う一日。隔たりのない距離感というのは、今の関係では近過ぎる。希望通りソファに座らされて、でも俺は内心緊張していた。

(この前みたいにならなきゃいいんだけどな)

「外、寒かったでしょう。取りあえず何か飲むかい?」

 けれど特に返事をする暇もなく、彼はキッチンに行ってしまう。何度となく見たその姿を眺めながら、いつもと同じ事を思う。この瞬間が如何に俺の心を満たすかを。

(寒い日には寒さを労い、暑い日には暑さを労い、王子はいつも俺をこうして、到着早々甘やかすんだ)

 当たり前にそれを出来る、彼の生き方が好きだった。身に付ききってる彼の紳士さ。そんなものに触れる時。
 もう二度と、と思った甘くて苦い香りが漂い始め、俺は深呼吸をするかのようにゆったりとそれを楽しんでいる。あの日ぶしつけだった俺などなかったように、王子の姿がそこにある。もしかしてこのまま本当に俺自身も忘れてしまえば、当たり前の様にこれからもここに居られるような?
(駄目だ。これに惑わされるから俺はいつも王子に)

 それでも彼がこちらに来るまでの一時だけ、ささやかな幸せに密かに酔おう。そう考えた矢先だった。

「お待たせ、ザッキー」

 王子が俺の元にやってきて、その優雅さに心奪わる。

「どうしたの?ここ、置くね?」
「あ、ども」

 ハッと我に返り、俺は彼に空返事をする。

(世の中はカフェオレほどには甘くない、か)

 楽しい時間程短く感じる。心の中で溜息をつく。

(王子、来ちゃったな。そっか、じゃあもう今日の要件……取材の話に入らなきゃ)

 けれどひかれる後ろ髪が邪魔をする。ただ黙ってカップを傾ける俺の事を、王子は一体どう思う?彼もまた寡黙のままにゆったりと隣に座りながら、じっくりと琥珀を味わって。

(今日はなんだろ?バニラっぽい味するけどちょっと香ばしい感じもするし……でもやっぱ美味い)

「どう?美味しい?」
「あ、美味いッス」
「よかった」

 見つめる王子の目が優しくて、正面切ってみていられない。戸惑いながらチラ見すると、今日の彼はいつもと同じで、けれどなんだか違って見えて、目的も忘れ心がソワソワ、落ち着かない。

「な、何ンスか?」

 肝心な時に王子は黙る。ただ静かに微笑みながらジッと俺の事を見つめていた。その唇は何か言いたげで、それが非常に気になってしまう。

「あの……資料、見せてもらっても?」

 ピクリと体を反応させて、けれど王子は返事をしない。

「王子?」
「待って、焦らないで」

 困ったように眉を寄せて、手で俺を制するようなリアクション。

「もう少しだけ、待って、ザッキー」

 その表情は哀願のそれで、こんな彼は一度も見た事がなかった。

「間に合ってないんだ。だから、ちょっとだけ。お願い」
「何がッスか?」
「……」
「んだよ、意味わかんねぇ」
「ボクもだよ」
「はぁ?」
「理解しかねる。こんな事」
「こんな事?」

 渡したはずの取材の封書は、遠くキッチンカウンター。王子はすぐには話す気がない。そんな事だけは理解した。

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